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気がかり

 部屋に戻ったオレはベッドでごろんと横になっていた。何もしていないので様々なことに気を取られる。戦争のことも考えるが、一人になると日本(あっち)の家族のことが気になって仕方がない。特にアニキの容態が心配で心配でたまらない。

「くそっ」

 一発壁を殴りつけた。さすがに全力ではないが。

「え……」

 これは、石じゃない。コンクリか?それに近いな。いずれにしろ、成型しているのはたしかだ。これなら建物の強度は期待していいだろう。

『真二、ちょっといいですか』

「はい」

『ベアトリーチェ姫がいないうちに話しておきたいことがあります』

「オレも聞きたいことがあります」

 すぐにベッドの上で正座する。

『お兄さんのことですね』

「はい」

 一番の気がかりは兄真一の容態だ。

『お兄さん、真一は』

 心臓の脈打つ鼓動がズキズキ痛む。

『命に別状はありません』

「ああ、ああ、よかった」

 まる糸の切れたマリオネットのようにベッドに顔面から倒れこむ。

『肩と首の間をバッサリと切られたものの、致命傷ではなかったそうです。もう少し深く刃が食い込んでいたら鎖骨下動脈が切れてしまい、危なかったようです』

「よかった————」

『って聞いてますか』

 正直、頭の中が真っ白で全然覚えていなかった。


「すみません。取り乱してしまって」

 あれから深呼吸したり水を飲んだりして自分で自分を落ち着かせることにした。

『いいのですよ。それであなたのお爺様と先輩ですが、二人とも殺人未遂の現行犯で逮捕されました』

「当然ですね」

 怒りが体からこみ上げたりはしなかった。あんな目に合わなかったらリーチェと出会えなかったのだから。

『それと真二の肉体ですが』

「え、体ならここにありますが」

『川へ転落したとき、川底が浅くて水が澄んでいたから、沈んだ肉体が通行人の方々から丸見えで、それなのに転移させようとしました。でも、そうすると』

「まあ、いきなり消えたらミステリーですね」

『そうならないように、肉体の複製を作ってから転送させたのです』

「それも、神通力ですか?」

『ええ』

 何でもありだな、神通力。

『ただ、そちらの肉体は当然ですが死亡しています』

 うーむ、死亡宣告されても、今こうして生きているのだから実感は全くわかないな。

「あっちの身体は?」

『今、司法解剖の最中です。死因は出血多量による失血死。日本刀は首筋の大動脈を切断し血が噴水のように吹き出し、弾丸は内臓を破裂させ、おびただしいまでの流血でした。ただ致命傷が日本刀によるものか、銃によるものかが問題になってます』

 爺ちゃんが孫を殺したことになるか、先輩が殺したことになるか、当事者にとってはそれは大きな違いである。もっとも、オレは爺ちゃんにも、先輩にも殺されたと思っている。二人ともオレの命を奪うだけの攻撃を加えたのだから、どっちが先に当たっていようが今更関係ない。オレが気にしているのは全く別のことだ。

「捜査について、他に変わったこととかありませんか」

『あとは特に変わったことはありません。そうそう、科捜研がスマホを鑑定していますよ。一応念の為でしょうね』

 スマホが見つからないから予想はしていたが、やっぱりそっちにあったか。

「あー、もったいない。こっちで使いたかったのに」

 頭を抱えるしかないな。

 スマホ1台あれば検索しまくりで、現代の知識をフル活用して戦況が一変するだろう。2台ないから通話も、動画の送信も、メールもできないけど。

『残念だけど、川に水没して壊れたのよ』

 防水機能かついてないからしょうがないか。

『でも科捜研がメモリーカードからデータを読み取っているのよ』

——鑑定か……

 色々思うところはある。だが、それをアメノウズメ様に吐露するのは気が引ける。

「鑑定しても、役に立つ情報なんてアニキからオレに電話があったことくらいですよ。それにしても科学捜査なんかも、意外と詳しいですね」

 日本人にとっては常識の範疇なのだが、神話の時代の神様から専門用語が出てくると違和感を感じる。

葦原中国(あしはらのなかつくに)、今風なら’日本’を高天原から毎日観察していますから、一般教養はあります』

 でないと、そもそも現代の人間であるオレと会話が成り立たないよな。

『ただ、今日ばかりは詳しくなかった方が良かったと思いました』

 とても、もの悲しい口調であった。もし、直接会っていたなら気まずそうに顔を下に向けている、そんな想像が出来てしまう。

「……」

 おそらく、アメノウズメ様は今回の事件の情報を収集している過程でオレの素性を知ってしまったのだろう。

「……ふっ、それにしても、先輩よく当てましたよ」

 自分が殺されたのに鼻で笑ってどうする。まあ、この際、話を逸らすことが出来ればいいだろう。

『せっかく銃を入手したのに、実際に撃たないはずがありません。アジトの地下を改造させて、しっかり防音できるようにしたようです』

「で、的を買ってきて気の向くまま撃ちまり、いつの間にか上達した、と」

『そんなところです』

 ちょっと考えれば予想できたはず。

——当たらないなんて、決めつけたのは間違いだった。

 さっき、自分死にかけたことは別にいい。

 ただ、今度の戦争では自分だけでなくリーチェの命がかかっている。だから絶対に負けられない。その為にも今回の失敗を踏まえて行動しないといけない。

 ぐっと拳に力が入る。

『ええ、同じ過ちを繰り返してはなりません。戦場では何が起こるか分からない。それを肝に銘じておきなさい。この時間を取ってくれたベアトリーチェ姫の為にも』

「ずいぶん気を使わせてしまったようですね」

 気がかりが減った分戦争に集中しなければと、強い決意を胸にリーチェとの軍議に臨むのであった。

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