46 それぞれの『今』
王都に着く一週間前頃に、ノアが俺達に合流した。
「遅くなって申し訳ありません。ジルベルト殿の書状と、頼まれておりました地図にございます。お納めください」
体力馬鹿の上級魔族がうっすら汗をかいている。余程急いで合流したのだろうと、労いながら書状と地図を受け取った。ジルベルトの書状は二通。俺宛てと、王国宛てだ。
「相変わらず、領主さんの字は綺麗だな」
「教養の一つだからな。第一王子も上手かっただろう?」
領主や王子ともなれば、交渉の為に文書でのやり取りをする。顔の見えないやり取りだからこそ、字の上手さは文章の巧みさと共に武器となるのだ。ついでにいうとロベルトもなかなか上手い。
俺? 一歳児の手で書くとミミズの徒競走だとも。変身後のは、まぁ、普通かな。
「ちなみにうちのポムも上手いぞ」
「……あのヒト、なんであんなに能力だけはバカ高いんだろな……」
「能力以外は非常識だからだろ」
ノアがなんとも言えない顔で話を聞いている。微妙に納得顔なのが笑えるな。
地図は諜報部隊に調べさせていたものだ。地理は戦時の攻防でも重要視される為、精細なものは世に出回っていない。その為、精密な地図は手ずから作成するしかないのだ。津々浦々を巡ってくれた諜報部隊のお手柄だな。
む。なかなか見事な地図だ。俺達が立ち寄った某逃亡貴族の隠れ家まで書かれてるぞ。
「あとで諜報部隊にお礼に行かないといけないな!」
「王国の情報が丸裸だなこりゃ……」
「凄いですわね。あ、こっちにも隠れ家があったようですわよ。寄り損ないましたわね」
「あ、ラクーン族の総数まで書いてる。五十七、って、人間より多くないか?」
「一匹持ち帰れないかな……」
「レディオン様がお気に召したのでしたら、全員捕縛して参りますが」
「「やめたげて!!」」
うちの家人が過激すぎる!
「まぁ、あの連中は後でまた誘惑するとして……ノア、この水路、どう思う?」
俺は建築系エキスパートのノアに当主からもらった地図を見せた。……そういや当主、名前なんだっけ……?
「おや。……ずいぶんと無駄の多い水路ですね」
「無駄が多い、か」
「はい。必要な場所に必要なだけ送れるよう、水路の本数は厳選してしかるべき所を、これはまるで迷路を水路に造り直したかのようです。無駄が多すぎるうえに、回っていない部分も多い」
回っていない、というのは、水路の端が行き止まりになって循環していない、ということだ。水はある種の生き物だ。綺麗に回しておかなければ、死に水になる。
「……新鮮さが大事なはずの水路で、これはおかしいな……」
「飲料水にするのでしたら尚のことでしょう。地下で行き止まりになるのでしたら、その先は消火用貯水場か、噴水や地上の用水路に流す形にするか……。ですが、消火用貯水場も太い循環路の途中に作るのが定石です。……このやり方は実におかしい」
「ちなみに、これを作らされた一家は、作成後に一族郎党皆殺しにあいかけた」
俺の言葉に、ノアは納得したように頷いた。
「成程。でしたら、答えは簡単ですな。これは水路という体裁をとった迷路です。おそらく、高位者の緊急脱出用通路の擬装用でしょう」
「……やはり、その結論に達するか」
ノアの台詞に、俺達は溜息をついた。建築家から見てもそうとしか見えないのなら、確定だろう。
「作成者は随分とストレスを感じていたようですな。なんとかして水路としての役割を全うさせようと、メインとなる水路に工夫を凝らしています」
「明らかに太さが違うものな。……しかしこの隠し通路、回転する壁とか、この厚みで大丈夫だろうか?」
「軽い素材のものを他の壁と同じような色に偽装しているのでしょう。もっとも、強度も大幅に下がるでしょうから、壁を叩けば一発で分かると思いますが」
「微妙に中途半端だな……いや、これ、もしかしてわざとか。パッと見てそれらしく作ってあればごまかせただろうしな」
当主さんの祖先を思いつつ、移動を再開する。王都が近いこの付近は人目を気にする必要があるから、ノアに御者を任せての馬車利用だ。ちなみに普通の馬車である。あの黒歴史馬車はもう使わんよ!
