ダンゴムシ5 転がる様に走る{微速(人間規準)}
娘が喜色満面に手のひらを開いて見せるとそこには2つの玉があった。そのまま玉を木箱に入れる。赤銅の玉とは銀の玉だ。以前、私が管理する別荘の持ち主が置いていった置物を入れていた木箱だ。ニス塗で光の反射が綺麗な木箱を娘は気に入り、それ自体を宝石の様に大切にしていた。それに物を入れるという事が、娘のミザリィがこの二つの玉をいかに気に入っているかが察せられる。その見た目は事態は確かに美しく、私も妻も誰かの装飾品の一部が何かの弾みで欠落した物を拾ったのだろうと思ったほどだ。
木箱に移された二つの玉に急に溝が入りその身を開く。玉はダンゴムシが丸まった姿だった。その色と丸まった時の様子から普通のダンゴムシでないのは容易に判別できた。魔獣であるのは明白だった。
虫の中でも甲虫と呼ばれる種。固いか甲羅を持ち角や大きな顎を持つのが特徴的な種だが、一つの神話というか言い伝えとして、金属の色の甲羅を持つ虫が家に居着くと、その色の金運に恵まれるというものだ。娘の持ってきたダンゴムシがその縁起物として扱われる虫の範疇がは考えず、縁起物として見れば2匹、それも恐らく番と思われる2匹がこの家にいたというのは喜ばしい事ではあった。もっとも妻は虫だと判って強い嫌悪感を示していた。
木箱に放たれた二匹のダンゴムシ。銅色の方は弱っている様だ。娘は幼い。下限なく握りしめてここまで持ってきたのだろう。むしろ銀色の方が元気なのが異常なのだと思う。自分も幼い頃はダンゴムシや蟻をおもちゃにしたが子どもといえど、握りしめると小さな虫には致命的になる程の負担がかかるものだ。弱った銅色に銀色のダンゴムシが癒しの魔法をかける。魔法を掛けながら銅色のダンゴムシを気遣っているような仕草を見せる銀色のダンゴムシ。魔法も傷を癒すものから体力を回復させる魔法に変化する。
そんな睦まじい姿の2匹に
「赤いキラキラ虫さんは元気ないの?」
と触れようとする娘のミザリィ。その瞬間空気が変わる。銀色のダンゴムシが銅色を庇うようにミザリィの指に向き合い、腰が抜けるかと思うほどの殺気を放ってきたのだ。恐らくは威嚇の為の魔法が技能をを使用していると思う。娘はその殺気に気付いた様子はない。
「ミザリィ、キラキラ虫さん達は突然捕まえられて怒っている様だ。優しく元居た場所に戻しておいで。」
何とか言葉をひねり出したが、動揺が消える事は無い。妻は殺気に怯んで無言になっている。
幼いが故の鈍感さで娘はダンゴムシを飼いたそうにしているが無視する。言い伝えでは縁起の良い虫は居着くと副をもたらすが、他所から無理矢理連れてきたり飼育しようする物には逆の作用、不幸をもたらすともあるのだ。下手に飼うより折角住み着いているならその場所に近づかないのが最良である。
その後、娘の感情を無視して二匹を逃がしに行くところで更なる驚きを得る事になった。何と銀色のダンゴムシは此方の言うことを理解しているようだ。さらに威嚇の時に使った魔法のみならず炎の攻撃魔法を使用できることも知ら占められる。娘を無視して正解だった。
銀のダンゴムシは此方の予想通り魔獣の一種の様で、こうちらの考える以上に高度な知性を持っている様だった。一階のテラスの下に住んで居たらしいがとんでもない存在が身近にいたのだと実感ささせられた。言われるがままに薪の材料になる木材をいている小屋に2匹を放すと感謝の意思が返って来た。悪意はないようなので暫く様子を見る事にしよう。毎朝娘を楽しませてくれるようでもあるし。
その日の観客は一人多かった。いつものミザリィちゃんともう一人、同じ年頃の男の子だ。眠そうな瞳が僕達をみて大きく開かれる。無意識に伸ばした手をミザリィちゃんが払う。
「駄目だよ、脅かしたらいなくなっちゃうんだから。」
そう言われ不満げではあるが渋々手を降ろし、こちらを見つめる。パパさんは約束通り彼女に言い聞かせている様だ。何度も光で演出するうちに慣れてきたのと、ミザリィちゃんの反応に応じることでセンスも磨かれてきた。初めて観る少年には驚きの光景だったろう。暫く二人を魅了して朝食の前には身を隠す。薪置き場から去りながら興奮した声で感想を喋る少年の声が聞こえる。
翌日はさらにお客さんが増えた。聞こえる会話の内容から少年の兄と父親の様だ。
「これは縁起の良いモノを見た。管理費用の追加を考えねばな。」
「そうですね父様、このような住人が2匹も住み着くのも良い仕事をしている証拠でしょうから。」
と話しながら去っていく。住人ん幸福を与えるというチート能力を持っているせいか結構都合よい話が動いている。それよりも息子の方、一緒に煌めいていた彼女も縁起物として扱ったな。良い心がけだ。多分この先良い事あると思う。幸あれと願っておくぞ。効果の程は神様のお墨付きありだ。
「ベバリーにもみせたいの」
ミザリィちゃんが少年に何か言っている。
「ベバリーは明日お医者様の馬車と一緒にくるし、暫くセイヨーしていくらしいからみられるさ。」
ここに至ってようやく気が付いたのだが、どうやらこの建物、確か偉い貴族の別荘だが、そのお貴族様が訪れている。しかもさっきみ見に来た二人の新規観客はその当主さまその人と、次期当主候補筆頭の長男ではないか。その二人に気に入ってもらえたのなら態々一人の症状の為に、毎朝キラキラしていたのも無駄では無かったのだな。
