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Cadaver Express  作者: sass
1/1

Cadaver Express


それは辺獄に存在する。死して没した者たちを冥界へと送り届ける為の車両。


その車両には死んだ者『死に体』とそれを保護、または有事の際に抹殺するための乗務員『死神』が乗車する。


死体を送り届けるのなら簡単な話だ。誰だってそう思う。


だが、死神たちはいつも手を焼いている。


やはりあの世といえど、楽な仕事はないのだろう。

「うっひゃあ…ぼろいぼろい。」

そう、鉄の塊に不満の声を齎すのは、短い黒髪の女だ。大正時代を臭わすような将校服にも似た、制服に身を包む彼女は、二本指を立てて、その巨大な鉄屑の煤を祓っていく。

「なんたってこんな汚ったない車両なんですか。」

その鉄屑を一周し終えた彼女は、上司にもう一度不満を漏らす。


「仕方あるまい。…仕事なんだ。」

額を大きく開けたブロンド髪の上司は、肩から身を塞ぐようにマントを着用し、グチグチと不満を漏らし続ける部下を冷たくあしらう。

しかし、彼女(・・)もまた、その車両に満足している様子はなかった。


そこに、がらがらと大きな手押し車を押してやってくる二人の男女の姿が。

上司の女は、やっとかとため息をつき、背を預けていた車両から身を起こす。


「よォ、悪いな。ちょっと遅れた。」

とガタイのいい男がいう。

「お前が遅刻とは、珍しいじゃないか。」

「すまんね、この新人一回死体(モノ)を落としちまってね。」

と、男はその若手の女性をちらり。


それに続くように、上司の女もギロリと彼女を見る。

「っひ!ごめんなさい!」

「下手な衝撃を与えるな。面倒ごと(・・・・)になれば、手を焼くのは私たちだ。それともお前がツケを払うか?」

「ええ…ええっと…。」

上司の女の静かな剣幕に、新人はたじろぐことしかできない。


「まぁまぁ、いいじゃないですかアナさん!特になんもないみたいだし。それに今回は一体だけなんでしょ?」

と二人に割って入ったのは黒髪の女。

「新人に助け舟を出せるのは、お前自身が使えるようになってからだぞ。ジャル。」

「うえっ!相変わらず毒があんだから。」

とジャルは苦い顔をする。


「まぁいい。早く乗せろ。」

とアナはその場にいる者たちに背を向ける。


「はいよぉ、ったくエリート様は人使いが荒いんだからぁ。」

と大柄の男は、そのモノが乗った手押し車から、横たわったおおよそ180センチほどのそれを新人の女と抱えると、静かにボロの車両後席部のベッドに寝かす。


「これでいいか。…にしてもホントぼろいな。375番線なんて何年ぶりくらいに動くんだ?」

「200年だ。私が配属された頃はまだ新車だった。」

とアナは車両のベンチで足を組む。


「こんなボロ番線で死体も一個だけ。こりゃもう、閑職送りってことじゃねぇの?」

「だよね!だよね!948番線とかあたし行きたかったんだけどさ!」

とジャルは食い掛るように言う。


「おしゃべりは終わりだ。用が済んだのならとっとと降りろ。ジャル。発車するぞ。」

「はぁい…。」

と気の抜けた返事を返す。


アナは壁際に備えてある、通信機に手をかける。

「管理局、こちら375番線。死に体を乗せた。これより発車する。」

『了解。…心してかかれ。そいつは』

「耳タコだ。」

そういって一方的に通信を切った。


そしてギィギィと音を立てて、その車両は動き出す。

敷かれたレールの上を"Cadaver Express 375"のプレートを掲げて。


その車両の背中を、荷物を運んできた二人の男女は消えるまで見送った。

「ごめんなさい。先輩。」

「気にするこたない。なれるまでさ。…にしても。」

「やっぱり、ヘンですよね。普通車両にはどんなに少なくても50体以上の死体を乗せるのに。乗務員だって相応の数を。」

「ああ。そして、乗務員にはあのアナが駆り出されている。」

「アナさんって。」

「さっきは冗談交じりで閑職だの抜かしたが、ヤツは相当ウデの立つ死神だ。そのアナに、たった一つの死体。…何かあるな。」

「それって。」

「…そっからは死神たちの仕事だ。」

そういって男は消えていった車両に背を向けた。


――――――――――――――――――


………いい。


……は…済みだ。


………ゃあな……ンバー……イト。


冗談じゃない。

俺は…。


出せ。



ここから。



出せ。



俺は…俺を…。



...........


