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聖剣シリーズ

それは勇者の願いのようなのですが!!

作者: RIN

クリスマス…遅刻しました。

 (クリスマス?!クリスマスじゃないですか?!)



 おっと!冒頭から興奮してしまいました。


 こんばんは!みんな大好き聖剣ちゃんです!


 あ!うそ!冗談です!ほんの茶目っ気じゃないですか!


 だから、そんな冷たい目で見ないでください!


 ちょっと調子に乗りました。異世界で剣になっちゃった元『日本人』の美少女です。


 …さっきより冷たい視線を感じます!気のせいですか?そうですか。


 いいじゃないですか。ちょっとくらい…。自分で美少女言うくらい許されると思います。




 そんなことより、クリスマスです!


 え?異世界にそんなものないでしょって?


 それがね!今回、勇者たちと旅の途中で立ち寄った雪の街!


 これが、クリスマスの街に似ているんです!


 雪が積もったもみの木には赤や黄色の丸い飾りがついていて、ぼんやりと街灯が輝いています。


 そして、街の人々が赤いとんがり帽子を被っているんです。


 どこか懐かしいクリスマス風の街です。


 (きゃあ!すごいすごい!クリスマスだ♪)


 テンション上がります!


 クリスマスと言えば…。


 (チキン!ステーキ!ケーキ!!…はっ!食べられない!)


 だったら、ここはサンタ的な何かにお願いするしかないですよね?!


 (神さま仏さまサンタさま!美少女な剣に異世界グルメをば!美少女かどうかは私の希望です)


「ごふっ!」


 あれあれ?またしてもトカゲさんがむせています。トカゲさんは私の生みの親(?)であるおじさんのお友だちで、『リュージンのオサ』と言われています。が、ちょっと長いし、どうせ本人に呼びかけることはできないので…(自分、剣ですから!)ここは、『トカゲさん』と呼ばせてもらってます(勝手にね)。

 トカゲさんとはこの前の街で偶然会って、しばらく一緒に旅をすることになったんです。まさかトカゲさんの人間バージョンがこんなにもイケメンだとは…。世の中は分からないものです。まぁ、私には勇者がいるので、いいんですけど。でも、きらっきらの薄い水色の髪だとか、金色の瞳だとか、真っ白い肌だとか…。


 (眼福だよ!こんちきしょう!)


 この世界は美形が多い気がしますよ。主に私の周りに…。


 (はぅ!もしや、こんなところに私の呪い(?)が効いているとか?)


 なんてこったい!ぐっじょぶですよ。ちり紙さま!!…あれ?神さまでしたっけ?どっちでもいいか。


 (美形ハーレム万歳!!これは、もしや!美少女な剣が主人公ヒロインの乙女ゲーの開始ではないの?!)


「ぶふっ!」


 あれ?止まっていたトカゲさんの咳が再び出始めましたね。トカゲさんは、よくむせる人なんです。ふとした真面目なシーンでも、ごほごほと咳をしていることが多いんです。


 おそらく、風邪をひきやすいんだと思います。


 (お大事に!なむ~。はっ!もしや!!看病イベントの開始?!でも、剣がどうやって?!)


 その後、しばらくトカゲさんの咳は止まりませんでした。






「聖夜祭、ですか?」


「おうよ!この街は昔、神さまが降臨したと言われていてな。その祭りを今日と明日の二日間するんだ」


 泊まる予定の宿の主人が、食事をする勇者たちにお祭りの話をしています。


 なんて楽しそうなイベント!まさにクリスマスのようです!


「あの赤い帽子や服も?」


「祭りの衣装みたいなもんだな。その時降臨した神さまがあんな格好をしていたらしい。


 色がついた石を売っていただろ?それを自分がずっといっしょにいたいヤツに渡すんだ。相手と同じ髪か眼の色と同じ色の石だぞ。


 お互いに石を渡し合えたら、その人とはずっといっしょにいられると言われている」


 (きゃああ!なんてロマンチックな!)


 欲しいです!私も石が欲しい!


「へ~!おもしろそうな祭りだな!ここは、いっしょに過ごせる女の子を探すか!」


 騎士…ナンパですか?あっ!聖女が氷点下になりそうな冷たい眼をしています!


