火起こし
体が綺麗になったので、食事の準備を始める。
「お主は龍じゃったな?」
「うむ。まさに龍。ドラゴンなのである。我もまた、神に造られた崇高な存在なのだ」
作られただと……?
あぁ、産んでもらったという事なのだろう。
「火を吹いて、そこの薪に火を点けてくれんかの?」
「我は火を噴けぬぞ?」
疑問に疑問で返してきた。
何を言っているの分わからないといった表情をし、首を傾げている。
それは私の台詞だと言いたい所なのだが……。
「龍は火を噴く者じゃろ?」
「そんな事はないぞ? 現に我は火を噴けぬ。火を噴くのは炎の龍だけである」
火が噴けないなら、別の方法で火を点けてもらう他あるまい。
「ならば、火起こしでもしてもらうかの」
「火は噴けぬが、火を点けるのは容易であるぞ?」
火起こし器を取りに行こうとするが、呼び止められる。
「どうやって点けるつもりじゃ?」
「魔法である!」
自信満々に右手から火が燃え上がる。
奴はそれを薪に当て火を点けるのだが……
薪は一瞬で灰になった。
「火を点けるんじゃぞ? 燃やしきってどうするんじゃ」
下顎に手を引っ掛け、アウアウと失敗を表現している。
「また新しい薪を持ってくれば良いわ」
フォローを入れておいた。
「そ、そうであるな! もう一度、もう一度である!」
奴は薪をこの後数度墨にした後、火を点ける事に成功した。
奴は繊細な事が苦手なのだと理解した。
巨大な手では料理ができないので、奴には待ってもらった。
私はベランダで食べるのだが、これは奴と一緒に食べるためである。
何しろ、同じ高さの床に座れば座高の影響が、同じ高さのテーブルでは私が椅子に登れないのだ。
奴には外に設置した巨大テーブルで食べてもらっている。
ご飯ができるまでフォークとナイフをテーブルに叩きつけながら、楽しそうに全身を左右に揺らしていた。
満面の笑みで尻尾も振りながら。
垂れた涎は後で自分で拭いてもらおうか。
私は2階のベランダにある小さな……
いや龍の体に比べれば、なのだが、そのテーブルに自分の夕飯を並べた。
「ほら出来たぞ」
奴には鍋ごと渡すことにしてある。
「おお、すまんな。うむ。今日も美味しそうである!」
さっそくフォークを鍋に突っ込む。
私が持っていた食器ではサイズが合わないので、奴は自分のを使っているようだ。
フォークを鍋に突っ込み、頬張る……はずだった。
奴の笑顔は真顔になり、フォークを口から引き抜くと疑問が有ることが顔から容易に読み取れた。
当たり前だ。今日のメニューはスープなのだから。
具材も私が食べられるサイズだ。
龍が具材と感じるのは難しいだろう。
「たわけ。それはスープじゃ。フォークでは掬えんわ」
「そうであったか……」
だが、フォークを見つめ、それでどうしようか考えている。
「スプーンは持っておらんのか?」
「我は肉を食べる事が殆どであったが故に、ナイフとフォークしか持っておらんのだ」
奴はフォークとナイフに敬意を込めて見つめている様に思う。
あれも貰い物なのだろう。
仕方ないな。鍋をコップのようにして飲んでしまえと言おうとすると、奴が動いた。
もう一つあった今日のご飯。食パンだ。
その大きくふわふわの食パンをフォークでぶっ刺し、スープに突っ込み絡めて食べた。
「鍋ごと飲み干せばよいじゃろう?」
「そんな事をすれば火傷をするであろう?」
なんと猫舌であった。
「そうか……」
奴は食パンがなくなると、スープをふーふーして冷まし、猫のようにペロペロして食べきった。
やれやれである。
私は私のペースで食べるとしよう。