.......


....


..


.


「…ん…ぁ」

光?


ここは?


俺は?



「いやぁ~なんもないといいんですけどねぇ。」

女の声?


「ジャル。お前は無駄な話が多すぎる。少しは本でも読んで勉強をしろ。」

「読んでますよぉ!月刊誌とかぁ!」

「…お前には過ぎた話だったか。」


誰だ。


体が…動かない。


「ねぇ!アナさん!エリュシオン寄りますよね?」

「お前は俗なことしか考えん。」

「いーじゃないですか!少ない楽しみなんですから!」


なんとか、しないと。


『各員に通告、各員に通告。587番線がロスト。死に体がフラジャイル化した可能性がある。付近の乗務員たちは警戒を怠るな。』

「587番便って…。」

「わりと近いな。寄ってくる可能性はあるぞ。」

「やだなぁ…。」


…意地でも…動いてやる。


ガタンッ!

とその死に体は簡易ベッドから落ちる。


二人の視線はまっすぐそれに。

「…車体、揺れてないですよね。」

ジャルの問いかけに、アナは何も答えない。


二人は臨戦態勢をとる。

アナは懐に手を忍ばせたままだ。


そして、動くハズのない死に体はゆっくりと起き上がる。

だが体は全く安定しない。まるで生まれたての子ヤギのように。


「うっそ…早すぎるよ。」

苦虫をかみつぶしたかのような顔でジャルがつぶやく。


アナは黙って通信機に手をかける。

「管理局。こちら375番線。死に体が覚醒。対応支持を求む。」

『375番線、こちら管理局。作戦規定に則り始末しろ。』

「…了解。」


そして通信機を置いたアナは懐から古びた銃を取り出す。

グリップに赤く9と刻まれたそれは、かつてのドイツ帝国で盛んに流行ったものを彷彿とさせる。

それは俗にレッド9とも呼ばれていた。


アナはその銃を死に体だったはずの男に向ける。

「悪く思うな…。」

その時だった。


「お…俺…は。」

その男はしゃべりだした。


「あ、アナさん…!こいつ、喋ってる!?」

「稀にだがいる。だが所詮意思疎通はとれん。鳴き声のようなものだ。」

だが、アナのその経験則は珍しく敗れる。


「君…たちは。なぜ…俺に銃を向ける。…ここは…どこなんだ。」

男は周りをきょろきょろと見渡す。

それをみたアナは、そっと銃口を外した。


「こんなにはっきり喋るモンなんですか…?フラジャイルって。」

「珍しい個体なのは確かだ。」

そういってアナは男に近づく。


「おい、お前の名前は?」

「…わからない。」

「私が何に見える?」

「…女性。」

「美人か?」

「さぁ…どぅっ!!」

アナは彼のみぞおちに深い一撃を加える。


男はそのままのけぞるような形で二三歩下がる。

「ほぉ、倒れんか。」

「ねぇ…アナさん。」

「受け答えはできる。体もそこまで脆くない。…意識が覚醒しても、フラジャイル化はしていない。いいや、微妙に始まってはいるのだろうが、絶妙なバランスを保っているのか。」


そして、もう一言つぶやく。


「やはり…普通の死に体とは違ったか。」


そして男をおいて再び通信機をとる。

「管理局こちら375番線、死に体についてだが、意識は覚醒したものの、フラジャイル化の進行が滞っている。冥界まで輸送可能な見込みがある限り、死に体の始末は保留にしたい。」

『375番線アナ。何を言っている。作戦規定には従え。』

「…もし、この場で死に体を始末して、それで我々の報酬は過分なものを期待できるのか?」

『それは約束できんが…。そもそもそいつは!』

「私が責任を負う。死に体の輸送は引き続いて行う。いいな。」

『…勝手にしろ。』

そういって通信を切る。


「いいんですかぁ?こんなことして。」

「じゃあ殺したほうがいいか?」

「…それは気の毒ですけど。」

「情で言っている訳じゃない。あくまで我々の仕事は、死に体を確実に冥界へと送届けることだ。輸送できる可能性が残るのなら、遂行する。何でも始末してそれで終わりなのなら、私たち死神は必要ない。」

