⑥変なモン見つけた。
長々とお待たせ致しました。
【……何かが居ます。】
グランマはそう言うと、いきなり上下ひっくり返しになって一気に真下に落ちていくぅ……ッ!!!!
「……き、急速……降下で……眼が……」
姉御が籠の手すりに掴まったまま、顔を覆って身を丸めてる……ッ!? ……な、何だよこれ……眼が……見えなく……暗くなってく(※①)……うわっ!?
【……御免なさい、急いで降りたから……大丈夫ですか?】
……グランマの、バカぁ……漏らすトコだったぞぉ……っおぉ? 急に眼が見えるようになった……って、何だよこりゃ……。
いきなり眼が見えるようになったワタシが見た景色は、一言で言えば【屠殺場】だった。
……大人の男女が三人づつ、下着姿で樹に繋ぎ留められて、各々が時間を掛けて切り刻まれたか、慰み物にされたようだ。だが、全員……きっちりと首の付け根から血を流してうつ向いてりゃ……どうなってるか判るってもんだ。
各々の傍らには、武器も装備もバラバラな連中がグランマの姿を見上げて固まってたけど……ここ、国境からあんまり離れてないって事は……つまり……
「……ホーリィちゃん! コイツら【宗主国】の威力偵察部隊!!」
ワタシと同じく眼が見えるように戻った姉御が、籠に取り付けてあった細剣を掴んで籠から外に飛び出して走り出る!
やっと理解出来たみてーに動き出した連中の先を制して、姉御が【身体強化】で一気に加速ッ!! 弩の矢みてぇに前屈みのまま、グングンと一足毎に更に加速してあっと言う間に一人目の相手の前に立ち、
「……私達の縄張りで粗相かます野犬共に……情けは無いわよ?」
抜いた瞬間も見せない一閃で、相手の心臓を細剣が貫く……
「……がぁ……ふぐっ!?」
息を飲む間も無く血の泡を喉に詰まらせながら、苦しげにもがく男を蹴り倒してその場を離れる姉御……速いにも程が有るぜ? 刺すのと蹴るのが同時とか有り得無ぇってッ!!
身体を回転させて切っ先で二人目の喉を切り裂き、仰け反る隙に三人目に肩からぶつかって距離を離し、相手の包囲から抜け出しながら……
「……ホーリィちゃん! 見てる暇はないわよ?」
「うっせぇ!! 今行くってば!!」
遅れて飛び出すワタシに一瞥して、剣を引き上げて肩の上で『水平の構え』を取る姉御。牽制の左手を突き出して指先を天に向けながら、
「……さて、三人目は誰かしら……別に全員同時、でも……構わなくてよ?」
男ならぞくり、とするような言葉を流し眼で言うとはねぇ♪ 流石は姉御! 負ける気、自分は全然無しの強気発言で挑発してっぞ!!
(※①)→ブラックアウト。急降下等で身体中の血液が下半身に集中して血流が不整になり、一時的な失明を伴う現象。戦闘機のパイロットに起きる現象だが、現代科学では対Gスーツ(空気圧等で圧迫し血流を押し戻す)で緩和が可能。
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それを聞いた連中、自分の立場がよ~く判ってきたみてぇだな。手にした剣を握り直してよ……おまけに目の前に突っ立ってる相手が【エルブの形した化けもん】だって事もな。目付きが変わりやがったな。
こう言っちゃ何だが、ワタシだって場数は踏んできたつもりだが……姉御はその上を軽々と越えててよ、笑っちゃう位の余裕を見せ付けやがるんだ。
「……まぁ、そうでしょうね。捕まれば……良くて尋問されてから処刑、悪ければ拷問されてから、処刑ですから……♪」
おっかねぇ事をじんわり笑いながら、ふわり、と言って一歩前に出る姉御。
……よく『エルブは細くて弱い』って、勘違いするバカが多い。
なぁ、考えてみろよ。人間より長生き出来て、人間より魔導の扱いが上手なんだぜ? しかも見た目がキレイ(あと男前か?)とくりゃ……厄介事にも事欠か無ぇ。つまり、自衛の手段を持ち合わせて無いとあっという間に絶種だわな。
だからよ、エルブは『細くて弱い』奴ばかりじゃない。中には【化けもん】も居るんだ。姉御みたいな奴がな。
……ほら、見てみろよ。今だって真横から突き出された剣に細剣を沿わせて滑らせて、軌道変えながら跳ね上げりゃ……そら、相手の正面ががら空きになるだろ?