「しっかし、普通じゃないルートだと普通じゃない面々と出会うな」
「国から追われた連中が行きつく先など、似たようなものなのだろうな」
あの当主さんと別れた後も、あちこちに集落見つけたもんな。相変わらずの物資提供でトラブル回避をしておいたが、対価にもらった情報がなかなか美味しかった。
三代前の王妃の性癖とかはどうでもいい情報だったが、大神官の位がとある一家に占有されているとか、王都の古井戸が地下迷宮に繋がっているとか、普通なら手に入らない情報が得られた。多分、地下迷宮って水路のことだと思うけど。
「今度から他国に行った時はまず辺境を巡って隠れ里を訪問しまくるか……」
「魔王とか魔族とか以前に、山賊の元締めみてぇになりそーだな……」
「む」
まぁ、そのあたりは後で考えるとするか。
そんな裏ルート漫遊記をしている俺達だったが、俺達の側以外では事態は色々おかしなことになっていたようだ。
ノアから母様が新たに長距離通信具を増やしたと聞いたこともあって、ひとまず実家と母様とポムに朝の定期報告を提案している。異変をすぐに察知できるように、だ。
これは、定時に向こうが一方的に報告事項を告げてくるものだ。『通話』と違って時間をとらないのが良いのだが、何故か一同、報告してすぐに連絡を切ってしまうので俺達から通信入れる時に非常に困る。しかも連絡しても出ないし……
ちなみに、報告はどういうわけか、必ず『母』『実家』『ポム』の順だった。
報告一日目。
『レディオン。こちらはヴェステン村での作業に着手しはじめています。今までの間に、付近に結界を張る作業を完了しています。……他に報告することって何かありましたか……? ああ、これからの予定ですね。テール様と協力しながら、私の感知魔法で精査を行う予定です。なお、ヴェステン村の住民と家畜は全て我が家に収容しています。これに時間がとられてしまいましたが、おおむねスムーズに行えたと思います。えっと……何もなければ明日にまた報告しますね』
『レディオン様。ベッカー家から次の討伐遠征の話がありましたので、最近増加傾向にある大妖鳥の討伐をお願いしました。鳥肉系はまだ在庫が少なかったのと、羽毛や矢羽根がそろそろ補充時期に入っていましたので。なお、グランシャリオ家の決算で問い合わせたいことがあります。主に人間側の大陸での購入費について』
やだ。一時お財布空にしたこと怒られちゃう。聞かなかったことにしよう……!
『坊ちゃん、宿の食堂がえらい繁盛してますよ。宿そのものは噂のせいでちょっと空室ありますけど、冒険者さん達を中心に利用客はそこそこありますね。なんか度胸試しに使われちゃってますよ! あれですね。お化け屋敷とかそういうノリですね。面白いのでお酒サービスしておきました! あと、競合相手の酒屋さんを三つほど買収しましたのでご報告です。いやぁ、いい酒渡すと話が早くていいですねぇ』
……ポムェ……
報告二日目。
『レディオン。テール様も感知されていた地下の不明領域のおおよその深度がわかりました。昨日一日かけて地下への道を魔法で作りましたので、今日から突入です。連結袋――ああ、連結無限袋、と言ったほうがいいでしょうか。あれにご飯が沢山入っているようなので、楽しみです。ところで、クロエから手紙が来ていたので村に転送してもらったのですが、最近ルカが寂しがって機嫌がすごく悪いみたいですよ。貴方と会えなくなってから泣いて泣いてしてたらしいから、そっちの用事が終わったら、出来るだけ早く会いに行きなさいね』
『レディオン様。王都屋台班から人員補充の要請がありましたので、研修がすんでいる八名を向かわせました。また、各地への物資転送について、業務が増大している為急遽人員を補充することにいたしましたのでご報告申し上げます。主に大陸南側に店を出したためですね。ベッカー家の領地の第一号店です。収支報告を楽しみにお待ちください』
『坊ちゃん、どうしましょう。お酒って人族にすごい効き目ですよ。この前買収して雇った酒屋さんが頑張ってくれてますが、美味しい酒の店ってことで宿屋が評判です。宿なのに。ただ、王都店の方の客足はなかなか伸びてませんねぇ。冒険者組合さんの方のは品切れ多数ですから、本拠地に乗り込むには度胸がいる、ってところでしょうか。お嬢さんがたがソワソワしながら店を見てましたから、噂と欲望とで天秤が動いてるみたいです。下手に何かせず、向こうから動いてくれるのを待ってたほうがよさそうですね。とりあえず、お酒の魔力でちょっと人族を虜にしておきますね!』
ルカーッ!
