チカ、吹雪の中を飛ぶ
チカは砂漠の上を一直線に飛んで行きます。すると砂漠のハゲワシが追いかけてきました。追いつかれたら戦いになります。
薬瓶を持っているので戦えません。
チカは翼の限り逃げました。
国境は目の前です。あの吹雪の中に逃げ込めば、ハゲワシは追って来られないでしょう。
しかし、チカが吹雪の中に逃げようとしているのがわかったのか、ハゲワシも速度を上げます。ハゲワシがチカに体当たりして来ました。
ピーッと悲鳴を上げて落ちるチカ。
地面スレスレで、翼を広げて舞い上がりました。危機一髪です。
ハゲワシがもう一度襲ってきます。その時、どこからともなく現れた鷹の一団がハゲワシに襲いかかりました。
鷹が言いました。
「おまえはピッロのハヤブサ、チカだろう? 持っているのは冬の女王様のご病気を治す薬かい?」
チカはピーッと返事をしました。
「早く行って冬を終わらせておくれ、食べ物がなくなって困っているんだ」
チカはもう一度ピーッと鳴いて鷹に礼を言って国境のある北に向って飛びました。
ようやく国境です。国境の向う、季節の国は猛吹雪です。チカは風に煽られながら飛んで行きました。雪と風がチカの行く手をはばみます。
ふっと風が止みました。雪は降り続いていますが、ずっと飛びやすくなりました。
「おまえはピッロのハヤブサ、チカだろう?」
どこからともなく声が聞こえます。
「私は春の女王、冬の女王様の雪は止められないけど、風を弱くする事は出来ます。本当は塔の外で力を使ってはいけないのだけれど。仕方ありません。さあ、風が弱まっているうちに早く行って」
チカはピーッと鳴いて春の女王様に礼を言って飛び続けました。
季節の塔が見えてきました。もう少しです。
とうとうチカは季節の塔にたどり着きました。
壊れた窓から中に入ります。
チカはテーブルの上にそっとガラス瓶を置きました。
両足とくちばしを使って、ガラス瓶の蓋をとります。ガラス瓶を持ち上げて冬の女王様の枕元に飛んで行きます。
そっと唇に解毒剤をこぼします。しかし、解毒剤は唇の上で凍ってしまいました。
どうしたらいいのでしょう。
チカは首を曲げて火狐の首輪をくちばしで挟んで思いっきりひっぱりました。ぷつっと首輪が切れます。チカは冬の女王様の唇の上に火狐の首輪を落としました。解毒剤と唇が溶けていきます。口の中に解毒剤が入って行きます。
冬の女王様が目を覚ましました。凍っていた体がみるみる柔らかくなります。冬の女王様は息を吹き返しました。
しかし、チカは冬の女王様が息を吹き返すのを見る事はありませんでした。
火狐の首輪を落とした瞬間、凍って死んでしまったのです。
冬の女王様は寝床に起き上がると、ガラス瓶に残っていた解毒剤を総て飲み干しました。すっかり元気になった冬の女王様はチカの体をそっと抱えて、階段をかけおりました。春の女王様と早く交代しなければなりません。
季節の塔の扉を大きく開きます。積もった雪を吹き飛ばしました。雪は既に止んでいます。
どこからか音楽が流れ、空からピンク色のドレスを来た春の女王様が降りてきました。二人は大急ぎで交代の儀式を済ませました。冬の女王様が外へ、春の女王様が塔の中に入った途端に暖かい風が吹いてきました。
「春の女王様、この子を暖めて上げて下さい」
冬の女王様がチカを春の女王様に渡します。
「喜んで」
春の女王様が両手で暖めると、チカが目を覚ましました。
「チカ、よく働きましたね。最後に火狐の首輪を冬の女王様に捧げたのはあっぱれでした」
チカはピーッと鳴いてピッロの元に帰って行きました。
さて、ピッロは王様にたくさんの褒美の品を貰って故郷に帰りました。兄達と仲良く暮らしています。
季節の国は元通り四季のある国になりました。
冬の女王様は南の国の王様の招きに応じて南の国に行きました。ですが、塔の外で力を使ってはいけないので、南の国に雪は降らせませんでした。そのかわり、南の国の王様に贈り物をしました。ガラスの丸い玉は、中を覗くといつでも雪の野原に行く事が出来ました。南の国の人々は皆これを覗いて雪の野原で遊びました。
だけどガラス玉には呪いがかけられていました。サバククマンバチを小箱に入れた者だけは閉じ込められて、猛吹雪の中お腹をすかせて彷徨うようになっていたのです。
ある日、南の国の王様はガラス玉の中から助けてという大臣の悲鳴を聞きましたが、ほおっておきました。憧れの冬の女王様を殺そうとしたのです。
「おまえはもう少しそこで頭を冷やしておれ」
と言って冬の女王様と一緒に散歩に行きましたとさ。
(おしまい)