噂は噂でしかない
それにしても…くだらないことに踊らされてるなぁ。
「庶民も何も、今の日本には階級制度なんてないだろ。それに俺は一度も自分が金持ちだなんて言ってない。それに特待生だって公言してたつもりなんだけど。実際クラスの奴らや親衛隊員は知ってるし」
「はぁ?お前、特待生だったのか?!」
「知らない奴ここにいたよ…」
ため息しかでねぇ。
「それにあの噂、身に覚えが無さすぎる。てか、物理的に不可能だし」
「どういうことだよ。実際あの生徒会室には連れ込めねぇこたぁわかるが、持ち帰りはできるだろう?」
「いや、それこそ不可能だよ」
訝しげに深山は俺を睨んだ。
「だって俺、自転車通学だぞ」
「………はぁぁぁっ?!」
うるせぇ!声がでかい!
「何だよそれ!!」
「チッ、うるせぇな。とにかく俺は寮生じゃなくて自宅から自転車通学しているんだ」
「何で寮に入ってないんだよ!」
「地元だし」
「地元って…っ!寮生活が義務じゃ…っ!」
「ここ、全寮制じゃねぇぞ。ちゃんと校則に書いてある」
「あぁ、書いてありますね。 自家用車以外で通学できる距離に自宅がある場合は入寮は義務付けられない と」
生徒手帳を確認していた大島が答えた。
「自転車通学…」
「天気がいい日はママチャリで登下校してるぞ」
「ママチャリ…」
「ママチャリを馬鹿にするなよ。買い物とか便利だぜ。まぁ、学校までの坂がきついから電動機付きだけどな」
「買い物…」
「スーパーまでちょい距離があるからな。足の悪いばぁちゃんには行かせられない」
「ばぁちゃん…?」
「あー…、俺、祖父母と暮らしてるからな」
「祖父母?」
「両親はガキん時に死んだ」
「…悪りぃ」
「いや、気にするな」
気まずい空気が流れ、お互いに視線を外した。
「なぁ、何で学園に来たんだ」
何とは無しに窓の外を眺めていると、ポツリと深山言った。
「成り行き、というか、あそこしかなかったからだな」
「選択肢がなかったってことか?」
深山に視線を戻す。
しばらく眉間のクレバスを眺めていたが
「…別に口止めされてる訳じゃないし、お前らなら話してもいいかな」
このままシワが残りそうでヤバイなと思った。