俺の事情 友達100人なんて無理
寮に入ることも考えたけれど男子高等部の校舎は地元、それも子供の頃から遊んでいた山にある。
示談金の一部を使って電動機付き自転車を購入。
自宅から通学することにした。
祖父母も俺との生活を望んでいたし。
晴れた日は自転車で、雨や雪の時は校舎に一番近い通用門前まで行くバスで通学していた。
自転車置き場も通用門側に急遽作られたし。
通学する生徒は創立してから三人目、50年ぶりらしい。
通学中、他の生徒に出会うことは皆無だった。
まぁ、この学園の生徒は俺以外全員が寮生だし、業者や先生方しか使わないような通用門に来るはずもないからな。
編入試験の出来が良かったらしく、俺は少数人数のSクラスになった。
頭の良い生徒のためのクラスだった。
全員中等部からの持ち上がり。
馴染めるか心配だったが、クラスメイトの過半数が中学から桜帝に通うことになった特待生で、ガリ勉タイプではなく、どちらかというと知識欲が旺盛の奴らばかりだったため、むしろ率先して話しかけられ、いつの間にかクラス委員になっていた。
押しつけられた感が半端ないが。
頭が良すぎて個性が強すぎる奴らをまとめ上げた実績と、何故か人気ランキングでトップになってしまったこともあり、今期の生徒会長になってしまった。
断るつもりだった。
ただ、担任の生徒会顧問が言ったんだ。
「お前ならみんなを纏めることができる」
と、
「この学園の中だけで完結してしまっている選民思考の彼らと外からきた普通の感性を持っている特待生たちの間にできた壁を崩せるかもしれない」
と。
その時の先生の強い目が俺の背を押してくれた。
俺も、先生の期待に応えようと思った。
精一杯がんばってきた。
誰とでも、真っ直ぐ付き合ってきた。
けれど…
殆どの生徒は俺の表面しか見てはくれなかった。
俺は自分が特待生だということを隠してはいなかった。
聞かれたことには素直に答えていた。
話せることは全部話した。
それでも…
友人と呼べるのはクラスメイトだけだった。