37 préparation
◎
王都、王城、王国軍兵舎の一角で、ロモロはその報告を受け取った。
「街に行った?」
「はい。昨日、陛下との二度目の謁見後に城を出たそうです。報告に戻ったら将軍いなかったんで、伝言をお願いしたり部屋にメモを置いたりしてたんですが」
「……」
言いながら表情を険しくさせていくラウラに、ロモロも眼差しを鋭くして押し黙る。
「……どうやら、おバカさんが動いたザマスねェ」
「うちの隊に紛れ込んでた馬鹿はあいつでしたか。まぁ、一人じゃなさそーですけど……どうします?」
昨日伝言を渡した相手の顔を思い出しつつ、ラウラは剣呑な気配を滲ませながら問いかける。ロモロは軽く肩を竦めた。
「まぁ、そっちのおバカさんの足取りは一応調べるザマス。神殿か第三王子の陣営に接触した形跡があれば即戻るように。詳しく調べる必要は無いザマス」
「? 深入りする前にいったん撤退しろ、と?」
「殺されるザマスよ。軽く見る程度で即撤退しなければ、ラウラたんでも危ないザマスねェ。後ろ暗いことをやっているんザマスから、追跡への逆探査は徹底してるとみるべきザマス。なので、ラウラたんは表でそのおバカさんを探すザマス。『将軍への報告を怠ったらしい何某は今何処にいる』とちゃんと大々的に探すザマスよ?」
「あー……隠れてやるんじゃなくて表からっすか。了解」
「人の目や口は何処にでもあるザマスからねェ。こっちが隠れて探す必要は無いザマス」
「嫌味言われるんじゃないですかー? 部下の教育がなってない、って」
「ハッ……探ってる子が謀殺されるのと、嫌味言われるのと、どっちを防ぐべきか。考えるまでも無いザマス。――それで、ラウラたんがそっちのおバカさんに伝言したのは、あの『英雄』ちゃんのことだけザマス?」
「そうですよ。将軍が無駄に気にしてましたから。ああ、将軍のリンゴ、美味しそうに食べてましたよ。ありがとう、って伝言預かってたんでそれも伝えてたんですけど……考えたら、連中、あの伝言持ち帰ってどうするつもりだったんですかね?」
訝し気な顔のラウラに、ロモロは肩を竦める。
「まぁ、いくつか考えられることはあるザマス。――にしても、なァんであの第三王子の陣営が『英雄』ちゃんの動向一つ手に入れる為に、今まで潜めておいた手下をバラすような真似をするザマスかねェ……?」
「もっと他にも手下がいるから、とか?」
「うちに潜り込んでる手下は確かにもっともっといるでしょうケド、そのうちの一人をやめさせる理由がソレって、『英雄』ちゃんの動向をどんだけ重要視してるのか、って話ザマショ?」
「えー。やっぱり『英雄』だからじゃないっすか? 陣営に引き込めたらめっちゃ戦力増じゃないですか。第一王子の陣営にいられたら困る、ってのもあるでしょーし」
なにしろ、正真正銘『英雄』ですから――と胸を張って口にするラウラに、ロモロは呆れたため息をつきながら肩を落とした。
「感覚の鈍い連中ばっかりで嫌になるザマスねェ。……まぁ、『上級』なんてここ百年以上こっちの大陸に出て無いザマスし、危機感が無いのは当然ザマスが」
「もー! まだ疑ってるんですかー!? あれだけ神聖系の食べ物平気な相手になんでそんな失礼なこと考えるんですか! むしろ、将軍が罰せられちゃいますよ! 『神騎士』なのに、神聖系で喜ぶ英雄サマを疑うだなんて!」
脳裏にリンゴウサギで喜んでいた少年を思い出し、ラウラは不当に疑われている相手への同情を込めて抗議した。
外見の美しさもそうだが、若い――むしろ若すぎる――英雄は、性格的な意味でも非常に可愛らしかった。リンゴのウサギであれだけ喜ぶのだから、相当だ。
「じゃあ、ラウラたんに聞くザマス。その『神聖系』の力を宿したり付与された食べ物を、あれだけ口にしてラウラたんは平気で動けるザマス?」
「へ? そんなの……。……あれ? あれれ?」
「『聖水と神聖果実』だけでも相当ザマス。昨日のリンゴの時に使った魔法は高位魔法ザマスね。――で、どうザマス?」
「……」
思わず押し黙ったラウラに、ロモロは駄目押しをする。
「無理、ザマスね?」
