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葛藤 said深山悠貴

「あいつは何を考えてるんだ!」


俺は報告書のファイルを手に生徒会室へと急いだ。


「委員長!深山委員長!待ってください!楡崎会長には今回の件は関係がありません!そもそもあの転校生が…って、委員長!」


後を追ってくる副委員長の大島清音(おおしまきよね)が何やら言っているが、事を起こしているのは生徒会役員だ。

モモはそれに巻き込まれているだけ。


「部下の手綱も握れないなど無能もいいところだ!」


あいつはあいつで親衛隊員を生徒会室へ呼び出して楽しんでいると聞く。

腹立たしい!

あいつらが問題ばかり起こす所為でモモの風評が酷くなっている。

さらに俺の仕事が増えモモに会う機会が減ってしまった。


「今日という今日はキッチリ落とし前をつけてやる」


無意識に力を込めたためファイルカバーが折れ曲がるが知ったこっちゃねぇ。


「深山委員長!待ってください!」


生徒会室の前で大島が追いつき俺の手からファイルを奪う。


「そんなに熱り立ってはまともに話すこともできませんよ。冷静になって下さい」

「チッ、わかったよ」


大島は一つ頷くと生徒会室のドアをコココンとノックした。


返事がない。


「おかしいですね、今日は珍しく午後の授業に出ていらっしゃらなかったのでこちらにいるとばかり…」

「どうせ親衛隊員とよろしくやって寝こけてるんだろう」


ドアをドンドンと拳で叩き、


「おい、寝てるんなら起きろ!」


怒鳴りつけるが気配を感じない。


「チッ、寮に帰っ…」

「まさか…!?委員長!どいて下さい!様子が変です!」


いきなり俺を押し除けると、大島は風紀が管理しているマスターキーを使ってドアを開けた。


「あぁぁっ!楡崎さん!」


視界を遮っていた大島が部屋へ駆け込むと中が窺え、そこには散乱する書類とPCなどの備品、そして横たわるあいつがいた。


「楡崎さん!楡崎さん!!」


取りすがり必死に呼びかけている大島の声に我に返ると


「どけっ!」


大島を引き剥がし、首に触れ脈を、口で息を確認する。


「くそっ」


冷たい。

しっとりと汗に濡れた肌は冷え切っている。

それなのに息がひどく熱い。


「いつからこんな状態なんだよ!」


保健室へ連れていくため抱き上げて、予想よりも軽いことにも驚いた。


「とにかく保健室へ運ぶぞ。大島、ドアを開けておいてくれ」

「は、はいっ!」


できるだけ揺らさないようにしながら保健室へ急ぐ。


「ん…っ」


腕の中で微かに身動ぎ薄く目を開いた。


「おい!しっかりしろ!今保健室に向かっているからな!」


声をかけると焦点の合わない視線を俺に向け、何故かふわりと笑みを浮かべた。


その笑みにドキリと心臓が跳ねる。


何故笑う?

何故そんな笑みを見せる?

俺はお前の敵だろう?


俺の葛藤を他所にまた目を閉じた。


それを少しだけ残念に思う自分に訳のわからない焦りを感じていた俺は、泣きそうな顔をして追いかけてきた大島の小さな呟きは聞こえていなかった。





「朱鷺くん、ごめんなさい。私、気がついていたのに何もしなかった。ごめんなさい。もう間違わない。私があなたを守ります」



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