嵐を呼ぶ転校生 生徒会室にて
三話目
「それで、桜庭理事の要件はなんだったんです?」
生徒会室へ帰ると副会長の霞綾彦がお茶の支度をしつつ尋ねてきた。
少し長めの黒髪がさらりと揺れる。
相変わらず嫌味なほどキラキラしい王子様だ。
「あぁ、転校生が来るらしい。そろそろ来る頃だと迎えを頼まれた」
席に着くとため息混じりに応える。
座り心地の良い革張りの椅子に軽い疲れを自覚する。
「転校生?いきなりですね」
無駄に豪華なマホガニーのデスクに紅茶が置かれる。
俺は紅茶より日本茶が好きだが、霞の趣味で、ここでは紅茶メインだ。
「へぇ、どんな子?」
会計の丁子俊輔が書類を覗き込んできた。
少し垂れ目の甘い顔立ち。
髪の色といい人懐っこいところといい、近所のゴールデンレトリバーを思い出す。
書類には写真も添付してあり、それを見た丁子は嬉々とした声を上げた。
「うわぁ、すっごい綺麗な子じゃん!」
そう。
転校生はとっても美少年だった。
写真でもわかるサラッサラでツヤッツヤの黒髪、長い睫毛に縁取られたキラッキラの目、桜色の唇はプルップル。
幼げな可愛らしい顔立ちが庇護欲をそそる…かもしれない。
「理事の甥だそうだ。手を出すなよ」
丁子は手が早いため釘を刺しておかなければ。
「えー、超好みなのにー」
「桜庭理事さんの甥なの?」
「そんなに綺麗なの?」
「丁子が認めるほどの美形か…」
ブツブツ言う丁子を押し除けて庶務の染井蒼太、碧の双子と書記の吉野剛志が覗き込んできた。
小悪魔双子は悪戯っぽく目を輝かせ興味深々に左右からそっくりな顔で、吉野はそのスーパー男前な顔にニヒルな笑みを浮かべて真ん中から。
「ほんとだ!ランキング上位間違い無しだよこの子」
「僕らヤバイかもー」
「なんて子?」
「えっとー、桜庭ももや?」
「ももや?桃を売ってるの?」
適当なことを言う双子に、
「振り仮名振ってあるだろ。トウヤだ。サクラバトウヤ」
吉野が呆れて返すと、
「トウヤですって!?」
霞が机から書類を引ったくるように取り上げた。
「まさか…いや、でも…面影が…」
食い入る様に書類を見ていた霞は一つ肯くと、
「そろそろだと言ってましたよね、私が迎えに行きます」
そう言って足早に生徒会室を出て行く。
「え?なに?なんなの?」
「霞?」
「ふくかいちょー?」
「一体何なんだ?」
いきなりのことで呆然と見送る俺たちと、
「トウヤ…僕…知ってる気がする…」
写真を見ながら小さく呟く染井弟の碧がいた。