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神魔大戦

 案内されたオレの部屋はおそらく来客、それも国賓クラス用の部屋だったのでないかと推測した。

 日本では使ったことのないキングサイズ位のベッドに、学習机の倍はありそうな机と、椅子が2脚あった。まるで箱に背もたれとひじ掛けがついたようなデザインに細かな装飾が施されている。さらには装飾を施したグラス。どれもこれも目を引くほど豪華であった。

 まあ、この部屋で一番目を引いたのは光の弾で、部屋の中央天井付近で煌々と輝いているのだが。

「これが元’帝国’の地図です」

 リーチェは向かいの椅子に腰かけずオレの右隣に寄せると、机の上に巻物を広げた。彼女の長い髪から漂う香りが鼻孔をくすぐる。

 やはり地図は向かい合って見るのではなく、同じ方角から見た方が見やすいよな。

「まず、ここが王都ミラニア」

 リーチェは淡々と説明を進めていく。そりゃそうだろう。

戦の相手の一つ魔族軍の本拠地がここセシリー島です」

 地図一杯、南北に延びる半島。ミラニアは地図の北中央部、セシリー島とやらは半島南端近くで、半島からは目と鼻の先ってところか。指でなぞってみるとやけにごわごわしているが、パピルス製だろうか。

「それが一月まえのことです。セシリー島の魔術師テレマがある儀式に成功したのです」

「サタニストって、まさか」

 サタンを召喚したのか! 

 イタいヤツでなく、本気(マジ)もんの危険人物だったのか。緊張のあまり、喉をぐびりと鳴らす。

 リーチェはオレの予想を読み取りそして、無言で首を振った。

『残念ならが、真二の想像よりさらに悪いことです』

 紛れもなく神様であるところのアメノウズメ様でさえ悲観的になるとは一体……。

「地球の大魔王サタンを召喚しようとし、サタンとのコンタクトに成功しました。ですが、サタンは召喚に応じませんでした」

「なら……」

「しかしサタンの指示によって魔王や魔族が次々にこの世界にやってきました。その数が数千なのか数万なのか全く見当がつきません」

『そして、魔王軍のトップはあの大魔王ルシファーです』

「うそ……だろ……」

 愕然とするしかなかった。

「ルシファーと配下の魔王、魔族はテレマの要請に応じ帝国の侵略を開始しました」

 後は推して知るべし、か。出てくるのはアイディアでも戦闘意欲でもなくため息だけだ。

「……普通に考えたら帝国に勝ち目はないよな」

 さっきはスルーしたが元ってつけてたし。

「はい。魔王軍は半島に上陸すると真っすぐ北上し帝国の中心である帝都を瞬く間に陥落しました。守備に就いていた兵士の弓も、魔族の魔法も、牙も、爪も役には立たなかったそうです」

「その後、テレマはサタニスト・テレマを名乗り、勢力を半島中へと拡大しようとしました。誰もが絶望したその時でした。彼らに立ちふさがる集団が現れたのは」

 そんな大ごとを、なぜか淡々と語るリーチェ。嬉しくないのだろうか。

「一体何者?」

「彼らはセイント・ペンタゴン教団、(いにしえ)より続く宗教団体です。彼らは魔王軍とほぼ互角に渡り合っているのです」

「マジで! どうやって」

 思わず椅子から立ち上がってしまった。だって相手はルシファーなんだぞ。

「教祖が神に祈り続けてその祈りが通じたのですから、テレマとある意味で一緒です」

「手段としては同じだが、ただお願いする相手が違うってこと? それ一番大事じゃん。あ、それってアメノウズメ様?」

『いえ、私ではありません』

「じゃあ?」

 誰と聞きたくなるが、神様相手に誰は失礼か?

「教祖曰く、恐れ多くてその名を口にするのが憚れるそうです」

 この場合考えられるのは2パターンだ。無名の神がはったりをかましているか、あるいは……。

「そして、その神もサタン同様、自ら降臨することはなく、神の使いが降臨し、魔王や魔族と戦いました。これが神魔大戦の始まりです」

「とんでもない大戦だな」

 これが地球で起きてたら、世界史の教科書が倍くらい分厚くなるんじゃないだろうか。

「ルシファーはわき目もふらず、教団本部へ攻め込みました。そして教会前広場に差し掛かった時でした。天使の内の1体が不意打ちをかけ、ルシファーを地面に叩きつけたのです。そして地面には魔法陣が浮かび上がりました。魔法陣には五芒星が書かれ、それぞれの頂点に4体の天使が待ち構えていた。そして不意打ちをかけた1体が空いている頂点に降り立つとルシファーに対し封印術を施したのです」

「天使?」

 アメノウズメ様なら知っていてもおかしくないよな。同業者だし。

『ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエル、セラフィムですね』

——どっから連れてきた!

 って、天界からだよな。すると天使を遣わした神というのは……本当にその名を口にするのが憚れる神しかいないな。

「ルシファーの封印には成功したのですが、その5体の天使達は背後から魔王や魔物に襲われ、消滅しました」

「消滅って色々不味いのでは」

『消滅したといっても死んだわけではありません。地球に帰還していますよ。ただ、当面は戦うことはおろか、顕現することすらかなわないでしょう』

「そして天使を倒した魔王達も重傷を負い教会から撤退しました」

「つまり、痛み分けってことか」

「そうとも言えるでしょう。魔王軍は残った戦力で半島の西半分を()()手中に収め、また教団には近しい神やその眷属までもが顕現し半島の東半分を()()その勢力下に納め今日に至ります」

「なんとスケールのデカいこと」

 もう、話がデカすぎてついていけないぞ。

「そしてここからが本題です」

 リーチェがグラスに手を伸ばす。オレも釣られて手を伸ばした、というか喉がカラカラだったが遠慮していたので水を(あお)る。中身はもちろん水だ。リーチェ曰く、「さすがにこの場ではアルコールには食指が動かない」そうだ。

「魔王軍、セイント・ペンタゴン教団、()()()()ここ王都ミラニアを守り通して欲しいのです」


 それは真二の想像のはるか上を行く難易度のミッションであった。


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