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⑦魔剣の名前。



 「……と、言う訳で相手は全員死亡し、(むくろ)すら残っていませんでした。」


 姉御が色白でひょろっこい戦隊長に報告してっけど、目線見てりゃあ判る。



 ……コイツ、姉御の乳しか見てなかったから、話聞いてたか怪しいぜ?



 「……あー、そうか。該当地区に行商者の届けを出した者は居ないから、農民か何かだったんだろう。そのうち庄屋辺りから報告が上がるだろうから、それまで待つしかない。それよりもこの後……」

 「報告は以上です。備品を返却して参りますので失礼致します」


 案の定、姉御は色目を使いかけたバカを振り切って、さっさと退散する事にしたみてぇだ。……しっかし、このバカ、ワタシがエルメンタリアのモンだって知らないのか?


 知っててワタシに対し塩対応してるなら、相当のバカか奥の手でもあるのか? そうだったら怖い話だが、まぁ……そん時は……躊躇わずにぶっ殺そう!



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



 「……御免ね、ホーリィちゃん……私って【鑑定】は得意じゃないの……」


 姉御は例の双剣を手に取りながら、ワタシに手を合わせてから申し訳なさそうにそう言った。


 ……布から取り出された双剣は、鞘に納められたまま机の上に置かれていて、その妙な(しつら)えが良く判るってもんだ。


 コウモリや竜に似た頭が鍔になってて、開いた口から牙が覗く造りはあまり見た事の無い感じで、如何にも『魔剣』っぽい。


 でも、不思議と怖くないんだよな……何だか懐かしい感じで、馴染むって言うのか……使い慣れた道具の一つ、って感じなんだよな。



 「……でも、呪われる類いの魔剣じゃ無さそうだから心配は無いと思うけど……やっぱり専門家に任せてみる?」


 姉御はそう言って双剣を布に包んで纏めると、ワタシに向かって差し出した。




 双剣の元持ち主は結局、何処の誰かすら判らんかった。全員死んじまってたし、身分を示す物を一切持って無かった。まるでコイツを持って来る為に連れて来られたみてぇだ。気持ち悪ぃ……オマケに双剣以外はロクなモノ持って無かった。そんな行商あるのか? 飯のタネを持ち歩かねぇ上に、何故か全員口を割らずにくたばるとかよ。チラッと見て、そう思ったんだがな。



 報告は終わった。軍は敵軍が侵攻して来た事の方が気になるらしく、双剣の話はうやむやで終わり、結局こうやって正体を明かそうと弄くり回してる訳だが、姉御は降参した。けど、姉御が知らないならどうすりゃいいんだか……


 「……知り合いに【魔剣研ぎ】の専門家が居るんだけど……ねぇ、聞いてる?」






 「……ふぁ? あ、聞いてるよ……魔剣ねぇ……」


 ワタシは姉御の声に反応しながら、手に持った魔剣を眺めてた。




 ……専門家? 何それ……



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 「……あ~、(じじ)ぃか? 出掛けてるから帰りは遅くなると思うよ」

 「そうなの? ……じゃ、出直して来るしかないかなぁ……」


 姉御とワタシは、国境を越えて小さな国の外れにある、やたらデカイ屋敷にやって来た。……つーか、ヒトが住んでる気配があんまり無いのに、部屋数だけは有りそうな家なんだが……妙に()()()()()()()だけはハッキリ判るんだ……気持ち悪ぃ……


 留守番役の赤髪のネーチャンはワタシよか少し年上だったが、スゲェ乳してやがる……ガキのクセに生意気な乳してやがって。羨ましくなんてねぇ。



 「……姉さん、お客さん?」


 ……おっ? 後ろからワタシよか年下の野郎が顔を覗かせたが……こっちは普通の見た目だが、何だかワタシの荷物……いや双剣をチラチラと見やがる。中身が魔剣だって、知ってるのか?


 「……魔剣、だよね……それ。しかも【夫婦剣】でしょ? オマケにお姉さんと一緒に居たいって言ってますけど……」


 そっちのガキはそれだけ言うと、喋り過ぎたみてぇな面して、乳のデカイ姉の後ろに隠れて静かになっちまった。変な奴……。


 「……ロイ、お客さんに変な事言っちゃダメだって……あ~、スイマセン……コイツ、ロイって言う私の義弟なんだけど……魔剣の【声】が聞こえるらしくて、いつもこんな感じ。まぁ、あんまり気にしないでいいです……」


 チチ姉ちゃん(名前はデフネとか言うらしい)はそれだけ言うと、弟に何か頼み事をしてる。飯の支度が何とか……ワタシもヒトの事は言えねぇけど、料理出来ない女が多い気がするぜ?


 ……夫婦剣、ねぇ……夫婦なら名前で呼び合う


   『……【フシダラ】……【フツツカ】……そう、呼んで……』


 ……何だ? 名前……なのか? 【フシダラ】【フツツカ】…………?




   《……音声認識、承認されました。所有者はホーリィ・エルメンタリアに決定致しました。変更は不許可です。》




 「……はあ? 何だよ急に……って、ええ?」


 ワタシはいつの間にか魔剣を手に持ったまま寝ていたらしく、屋敷の中のソファーに横になってた。それにしても、何だったんだよ、あれ。


 「……ホーリィちゃん、大丈夫? 急に倒れたと思ったら寝てたんだから……昨日は普通に寝てたのにね……」


 そう言う姉御の顔を見ながら、チチ姉ちゃんは【……ユリカップルかよ……】とか言ってやがる。済ました面の裏じゃ、何言ってるか判んねぇ姉だな、このチチはよ。


 ……結局、この魔剣は呪わない類いだって判っただけでも収穫だな。




 ……ただ、あの変な声、どっかで聞いた事が有る気がするなぁ……思い出せないのが癪だが。



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