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世界樹の種を育てよう! ~ヘルヘイムが出来るまで~  作者: シャム猫ジャム
龍の生態
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漆黒の龍

(わたし)はバーバ・ヤーガ。(よわい)85にもなる老婆だ。

10年前に、お爺さんが他界してからは独り身だ。


自給自足の生活をしていたので、最近は畑仕事か随分重労働に感じる。

昔は(わたし)もピチピチで、可憐な乙女だったわね。


そう。昔を思い出したのだ。

お爺さんも(たくま)しく、いつも頼りにしていた。


畑仕事や家の修理は主にお爺さんが、家事は(わたし)がやっていたかしら。

いつもご飯が美味しいと、その笑顔が懐かしい。


夜の営みも刺激的で、今でも思い出すわ。


そんな事を思いながら晴天を見上げると真っ黒な影が近づいてきている。

雨雲かしら……


そう思いながら畑仕事に戻る。

しかし、直ぐ腰に痛みが走った。


「痛たたた……」


腰をトントンと叩く。

休憩して間もないというのにこれだ。

そろそろ限界かしらね……。


そう思い切り、株に再び座る。

お爺さんが昔、「椅子に丁度いいだろ!」と言って斬った切り株だ。

懐かしいわね。

感慨に浸りながら、その切り株を()でる。


その時丁度、雲がかかったように周囲が暗くなった。

見上げると、黒く大きな何かが居たのだ。


それは、大きな翼を羽ばたかせながら尚も降りてくる。

近づくに連れて、その非常なまでの大きさに見惚(みと)れた。


羽ばたく翼のせいで暴風が起きても可怪(おか)しくはなさそうなのだが、穏やかな風だ。


龍は(わたし)の前に降り立った。


「お主はこの辺りの(あるじ)か?」

(あるじ)かまでは分からん。

じゃが、この畑は(わし)のじゃよ。その家も、今は(わし)のじゃな」

「ならば、お主に頼みがある」

「なんじゃ?」


命でも奪いに来たのだろうか?

余命少ない(わたし)の命を取った所で何にもならないと思うのだけど。


「この種を此処(ここ)に植えさせては貰えぬか?」


そう言うと、龍は何処(どこ)からか種を取り出した。4本指の手で器用に。


眩しい。だから、手を(かざ)してしまった。

その種は黄金に輝いている。

あまりの輝かしさで、粒自体はよく見えない。


「おっと、すまんすまん。謝罪しよう」


そう言うと、その光源を握り締め、光は相当弱くなった。


「当然世話は我がするぞ!」

「それは構わん。じゃが……」

「がっはっはっ。見返りが欲しいのだな?」


満面の笑みで笑う。憎めない笑いだった。

悪意は全く無く、わんぱくと言うのが相応しいだろうか。


「そうじゃないわ!」


つい突っ込んでしまった。最近一人だったのでお喋りが楽しいのだ。


「では、なんだ?」

「畑仕事や大工仕事を手伝ってもらう」


最近は歳のせいで一人では厳しくなってきたのだ。


「そんなことであるか。それならば、何も言わずとも手伝ってやるわい!」


さも当然であるかのように言い放った。

恐らく任せろと言っているのだろう。

何らかの仕草を、種を持っていない手でしている。

ガハハハハという笑いと一緒に。


「頼んだぞ」

「おう。任せておくがよい!」


再び爽やかな笑顔が送られてきた。



龍は嬉しそうに何処(どこ)に植えようか物色し始める。

しかし、目は真剣に。


(しばら)く様子を見ていたが、一向に植える気配がない。


「何を迷っておるのか」

「うぬ……、良い場所がなくてな」


相変わらず光る種を手で握っている。


「一体何の種なんじゃ?それは」


龍はその種を見つめて、熱心に語り出す。


「これか?これはだな……我の神が、我に下さった崇高な植物の種なのだ。

何が生えてくるかは分からん。だが、崇高なのだ」


よく分からないが、崇高な何かのようだ。


「どんな所に植えたいんじゃ?」

「そうだな。少し盛り上がっていて、周囲は開けている所であるか……」


説明するために手を動かすが、無駄に仕草が大きい。


「できれば此処(ここ)から近い方が良いな。お主と離れすぎては都合が悪かろう?」


(わたし)を想ってくれているのか。優しい奴だ。


「それなら近くに丘があるぞ」

「それは何処(どこ)だ?」

「ついて来なさい」


そう言い放ち(わたし)は龍に背を向け歩き出す。

龍は大人しくついて来るかと思えば、声をかけてきた。


「方角はそっちなのだな?」

「そうじゃが?」


何が言いたいのだろうか?

疑問に思っていると龍は襲いかかってきた。


「な、何をするんじゃ!」


(わたし)は慌てるが、老婆故に抵抗しきれない。


「それ程までに心配せんでも……」


少ししょんぼりして(わたし)を離した。


「何をしようとしておったんじゃ!?」

「お主を抱えて飛んで行こうかと思ったんだが」


龍は頭の裏をカリカリと掻いている。


「ふむ。そう言えば飛べるんじゃったな。ならば、飛んで探せばよいではないか」


あっ!というような顔をしている。口をあんぐりとさせて。

とても抜けている龍のようだ。

だが種が何なのか、(わたし)も気になる。


(わし)にも責任が生じるじゃろう。ついて行く。じゃから、(わし)も連れて行け」

「勿論である!」


龍に抱かれて空を飛ぶ。

爪が食い込むこともなく、丁寧な飛行だった。

(わたし)の目は間違っては居なかった。やはり優しい龍なのだろう。

そんな気持よく、初めての体験はすぐに終わってしまった。


「おー。これは良い。此処(ここ)に植えることにするぞ」


そう言うと丁寧に植えた。

土を退()け、種を()き、再び土をかけたのだ。

それから何処(どこ)からとも無く如雨露(じょうろ)を取り出し、丁寧に水をかける。


「そうだった。まだ名乗っておらんかったな」


そう言うと、如雨露(じょうろ)があっと言う間に消え、こちらに振り向いた。


「我の名はツィルニトラ。漆黒の龍だ。呼び捨てで構わんぞ?」


威厳ある自己紹介がされた。


(わし)はバーバ・ヤーガ。ただの老婆だ」


そうして、種()きは終了した。

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