⑨落ちるか降りるかの違い。
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「……ホーリィちゃん!! 護符の使い方判る!?」
「いんや! 判んねぇ!!」
ワタシが勢い良く返事すると、姉御は表情を固まらせる。そりゃそうだろうな、今からとんでもない高さから飛び降りようってんだからよ!
「全くもぅ……無謀過ぎて笑えてくるわ……いいこと? 護符は背中に張り付けたら護符に触れて【起動呪言】を唱えるの! それをもう一度唱えれば発動するわ!」
「……【クソ共は皆殺しッ!!】……こんな感じか?」
「……ホント、あなたらしいわね……」
呆れ顔の姉御がそれだけ言ってから、近くに居た兵隊の一人に合図すると、後部ハッチが開かれて外から猛烈な風が吹き込みやがる……うは、此処から飛び降りようってのか? ……なんとまぁ、無謀な事で……
「……女は度胸だッ!! どーせ誰だって一回は必ず死ぬんだかんな!!」
自棄になりながら、まず深呼吸……ふうううぅ……、
……ッ!! …… い く ぜ っ ! !
「……ふおおおおおおおぉ~ッ!!!!!!?」
足が床を蹴って、何も無ぇ空間に身体を投げ出す!! 一瞬だけ身体が風を受けて浮かんだみてぇに感じた瞬間、そこからは一気に身体が引っ張られて真下へとグングン落っこちていく…………
と、嫌でも目に入って来る景色は米粒みてぇな木々と、それに小さな点々が沢山……あー、あれが多分、グランマに厄介な魔導をぶつけた連中って訳か……
……ムッカつく野郎共だなぁッ!!!! アッタマきた!!
充分に地面に近付いた瞬間、さっき決めた護符を発動させる為の呪言を唱えた。
「【クソ共は皆殺しッ!!】」
勢い良く落っこちてたワタシは、背中の護符から生えた大きな翼で支えられて宙に浮かび、翼が勝手に羽ばたく度に地面から猛烈な砂ぼこりが舞った。そのせいでワタシの周囲に居た連中は眼を開けられず、手で顔を覆って凌ぐのが精一杯みてぇだな……へへ、コイツぁ便利だぜ!!
地面に近付いて護符の効果が切れると同時に、敵のど真ん中に降りたワタシは、邪魔にならないよう腰の後ろに交差させて提げていた【フシダラ】と【フツツカ】を抜き放ち、逆手に構えながらご挨拶といく事にした。
「……ヘイヘイッ!! てめぇらキンタ○付いてるのかッ!? 揃いも揃って情けねぇ面しやがってよぉ♪」
……変な感じだぜ……いつもの戦の時と違って、下衆な言葉が勝手に口から溢れて止まらねぇ……それに、身体の芯が火照って熱くて……無性に……あああぁ!!
……斬って斬って斬って斬って、ぶっ殺したくて堪らねぇ!!
「……なんだお前……帝国の降下兵……か?」
そんな風にウズウズしてると、少し離れた所に居やがった奴が、ワタシの格好を見ながら疑うみてぇに聞いてきやがる。まぁ、それも仕方無ぇってモンだな。何せ今のワタシの格好は、黒い革のジャケットに革のハーフパンツ、それとタンクトップ。暖かい時期と言えど薄着も薄着、連中から見れば裸みてぇなもんだろーな。
……だからよ、声に出して答えるやる代わりに、判り易く行動して教える事にしたんだ!!
全身を巡る魔力の経路の堰を全開にして、一気に回しながら最近のお気に入り魔導【身体強化】を同時に重ね掛けしてくと……ああ、両手の【フシダラ】と【フツツカ】のせいか、何時もより早く、それが強く掛かっていく気がするぜ……
魔導の使える奴がいたら、ワタシの姿はきっと派手に目立って見えただろうけど、目の前に雁首並べて突っ立ってるコイツらは、ワタシが何をしてるのかちっとも判りゃしねぇだろうな。さてと……準備万端!