「あなたという人は…少しは自重したらどうなんですか?!」


「かったいなぁ!真面目なのもいいが、つまらないと思われるぞ。男たるもの!かわいい女性に囲まれたいと思うだろ!」


 魔法使いがひきつっています。やはり騎士は軽いです。軽すぎます。騎士が強いのは認めますが、地方に左遷されたのはこの女癖の悪さも原因な気がしてきました。


「下品、下劣」


 聖女が冷たい声です。


「おいおい!それはひでーな!」


 親子ほども年が下の聖女にされた冷たい視線に騎士がちょっとショックを受けています。いつものパターンですね。そう考えると、騎士は懲りないですね。毎回、同じパターンで撃沈してますよ。


「不潔」


 あっ!トドメが入りました。騎士がすごくショックを受けていますよ。


「自業自得ですね」


「それで、聖夜祭は他にどんなことをするのだ?」


 そんな大ショックを受けている騎士を見て、ため息混じりの魔法使い。無視を決め込んだトカゲさん。お前ら仲がいいなぁと笑う勇者。


 やばいです。私の存在感が薄くないですか?大丈夫ですか?個性的なメンバーに私、空気ですよね?


「そうだな。歌って、踊って、飲んで、食べて、あとは星に祈るくらいだな」


「星に?」


 (星に?)


 あ!トカゲさんと声がかぶりました!


「まぁ、祈りって言うか、願いだな。明日の日付が変わる瞬間に鐘がなるんだが、その時に自分の願いを星に祈るんだ。そうすりゃ星が願いを叶えてくれる」


 おぉ!これはきっと、クリスマスなイベントですよ!ぼっちには悲しいイベントですね!え?私?私は、ホラ。クリスマスはホームパーティーと前世から決めているんですヨ。


「へ~!よし!勇者!!俺らも石を買いに行こうぜ!!」


「は…?」


 ぐいっと騎士に腕を引かれた勇者は、半分無理やり騎士に連れ出されていきました。


 他のメンバーはそんな2人を茫然と見送ってしました。


「…騎士のあの行動力の高さは何なんでしょうね」


 う~ん。確かにそうですね。騎士は無駄にアクティブです。


 (もしや…脳筋?筋肉まみれ、煩悩まみれ?)


「ごほ…。行動力が高いのは悪いことではないであろう。ともすれば、己の使命に真っ直ぐすぎる勇者に様々な経験をしてもらうには、騎士のような人間は必要だ」


「…そう、ですね」


 うん。確かにそうですね。真っ直ぐすぎる勇者は、ちょっとは遊んだり、楽しむことも必要だと思います。トカゲさんの言うとおりです。


 うんうんと心の中で頷く私。


「…武器、置いてった…」


 (うんうん…うん?………はっ!!)


 ぽつりと呟いた聖女の声に我に返りました。


「「…あ…」」


 (あぁぁあああああああ!!置いていかれた―――――――――――――!!!)







 その後、仕方がないな、と言いながら、私を持ってトカゲさんが立ち上がったのですが。


 え?トカゲさん…。あなたはどれだけ馬鹿力なのですか?!私、今、重さを100倍にしているんですよ?なぜ、何事もなかったかのように軽々と持ち上げられるのですか?!と驚いている間に、魔法使いが、私が行きます、と言って、私を持って宿を出ます。その後を聖女が追いかけてきます。


 なんだか、よくこんなことがあるような…。


 勇者は私を置いて行きすぎなんです!くすん!泣いちゃうんだから。


 そのうち、失くしても知りませんから!!


「私、持つ」


「持ちたいのですか?」


「ん」


 聖女は私を受け取って、ぎゅっと握りしめます。小さな聖女には私は大きいですね。いつも引き摺られそうです。懸命に私を持つ聖女の頭を優しく魔法使いが撫でます。


「ん」


 聖女が嬉しそう!魔法使いのことを優しいお兄ちゃんって言ってますし、懐いてます。でも…。


「どこ、かな?」


「そうですね。勇者はあまり乗り気でもないでしょうし、あまり遠くには行っていないでしょう。それに、さっき行った道具屋で騎士はお店の方に鼻の下を伸ばしていましたから…。あぁ、居ましたね」


 魔法使いが指さした先には2人の姿がありました。


 (………魔法使いの予測がすごいのか、騎士が読みやすいのか…)


 さっきの道具屋の前ですね。



 (あ……)


「あ……」


 聖女の声と重なります。


 店の前で綺麗な店員のお姉さんたちと談笑する2人。楽しそう…。あんな笑顔、最近見ませんでした。




 あれ?なんだか、無いはずの私の胸がぎゅっと押しつぶされたように痛い…。



 …なにか、変なモノでも食べましたかね?