報告三日目。
『レディオン。目的地までの道に変異種が出ました。一昨日掘ったばかりの道に、です。妖蚯蚓でした。元から地下にいたのか、新たに出現したのか……微妙なラインですが、高濃度の魔素が地下に蟠っている可能性もあると判断しました。一旦装備を整えてから再度突入します。ああ、誰も大事に至ってませんから、心配はしないように。何か異変があれば朝を待たずに連絡します』
『レディオン様。指示をいただきました直轄地への荷物搬送は無事に完了いたしました。クロエ殿より感謝のお手紙を預かりましたので、後で連結無限袋にてご確認ください。あと、人員の補充指示、ありがとうございます。これで大々的に活動が出来ます。なお、南部は野菜系がよく売れるとのことです』
『坊ちゃん。宿屋が完全に飲兵衛集会所になっちゃいました。一般客も興味本位で立ち寄るようになったんですが、席が無いという有様です。酒飲みの人は立ち飲みさせますかね。そうそう、国軍の視察が来ましたよ。なんで軍が来ますかねぇ……第二王子さんが先頭でしたけど。ぶっちゃけ、リベリオさんより年上に見える第二王子さんでした。老け顔なんですね……可哀想に……なんか竜子さんが目をキラキラさせてましたけど、嫌な予感しますねぇ』
ここまでは、まぁ、色々ツッコミどころはあるがおおむね順調だ。
クロエの手紙は俺お手製の小型俺人形へのお礼だった。ルカのお気に召したようで、四六時中抱っこしているらしい。ふふふ。ルカよ、俺が会いに行くまでその人形を可愛がってくれたまえ!
ちなみに小型俺人形だが、頭部がフサフサなのは仕様だ。あれは俺の近未来の姿だとも。見得ではないとも。
俺の大人版を作って送ろうかと思ったが、大人版は額領域が……いや、何でもない。気にするな。今生の俺は前髪に分け目をつけんのだ。
そしてポムよ。お前は俺の店をどうしたいの?
ついでに第二王子は老け顔なのか……最後のコメントに胸騒ぎがするな。
報告四日目。
『レディオン! 道中に妖百足が出ました! 忌々しいですね。殺虫剤で地下を充填してやりましょうか……。それにしても、あの百足は何処から来たのでしょう? 地下への道に進出してきたというよりは、地下への道に高濃度魔素が染み出て変異が始まったとみるべきでしょうね。浄化術を行使しながら進む予定です。ヴェステン村の異変がこんな事態を発生させているのかしら……あの化け物もこの地下から来たものなのでしょうか? 地下に至る道は私達が作ったものしかなかったと思うのですが……地上ももう一度精査させますね』
『レディオン様。無限袋の可能性についてご報告です。荷物量が少なければ、中身の入っている無限袋でも連結無限袋に入れれることを確認しました。何度か試した結果を表にしてレディオン様側の連結無限袋に入れてあります【報告・連結無限袋と無限袋について】と書かれた書類の束をご覧ください。あと、ベッカー家から通信です。「肉、飽きた」だそうです。果物でも送っておきますね』
『坊ちゃん! 変態が来やがりましたよ!! あろうことか我が宿の酒を大量に飲みまくってお土産まで買って帰りやがりました! いいお客でしたよまったく!! ちなみに一緒に来てた二名ほどが挙動不審でしたので、胃に優しい薬を渡しておきました。確かロルカンに来た時にご同行されてた二人だったと思うんですが、何か軍内部で悪い風な噂でも広がってるんですかね? あ、ちなみに第七の歩兵班も王都に到着したみたいです。やっぱり徒歩だと時間がかかるようですね。ロルカン行きの部隊に合流しなかったのも、行軍速度の関係でしょうか。なお、うちの護送部隊はまだ王都に到着してません。時間かけて周辺にご飯ばらまきながら動いてるのかもしれませんねぇ……』
母様の報告が愚痴になってきてる……母様、百足嫌いだもんな……
レイノルドは肉に辟易しだしたか。変異種食材、余ってるんだが……あ、魚とかどうだろう? 次は魚の討伐に行ってもらおう。そうしよう。お肉は、まぁ、各地で捌くかな。
そしてポムよ……おまえはどうしてロモロをそこまで嫌っているの……?
