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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 6 王と魔王と操りの神
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47 “呪い”





 王都に近づくと、遠目にも物々しい警備が見えた。思わず回れ右しそうになる。


「人が多いですわね……?」

「ヤ~な予感しやがるな……」

「……アレ、我が家の噂のせいじゃないだろうな……」

「むしろ、それ以外の何であんなんなってるっつーんだ?」


 やめろ。やめろ。対魔族警報発令中とかだったら、俺の心が高速で折れるぞ。


「どうする?」


 ロベルトの目は、退くか進むかを問うていた。

 前情報を考えれば退いたほうが安全だ。ついでに俺の心の危機的にもそのほうが安全だ。だが――


「……進もう。神族の気配が無い今のうちに動いておきたい」


 そう、全神経を研ぎ澄ませて探査しているのだが、王都の方に神族の気配が感じられないのだ。隠れているのか、それともまだ王都に再臨していないのかは不明だが。

 ――どうせロクでもないことしてるに違いないがな!!


「ん? お前、神族の気配なんて探れるのか?」

「アストラル・サイドに籠られると難しいが、現界している状態なら気配を察知できる。……もっとも、死神(オズワルド)みたいに肉の殻を被られると誤魔化されるし、隠密に長けた属性の神族だと見つけられない可能性は高いがな」

「器用だが万能じゃねぇんだな……」


 もし俺が万能だったら、前世でも死ななかったと思うぞ。

 王都に着くと、門番が三人一組でやって来た。――ん? 後ろからもう一人駆けつけてきたぞ? どこかで見た顔だな……

 何事かを話し合ってから、後から駆けつけて来た一人だけがこっちに来る。他三人がチラチラこっちを見ているな……やだ、指名手配? ドキドキしちゃう。


「あれ? レディオン。あの兵士、あの時の門番さんじゃねーか?」

「ん?」

「ほら、走って来る奴。最初に王都に来た時にいただろ? 王子さんと話してた奴じゃないか?」


 ああ! あの門番か! どこかで見た顔だと思ったら……


「ちっと要件聞いて来るわ」

「おう」

「(すみません! リベリオ殿下とおいでになった方ですよね!?)」


 馬車から出たロベルトに駆け寄り、門番は潜めた声で問いかける。馬車内の俺とシンクレアは、思わず顔を見合わせた。


「王子様が先に手を打っていらした、ってことかしら?」

「その可能性は高いな」

<いきなり「御用!」ってわけじゃ無さそうだな>


 おっと。ロベルトから【伝言(メッセージ)】が。


<ああ。最悪、兵士に囲まれることも覚悟していたが……まぁ、そうなっていたら流石にポムから先に連絡が来るか>


 人間の『怖がり』は異常だからな。……なんか今「坊ちゃんが言いますかねぇ……」的な空耳が聞こえた気がするがきっと気のせいだ。


<直前のポムさんの連絡は何て?>

<シンクレアの後輩が昨晩からいなくなってるらしい。探ってみたが、気配は元気そうだから大丈夫だろう、ということだ>

<行方不明とかマジ勘弁だな……けどまぁ、大事じゃなさそうでなにより……か?>

<ただな『すごく嫌な予感がする』らしい>

<……をい……>


 言わんでも良いよ。俺も嫌な予感だらけだよ……


「(あのっ。皆様が来たら城にお連れするようにリベリオ殿下に言われているのですが、来ていただけますでしょうか?)」

<――て、ことだが、どうする?>

<む>


 正直、王都は頭が痛いことだらけだ。本音を言えばロルカンに帰りたい。あと、直轄地にいるルカに会いに行って癒されたい。俺のルカ成分はもう枯渇状態だ。

 だが、リベリオが呼んでいる、というのなら顔を出しておきたいし、現在の不穏な状況を放置するなんて出来ない。『城』という、一番面倒そうな場所に行くのは嫌だが、これもお仕事だ。