「……無理です」
神聖果実や神聖魔法付与食物は、摂取すればプラスとマイナスの効果が体に宿る。
プラスの効果は重度の呪いや毒を消す作用。また、一定期間の呪いや毒に対する抵抗力増加。
マイナスの効果は、呪いや毒に対する抵抗力増加期間と同じ期間分の、攻撃力と瞬発力の大幅な能力低下。
プラスの効果だけでないのは、人間の体がそういった強い効力をもつ食物を受け止めきれないからだ。
「強い力を持つ食べ物を摂取して平気なのは、ある一定以上の身体を持つ者だけザマス。つまり、ワタシのような」
「……」
つーん、とお高くとまったポーズをとるロモロに、ラウラは胡乱な目を向けるも反論はしない。
ロモロの言う通り、ある種人間の突然変異的な力を持つ者だけは、強い効力をもつ食べ物で大きなペナルティを受けないのだ。多少のマイナス効果は出ても、おそらく普通の者の十分の一以下だろう。
「……英雄なんだから、つまり、そーゆーコトなんじゃないんですか?」
「相手が人間であれば、そうザマス」
ややムキになって言うラウラをじっと見つめて、ロモロは何かを諦める顔になってため息をついた。
「……はァ……ラウラたんには言っておいた方がいいザマスね。隠しておくと逆に自爆しそうザマスから」
「む! どういう意味ですか! ……? 将軍?」
抗議したラウラは、次の瞬間にキョトンとなった。
ロモロが周囲を見渡しながら、素早くいくつもの隠蔽魔法を使ったからだ。
「――さァて。これでどれだけ防げるか分からないザマスが、ひとまず喋れる程度には防御したザマス。……ここまでする以上、これから喋ることは他言無用ザマス」
真っ向から見据えての言葉に、ラウラは戸惑いながら頷く。
「前から言ってたザマスが、あの『英雄』ちゃんは魔族ザマス」
きっぱりと言い切る声の強さに、ラウラは瞬発的に出かかった「またそんな」という言葉を飲み込んだ。
否。飲み込まざるをえなかった。
「コレは確定ザマス。それも、神聖系で一切のマイナス効果を受けないレベルの高位生命体――『上級魔族』ザマス。おそらく、過去この大陸に現れた上級魔族の中でも頭一つ以上上の存在ザマスね。……もちろん、そんな『英雄』ちゃんが率いている以上、あの商会そのものも構成員はほぼ全て魔族に違いないザマス」
「そんな……」
「その証拠に、ここ半月ばかり、かなりの数の魔族がこの大陸のあちこちで見られているザマス。何を探っているのかは不明ザマスが、いくらなんでも時期的に見てもそれらが『英雄』ちゃんと無関係とは言えないザマス」
「ちょちょちょ……待ってくださいよ! かなりの数の魔族って……一体だけでも街が滅ぶレベルなのに!」
ラウラは血の気が下がるのを感じた。魔族というのは、それほどの存在なのだ。
曰く、世界を滅亡へと向かわせる災いの象徴。
悪徳と暴虐を好み、秩序を忌む破壊の権化。
その魔力は賢者をも上回り、その物理攻撃力は聖騎士の【絶対防御】すらも貫く。
そんな超弩級の化け物なのだ。
それが――かなりの数。
「だから、下手につつけないんザマス。――まぁ、もっとも、何かを探っているだけで、まだ被害は出て無いんザマスが」
「でも! 魔族なんですよね!?」
「……ラウラたーん? そもそも、ワタシは『英雄』ちゃんもそうだと言ってるんザマスよー?」
「う゛っ……! いやだって、英雄サマは魔物の大災害から街を救ってくれたし!」
「……はァ……これだから小市民は嫌なんザマス……」
盛大にため息をついて、ロモロはそちらへの言葉を切り上げた。言っても意味が無いと分かっているからだ。
「とにかく、国中にいるワタシの斥候や神殿からの情報、それに実際に会ったあの連中の力、それら全部があの連中が『魔族』であることを示しているザマス。今はまだ大人しいザマスし、何を目的にしているのか不明ザマスが、それだけは確定ザマス。……言っておくザマスが、最初に言ったように他言無用ザマスよ?」
「ええ!? で、でも、あの街に移住しようっていう部下もいるのに、放置できないじゃないですか! それに、陛下や殿下達にも伝えないと!――あ、もう伝えてるんですね!」