アナは涼しい表情を残したまま言う。



「…それはアナさんだから言えることなんですよ。」

「じゃあお前も言えるようになれ。」

「…精進します。」


そして二人は振り向く。その死に体がいるほうへと。


「う…うぅ。」

「ほらぁ。アナさんがあんな一発入れるから。可哀そうじゃないですか。あの新人の娘に衝撃を与えるななんて言っておきながら、自分は腹パンだなんて。自由なヒトなんですから!」

「お前は少し口を閉じろ。寡黙になれ。」

「ヤです!」


男は少し動く。

「…こ、ここは、君たちは。一体…何のことなんだ。死神?死に体?輸送?」

「ほうら混乱しちゃった。」

「ふん…そうだな。どこから教えてやるべきか。…その前に片付けが先か?」

「片付け?」


その時だった。

ガシャン!!と列車の窓が割れる。


「「!!」」」


ジャルと男はそのほうへと視線を移す。

割れた車両のガラスから、何かが現れる。


体中が白く鋭い体毛で覆われ、目は蜘蛛のようにまだらに散り、赤く光らせ。口元には口の中に納まりきらないほどに発達した牙。手もまるで猛獣のような鋭い爪をもつ。

一言に化け物と呼ぶに相応しいそれは、われたガラスの破片をパキパキと踏みながら静かに立ち上がる。


二足歩行ができるあたり、人間としての面影があるのだろうか。


「う…うわ。こりゃまたすっごいのが来た。」

その化け物の口元は赤い液体でベットリ。


「…587番線のヤツか。乗り組み員たちを喰ったか?」

「こ、こいつは?」

男がアナに問う。


「フラジャイルだ。輸送されるはずの人間、死に体のなれの果ての姿だ。」

「成れの果て?」

「説明は後だ。ジャル。始末しろ。」

「ヤです!無理です!」

「やらないのならここで列車を降りろ。少しは私の役に立て。」

「ひどい!鬼上司!」

「鬼じゃない。死神だ。」


ウオオオオオオ!!!