 

 

 うん、きっとそう。ただの剣な私が…。





 (勇者…)




 私は、ただの剣だもの…




 でも、でもね







 ぎゅっと握られる感触に私ははっとしました。


 (聖女?)


 

 私をぎゅっと抱くように握って、聖女は踵を返し走り出します。


「聖女?!」


 魔法使いが呼びかけますが、聖女は人ごみの中を縫うように走っていきます。


 どう考えてもインドアに近い魔法使いが聖女に追いつくことは無理ですね。なにせ、勇者でも追いつけないのですから。


 (と、いうか!なんで、私も?!)


 ぽた



 (え……?)



 視線を上げると、聖女の眼から大粒の涙が零れていました。









 聖女がたどり着いたのは、街に付いた時に見た、ツリーの前です。もう夕方に近い時間のため、人がまばらになっています。


 (聖女、帰らない?きっと、みんな心配しているよ)


 近くにあった椅子に聖女は私をそっと隣りに置いて腰掛けます。じっとツリーを見ています。



 どれくらいの時間が経ったのでしょうか。もう真っ暗です。ツリーの光だけがきらきらと輝いています。


 (きれい…)


 こんなところで、私は前世のクリスマスを思い出してしまいます。同じようなツリー、同じような風景。それでも、全然違うのです。


 (ここは、私がいた場所じゃない…)


 ふと見上げると聖女の眼に涙が浮かんでいます。


 無口な聖女は、普段からあまり喋らないし、感情も表に出すことが少ないのですが…。


 どうしたのでしょう。



 (ちょっと、理由はわかるけど…)


「私…」


 え?


「私…。お前の心、受け取った。悲しい?」


 聖女はそう言って私を撫でます。


 (おおぉぉぉ!聖女が私に話しかけてる!!?)


 やっぱり、聖女は気が付いてますよね?


 出会ったころから、何となくそうじゃないかと思っていました。



 聖女は、なんとなく、私の存在に気が付いています。



 話ができるとか、ではないのです。言葉は伝わらないけど、剣に意識があると、なんとなく気が付いているのです。聖女は、勇者の次に、「私」と言う存在に気が付いている人間なのです。



 だって、聖女だけなんです。


 ただの剣の私に、リボンやお花を付けようとするのは。


 (女の子だって、女子だって気が付いてるよね?!)


 こんなにうれしいことはないんです。勇者だって、私のことを女子とは思ってもいないみたいなのに、他のみんなに何て言われても私にリボンを結んだりするんですよ?


 

 …まぁ、ピンクのリボンを付けた剣なんて、かなり微妙で、それを振り回す勇者はかなり…。



「違う。同調した?私も、悲しい…」



 悲しそうな聖女の声に私は何も言えません。…いえ、本当に何も言えないのですが。


 (聖女。教会に保護された孤児で、教会に利用され虐待されていた女の子…)


 そんな聖女は、救われたその瞬間からずっと…。



「おいこら。こんなところにいたのか!」



 怒った声が聞こえて見ると、少し離れた場所に騎士が腕を組んで立っています。


 眼を見開いて驚いたように騎士を見つめる聖女に、騎士はずかずかと近付いてきます。


 おぉ!怒っています。マジ切れ…。


「心配かけるんじゃねぇよ!ガキはもう寝る時間だ!!」


 (あの、そんなに怒鳴らないであげて…。聖女が泣きそう)


 眼にいっぱいの涙が零れ落ちそうです。


「関係ない…。騎士は、あの人たちといればいい」


「あ゛ぁ?!!何言ってんだ?!」


「どうせ!騎士は…!!……」


 聖女の悲痛な声が響きます。だけど、途中で躊躇うように止めてします。


 ああ、聖女は諦めてしまっているのでしょうか。


 地獄から救ってくれた騎士が大好きで、大好きで。でも、女好きな騎士が大っ嫌いで、自分のことを娘のようだとしか思っていないと知っていても、ずっと一緒に居たいと思ってて。


 (一方通行なのを理解してるから?)