「はァ? 伝えるはず無いザマス」
「はぁあああ!?」
ラウラは絶叫した。正直――実のところいつも思っているが――将軍は馬鹿なんじゃないかと本気で思った。
「魔族ですよ!? 魔族があちこちに現れてたっていうのも黙ってるんですか!? というか、神殿の情報も入ってるっていうのなら、神殿もグル!? なに隠蔽してるんですか!」
「今言っても意味が無いからザマス。再三言ってるザマスが、それらの魔族連中と『英雄』ちゃんが繋がっていると思われる以上、第一王子や陛下に言っても無駄ザマスし、民衆に言っても同じザマスよ」
「なんで!?」
「さっきまでの自分の言動を思い出すザマス」
言われて口を閉ざした。
正直、あの『英雄』と魔族との間については、未だにしっかりと結びつけれない。
「で、でも、それならせめて、移住しようとしてる部下を止めるぐらいは……」
「どうやって理由をつけるザマス? 言っておくザマスが、魔族云々は言っちゃ駄目ザマスよ?」
「だからなんで言っちゃダメなんですかー! それ以外に止める理由なんて無いのに!」
「証拠が無いからザマス」
言い切り、ロモロはむしろ胸を張った。
「国のあちこちで魔族の姿を見たというのは、神殿のやワタシの隠密部隊が国中から集めてきた情報ザマス。鳩便が届いている区域だけザマスけど。高位の冒険者の噂や、高位神官が一瞬見かけたという類の話ザマスが、一気に目撃談が出たからこそ異変としてワタシの所に情報が集まって来たザマス。逆に言えば、そういう目撃談が出ている、というだけで、それが何の理由でどういう関連で、というのはまだ誰にも分っていないザマスし、説明も出来ないザマス」
「――って、それじゃ、結局将軍の妄想みたいなもんじゃないですか!」
「黙らっしゃイ! 証拠が無いというだけで、ほぼ確定ザマス!」
「なんで!?」
「ワタクシの、勘!!」
むしろ堂々とポーズを決めて言い切ったロモロに、ラウラは頭を抱えた。駄目だコレは。そしてロモロの勘の的中率からするに、ラウラもそれを無視できない。
「ヤだー……あんなに可愛くて行いも立派なのに魔族とかヤダー! 今回ばかりは外れててください!!」
「可愛くても綺麗でも魔族なのはどうしようも無いザマス! そもそも、人類の危機かもしれないんザマスよ?」
「だって街一つ救われてるんですよ!? ……でも、他にも魔族が沢山……もしかして、あの街にも沢山? と、ところで、かなりの数の魔族って、ど、どれぐらいの数?」
「……聞かない方がいいザマス。あと、イロイロ混乱してるようザマスけど、結局、ラウラたんは『英雄』ちゃんとその街についてはどう思ってるんザマス?」
「え、えぇと……」
言われて、ラウラは反射的に出かかった言葉を飲み込んで考えた。
魔族は怖い。だから近づきたくない。
ロモロが「魔族があちこちにいる」というのなら、ロモロの性格から考えてもそれは事実。だから、そこにも近づきたくないし警戒する。
それらがレディオン・グランシャリオの関連であるというのなら……――
「……街を、救ってもらったっていう事実は……消えないし……」
小さくぼそぼそと呟いて、ふとラウラは首を傾げた。
魔族は、その高い能力だけでなく知能も示唆されている。
もしも――もしもだが、あの街を救ったことにも何か目的があるのなら……?
例えば、あそこに魔族的に大事な宝物があって、それを守ったのが結果的に街を救ったことになった、とか。
あるいは、人間の国を征服する前段階として街を一つ掌握し、次にこの国の王都に手を伸ばしてきたとすれば……
「お、大事じゃないですか! この国、魔族に占拠されちゃう!?」
「はァ?」
港街の掌握はすでに完了済みだろう。領主の言動から見ても完璧だ。
そうなると、これはもう最悪の状況だ。なにしろ、街の救世主として魔族が王都に呼ばれ、しかも王への謁見すら済んでいるのだ。第一王子の信頼と恩義も勝ち得ているし、王都の住民にも良い意味で受け入れられている。
なんということだろうか! ここまで計算して動いていたなら――早く手を打たないとこの国は魔族に支配されてしまう!