「……おい! 小娘答えろっ!!」
ほんの僅かな時間、じっとしてる間に身体強化してたけど、目の前に出てきた鎧姿の『羽根付き』兜のオッサンには、自分の質問を無視する生意気な小娘に見えたらしい。まぁ、答える気なんてサラサラ無ぇんだが!!
「答えろ……? やぁ~なこった!! こちとら凄まれた位で簡単に口も股も開きゃしねぇぜ?」
「……なっ!? くっ、この……楽に死ねると思うな!!」
お決まりの台詞で挑み掛かって来るオッサンだが、流石に只の木偶の坊じゃないか。珍しく坊さんみたいにフレイルを振り翳して、踏み込みながら横殴りでワタシのこめかみ目掛けて振り抜くつもりみたいだけど……
「遅くてアクビが出るやぁ……あふぅ……っ!!」
それじゃ、【魔剣】の切れ味を試してみっかな? オッサンのフレイルは鎖で金属製のトゲ付き棒が握りと繋がってる。其処目掛けて真下から【フシダラ】を振り上げてやると、音も立てず鎖はちょん切れて、先っぽはハイサヨナラ。クルクル廻りながら、明後日の方に飛んでいっちまった。
視界の端っこで兜の奥でオッサンが、手にした柄だけ握り締めたまんま、眼ぇひん剥いて驚いてやがる!! じゃあ……もう一回ビックリさせてやるぜ?
身体を元に戻しながら片足でバランス取って、勢い良く身体を引き起こして一気に前進すっと、オッサンの片足目掛けて【フシダラ】と【フツツカ】を景気良く叩き込む!!
……あはッ♪ あれだけ御立派な大見得切ってたオッサンだったけど、足元はお留守だったようだな? 右の膝から下とお別れになっちまったオッサンは、無様に後ろ向きに転がっちまった……じゃあ、先ずは乗っとこうかな?
「ハイよ! ちょっと失礼すっぜぇ?」
ぴょん、と軽くジャンプして、ひっくり返ったオッサンの胸元に足を載せ、もう片足でフレイルの柄を握り締めた手を踏み締めてやる。
「……なぁ、時間が無ぇから手短に聞くがよ、空を飛んでたワタシらにちょっかい出したのは、アンタらかい?」
「……ふざ……けるなぁ!!」
「ああぁん? 口の利き方、知らねぇんかい?」
オッサンの喋り方が気に入らなかったので、もうちっと上品にお喋りが出来るよう手伝ってやる事にした。
……どーするのかって?
手に持った【フシダラ】を、勢い良く振り下ろしたのさ……オッサンの、股ぐら目掛けてな。
「…… が あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ あ あ あ ぁ …… ! ? 」
「どーだい? 死ぬ前に男を廃業した気分は?」
丁寧にグリッ、と切っ先を半回転させると、手に伝わる感触から【確実に切り落とした】手応えはあったけど……オッサン、口から泡吹いて悶絶してやがる……ちぇっ、つまんねぇ。
「……根性無ぇなぁ……ハイ、退場~!」
そのまま真っ直ぐ頭の方に向かって引き上げると、面白いようにオッサンは背骨辺りをくっつけた感じで鎧ごと腹開きになっちまった。こいつぁ、良く斬れるぜ、流石は【魔剣】なんだなぁ……!!
そんな調子で先ず一人ぶっ殺してから立ち上がると、周囲の雰囲気が一変しやがった。
遠巻きに見てた連中も、ワタシが何しに来たのか漸く理解出来たみてぇで、緩く距離を取って包囲しようと動き始める。
でも、それよりもよ……くたばったオッサンのずっと向こうに、尻の穴がムズムズするような『魔力の塊』が集まって行くんだ。どう見たって、向こう側の魔導士共が、給料分きっちり働く気になったみてぇだ。
一際離れた場所に如何にも『魔導を使いそうな格好』した細っこい姿が見えて、その上に瞬く間にかき集められた魔力が赤く光る火の玉になって、幾つもゆらゆらと揺れ動きながら宙に浮かんでやがる。
「……【火よ風よ、我が意と共に敵を焼き尽くせ】……!!」
か細い声が早口に唱えると同時に、五つの火の玉が勢い良くワタシに向かって真っ直ぐ飛んで来る。芸の無い奴が好んで使いそうな【火球】の術式か?