 ……次期魔王のお仕事なんて、たいていは火消しだよな……


<分かった。すぐに向かおう。ただ、一つ尋ねて欲しいのだが――>


 俺の返答に、ロベルトは頷いて門番に声をかけた。


「了解した。すぐに向かわせてもらうが『何か急ぎの事情があるのか?』」

「それが……(グランシャリオ家に二つの疑惑がかかっています。その件で、面倒な貴族の息がかかった者達に声をかけられる前に、皆様を保護したい、と)」

「成程な……」


 あー……今もこっちを伺ってるのはその連中か。この妙に多い兵士も、それぞれの派閥なりなんなりが送り出した兵士なのだろう。流石に王子の命を受けた兵士の邪魔は出来ないだろうが……

 ロベルトさん。危険回避ですよ!


「納得した。急ごう」

「(そうしていただけると助かります)」


 ロベルトの返答に門番は明らかにホッとしたあと、周囲に聞こえるように声をあげた。


「では、殿下の元にご案内いたします!」


 俺は気配感知で周囲の動きを探る。

 城の一角から新手の集団が飛び出してくるのを察知したが、門番は特殊なルートらしい通路を通ってそれらを綺麗に回避した。







 王城、二階。

 奥の一室に通されると、前よりずっと顔色の良くなった王様が立っていた。

 ん? 枯れ木みたいな姿だったのに、恰幅も良くなってるな。

 他にいるのはどこかで見た顔のオッサンだ。

 ……あれ? リベリオは?


「レディオンか。無事つかまえられて何よりだ」

「へ、陛下!?」


 案内の門番が驚いている。まぁ、王子がいるはずの部屋に王様がいたら驚くよな。しかも、王子自身はいないし。

 ちなみに現在、馬車の御者をしていたノアと、全員の護衛を兼ねているシンクレアは部屋の扉の傍らに。ロベルトは俺の斜め後ろという位置にいる。


「リベリオが呼んでいると聞いたのだが……?」

「少々問題があって、リベリオは外に出ていてな……。ああ、そこの。ご苦労であった。業務に戻るといい」

「は、はいっ!」


 おろおろしていた門番が背筋を正して退出する。

 俺は首を傾げて王に問いかけた。


「俺が門をくぐった時、城から慌てて出た一群がいたが、もしやそれがリベリオ達だったのか? リベリオらしき気配は混じってなかったと思うが……」


 王様の横にいたオッサンがちょっと渋い顔をする。すまんね。俺も未来の王様(まおう)だからあまり格下的な言葉遣いは出来んのよ。ノアも見ているしな。

 ……しかし、どこかで見た顔なんだが、あのヒト誰だっただろうか……


「ああ、イザイアよ。前同様、分かっていると思うが、礼儀だのを持ち出すのは控えよ。そもそも、それが通用する相手ではあるまい」

「……それもそうでしたな」


 おや。宰相さんでしたか。……いかんな。俺はどうしてこう、人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだろうか。前世ではそんなこと無かったと思うのだが……

 ちょっと遠い目をした俺に、何か誤解したのか苦笑して王が口を開いた。


「リベリオが出たのは、ほんのつい先ほどだ。……ふむ。門をくぐった時というのは、城の門かね?」

「いや、外の市門だ」

「……市門……あの距離で察知できるとは、恐れ入る……。しかし、ならばやはり、違う者達であろうな。時間的に、おぬしらが城に入るのと同じぐらいのタイミングであろうから」

「そうか……」


 チラと目配せをしながら、王が嘆息をつく。……ふむ。

 しかし、リベリオは留守か。入れ違いなら仕方ない。呼ばれていた要件も気になるし、後でまた会いに行ってみるか。


「そういえば、ポーツァル家の五男殿が市門側に一人、魔法使いを派遣しておりました。あの者達ではありますまいか? 魔法使いが二名おりますので、市門と城内で連絡をとりあっていたのなら、訪れを察知して動けたでしょう」

「ああ、ポーツァル家が来ていたか。……あの家も不運よの……」


 ……なんだか妙に聞き覚えのある名前だが……そしてそこはかとなく嫌な予感がするのだが。


「未だ快癒の兆しは無いのであろう?」

「はっ。当主は臥せったままでございます。伺候などもっての外、ベッドから身を起こすこともままならぬ程とか。それに、『旅に出た方』も行方知れずと聞いております。……こたびの噂で、かの家の者が何か誤解して問い質しに来るやもしれません」

「うちのバカ息子も踊らされているようだしな……」


 やだ。何かものすごいとばっちり的冤罪の予感。

 ため息をつく宰相と国王には悪いが、何かあったら徹底的に争わせていただくぞ。主に法廷的な意味で!


