守るべき存在 side霞
あの日、少し目を離した隙に勝手に一人で出かけていったモモが、ずぶ濡れで帰ってきたのには驚かされました。
私たちの心配を他所に、あの子は自分を守ってくれる守護聖獣と会ったと言ってとても興奮していました。
なんとかなだめてみんなで大浴場に行ったのですが、その間ずっと守護聖獣がなんであるかを嬉しそうに話してくれました。
その流れでずぶ濡れだったわけを聞いた時は、怒りで目の前が真っ赤に染まるようでした。
服を着せ付けたモモを抱き上げ、急いで保健室へ運び診察していただきました。
どこにも異常は無いとのことで安心しましたが、モモに暴力を振るった相手には怒りしか覚えません。
帰りは剛志がモモを運び、モモのお気に入りである私の部屋のソファに座らせました。
「大丈夫?もう一人で行動しないでね」
隣に座った蒼太が右からギュッとモモに抱きつき、
「モモちゃんをひどい目に合わせるなんて許せない!」
反対側から碧が抱きつき、
「もう心配かけちゃ嫌だよ」
背後から俊輔が頭を掻き抱く。
「もう!ギュウギュウされると苦しいよ!でも、心配してくれてありがとう」
モモは口ではやめろと言いながらも嬉しそうに笑っています。
私と剛志は話し合っていました。
「警察沙汰にするのは学園に迷惑がかかる。かと言って、俺たちで犯人探しをしようにもノウハウがない」
「そうですね…やはりここは専門家に任せるしかなさそうです」
彼ををモモに会わせるのは業腹ですが、致し方ありません。
風紀の深山を呼び出しことにしました。
顔を出すなり私たちに嫌味を言ってきましたが、
「モモが池に突き落とされました」
そう言うと顔色を変え、ソファに座っているモモの前に片膝をつき、
「大丈夫か?無事で良かった」
手を取りました。
イラッとしますね。
「うん、ありがとう悠貴。怖かったけど、白虎が助けてくれたんだ」
「ビャッコ?」
「守護聖獣の白い虎、白虎だよ!やっと俺の前に現れてくれたんだ」
「白虎か。その守護聖獣というのは?」
「俺を守ってくれるんだよ。あのね、巫師には守護聖獣がつくんだ。白虎の他にも青竜や朱雀、あと玄武とか、銀狼、天馬、金狐、金獅子に、麒麟もいたらしいよ。先代の俺のばーちゃんは白い大蛇だって聞いた。守護聖獣は巫師の証。俺が本物の巫師だっていう証なんだ」
嬉しそうに語るモモは本当に可愛らしくて、皆はつい見惚れてしまいます。
もっと語りたそうなモモを制して深山は本題に入りました。
「それで、お前を突き飛ばした奴は見たのか?」
「見たんだけど、あまり覚えてないんだ。覚えてるのは髪の毛がキラキラしてたことぐらいかな。あと、何か言ってたけどよく聞こえなかった」
「そうか…」
情報が少なすぎます。
「寮裏には一応防犯カメラはあるが…林の中までは確認できない。その池も警備会社との契約で見回りの範囲内だがモモは警備員と出会ってないようだし、そちらの線からも無理だろう。風紀でも目撃者がいないか聴き込みはしてみるが、難しいかもしれない」
「そうですか…」
私はため息を吐きました。
「モモ、危ないですからもう一人で行動してはいけませんよ。池に行くのも禁止です」
そう言うと、
「えー!それは困るよ!」
モモは頬を膨らませ文句を言ってきました。
「あそこ、すごくキレイなんだけど、すっごく気持ち悪いんだ。きっと悪いモノが溜まってるんだ。毎日俺が行って浄化しないともっと酷くなる!」
「浄化…ですか?」
「うん、神楽舞とかはあそこじゃできないけど、俺が行くだけでも浄化できるから。歌も歌えばもっとキレイにできるはず!」
「モモちゃんの謠、綺麗だもんね」
「僕もまた聞きたい!」
「へぇー、モモちゃんの歌かー。俺も聞きたいな」
「みんなで行けばいいんじゃないか?俺たちがいれば手出しはしてこないだろうし」
「そうですね、モモは私たちが守りましょう」
「そうか、それなら風紀でも見回りを強化してみよう」
「ありがとう!みんな!」
モモはとても可愛くて綺麗な笑顔を私たちに向けてくれました。
その笑顔を守らなければ。
改めてそう思ったのです。