ダンゴムシでコロコロする
投稿ペース上げたい。慣れなくては
目覚めると視界は無く。空気や音の反響から自分の状態を知る。驚いた事に隣に彼女が居ない。魔法で一気に周囲を探知するとすぐそばの枯れ葉の下で食事ているのを見つけた。そう気づくと一気に空腹感が襲ってきた。食事中の彼女の隣に移動し僕も食事を始める。
隣に来た僕に、彼女は喜びと歓迎の意思を送ってくる。最初に比べて彼女の魔法も上達している。教わる機会が無かっただけで、ダンゴムシには無い人並みの知性をもった存在なのだ。僕は神格にこの強い体に生まれ変わらせていただいたわけだが、彼女は天然ものである。家の管理人の男性曰く、金属の色を持った甲羅の虫が住む家は、その甲羅の色の通貨に恵まれるのだとか。彼女の甲羅だと銅貨になるのか。
冬眠から覚めたと言ってもまだ少し肌寒い。枯れ葉を積もらせた寝床の中は薪置き小屋の奥というのも相まって冷たい空気が張り込まないので、寒さを大分軽減していると思うのだけれど、それでもまだ寒い。床下に居た時は外気温の影響は少なくそこまで気にならなかったし、冬眠前は別荘内のベバリーの治療で暖かい所に通っていたのであまり気にしていなかった様に思う。
そういった事なしに朝の空気を感じたためかやけに寒く感じてしまったようでした。床下から引っ越す切っ掛けとなった床板の張替は終わているが、ミザリィちゃんが毎朝観察にやってくるので、床下はそれが難しくなってしまう。折角こちらに好意的な人間関係を構築してるのだから大事にしておきたい。
あまり意識していいないが、このダンゴムシの体は結構な量の糞を出す。当然それだけ食事をしているわけだが、一応分解者の生態系に組み込まれているので人間だった時の感性があっても普段はそこまで気にならない。
別に気になる事として折角良い感じの土壌の材料があるのだ。何かに使えないだろうか。初歩的な魔法しか使えないがそれらを使って少し農作でもしてみようかと今年は思っている。この世界の農家も魔法で世話をすることがあるし、その時使うのは初歩レベルの魔法だ。僕の体は高度な魔法は使えないが、属性的なものは選ばない体なのでそれなりに手を掛けられうだろう。彼女に美味しいものを食べさせてあげよう。喜んでくれたらうれしいなぁ。
そう言うわけで今年の目標は農作で彼女に美味しい物をご馳走し、心地よい寝床で冬眠する事だ。むしろ冬眠しないで冬を越す環境を作る事だ。今住まわせてもらっている薪置き場の小屋の中に、彼女との家を作る。合わせて畑を拓き美味しいものを作る。家については考えている。床下の様な気密性の高い空間を作る事だ。この小さな体ならそれ程広さは必要としない小枝を骨に土を固めてかまくらの様な物を作る事を考えている。
農作については今迄、枯れ葉が美味しかったので意識しなかったが、今年は美味しいものを探しに、周囲を散策しようと考えている。欲を言えば管理人家族に人の食べ物を分けてもらいたいと思っている。その中で自分でも育てられそうなものを見繕うつもりだ。
「枯れ葉が一番美味しかったら計画変更かな」
そんな曖昧な計画を彼女に伝えると肯定的な気持ちが伝わって来た。どうにもあまり食に興味が無く、僕がやる事だから肯定してるという感じだ。気持ちは嬉しいが、積極的でないのが少し残念だ。是非とも美味しい物を食べさせてあげたい。
そう決意し冬開けて初めて朝のお披露目を行う。お客さんは来ていないが僕が綺麗な彼女を見たいだけでの理由で行う。眠っていたので感覚としては三日目に見たものだが愛しい人の綺麗な姿は毎日見たいものだ。煌びやかに彼女を照らしていると、人間に目覚めたことを伝えられないかと気持ちが伝わってきた。去年まで彼女から人間についての意思が伝わってくることが無かったので驚いた。同時に今まで伝わる事の無かった彼女の思考が伝わってくる。小さな体に似合わぬ高い知性を持っていることが分かる。ダンゴムシとしての愛情と思っていたが人と変わらぬ知能がる様だ。大分僕の知識の影響を受けているようだったが彼女の変化は凄く嬉しかったし、一層愛しくなった。
日が高くなった頃、ミザリィちゃん家族に冬眠から目覚めた事を伝えるのも兼ねて薪小屋から出て散策をする。最初は母屋の方へ移動する。以前住んで居たテラスは床が張替終わっている。戻っても良いかもしれない。でもそうなるとミザリィちゃんが僕らを朝観察に来た時にテラスの外周付近にいないといけない。住みやすいの母屋よりの中央付近である。移動距離とか考えるとこの小さな体には少し遠い。かといって外周付近に住むなら薪置き場の方とあまり変わらない。中型の動物が入りにくい事を考えると薪小屋の方がマシかもしれない。
とりあえず住居に関しては保留し、管理人家族に新年の挨拶をしようと思う。この世界の一年の感覚は解からないが冬開けて最初の挨拶だから深く考えない。風の魔法でテラスの上に舞い降り、家の中の様子を覗おうとしたところ、ミザリィちゃんが飛び出して来て僕ら前に蹲った。
「キラキラ虫さん!」
凄い興奮振りだ。
「ミザリィ、急に飛び出してどうしたんだい」
