『とある森の奥のホテル』
一人の少女が森に迷い込んだ。
少女はまだ幼く、道など分からない。
少女は適当に森の子道を進んでみた。
すると、更に森の奥まで迷い込んでしまった。
少女は自分が迷子になっている自覚が無く、キョトンとした表情を浮かべながら更に更にその先へと進んだ。
森の中は暗く、それはそれは不気味であった。
ガサガサと木々の隙間から音がする。
進むに連れて、偶に得体の知れない野生動物と遭遇する。
少女に特に不安や緊張感は無く、泣くことは無かった。
幼いながらも少女は、頭が良かった。
かといって、不思議な面を持ち合わせていた。
少女はふと、古びた塔を見つけた。
廃墟のような、とてつもなく古びたホテルだ。
少女はなんの抵抗も無くホテルの中へと入っていった。
中にはやはり誰もいない。
錆び付いた受け付けのカウンターに、動かないエレベーター。
やはり完全なる廃墟だ。
少女は静かに待ち合いのソファに座った。
暫くすると、カウンターの奥から微かな声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、迷子かい?」
声の主は姿を見せず少女に問いかけた。
少女はソファに座ったまま、無言で頷いた。
廃墟のようなホテルに何故、主がいるのか、不思議に思う感覚が少女には無かった。
「ここに、居たいのかい?」
声の主はもう一度少女に問いかけた。
「ええ、私、ここに住むわ」
少女は初めて口を開いた。
少女には親も居なければ、身内も居らず、家も無く、それどころか知人というものが居なかった。
正体不明の少女が消えても、世間に行方不明のニュースが流れるようなことはあり得ない。
姿の見えない2人の間に、静かな時が流れた。
外は真夜中。
高い夜空にはギラギラと満月が輝き、木々の騒めく音とコウモリ達の飛び回る音が、誰も知らない森の奥底で響いていた。