「えぇと、陛下に宰相閣下。そちらだけで納得してないで、出来ましたら我々にもお教えいただけませんでしょうか? どうも嫌な予感がしますし」


 おや、ロベルト。わざわざ聞くの?


<つーか、お前が突っ込んで聞かないといけない内容だろ? 当事者っぽいんだから>

<むむ>


 そうでした。のんびり構えてる場合じゃなかったよ。

 ……いかんな。人間社会の彼是(アレコレ)だからと、つい鷹揚に構えてしまう癖がついていた。この油断が前世でミスになったというのに、俺はやはり死んでも治らんのか……


 ん? そういえば、こういう時に真っ先に突っ込んでくるディンさんが未だに静かだな。

 ディンさん? もしもし? おはようしてる?……むぅ。返事が無い。ただの単一精神(おれひとり)のようだ……

 ――考えたら、この『ディン』の発生も未だに謎だな。


「ポーツァル家というのは、北の隣国レンテリアと国境を接する伯爵家でな。南西部と違って肥沃な大地を所有しておるゆえ、穀倉地帯でもある。そのため、他国に狙われやすい場所でもあるが」

「ふむ。良い土地を奪い合うのは人の(さが)か」

「反論できぬな。欲深い隣国、あるいは他の貴族に対抗する為、武技に長じる者を厚く遇するので、領地には強者が多く揃っている。当主であったラルスは自身も独力で聖騎士の地位に昇りつめた強者でな。課税や通行税にも心を配る故、領民にも旅人にも評判が良い男だった。まぁ、ちょっと好色なところと酒に弱いところもあって、子孫が増えすぎていたという欠点はあるがな」


 うわぁ……


「まぁ、そういうところも含めて、色々と一筋縄ではいかん男であったよ。年は儂より上だが、未だに元気でな――色々と。……だが去年から体調を崩していてな。……いや、言葉を濁すまでもあるまい。病により床についておるのだ。その病というのも、どうやら強力な呪詛のようでな……。あの地には『魔穴』と呼ばれる魔物が多く出現する地点がある。そのせいではないかとも考えられてな。一時的に領主の座を譲られたユルゲンが、封印の手段を得る為に旅に出たほどだ。余程、状態が悪いのだろう。……おかげで今、あの地は本来の領主も、代理の領主も『領主』としての采配が振るえない状況にある」


 ポーツァル……封印……領主……あ! ロルカンで見た連中か!!

 ……ん? ちょっと待て。確かあの時、メンバー内に妖魔族がいなかったか?

 しかも【捕食】とか色々珍しい能力持ってなかったか?

 ……なんだこの脂汗。やばい。なにか知らないが、俺の知らないところで大事が発生かつ進行中だ。

 ……なんで俺はあの時に危機を感じなかったのか……!!


「な、成程。それで、昨今の疑いとあわせて、我々の仕業ではないかと邪推されている、のか」


 背筋を流れる汗を無視して、俺は平静を装って声を絞り出した。

 おお、ロベルトよ。そこで俺を不審そうに見るのはやめたまへ。悪いことしてないのに俺が色々と怪しいだろ!?