 確かに私と同じです。私も一方通行…。


「なに怒ってんのか知らねぇけどな!あんま離れるな!!魔族に狙われてるのは勇者だけじゃない!唯一、治癒能力を持ち戦闘能力がないお前はいい的なんだぞ!」


 がしがしと騎士が聖女の頭を強い力で撫でます。あぁ、ぼさぼさ…。


 あまりの勢いにぽたぽたと涙が零れます。


「あぁ!ったく!」


 騎士が聖女の涙を拭こうと、懐からハンカチを取り出し…。



 キィーン



 あれ?


 (騎士。懐から何か落ちたよ?薄い金色の………ん?)


 


 石……?




 聖女の瞳と同じ色の…?




「どわっ!!」



 騎士が慌てて、それを拾い上げ、手で隠します。が、ちらりと聖女を見ると、聖女は大きな瞳を見開いています。


 (見られてる!騎士、見られているよ!)



「いや、勘違いするなよ?さっき道具屋に行った時、お前が欲しそうにしてたから、勇者といっしょに行って買って来ただけだからな!」


 それでさっき、お店の女の人と一緒だったんですね。


「ん」


 聖女が騎士に手を伸ばします。


「頂戴」


 しぶしぶ渡す騎士。石を受け取って、ほほ笑む聖女。


 はぅ!!美少女のほほ笑みは攻撃力が高いです!!


 石についていた紐を首からかけて、聖女は騎士と手を繋いで帰っていきます。



 あぁ、聖女が嬉しそうです。無表情な聖女は、騎士が関わる時だけ分かりやすい感情が表に出てきます。かわいい!!恋する乙女です!



 が!!しかし!!!!!



 …犯罪臭がします。親子ほども歳の違う騎士と聖女。騎士のロリコン疑惑が…。



 (でも、たぶん騎士は恋愛感情はないんだよね。聖女の気持ちは知っているけど、吊り橋効果と思っている気がする)




 うんうん、と考え込む私ははっとしました!



 (あああああぁぁぁぁぁ!!置いて行かれた――――――――――――――!!(二度目))







 おバカ!私はお馬鹿ですか!あの時、声をかけていれば!!ってかけたって聞こえませんけどね!!


 どうしよう!どうしよう!!もう深夜の時間です。どうやって帰ればいいのでしょう。


 何度か私を持ち上げて連れ去ろうとした方がいたのですが、あまりの重さに断念していました。というか、みんな私を蔑ろにし過ぎではないですか?誰にも持てないと言っても、トカゲさんのように持っていける人もいるんですよ?


「あぁ、よかった。あった…」


 あ!


 (勇者――――――!!)


 やった!勇者!勇者が迎えに来てくれました!!こちらに息を切らせて走ってくる勇者が見えました。


「ごめんな。置いて行って」


 勇者が申し訳なさそうに、私を持ち上げます。


 いえ、いいんです。よくあることじゃないですか。よくあっちゃ困るんですが。


 勇者が私を持って、街の外に繋がる大門の方に向かいます。


 (勇者、宿は逆方向だよ?)


「道具屋のお姉さんに星がよく見える場所を聞いてきた。今は魔族の危険があるから、一般人は外には出られないが、俺なら出られるそうだ」


 (星…?)


「お前といっしょに星が見たかったんだ」


 優しく私にほほ笑む勇者。


 きゅん!


 (きゃあ!きゃあ!!)


 聞きました?聞きましたか?!なんて、イケメン発言!!


 (勇者!かっこいい!!)


「急ごう。鐘が鳴ってしまう」


 そう言って、勇者は私を連れて、星がよく見える丘に向かいました。





 ねぇ、勇者。私は、あの時、自分が剣であることに絶望に近い想いを抱えていました。


 何もできない自分。ただの武器でしかない、いいえ、ただの武器でもない自分。私はいったい、何なのでしょう?


