1-8
朝の昇降口前。
弓月と太郎は、ある作戦を決行する。
大勢を前にした時、意外な事実に弓月は気付く。
その事実のおかげで、弓月は…?!
そんな弓月を見て、感動の太郎は…?!
現時点の不利な状況を一転させるべく二人は叫ぶ!
勘違いドタバタラブコメディー…かもしれない第8話!
朝の昇降口前。
登校していた生徒達は、突然挨拶した美少女に驚きを隠せない……のか?
お約束。
弓月は、クラスでの自己紹介よろしく思い切り……噛んだ。
顔もゆで蛸。緊張からか、声も体も震えている。
「ゆゆみ月! ひゃるきゃでっし!」
これがまだ練習中であれば、まだ笑えたであろう。しかしこれは、本番である。
失敗は許されない。許されるはずもない。やっちまったな、弓月よ。
しかし、噛み噛みの挨拶を聞いた生徒達の反応は、そう悪いものではなかった。
え? 誰? 可愛いじゃん。
一年? ほんとだ。チェックしてなかったな。
甘いなお前。おれはチェック済みだぜ。ま、喋ったことはないけどな。
あれ、四組の奴らじゃね?
そうだそうだ。可愛い子いるって思ってたもん。
これもお約束。主に男子生徒の掴みはバッチリのようで。
女子生徒は女子生徒で、男子とは違った感じだが
人形みたーい。可愛い可愛い。
あの髪って天然? 超赤いんですけど。
肌、白ぇぇなあ。
目ぇでかすぎだっつの。
なんて、騒いでいる。
激しく予想外ではあるが……掴んではいるような? よな?
よし、取り合えず注目はされてるぞ。ここからだな。
太郎は大きく息を吸い込み、前に出る。
「登校中の皆さん! おはようございます! この度、一年ながら生徒会長選挙に立候補します! こちらの弓月を! 弓月をどうかよろしくお願いします!」
弓月より少し前に歩み出て、弓月の方へ手を指し大声を張り上げる。
一礼し、再び弓月の少し後ろへ下がる。
「よし、弓月。人が集まってきた。いけっ!」
弓月の噛んだ挨拶で、集まった生徒達の後から登校してきた者は、太郎の大声で人垣に気付く。
そこからは、所謂芋づる方式だった。人垣に気付いた者が人垣に加わり、さらにその輪を大きくする。
まだ一度だけ叫んだだけなのに。こんなに人が集まってる。
こんな大勢の前で何かをする。こんなことは弓月の人生では初めてのことだった。
当然、クラスでの自己紹介時の比ではない緊張が、弓月を縛り付ける。
知らない大勢の誰か達が、自分を見ている。いや、自分達を見ている。
自分達……。
そうだ、今は太郎がいる。太郎が後ろに控えている。自分の為に大声を上げてくれてもいる。
そのことを考えると、弓月は不思議と落ち着けた。初めての感覚だった。
大丈夫。何故だかは分からないけど、私は大丈夫なんだ。
弓月は見て分かるほど、大きく息を吸い込み、叫んだ
「せせせせ生徒会長しぇん挙に立候補します! よろしくお願いすす、します!」
「一年四きゅみ! 弓月……はるきゃですーーー!」
自己紹介より緊張もするだろう。同学年だけではない。上級生もいるのだから。
自己紹介よりマシなのか、酷いのかは分からないが、弓月の必死さは伝わってくる。
今も顔は真っ赤。体も震えている。声は震えるどころか、裏返ってもきた。
声を張り上げるごとに目を固く閉じる。
小さな体から迸る、緊張と一生懸命さ。必死さ。
それは、見ている生徒達にも伝わっているようで
おー頑張るじゃん。
いいぞー! 一年少女! もっとやれ!
前期に立候補か。いい度胸なんじゃね?
いれるぞー。おれは弓月候補にいれるぞー。
応援の声も聞こえてくる。
そんな生徒達の声を聞いた弓月は
「タロー! みんな、みんな聞いてくれてるよ! 大成功だ!」
あの笑顔を見せるのだ。別れ際、手を振りながら見せた笑顔を。
ああ! そうだな! と笑顔で答える太郎。これで認められなければ、そんなの嘘だ。
普段は滅茶苦茶な奴だ。家の花と同じく……いやもしかしたら、それ以上に。
でも、でも今は、こんなに頑張ってるじゃないか。こんなに。
こんなに……頑張ってる弓月に遅れちゃいけない。
「弓月です! 弓月遥です! 生徒会長選挙に立候補します! 皆さん弓月をお願いします!」
太郎は、学校中に届け! と、言わんばかりの大声で、弓月の紹介をする。
こんなに頑張っている弓月を皆、認めてくれ!と。
「一年四きゅみ! 弓月遥です! 生徒会長選挙に立候補しましゅ! よろしくお願いします!」
まだ所々噛んでしまってはいるが、随分落ち着いたようだ。
弓月も小さな体を震わせ、大声を張り上げる。
人垣もかなり大きくなった。登校ラッシュもそろそろピークを迎える。
弓月を応援する声の数も増えてきた。作戦は予想以上という言葉では足りないくらい効果を上げた。
本当にやっちまうかもしれない。前期選挙で一年が当選。前代未聞をやり遂げるかもしれん。
すごいぞ。弓月。お前はすごい。
予想外過ぎる展開に。余りの大成功に。太郎は浮かれすぎていた。
その為、その存在が頭から抜け落ちてしまっていた。
その存在を考慮し、騒ぎが起こる前に撤収と考えていたのに。できなかった。
作戦の引き際は、弓月にした説明に含められていなかった。太郎が自分で判断すると決めていた。
決めて……はいたが、太郎はその判断を誤った。ここまでの好反響だ、それは無理もなかった。
しかし、その存在はこの騒ぎを見逃しはしなかった。
人垣の少し後方で、その騒ぎを眺めていた。
そして全ての疑問を噛み砕き、違反した生徒を取り締まる為、まずは声を張り上げる。
「その騒がしい茶番を止めろ! 風紀委だ!」
今回も最後まで読んでいただき感謝、感謝です。
相変わらず…ですね。
まったり頑張ります。
またお読みいただければ幸いです!
ありがとうございました!