「悪いことがあれば、原因を特定させようと血眼になるのが追い詰められた者の心理だからな。誰かに、何かに原因を求める弱さは、そうそう無くならぬ……。そちらには不愉快であろうが」

「そ、そうだな」


 冤罪は不愉快だとも。しかし、そこに妖魔族が関わってたら『完全に無関係』とも言い切れなくて困るとも。

 なにせ魔族だからな、妖魔族……霧深い渓谷の奥でのんびり霞食って生きてる連中が、悪いことするとは思えないけれど……


「しかし、会ったことも無い当主が病になった時期と、我々がこの大陸で活動を始めた時期の差とかで、無罪なのは分かるのではないか? その病とやらは去年からなのだろう?」

「そうだな。一年と少しになるな」


 それだと俺が生まれた頃ぐらいじゃないか! どうやって我が家と関わるというのだ。


「明らかに、我が家がこの大陸に来ていない時期だな? そんな根拠の無い発想で冤罪を押し付けてきたとして、誰かが我々を罰したり出来るのか?」

「うむ……そこがな、微妙な問題なのだ。己の領地であれば、そういった私刑に近い行いとて無理が通る可能性がある。良くも悪くも、貴族社会とはそういうものだからな。――だが、儂のいる王都でそのような真似は許さん。おぬしに手出しはさせんよ」


 おお。人間の王よ、カッコいいぞ!


「もっとも、何があろうと、おぬしを傷つけられそうな気は全くせんのだがな」

「おっと。心は傷つくぞ」

「ほ」


 王が顔をくしゃりと笑わせた。本気で言ったのだが、何故微笑むのだろうか。


「そうか……心は傷つくか。……そうよの。やってもおらぬことで責められ、罪を背負わされるのは辛いものだ。ましてそれで大勢から責められるのは誰しも堪えよう」

「……経験があるような物言いだな?」


 王様なのに。


「……なに。これでも昔は色々と、な。信じた者に裏切られ、窮地に立ったこともあれば、冤罪を着せられ、政敵に処刑されそうになったこともある。王や王子と言えど、こんなものだ。出来る限り立場を強固にしようとしたが、完全には難しい。牙を剥けば内に籠って毒をもられ、矛を収めれば己が強いと誤解して喧嘩を売られる。……国を治めるなど、面倒なことよ。豪華な生活がしたいだけなら、どこぞ治安の良い領地でのんびりするほうがよほど楽で良かろうな」

「確かにな」


 王の言葉に俺は苦笑した。少々ならず共感できる。

 その国の――一族の――頂点に立つというのは、並大抵のものではないのだ。そして、並大抵の覚悟でなければ、立ってはいけないものだ。


「生き延びるために王となった。政敵が多かったのでな。そして王となった限りは、この国を富ませる義務が私にはある。王となってからも色々とあったものよ。腹が立つことも多かったが、振り返ってみれば、あれも一つの経験……勉強にはなった。己以外の者の立ち位置や思想も、以前より把握しやすくなったからな」

「……そうか」


 俺は過去を思い返している王を見つめる。

 共感があった。同時に称賛も。

 人間の寿命は短い。だがその時の短さを惜しむようにして急速に成長する。数多の事を経験し、数多の事を己の糧にして。


 ――苦難すら己の糧に。


 その姿勢に、学ぶべき点がある。

 長い時を生きるが故に、我々魔族は一定以上成長した後は長く停滞する。種族的に他の者よりもはるかに高い能力を有しているとはいえ、常に高め続けていなければその『一定』で止まってしまうのは道理だ。

 だからこそ、人間の急成長に驚かされることも多い。……そして、その急成長ぶりに対応できないことも。


「王よ。貴殿(・・)は、強いな」


 俺は少し眩しい思いで王を見つめた。

 短い時を生き抜く彼ら人間は、視点を変えればとても眩しく見える。必死に生き、必死に育っていく彼らの姿は好きだ。……ああ、そういえば、昔、彼ら人間を信頼しようと思ったのも、そんな何事にもひたむきで、常に成長しようと頑張っている姿が好ましかったからだったな。

 だから時に手を結び、助けあったのだ。

 ……最終的には、裏切られたが。


「……強い、か。……そうか。そう言ってもらえるのか。ふ……ふふ。何か、面はゆいものよの。明らかな強者にそう言ってもらえるのは、心が躍る」

「明らかな強者、と言われてもな。俺は生まれつき頑丈に出来ているが、例えば同じ時同じ場所同じ民として生まれたとしたら……きっと、その強さはそちらには及ぶまい。強さの限界は、常に己の内側にある。……俺はまだまだ、それが弱い」

「…………」

「貴殿のひたむきに前に進まんとする意思に敬意を表する。俺も見習わせてもらおう」


 そうして初めて、俺は魔族を守れるようになるだろうからな!