その化け物は耳を劈く程の奇声を上げ、彼女らにとびかかる。

大きい図体に似つかわしくないほどの俊敏な動きで、彼女らに爪を、牙を、殺すための手段を尽くす。


だが、アナはまるでそれを子供とじゃれあうかのように、マントに収めた手も出さずに、のらりくらりとかわす。


「ジャル。早くどうにかしろ。今なら恰好の的だぞ。」

「わかってますよぉ!!」


ジャルは、懐から液体の入った筒を取り出す。そしてそれを思い切り握りつぶす。

液体でぬれた手を、水切りをするかのように振り払った瞬間。そこに形成される。

彼女の背丈に近いほどに猛々しく、禍禍しい大鎌が。


「よっしゃあ!」

ジャルはそれをもってアナに向かう化け物の背後を取り、大鎌で切りかかる。

だが化け物は何かを察知し、間一髪でそれをよける。


「ええ!なんで避けんの!?」

「…アホか。」


そして化け物の対象はアナからジャルへ。

化け物は変わらず大振りで、当たれば致死の可能性すらも容易に想像出来るほどの獰猛な攻撃を繰り返す。

ジャルはそれに対応し、大鎌を時にガード、時に攻撃へと転じて戦う。


「雑魚一匹にあまり時間をかけるな。」

と攻撃の対象から外れたアナは列車のベンチに座って足を組む。


「そんなぁ!暇なら手伝ってくださいよ!」

「暇に見えるのか?私が。」

そういってアナは懐から銃を取り出して、カチャカチャとメンテナンスを始める。


「もういいです!…こんのぉ!」

ジャルと化け物の攻撃が合致する。大鎌を縦に、その柄には化け物の尖った爪が引っかかるような形で、がっぷり四つのように、チカラとチカラの押し問答。


「うう…っしゃあ!!」

ジャルは思い切り大鎌をはじく。その瞬間化け物がよろけ、一瞬のスキが。

ジャルはそれを逃さず、渾身の一撃を叩き込む。


「おおおりゃあああ!!」

スパアン!!と肉の切れた音がこだまする。


宙を何かが舞う。それはどちゃっと水水しい音を立てて地面に伏せる。

ジャルが切り落とした化け物の腕だ。


う゛…う゛ゥ…。


化け物の本体にも、ざっくりと斜めの大きい傷跡が残る。

そして化け物はそのまま。どさっと崩れ落ちた。


「へへん!どんなもんよ!」

死に体の男はその様子を、何も理解できずにただ茫然と見るしかできなかった。


「フラジャイル…。」

と漏らしたとき。

「ここに長く留まってしまえば、お前もいずれああなる。」

とアナが返す。


化け物の奥にいるその二人のもとに、ジャルがふんと鼻をならして戻ってくる。

「どんなもんですか!アタシだって役に立つでしょ?」

と得意になるジャルにアナは。




迷わず銃口を向けた。




「…え?」




ズドォン!とその列車に火薬の炸裂する音が轟く。カランと薬莢が落ちる音が静かに鳴る。



…ああ。

これが裏切りか。

スパイ漫画で読んだ気がする…。



とジャルの意識が遠のくも、それはすぐに引き戻される。



「…あれ?」

ジャルの体は何ともない。

よく見ると、アナの構えた銃はジャルよりも後ろの対象を狙っていた。


ジャルは振り返る。

そこには、額に大きな穴をあけた化け物が、ジャルのすぐ背後にいた。

最後の力で背を向けたジャルを殺そうと飛び掛かってきたのだ。それを間一髪、アナは阻止した。



「始末するなら確実にしろ。」

そういってアナは銃を懐に戻す。

「ひぃ…すみません。」

へたっとジャルは座り込む。


「まぁ、60点といったところか。時間が掛かりすぎた。」

「そんなぁ…頑張ったんですよぉ。」


その化け物は完全に活動を停止する。

化け物の体や切られた腕がどんどん灰色になっていく。


死に体の男はそれに近づき、そっと触れる。

それはまるで、薄い飴のようにパリパリと簡単に壊れていく。


「手が空いてるのなら、外に捨ててくれ。邪魔だ。」

とアナが男にいう。

「あ…はい。…どうやって?」

「箒か何かが用具庫にあるだろう。掃いてだせ。」

「粉塵たつから静かにやってよね!」

「お前もやるんだぞ、ジャル。」

「ええ…。」


男はそっと立ち上がる。

「その前に、教えてほしい。ここは?俺は?この化け物は?君たちは?」

「授業が先か。…ん?」

そう思った矢先だった。


バリンバリン!!とガラスが次々に割れる。

「運が悪いな。ここが次のパーティー会場みたいだぞ。」

「冗談じゃない!」

そして出てくる、入ってくる。

先ほどと同じ化け物たち。


「ひぃ、ふぅ、みぃ…。三体も。…もぉだめだ。終わりだ。…管理局ぅ、375番線もロストですぅ…。」

「馬鹿言うな。たった三体に増えただけだ。」

「たった!?冗談じゃないですよ!アナさんも手伝ってくださいよ!」

「…しょうがないな。」

そういって銃をまた取り出す。


「暇ならお前も手伝え。」

とアナは男にいう。

