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雑記  作者: 曲尾 仁庵
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二〇二二年六月四日

 キャラクターと装置について、もう少し考えてみる。


 キャラクターも装置も、役割を担う存在であることに変わりはない。キャラクターは役割から分離可能ではあるが、役割を担わない、という状態は(基本的には)ない。キャラクターは常に何らかの役割を担わなければならない。なぜなら、役割を担わないものは、それがキャラクターであれ装置であれ、描写されることがないからだ。


 物語はその世界の中で起きるあらゆるものを描写するわけではない。物語には結末があり、その結末に収束するために必要なもの以外は描写されない。描写すべきではない、とまでは言わないが、描写すればおそらくその描写は結末に収束するために必要な意味を読者に期待されるだろう。結末へと至り、実は結末と関係がなかったことが判明した描写は、読者に落胆を与える。関係なかったんじゃん、と言われてしまう。それを狙って笑いに変える、という方向性もアリだろうが、ハイリスクな高等テクニックなんじゃないだろうか。

 上記を信じるならば、実はキャラクターと装置には明確な区別はなく、連続しているものなのかもしれない。ちなみに今、『じょうきをしんじるならば』と入力して変換したら『蒸気を信じるならば』と出た。これはスチームパンクを書けと言う神のお告げだろうか。書けるもんなら書いてみたいが、書ける気はしない。

 まあ、何が言いたいかというと、キャラクターと装置は紙一重だということだ。そして、キャラクターと装置は互いを行き来しうる。装置に過ぎなかった登場人物がキャラクターになる、あるいはキャラクターであったはずの登場人物がいつの間にか装置になってしまう。そういう危険は常に存在する。


 装置が何回も描写され続けると、装置のキャラクター化圧力は増す。常に同じ状況下で描写されれば装置がキャラクター化することはないが、いろいろな状況で描写されれば、一貫性を保つための基準が必要になるのだ。同じ人物であれば、作中では一貫した基準によって描写されなければならない。その一貫した基準がその登場人物の視座(パースペクティブ)であり、視座を持つ者はもはや装置ではなく、キャラクターである。

 キャラクターが特定の状況下でしか描写されないようになると、キャラクターの装置化圧力が増す。描写が画一化し、役割が固定化され、やがて『彼(彼女)でなくてもよい』状態になると、キャラクターは装置化する。もはや彼、彼女の視座は物語に影響を持たず、インプットに対して自動的にアウトプットを返すだけの存在になる。視座が物語上に描写されなくなった者はもはやキャラクターではなく、装置である。


 キャラクターと装置が同一線上にある、登場人物の状態を表すものだとすると、想定すべき状態はもう一つある。役割を失った存在者、すなわち空気である。役割を持たない者は本来描写されないが、役割を失ったにもかかわらず存在だけが描写される者は空気になる。空気は物語になんら貢献しないが、退場を許されもしない。それは物語に対してキャラクターが飽和し、適切な役割を与えられないことで起こる。

 キャラクターがその役割を果たし終えた後、主人公の許を離れない場合、そのキャラクターには新たな役割が与えられなければならない。しかし物語の中で果たさねばならない役割には限りがある。登場人物が飽和しているとは、物語が要請する役割の数をキャラクターの数が上回ってしまっている状態を指す。本当ならそこで、物語を拡張して役割を増やすか、キャラクターを適切に退場させて数を減らす必要があるが、それができないと空気になるキャラクターが生まれる。


 空気が生まれるなら、それは物語の器とキャラクターの数が不一致だということだろう。キャラクターを整理することを検討したほうが良い。整理、というと不穏だが、要するに物語の描写のスコープから外れればよいのだ。旅に出た、実家に帰った、隣町にお使いに行った、何でもいいので今この場にいない理由を付けて、描写しないですむようにするということだ。登場人物を絞ることで、作者はより物語にとって本質的な描写に集中できる。ああ、あのキャラ全然しゃべってない、などということに配慮する必要がなくなる。それは作者にとっても読者にとっても、物語にとっても幸福なことではないかと思う。


 相変わらず漠然として着地点が不明だが、雑記というのはそういうものだと開き直ろう。今回私が言いたかったのは、


 私は登場人物がやたらと多い物語が好きじゃない


ということだ。何度も言うが、結局好き嫌いなんだってば。所詮私はそれ以上のことは言えないのである。

自作でキャラがしばしば空気化しているという自戒も込めて。

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