 俺の声に、王はくしゃりと笑った。


「ふふふ。ならば、手本となれるよう、出来る限り恰好をつけるとしよう。儂も、まだまだ若い者には負けていられんからな」


 なんとなく微笑み合い、穏やかな空気になったところで、ゴホンと宰相が咳払いをした。


「――さて。では、殿下不在ながら、陛下がこちらにいることの説明をしなくてはなりますまい」

「おお、そうであったな。いかんな。つい色々と話してしまう」


 王がはたと気づいた顔で表情を改める。

 ……ああ、うん。王妃さんの愚痴聞いた時から思ってたけど、俺、どっちかっていうと王様の茶飲み友達的な位置にいるよな。この前会ったばかりなのに。


「さて、さて。レディオンよ。現在、おぬしの所に二つの疑惑が持ち上がっているのは把握しておるか?」

「うちの家が魔族かどうか、と――これは憶測になるが、そちらの正妃の……」


 そこまで言った瞬間、俺の気配察知エリアにものすごい勢いで飛び込んでくる気配があった。思わずそちらを向く。


「……噂をしようとしたら、来たな」

「なんと。正妃がか!?」


 なんか王様が腰を浮かせた。


「あの方は! 蟄居を命じられているというのに!!」


 宰相さんはこめかみに青筋を立てまくった。


「――うちのポムが先頭、ということは、追われてるわけか?」

「え。ポムさん、正妃さんに追いかけられてるのか? なんでだ?」

「さぁ……」


 ロベルトが目を丸くしているが、俺もその理由は不明だよ。

 俺が到着したというのに、迎えに来なかったと思ったら何をやっているのだろうか。しかも呪った相手と追いかけっことか、意味が分からんな。


「そもそも、何故、城の中にポムがいるのだ? 王よ、そちらの誰かが呼び出したのか?」

「いや。――だが、呼び出した当人が追いかけているのだろうよ。そちらの今の立場上、一応は王族であるあの者の呼び出しがあれば、強固に無視することも出来まい」


 あー……覿面に呪いの効果出ちゃったとか言ってたし、呪ったのバレてるっぽいことも言ってたから、張本人呼び出しの刑に処されたんだろうな。自業自得だが、あいつが呪った原因は十中八九俺への態度の悪さに腹が立ったからだろうから、俺が責任をとるべきだな。


「すまないな。うちの者が迷惑をかけたようだ」

「いやいや。元はと言えばうちのが迷惑をかけたのだ。――まぁ、あれをどう捉えるかは人によるだろうから、一概にどうとも言えんしな」

「?」


 王よ。なぜ、ちょっとうれし気に笑っているのだ?

 妻が呪われたにしては、王の言動が不思議だな。今までの意趣返し的に「ざまぁみろ!」とかいう感じなの?


「おや。どうやら、おぬし自身は現状を知らぬようだな。正妃の変化はおぬしの部下のせいであろうが、周囲にはおおむね好意的に受け入れられていてな」


 呪ったのに!?


「まぁ、それは実際に正妃を見ればわかると思うのだが――ああ、廊下を来ているのであれば、こちらの部屋に呼ぶといい。扉を開けよ」


 聞こえだした足音で把握したのか、王が扉前の兵士に声をかける。俺もポムがいる方向に【伝言(メッセージ)】を飛ばした。


<ポム。王が許可しているから、お前、こっちに来い。位置は分かるな?>

<分かりましたー! あと、おかえりなさーい!>


 ……なんか余裕だな、ポム。

 足音はどんどん大きくなる。というか、なんか、足音の迫力が微妙に想像と違うな? あの巨体で、カツカツカツとか甲高い音なのか。もっとドカドカいうかと思ったのだが。

 なお、ポムの足音はしない。……音にすら認識されないのか……あいつは……


「坊ちゃんのお召しにより只今参上いたしました! 改めまして、お帰りなさいませ坊ちゃん! ――そして国王様と宰相さん、お邪魔してます」

「ただいま」

「なんでしれっと素で対応してんだよ、レディオン。……そこはもうちょっと何かあるべきじゃねーのか?」

「儂と宰相、ついでに挨拶されたのぅ」


 ごめんね!