「……コッチが薄着だからって、暖めてくれるつもりかい? 気持ちだけ受け取っておくがよ」
弛く曲射された火の玉は、あっと言う間に目の前に迫って来るけど……ワタシは左右の【フツツカ】と【フシダラ】で次々と斬り付けて粉々にしてやる。火の粉を撒き散らしながらバラバラに砕けた火の玉が、地面に落っこちてブスブスと音を立てながら消えちまうと、ポカンと口を開けたまんま女は固まってやがる。
「……フン、それでおしまいかい? 役立たずは後で遊んでやっから、そこで大人しく眺めてなよ?」
双剣にくっついてた火の粉を、ひゅんと音を立てて振り払ってから、ワタシは巻き添え食らわねぇように離れてた連中に向かって歩き出す。
……ひぃ、ふぅ、みぃ……あ~、まぁ……いいか。数えても増える訳じゃねぇし。
待ち切れねぇのか、重そうな鎧を着込んだ奴が、割りと素早い動きで良い踏み込みをしてくる。悪くは無ぇよ? たださ……クッソ遅いだけ。
ギラリと刃を光らせながら、ソイツはワタシに斬り掛かってくる。でも……相手が悪かったな。
ワタシは芋でも切るみてぇに真上から【フシダラ】を振って、手首まで護手で覆われた手を斬り落とす。紙みてぇにスッパリと切れた腕から血を吹き出したまんま、ソイツは盾を投げ落として何やら叫びながら、必死に血を止めようと慌ててやがる。まぁ、落ち着けって、今すぐ楽にしてやっからさ?
「あ~、痛いんかぁ? 悪りぃ悪りぃ!!」
ワタシは気さくに声を掛けながら、しゃがみ込んで見上げるソイツの前に立って足を振り上げて、よいしょと勢い良く振り下ろしてやる。何処ぞのブドーの《カカトオトシ》って技だったかな? まぁ、兜被った騎士に食らわせる類いの技じゃあねぇな。
でも綺麗に踵が頭のてっぺんに入ると、【身体強化】のお陰だろうな。兜が半分程べこりと潰れて、景気良く中身が零れちまう。
「……なぁ? 痛いの飛んでっちまったろ!!」
兜にめり込んだ踵を上げてやると、ごちゃりと崩れるように前倒しになった奴から、眼に見えない何かが【フシダラ】の鍔に吸い込まれていった気がする。さっきのオッサンの時も同じように感じたけど、アジって奴の言ってたのはこの事だったのかな?
……と、思った瞬間、左手に握ってた【フツツカ】が急にブルッと震えたかと思ったら、突然ワタシの身体にその何かが流れ込んで来やがった!!
「…… ふ う ぅ う う あ あ あ あ ぁ …… ッ ! ! ? 」
思わずキュッ、と股に力が入る位に……何とも言えない激しい感じが……背骨を伝って這い昇って来て、ワタシは大きな声を出しながら……一瞬、溶けた。
「……マジぃぜ、こりゃ……女になって初めてだって、こんなのは……」
はぁ、はぁ、と息を弾ませたまんま、ワタシは戦場のど真ん中で頭に血を昇らせながら敵に囲まれてた。
でも、全然負ける気がしねぇ。いや……逆に『エサが自分から近付いて来てくれる』有り難さで、腹ん底から思いっ切り声を出して、叫んでた。
「 ……よっしゃ!! 【 丸 ご と 喰 い 尽 く し て や る ! ! 】 」
次回も宜しくお願い致します!