そこに斜め下から突き上げるように細剣が出て、更に波打つみてぇな軌道を描きながら男のこめかみから眉間へと一瞬で動くと、
「……かはっ!! あ あ あ あ …… 。 」
……残酷だぜ? 姉御ってば……両目とほんのちょびっとだけ脳ミソ斬るとか……
切られたヤツは眼は見えねぇし死にきれないのに、ただヒクつきながらゆっくり膝突いて、そのままじわじわ死んでくんだからよ……。
【……ホーリィちゃん、一番強く戦うコツって、判る?】
【……それはね、相手の事を一切考えず最短の手間で斬り続ける、それだけよ】
姉御はいつかそう言ってたけども、何百年も斬った斬られたの世界で生きて来た姉御らしい、そんな考え方だよな。
一人、また一人と姉御が次第に敵を減らして……いや、あっという間か? ワタシが出る幕なんかじゃねぇや。……そう思った瞬間、最後の一人になった奴が……心臓を貫かれて口から血泡を吹きながら、
「……がっあ……。道……連れに……して、やるよ……ッ!!」
そう言った瞬間、両手をパシッと打ち鳴らして……その指の間からにゅるり、と黒い蛇みてぇなのが何本も……?
「……ホーリィちゃん!! 伏せてッ!!」
……パシュ、と姉御が白い光に包まれた瞬間、同時に倒れてた男達も次々と……集団自爆の術式っ!!
……、 ……!?
あれ? 確かに光ったのに……何ともねぇ……
って、言うか何とも無かった訳じゃなかった。姉御が居た周りは地面に幾つも大穴が空いてやがるし、あんだけ派手に自爆した連中は……欠片も何も残ってねぇや……
「……やぁねぇ……これだから粗野な【連結業火】の術式は嫌いなのよね」
……でもよ、姉御は何故か真っ裸でソコに立ってた。
「……姉御……なんで裸なの!?」
「……ん? 【全方位護身】よ。一日一回、掛けておけば一度だけ効果を発揮する魔導。ただ護れるのは身体だけで……服は対象外だから、こうなるのよ?」
周りに見る奴が居ないって事はあるけどよ……森ん中でスッポンポンで歩き回る姉御は、ワタシから見ても恥ずかしいぜ?
全然慌てる素振りも無ぇまんま、姉御は少し離れた場所に停められてた馬車に近付いて、中を物色しながら服を着てるみてぇだ。……で、何かを見つけたようだ。
「……これを開けたくて、連中は拷問してたのかしらね……ほら」
手招きされて見に行くと、頑丈そうな鉄の箱が一個、馬車の荷台のど真ん中に置いてあった。鍵穴が付いてるから何処かに鍵が有るのか……?
「昔から木を隠すなら森、って言うけど……」
姉御は荷主らしい男の死体に近付くと、暫く考えてから……うわ、腹切って、中に手……入れてやがるぜ?
「……あ、やっぱりね……そりゃあ大切な荷物だから、命に代えても守りたいって思えば【隠す場所】なんて決まってるわね」
血塗れの手を布切れで拭きながら、鈍く光る鍵を持って戻って来たけど……開くのかな?
……がちゃ。
「……あら? これ……剣が二振り……かしら?」
姉御は黒い布切れに包まれた、短剣を取り出した。
……何だか、ワタシはその剣を見た瞬間、何かが自分に近付いて肩に手を置かれたみてぇな、そんな感じがした。
次回も宜しくお願い致します。




