バーバ家の朝
私はバーバ・グライアイ。歳は秘密。
村に住む裕福な家庭に住んでいる。豪邸と呼んでも良いだろう。いや、そう呼ぶべきだ。
現在、私は独り身だ。
何故なら憎き姉が、私の愛した人を奪ったのだ。
今も許していない。
姉が家を継ぎ、私は彼に告白し、結ばれるはずだったのに。
なのに、私は今もこの、つまらない屋敷に住んでいる。
2人は駆け落ちして、私の元を去っていったのだ。
姉は愛しい彼と生涯を暮らしたらしい。
今は山向こうで一人で暮らしているそうなのだが。
さっさと死ねばいいのよ。
そう思いながら、今朝も鏡の前で自分の顔を眺めながら梳く。
窓を開け換気をし、白く長い髪が靡く。
うーん。今日もさわやかな天気ね。
この一連の流れは毎日行われている。
嫉妬を抱かずにはいられないが、そればかりでもダメなのだ。
私は一人なのだから。
窓の近くにある机には、写真があった。
私は今日もそれを切なげに撫でる。
そこには私と、私の愛した彼が写っているのだ。
端が切れているその写真を眺め、今日もコーヒーを淹れに下へ降りた。
淹れたコーヒーは朝食になるのではない。
庭にはコーヒー畑もあり、それを毎朝配って回るのだ。
ノグランデさんの所は牛乳を配っているので、毎朝一緒になる。
「おはようございます。グライアイ様」
「あらおはよう、ノグランデ。今日はノイノ君じゃないのね」
「ええ。今は山向まで野菜を買いに行っておりまして……」
ノグランデは申し訳無さそうに言った。
当然だ。山向には私の嫌いな姉が住んでいるのだから。
「まぁノイノ君が悪いわけじゃないから」
「恐れいります」
そうやって家々を回って配った。
これにも理由があり、村全体を把握しておくことも含まれる。
私は村長ではないが、十分それ以上の家なのだから。
と、そうしていると門の辺りが騒がしくなっていた。
駆けつけると既に人集りができていて、そこ中心にはノイノが居た。
「ノイノ、どうしたの? 荷物は?」
買ってきただろう野菜どころか、持って行ったはずの食料と荷台までないのだ。
手ぶらの彼は息切れが激しく、直ぐには話せそうにない。
私も彼の背中を撫でたのだが、恐怖の怯えが伝わってきた。
小刻みに震える彼にコーヒーを飲ませ、落ち着かせた。
「実は、ヤーガさんの家に黒いりゅ……」
そう言った時、卑しい姉が帰ってきた。彼の荷台を引いて。