「あ、それと坊ちゃん、正妃さんなんですが――」

「追い詰めたぞ!」


 言うが早いか、ポムから遅れて三十秒程で正妃が部屋に飛び込んできた。

 そう、正妃が――

 ん?


「「んん~?」」


 俺とロベルトが盛大に首を傾げる。

 飛び込んできたのは、勝気そうな目の、なかなかの美女だった。シンクレアほどではないが胸も大きく、腰は細く、手足もすらっとしている。そしてお尻はそこそこ豊かだ。つまり、ふるいつきたくなる魅力的な肢体の美女である。

 ……気配は明らかに、あのオーク新個体もとい正妃なのだが……


「……種族変更でもしたのか?」

「元から人間だろ」


 そうだったな!


「つまり、激痩せした……のか?」

「この短期間でか?」


 俺達はポムを見た。ポムはサッと視線を逸らした。

 おいぃいいい!

 何やった!?

 むしろ何をどうやったらアレがこうなるの!?

 効果覿面とかいうレベルじゃないだろコレ!?


「ポムよ。お前はいったい、何をやったんだ?」

「え。えー……」

「激痩せの呪いとか俺は聞いたこともないぞ」


 というかむしろコレ、痩せたい女性には大人気になりそうじゃないか?


「やはり貴様が原因で確定だな! ひょろ長男よ!」

「「ひょろ長男」」

「妾をよくぞ元の体型に戻してくれたもうた! だが! 褒美に専属にしてやろうというのに逃げるとは何事か!」

「「専属」」


 思わず鸚鵡返ししてしまう俺とロベルトの前で、追い詰められたポムが困り顔。


「えー。私、坊ちゃん以外のお世話する気が全然全くこれっぽっちも無いんです世界が滅んでも」

「「世界」」


 おっと。思わずポムのセリフまで鸚鵡返ししてしまった。

 しかし、世界が滅ぼうと俺の世話だけか。ふふふ。ポムよ。さてはこの俺に惚れたな!?


「……坊ちゃんのその清々しい程可愛らしい思考回路は確かに愛してますよ?」


 愛、いただきました!


「どんな思考回路を把握したのか詳しくは知らねーが、そこはかとなく俺も把握できちまうのがちょっと個人的にむなしい……」

「つまり、ロベルト様もレディオン様を愛しておられるのですね?」

「なんで嬉しそうに聞いて来るのかなシンクレアさん!? 俺に男を愛する趣味はねーよ!?」

「お前の愛は異性限定なの?」

「なんでレディオンが不思議そうな顔してるんだよ!? ……え。お前、男も食うクチか? それとも逆か?」

「逆の意味は分からんが、俺も食うのは女限定だ。というか、友愛も無いのかという意味なのだが」

「愛ってそっちか!」


 ロベルトが顔を覆った。

 ふ。どうやら視野が狭かったようだなロベルトよ!

 愛とは友愛や主従愛も含むとも。だから俺を愛してくれてもいいのよ!

 キリッと表情を引き締めた俺に、面白そうに俺達を眺めていた王が笑い含みに言う。


「……まぁ、こんな状況でな?」

「成程。納得だ」


 新個体オークが美女に変身すれば、確かに呪いとはいえ歓迎されるよな。外見の力は偉大だし。……俺の外見をよくする魔法は、ないのかね? ポムさんや。


「……坊ちゃんは視力を良くする魔法を編み出すべきだと思いますよ」


 俺の視力は足元にいる蟻の触角を見抜くレベルだが、まだ足りないの?





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