あと、ロモロ、お前はお前で何で我が家の酒を飲みに来たの?
報告五日目。
『レディオン! やりましたよ! 地下に特製の殺虫液を充填しておきました! 蟲系変異種を溶かして肥料にする優れものです!! 土中に成分が浸透すれば、蟲系変異種の発生も抑えられるでしょう。……かわりに、地下に至る道が埋まってしまったので少し足踏み状態ですが』
母様ーッ!!
『レディオン様。ベッカー家による大妖鳥討伐時、大量の卵を発見したと報告を受けましたので、卵素材確保の為全部入手してもらっていたのですが、大量に孵化してしまいました。現在、ベッカー家はヒヨコパニック状態です。刷り込み効果でベッカー家一同に懐いてますので、せっかくですから騎鳥用に調教してもらうことにしました。かわりにしばらくベッカー家による変異種討伐は無理そうです。あと、残りの卵も飛竜空輸でグランシャリオ家に輸送してもらっていた結果、こちらでもヒヨコパニックです』
実家ーッ!!
『坊ちゃん! 王妃さんにかけた呪いがめっちゃ効果出しちゃいました!! いやぁ、普通ならもうちょっとじわじわ効果出てくるはずなんですけど、おかしいですねぇ……節目が丁度私達と出会った頃だったので、妙に疑われてます。というか確信されちゃってます。まぁ、正解なんですけど』
ポムーッ!!
なんなの!? 報告五日目で大崩壊なの!? 何をどうしたらこうなるの!?
全員で示し合わせてやったんじゃないだろうな!?
「おまえン所の人達、相変わらず、退屈しねーな」
「……うるさいよ……」
ロベルトが呆れ顔で言う。それ絶対褒め言葉じゃないだろ。
「というか、母様方面! サリ達はいったい何をしていた!? 魔王と死神と大地の精霊王が揃っててなんで母様の暴走を止めなかったんだ!!」
「……そのことですが、レディオン様。サリ様から連結無限袋を通じて通信が入ってます。『おまえの母親、強すぎるな?』とのことです」
「もう魔王は母様が名乗ればよいよ!!」
思わず顔を覆ってしまった俺に、報告してくれたシンクレアと隣のロベルトが頭と背中を撫でてくれる。辛い。俺の実家が酷すぎる。
「ところで、旦那様がストッパーに入ってませんでしたわね?」
「父様は母様に絶対勝てないからな」
「あぁ……」
妾にまで納得される我が家の階層組織。ちなみに頂点は母様だ。
……この調子だと、魔族全体でのトップになりかねないが。
「あと、ヒヨコパニックって何なんだ?」
「ああ……卵系取得時に稀によくある事態なんだが、卵から雛が孵っててんてこ舞いする、というな……」
「稀なのかよくあるのかどっちなんだ……あとそれ、卵取得した時点で茹でとけよ」
「馬鹿者! 生卵じゃないと卵かけごはんできないだろ!?」
「なんで卵かけごはんだよ!? つーか、米あんのかよ!?」
「あるわ!! 我が領の特産物だぞ!」
「なんだって!?」
ん? 『米』で話が通じるのか?
「ままままてレディオンちょっと詳しく、くわしーく」
「いやお前が落ち着け。人間が変わってぞ。あと近い」
クレア先生からグフフ笑いが聞こえてくるだろ!?
