⑩戦の前支度。
最終話です。
……あれから月日が流れた。ワタシは相変わらず身軽な格好で戦場を彷徨いてたせいか、何時の間にか宗主国の連中から【悪業淫女】って呼ばれてた。
……頭の二文字はまだ良いがよ、後の二文字はどうかと思うぞ? 確かに初っぱなからイイ感じでラリってたのは認めるがよ……いつだってそうだ、って訳じゃねぇんだがな……。
まぁ、それはおいといて、だ。
今まで積み重ねて来た功績で、グランマが正式に帝国の艦船序列に加わる事になった。つまり……
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「ふおおおおおぉ~~ッ!!」
「ホーリィちゃん、口閉じなさいよ、口!!」
見上げるワタシに姉御が口出ししてくるが、そーゆー姉御だってさっきからニヤニヤしてんじゃね?
でも、そりゃそうだよ。誰だって、グランマに関わって来た奴だったら、きっと同じようになるだろうさ!
グランマは凄くデカイ砂漠鯨(ある程度の歳になると食わなくても生きられるらしい)だが、その身体に見合うだけの外殻ってのが出来上がった訳だ。見てくれは腹ん所にヒトや鷹馬を押し込む空間付きの装甲板が有って、背中側に物見塔が括り付けられる感じだ。
但し、グランマの身体に合わせてあるせいで、真っ直ぐな形じゃねぇし、ヒトが入れるっつっても天井は低い。アジは一目見て「新手の拷問だ」って言ってたな。でも湯編み出来る場所もあるみてぇだし、飯だって食える。賄い担当にも会ったが気さくな小人種のネーチャンだった。食う心配が無いってのは、凄く重要だと思うぜ?
さて、進水式が始まるか……式に立ち会う二人の兄貴達も、グランマのお陰で襟の星が一個づつ増えたみてぇだ。二人揃って偉くなったけど、相変わらずお互い離れて出席するようで、昔から全然変わってねぇ。まぁ、仲が悪い訳じゃねぇんだが。
ワタシは相変わらず適当に好き勝手やらせて貰ってる。襟章なんて興味ないし、グランマと姉御と一緒に居られればいーや。細かい事はアジに任せときゃ良かろうし、難しい事は判んねぇし。
あ、そーいや姉御が艦長代理、って事になったらしい。仕事は出来るし頭も切れる、ついでに面倒見もいーし、見た目もいい。適任じゃねぇか? ただ、本人はやりたくなかったらしーが、軍ってのは体裁を重んじる訳だし、責任者無しで軍艦を動かせる訳も無いってこった。……で、代理で構わねぇから、って口説かれたってさ。
そうそう、ワタシも一つ、変化が有った。只の義勇兵から正式な自由兵、まぁ、傭兵みたいなモンになった。つまり、功績に合わせて報酬が出る立場になった。その金勘定役が……【剣の妖精】って奴だ。ちなみに名前はパム。なんでパムかって? ……只の思い付きだし、理由なんて全然無いんだけどな。
「よっしゃ、パム公!! 式が終わったらまた稼ぎにいくぜッ!!」
【……パム公……!? 犬みたいに呼ばないでよッ!?】
フワフワと漂いながら、腕をブンブン振り回して怒るパム。そーゆー感じが、尻尾で感情が判る犬っコロとあんまり変わらねぇんだけどな!!
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【 アミラリア帝国軍所属 ホーリィ・エルメンタリア 】
【 帝国歴 百四十七年 三月 自由兵に任命される 】
【 翌 百五十三年 二月 貢献度により四つ腕に変更 】
【 翌 百五十四年 五月 身体に重大な損傷を受け元に戻す 】
【 翌 百五十五年 三月 強襲仮装戦艦ローレライ付き強襲兵班長代理に就任 】
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「……へぇ、偉いモンねぇ、その若さで強襲班長代表代理なんて……」
目の前に座った、いや……とぐろを巻いたネーちゃんが、ワタシの略歴を眺めながら感心してる。この艦に新しく赴任してきた蛇人種のエキドナってネーちゃんだ。
白衣を緩く羽織って、でっけぇスイカみてぇな乳をこれでもか!! って見せつけやがる。不思議な事にラミアって、子供が生まれてもチチは出ねぇらしーんだよ? 全く、只の飾りかっての……。
「へっ! 別に偉かねぇぜ? 前任の班長が赴任一ヶ月でミンチになっちまったからよ、代わりにワタシが班長代理やってるだけだかんな!」
「……まぁ、副長のアジ・ヤタテが優秀なんでしょうね……そうそう、一応義務だから、貴女の血を一滴貰いたいんだけど、いいかしら?」
……うぇ、そんなの聞いてないんだが……まぁ、義務ってんなら仕方無いけどさ……どっから採る気なんだ?
「あ、そんな緊張しなくてもいいわよ? ただ、耳たぶをカプッてするだけだから……それじゃ、失礼します……♪」
「……あっ!? いちっ……ふっ……ぅ!?」
……くっそ!! このネーちゃん、どさくさに紛れて耳舐めていきやがった!? いや、たぶん、だけど……あー、びっくりしたぁ!!
「……うん、終わったわよ? ……ふぅ~ん、一回身体交換してるって聞いたけど、過去に性別変更してるわね? もう馴染んでるから違和感もないし、普通なら判らないだろうけど……」
「へぇ? そんな事まで血の一滴から判るのかよ!?」
「……判るわよ……普通にね。それと別に、生理の周期も近付いてるわね……今度、それ用の備品を多めに申請しておいたら? ……この船、女性の比率が無茶苦茶高いから、本当に足りなくなるわよ?」
「……うげ!? マジかよ!! ……姉御……いや、艦長代理に言っとくわ……」
う~ん、面倒だけど仕方無いや……ワタシにバターカップ(※①)、姉御にそれに……ん? 姉御って、セーリ有るのか? 流石に「姉御! おばーちゃんだろーけど生理とかあんの?」って聞いたら、速攻でぶっ殺される感じしかしねぇな……うん。
「……まぁ、いいわ……取り敢えず、私からも申請出しておくわね?」
エキドナねーちゃん、そー言いながらパタン、とバインダーに挟んだワタシの書類を机に置くと、
「……さて、これで面談は終わりよ? で……何か聞きたい事とか有ったら答えるけど……」
「うん? あー、そうだな……ま、別にねぇよ?」
そう答えてから、ワタシは目を瞑り、暫く考えてから立ち上がって部屋を出た。何処に行くのかって?
……あー、うん。ワタシの験担ぎなんだよ、ちょいと湯編みに……な。
……湯編み、だかんな?
さらば、一人称!! そしてバッカルビよ久し振り!!
では、本編で会いましょう!