続いてお父さんがテラスに顔を出した。僕達の姿を見て納得したような表情を浮かべる。そんな二人に冬眠から目覚め挨拶に来たことを伝える。
「明日からキラキラみれるの?やったー」
「ベバリー様の治療に関しては、今年もしてもらえるのかな。」
無邪気に喜ぶ娘を脇に、真面目な顔で管理人さんが聞いてくる。問いかけには肯定の意思を返す。そのついでに報酬として母屋脇のベリーの花壇の作物を少し分けてもらいたいと持ち掛けると快く許可してくれた。今年の美味しい物探しの本命なので良い事だ。そのやって来た母親にも挨拶をしてテラスを後にした。目指すは早速ベリーの花壇。既に花が幾つか咲いてい良い匂いを漂わせている。
テラスから下りる時に魔法で飛び上がった後で、日光をして少し派手に煌めいて見せるとミザリィちゃんは感性を上げて縁まで追いかけて来た。
「また明日ねぇ」
そう言う彼女を尻目に花壇まで移動する。移動に魔法を使うのは魔力がもったいないのであまりしません。今のところ遭遇してはいないが怖い相手は鳥類や小型の哺乳類の捕食者である。それ以外にも移動時は捕食者との遭遇率が高い。それが僕らを魔獣と認識して襲ってくる小型の魔獣だと尚たちが悪い。温存しないといけない。
辿り着いた花壇で早速ベリーの木を登り始める。木の根元の腐葉土の少し食べたが。これもとても美味しく感じた。彼女は大分この堆肥用の腐葉土を気に入ったようで、僕の美味しいモノ探しの意図を理解してくれたようだった。堆肥の上で左右の触覚を上下にぴょこぴょこ動かす彼女の姿が可愛いので良いけど。嬉しい時に見せる仕草だ。美味しいものを食べてもすんだなぁ、とか思いつつ彼女をベリーの細い茎に誘う。足に生えた細かい毛が滑り止めとなって、水平に近い角度の幹も問題なく登れる。ダンゴムシの体は思ったより木登りが出来る様だ。
そのまま幹から枝へ渡り白い花の元へ至る。花びらを少し齧ってみる。柔らかい感触ににじみ出る花の香りのする水分と若干の甘み。こういう枯れ葉とは違う美味しさを求めていた。枯れ葉が日本人であった自分の感覚なら主食の米とするなら、これはデザートの果物だ。彼女に溜食べてもらうと触角をピンと立てたまま硬直した後、一息に一枚食べつくしてしまった。相当気に入ってくれたようだ。
ベリーの花は薪置き場では育成に向かないが、花の咲いている内は少し花弁を拝借することに決定した。その日の散策はそこまでにして、翌日から家の周りの山林を散策し始めた。春の季節に咲く花の花弁や新芽を少しづつ齧って味見しながら育てやすそうな物を探す。途中、トカゲや肉食甲虫の幼虫に出くわしたが、僕の魔法の前には無力である。人の拳大の火の玉に包まれるだけで大抵の小動物は致命傷だ。今回は山火事にも伴侶して闇魔法で生命力を奪い衰弱死させた。人間では少し疲れる程度の物でも小さな存在には奪い過ぎなくらいだ。
そうして日課に彼女との散策デートを加えて数日。なかなか目ぼしい作物が見つからない中、ツツジ科の植物の作る藪の下の木陰に気になる植物を見つけた。それは弱いながらも魔力を帯びた植物だ。まだ小さな株だが、何故か惹かれるものがあり、小さな楕円形の葉を齧る。齧った瞬間植物の魔力が体全体に巡るのわかり、自分の中の魔力の流れが澄んでいくのを感じた。味もこの上なく上手い。そして魔力をとおして植物の意思が伝わってくる。これは植物の魔獣だ。こんな存在もいるのかと感心した。
意思がある様なので魔法で意思疎通を図る。当たり前だが食べて欲しくないとの事だ。しかしそんな事であの味を諦める気は無い。食べない代わりに挿し木の様にして増やせないか相談する。すると葉のついた茎を一本持って行って良いという。光か水の形で魔力を注いでくれれば良いそうだ。日光は火の力が強く苦手だそうで避けた方が良いらしい。なんと好都合な話だろう。こうして育てる作物が決定した。
持って帰った葉と茎を薪置き場の自宅の近くに挿して水と光の癒しの魔法を掛ける。するとすぐに根を張るどころかそのまま茎をのばし成長した。どうやら地面を覆うように育ち広がる植物の様だ。育った部分を食べながらこの植物の事を良く感知してみる。僕の人間の頃の知識でいう所の、浄化の効果を持った薬草といった感じの様だ。効果は弱いが、継続して服用すれば毒と呪いの作用を抑え、時間はかかるが解呪も可能なようだ。また魔獣である事から、食した魔獣の成長を促すようだ。
枯れ葉を主食にこの植物の魔獣、魔草をデザートにする新たな食生活は彼女も気に入ってくれた。偶にベリーの花びらを朝の観察時間にミザリィちゃんに持ってきてもらうようにお願いした所、毎日一輪、花を取ってきてくれるようになった。この小さな体には一輪で充分な量である。
今年の生活が早々に豊かになり、先行きの明るさに満足している内に季節は進み、夏が近づき、ベバリーちゃん家族と使用人達がこの別荘にやって来た。やって来たその足でドリン医師は薪置き場を訪れ今年も僕らにベバリーの解呪を依頼してきた。別荘から返ってから元気を取り戻したかの様に見えていたベバリーが冬を越したあたりから以前より早い速度で衰弱しているらしい。詳しい様子を見るために僕と彼女はその日のうちにベバリーの部屋へ招待されることになった。
読了感謝