「ど…どうやって。武器かなにかは!?」

「用具庫に箒がある。」

「…勘弁してくれ。」


そして三体それぞれが、375番線の乗組員たちにかかった。

ジャルは先ほどと同様、大鎌を携えその白い化け物相手に立ち向かうが、先ほどの個体とは違いなかなかに俊敏だ。

「くっ!ちょこまか動きなさんなよ!」


その傍らで。

ウオオオオオ!!と雄たけびを上げる化け物。

「…こい。」

変わらず銃のみで奴らに立ち向かうアナ。


シュンシュンと壁から壁へ、相手を翻弄するように化け物は動き回る。

アナは特に動くこともなく、敵を黙って目で追う。

その化け物がアナの背後に飛び込む。そして彼女のうなじめがけて爪を立ててとびかかる。


しかし、その化け物が最期に見た光景は、顔を動かさずとも銃口を正確にこちらに向けたアナの姿だった。

ズドン!と銃身から放たれた対フラジャイル仕様の弾丸は、有無を言わせぬまま、化け物の急所を貫いた。

「…雑魚め。話にならん。」


と言い放った刹那。


「ぎゃあああああ!!!」

とジャルの雄たけびが。


そちらに目をやると、ジャルが化け物に押し倒される形に。

彼女の両手をしっかり抑え込み、鋭く尖った牙を彼女の顔にゆっくりと。


「待って待って待って待って!!!!やだやだやだやだ!!アタシおいしくないってば!!!アナさーん!!」

ドロリと化け物のよだれが彼女の顔に。


「ひぇ…。」


最後に…。お菓子をたらふく食べておけばよかった。

と彼女の無念が脳裏に…。


と思ったとき、彼女に覆いかぶさった化け物は一瞬にして姿を消すことになる。


アナはすぐさまジャルへと駆け寄り、その化け物をサッカーボールキックの要領で思い切り蹴り飛ばす。

ドゴオォ!!という鈍く強い音を立てながら、その化け物は車両の後端部へと吹き飛び、壁とお友達。


「あ…アナしゃん…。」

「手を焼かせるなと言ったはずだ。次はおいしく頂かれろ。」

「ヤですぅ…。」


ジャルはべっとりとついた化け物の涎をぬぐいながら起き上がる。


「…っぐ!離せ!」

最後の一体。それは死に体の男に絡みついていた。


「あ!やば!」

「…こっちもか。」

そういってアナが銃を構えた時。


「アナさん!」

ジャルがそう叫ぶ。アナに一瞬の油断が。

先ほど蹴とばした化け物が、アナの銃を構えた腕めがけてとびかかる。


「ぐっ!」

その衝撃で彼女は銃を落とす。


「…私に、気安く触れるな!」

アナはその化け物を力づくで振りほどくと、体を大きく回し、化け物の顔めがけて、踵からの回転蹴りを叩き込む。彼女のその攻撃をモロに受けた化け物は、顎から下が吹きとんだ。


そして手づかみで化け物を地面にねじ伏せると、頭が破裂するまで何度も化け物の頭を踏んだ。

その化け物の頭の原型がなくなったころ、もう一度男のほうへ視線を。


「が…うああああ!!!」

化け物は男の首筋にかみついた。ぎちぎちと音をならし、彼の肉体を食いちぎりにかかる。

「ジャル!何をしている!かかれ!」

「は、はい!」

彼はあくまで成果物。ここで失うわけにはいかない。

二人は彼に駆け寄る。




その刹那。




「はなせって…ふざけんなっ…!」

コォっと、何か異様な空気が流れる。


「!?」

その違和感に二人は足を止めた。


そして違和感は、はっきりと目に見えるものとなる。

男の体が、白く、氷の結晶のように染まっていく。


「フラジャイル化か…。」

アナもようやく覚悟を決めた。


「離せ!バケモン!」

そして男が化け物に渾身の一撃を素手で叩き込む。

車内に高い周波数帯の甲高い衝撃が走る。それは強く鼓膜を刺激するほど。


それに伴い、その一撃はフラッシュバンのように白く光る。

そして、化け物はまるで蒸発するかのように消えていった。


「…もう一体、増えたか。」

「そんなぁ。」


アナは取り戻した銃を彼に向ける。


大きく息をついた男は、そっと振り返る。

だが、二人はそこで目を疑う光景を見た。


男の体が、白い結晶から、元の肌へと戻っていった。


「え!?…ど、どういう。」

「…私も初めて見るな。なるほど。境界に立つ男か。」


そういうとアナは再び男の前へ。


「意識は?」

「…あります。」

「私が何に見える?」

「…女性。」

「美人か?」

「…はい。」

「合格だ。」


そういったとき、車内の通信機がなる。

アナはしぶしぶそれをとる。


「375番線だ。」

『375番線、状況を報告しろ。』

「587番線から溢れたと思われるフラジャイルと交戦。殲滅した。」

『そうじゃない。死に体のことだ。』

「…ああ。結構使えそうだ。」

『はぁ?』


といったところでアナは通信を一方的に切った。

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