 でもね、私はあの時、あの丘で、確かに決意を新たにしたのですよ。



 ねぇ、勇者。私は…。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ここにいたのか?」


 丘に寝転がり、1人で星を見ていた私は起き上がり、振り返ります。


『トカゲさん』


 人型になったトカゲさんが歩いてきました。


「以前…先代勇者と来た時も、聖夜祭の時だったな」


『…』


「二代目勇者殿が心配しておったぞ」


 トカゲさんとは、やはりこの前の街で再会し、しばらくの間、いっしょに旅をすることになりました。同じ町に同じ聖夜祭の日に着くなんて…。メンバーは全然違いますが。


『トカゲさん、ここはね、私が決意した場所なんです』


「決意?」


『私はここで、勇者と最期を共にする覚悟を決めました。ずっといっしょに居たいと言ってくれた勇者のために、例え戦いの中で最期を迎えても、いっしょにいると…』


 空に星が流れます。聖夜祭の日、流れる星に祈りを捧げる。星と共に降臨したとされる神さまは、きっと願いを叶えてくれます。


 あの日、星を見ながら、勇者は私に…


『石をくれた。あの日、勇者は私のために、買ったばかりの石を』


 勇者は、いっしょに居たいのは今の仲間とお前だな、と言って、キレイな石をくれました。


 ずっと鞘に結び付けてあった石。魔王との戦いの最中でも、ずっと鞘に着いていました。


『封印から眼が覚めた時、その石が見当たらなくて…。って言っても、目覚めて最初のころは忘れていたんだけど。気が付いた時にはなくて、あぁ、無くなってしまったのだと悲しかった』


 まるで、石に、もう勇者とはいっしょに居られない、と言われたみたいでした。


『あの石は…





 どこにいったのかなぁ』







 ぽつりと呟いただけの言葉に、胸が痛みます。


 分かっています。あれは、ただの石だってことは。でも、あれは…。



「石……?




 黒い…石?」




 思わず、トカゲさんを振り返ります。私、石の色言いましたっけ?



 あぁ、とトカゲさんは少し苦笑します。


「どこかで見たと思っていたが、あの石はお前のだったのか」


『え?…え?どこで見たんですか?』




「勇者だ」




 ゆうしゃ?




「あの石は、最期の時まで、勇者の首にかかっていた。


 勇者は、どんな時でもあの石を首から外さなかったな。



 おそらく、今でも勇者が持っているであろう」



 ゆうしゃ。



 先に戻っているぞ、と言って、トカゲさんが戻っていくのを、ぼんやりと見送ります。



『勇者…』



 ぽたぽた



 ゆうしゃ、ゆうしゃ、ゆうしゃ。



 あぁ、涙で視界が霞みます。


 まるで子どもみたいに泣く声を抑えられません。


 わんわん泣きながら、私は大粒の涙を零していました。









 ねぇ、勇者。いつか私が最期を迎える時が来たら、あなたの側にいけますか?




 ねぇ、勇者。そんな時が来たら、笑って迎えてくれますか?




 ねぇ、勇者。私はもう一度、あなたに会いたいです…





 ねぇ、勇者…







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よかったのか?声をかけなくて」


 竜人の長は離れた場所に立っている二代目の勇者に声をかけた。本当は2人でこの場所に来たのだが、二代目勇者は『彼女』に声をかけるのを躊躇っていた。


「はい。ここは思い出の場所なのでしょう。この街に着いてから、『彼女』は心此処にあらずでしたから」


 『彼女』のいる丘を見て、二代目勇者の少年は優しい眼をする。


「僕も決意が固まりました」


 二代目勇者は自分の手にある、黒い石を見つめる。これは、少年がこの町に来て買ったものだ。


 少年は真っ直ぐに丘にいる『彼女』の元に歩き出す。


 おそらく、あの石を渡すために。





 1人、街を歩きながら、『トカゲさん』と呼ばれた竜人の長は呟く。


「……勇者よ。お前の剣は、お前の願いのまま生きているぞ」



『竜人の長、もしも聖剣に会ったら、伝えてほしい』



 遥か懐かしい記憶が呼び起こされる。


 あれは病床にあった勇者の願い。



「心配するな。彼女は、きっと……」




 ごおん、と聖なる夜、街に鐘の音が響く。


 誰かの願いを受け止めて、夜空に星が流れていた。








 

ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 好きです!ほんっと大好きです!聖剣かわいい!トカゲ(笑)かわいそうでもかわいい!勇者も!二世代してかわいい!みんな大好きです!
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