そんな人間の都合は関係なく住処の環境を整える。この木材置き場の小屋の中を隅々まで探知する。するとまた居た。白蟻だ小屋の柱や壁に数引き取りついている。手早く魔法で引きはがし、風と炎と水の合わせ技で蒸し焼きにする。沸騰した水を小さな高温の風の結界の中で循環させ、その中に対象を包み込みのだ。薪に火が移らないように試行錯誤して生み出した魔法だ。風の玉の大きさは平均的な人気の生み出す火球の10分の1にも満たない使用する水もその程度、炎も少量のお湯を沸かすのと変わらない。こんな手間をかける理由だが、虫や虫の魔獣の中には体液に仲間を誘引する匂いを含んで物が居るからだ。最近来る白蟻はそういった性質を持っている。そして自分が通った魔所に匂いがつく様に腹の先端を常に足場にこすりつけている。
この魔法は害虫駆除の時に匂いの元の成分を変質させ効果を失わせる目的と既に匂いがついた部分を洗浄する目的で作った。名付けて「スチームクリナー人に向けて使うのは危険です」とりあえずこの魔法で匂いを消しながら駆除している。凍らせから処理する事も考えたが、柱や木材につけられた匂いの処理まで考えって試行錯誤した末にこうなった。洗浄力が決めてである。
僕が魔法を作っている隣で彼女も触発されたように魔法の練習をしたいた。おかげで防御盾の性能が上がり同人二枚出せるようになった。自分の身を守りながら、僕の事も守れるようになったと嬉しそうに頭と顎を小さく振る姿は誰が見ても抱きしめたくなる愛らしさ。以前、ミザリィちゃんに捕まった時から、ずっと何か僕の役に立ちたいと、大切な相手には守ってもらえるのは嬉しいが、何もしてあげれ無いのも辛かったのそうだ。今回の2つの防御盾は自分を守りながら他の対象を守れる。
そんなことを言われてはもう止まらなくなってしまう。触角と頭の甲羅を僕に擦りつけて親愛のアピールを熱心に送る彼女に、こちらも盛りがってしまった。彼女の体を少し持ち上げ、その下に下半身を滑り込ませ、その丸まる様にして彼女の上半身を僕の体で包み込む。後ろ足手甲羅の内側と前足と触角で
頭部を触角を刺激する。彼女も身体を丸め僕の下半分を挟み込む。前足とあの感触が何とも言えないもどかしいような切ない刺激を伝えてくる。隙を継がない身体を入れ替え今度は僕が彼女の下半身を挟み込み、彼女が僕の上半身を挟み込む。甲羅の内側、保育嚢の有った辺りを刺激する。そのまま刺激を続けると彼女身体を開いていく。そのままお互いの身体の内側をこすり競る様に進み、二匹の頭が並ぶところまですす。それぞれを足を絡め合い、離れない様に固定しながら頭と優しくすり合い、触角を絡める。はた目には銀と銅の半々の色合の楕円玉のような感じになっているだろう。
この姿勢で交尾に至る事もあるが他の同族のやり方とは違うので、何と書くプレイしている気分になるのでこうしてじゃれ付いて、そのあとは普通に事に及ぶ。今は発情していないので最後までしない。幸せそうに僕の触覚の手入れをしてくれる彼女を見れるだけで満足してしまう。今日はこのまま眠ってしまおうと思った。
翌朝、件の白蟻はやってこなかった。しかし油断は出来ない、奴らの捜索範囲内にこの小屋があるという事。近くに巣があるのは間違いないのである。こういう時は自分で何とかしようと思ってはいけない。猫に転生した時は、飼い主家族への愛ゆえに、自己犠牲となった。今回は命にかかわる問題ではないが無理せず、管理人さんに相談しよう。調度良い事に娘のミザリィちゃんは毎日僕らを観察にやってくる。そこでお父さんを読んで欲しいと魔法で意思を伝えればよい。その時は少しくらいは僕の体に触らせてあげよう。お使いをお願いするからお駄賃も用意しておかないとね。
翌朝のミザリィちゃんは上機嫌で僕と彼女を手のひらに乗せて母屋の居間で足を踏み入れた。そして以前僕らをとらえた時に使った木箱に入れてくれた。
「おとーさん、キラキラ虫さんお話があるんだってー」
元気な声で父親を呼ぶミザリィちゃん。少し困った顔で管理人のオジサンと貴族様とその息子兄弟がやってきた。特に秘密のすることもないので、やって来た者には材木置き場の白蟻の事を伝える。
「まさか、本当に人の言葉を理解するとは。」
「銀色の方は特に優れた魔獣の様ですね」
「それより白蟻か、近くに巣があるなら駆除しなくては、折角テラスの床板を新調したのに。」
驚きに意識が別の事に移っていた貴族とその長男は管理人さんの言葉に正気を取り戻し、白蟻対策の話をしながら部屋を出て行った、道具や薬品の残量を確認に倉庫や町に行くらしい。
親と年の高い兄妹が居なくなったところでミザリィちゃんと少年が何か物欲しげな表情で寄って来た。
何となく察しは着いたので向こうが何か言う前にこちらから意思を飛ばすことにした。内容は勿論
ベバリーはどこにいるんだ?つれていっておくれ
かなりしっかりと意思を伝えた。突然の明確な意志の流入に二人とも一瞬驚いたが、すぐに笑顔を浮かべ「こっちだよ」と木箱をもって走り出した。