俺を守るモノ said桜庭桃矢
「へぇ、こんな所もあったんだ」
綾彦たちの隙をみて、俺は寮の裏手にある林まで逃げてきた。
みんなに囲まれて優しくされるのは嬉しいけど、たまにはひとりでゆっくりしたい。
林の中を流れる小川を辿り、俺は池を見つけた。
古いけれど手入れされた小さな祠と丸太を利用したベンチもある。
「キレイな所だな」
だけど…
「景色はキレイだけど、なんか気持ち悪い…」
こんなにキレイなのにもったいない。
「でも大丈夫!俺が毎日ここに通えばもっとキレイになるよ!」
母さんが言ってた。
俺がいるだけでどんな場所でもキレイになるって。
「歌えばもっと早くキレイになるかな」
ベンチに座り奉納舞の時に歌う歌を口ずさむ。
ふと、水面が揺れた。
「魚がいるのかな」
池に近づき覗き込む。
そこそこ深いけど、底が見えるくらい透き通ったキレイな池だ。
魚を探していると、祠の辺りで草が擦れるような音がした。
「誰かいるの?」
顔を上げた時だった。
「えっ?」
いきなり後ろから突き飛ばされた。
まずい、池に落ちる!俺、泳げない!
頭から池に落ちた。
「やっ、…誰かっ…、助け…っ!」
必死で水を掻き頭を水から出す。
俺のいた岸に誰かが立ってるのが見えた。
何かブツブツ言っているけどよく聞こえない。
「助けっ…て!」
手を伸ばす俺をそいつは睨みつけ、
「お前なんか死ねばいいんだ!」
呪詛のような言葉を吐いて走って逃げていった。
「や…だ…!誰…かっ!」
いやだいやだいやだ!
こんな所で死にたくない!
水を吸った制服が重い。
体が動かせなくなってきた。
ダメかもしれない、そう思った時だった。
白い大きなケモノが伸ばした俺の腕を咥え引き揚げてくれたんだ。
岸に揚げられた俺はそのケモノを見上げた。
銀色の光を纏った白い虎だった。
「白虎…?」
白い虎は俺を一瞥すると林の中に消えていった。
「もしかして…」
あの虎は聖獣の白虎?
俺を助けてくれた?
そうだ、助けてくれたんだ!
「守護聖獣の白虎、俺の守護聖獣!」