「まったく……お前達人間の主食は麦類から作ったパンだろうが、魔族の伝統食は稲から作った米なんだ。我が魔族内でもパン食に切り替わって久しいが、年寄りを中心に米は未だに人気でな」
馬鹿売れはしないけど、定期的に売れるんだよな、米。
ちなみに米と麦の二毛作である。
「こっちの大陸で米見ないと思ったら……!!」
「なんだ。言ってくれたらいつでも食べさせてやったものを」
「魔族食が米とか想像つかねーよ!!」
なにやらロベルトが頭を抱えている。そして魔族食って何だ。
まぁ、旅先で書物を漁っていたというほど文献好きなロベルトのことだ、米に関する記述のある書物でも読んでいたのだろう。ふふふ。米に興味があるのなら、魔族の国に永住するといいぞ!
今ならシンクレアさんの巣が空いてるぞ!!
「特に我が領は東北部に米どころを抱えていてな。東北部以外では麦と米の二毛作だが、特産地として著名だ」
「お前ん家、米農家か!!」
うむ。
「北の大山脈が水源になっていてな。雪解け水だから、広く浅い長大な水路を蛇行させて日光で温めている。長閑で美しい光景だぞ」
ちなみに山では山葵も育ててます。綺麗な湧き水があるからな。
「もっとも、我が家がある辺りはさほど水に恵まれていないからな。貯水池の水で作れる範囲の作物しか作っていない」
「……前々から思ってたけど、おまえら、日常が魔法頼みでなく自然利用なんだな?」
言われて、俺は首を傾げた。
「わざわざ魔法を使う意味があるまい? どのみち、東北部の土地柄、雪解け水の問題は後々までついてまわるんだ。時期がくれば自然の恩恵を自動的に受けられるよう、整えておくのは当たり前のことだろう」
「ああ、うん……考え方がしっかり農家だな……」
魔族、農業大好きだからな。得意なわけじゃないけど。ぶっちゃけ、むしろ下手だけど。
……基本、力任せだからな……
「明かりを魔道具で補ったり、動力に魔力や魔石を利用したりすることは多いが、最初に手を加えさえすればあとは自然がやってくれるものを、敢えて魔法でやろうとは思わんよ。余分に土地を必要としたり、手間がかかったりと効率は悪いが」
「そういうもんか?」
「そういうものだ。効率を重視すれば、全部一つの箱で終わってしまう。それだと、あの光景は作れない」
やろうと思えば、魔法で何でも作り出せる。
ただ、それだと、なんというか……味気ないのだ。手軽さや便利さは追求すべきだろうが、追求し過ぎると様々なものを狂わしかねない気がする。俺達は寿命が長いから、余計にそのあたりに忌避を感じるのだ。
まぁ、魔族が気の長い一族なのかもしれないが……
「じゃ、じゃあさ、今度おまえの所に行ったらさ、米、食えたりするか?」
「ん?」
心もち身を乗り出した格好でロベルトが問う。なんだろう。ロベルトの目が未だかつてないほど真剣だ。
「欲しいのか?」
「ああ!」
なんと。パン食世界の人間に、米の魅力が分かる者がいるとは!
ならばロベルト捕獲計画を一歩進めよう!
「ロベルトよ。クレア嬢は米とみそ汁と焼き魚による魔族伝統食がとても得意だぞ」
「クレアさん。俺のためにみそ汁を作ってくれませんか」
うわ。速攻で釣れた。
「喜んで!! 毎日でも作らせていただきますわ!」
「マジで!?」
ロベルトが感極まった顔してる。すごいなみそ汁。これもう結婚まで秒読みだろう。
……いや、予想してる味が違ってたら悲惨だから、後で出汁とか味噌の情報を聞き出しておくか。赤と白の戦いは未だに魔族内でも決着がつかないからな。俺は合わせ味噌派だが。
しかし、ひょんなことからロベルト捕獲計画が進んだが、我が一行以外の状況が色々不安だな。早めに合流してさくさく片づけねばならんか。
……一番面倒そうな王都側が一番手なのは、良かったのか悪かったのか……
「到着までに、ポムが余計なことをしてないといいんだけどな……」
『…………』
やだ。今まで寝てたディンさんが妙な気配漂わせてる。なんなの? 超感覚でポムのいらんことでも嗅ぎつけたの?
『…………』
ディンさんは答えない。
ひとしきり嫌な予感を覚えながら、俺達は王都へと到着した。