「将軍! 早く! 早く軍を……いや、神殿を動かさないと!!」
「……なーンでそーンな発想になったのか、ある意味わかりやすいザマスが、ワタシが尋ねてるのは『英雄』ちゃんのことと、あの街のコトなんザマス。先にそっちをよォく考えるザマス」
「そんなこと言ってる場合じゃないじゃないですか! あイタ!」
「まったく……これだから脳筋の小市民は嫌なんザマス。ワタシの副官ともあろう者がそこらの木っ端と同じ狭い視野と思考回路をするんじゃ無いザマス」
チョップをくらった頭を抱えて蹲ったラウラに、ロモロは冷たい視線を注ぎながら言う。
「落ち着いて聞くザマスよ? あの『英雄』ちゃんが街を救ったのは事実。これはどうしようもないほどに事実。『死の黒波』なんていう、普通に魔族ですら死にかけそうな大災害にも立ち向かっていったのも、面倒なことに、どんな理由があれ事実なんザマス。そしてその結果として、あの街や第一王子、第六王子が滅んだり死んだりしないですんだのも」
「……ぇ、ぇぅ……」
「ついでに、ロルカンの領主については、『死の黒波』が発生するより前からあの『英雄』ちゃんに心酔してたらしいことが分かっているんザマス。もともと死にかけだった自分と街に、多額の寄付やらなにやらして救ってもらってたみたいザマスし、そのあたりで感情を動かされたのだとすれば納得ザマス。弱ってる時に差し伸べられた手というのがどういうものか、ラウラたんだって分かるザマスね?」
「……」
ラウラは不承不承だが頷いた。
確かに、その気持ちは分かる。
「ロルカンの冒険者組合にしても、超弩級の能力を持つ冒険者の誕生と、周辺の強力な魔物、あるいは大規模な魔物の群れを討伐してもらったことでかなりの恩義を感じていたようザマス。その前からの取引で、相当良い思いもさせてもらっていたようザマスから、損頭勘定の面でも『英雄』ちゃん達に好意的ザマスね」
「……」
「無論、相手が魔族だと知らないからこそとも言えるザマスが、それだけじゃないザマス。『英雄』ちゃんのメンバーには、伝説の英雄である『テール』殿が加わっているザマス。それ故の信頼もあるザマショ。そんなこんなで、こちらも『死の黒波』以前から、相当あの連中に心酔してたはずザマス」
「……『死の黒波』以前、から……」
「そうザマス。あの巨大かつ美しい街並み、あれも『死の黒波』以前に作られたものザマス。爆発的に増えた雇用もそうザマスし、街そのものの様子にも街の住人や訪れる者達にとっては素晴らしいものだったザマスね? ラウラたんが移住を真剣に考えるぐらいに」
「……はい」
「それらは全部、『死の黒波』発生以前ザマス。――で、再度、問うザマス。あの『英雄』ちゃんとあの街、ラウラたんはどう思っているんザマス?」
「……」
ラウラは困惑しつつ、押し黙った。
魔族は敵だ。人類そのものの敵といっていい。教会や神殿の教えでもそうなっている。
そもそも、ロモロだって魔族を神敵として排除しようとしているのだ。その姿勢は一切変わっていないはずだ。
なのに、なぜ、わざわざ彼らを――新しい若き『英雄』のそれまでの行いを再度考えさせるような示唆をするのだろうか?
「……街が救われた事実は、感謝するべきかと」
「そうザマスね」
「それ以前から、街の為になるような動きをしてくれたことも、良いことかと」
「そうザマス」
「でも、それがどんな目的の為か、分からないから……」
ラウラの声に、ロモロは深く頷いた。
「見失ってはいけないのは、そこザマス。魔族は敵ザマス。けど、敵だから即排除じゃ駄目ザマス。そもそも、排除に動いたとしても、叩き潰されるだけなのは目に見えているザマス。そして、相手は表向き全く人間に敵対していないザマス。……その意味が、分かるザマスか?」
「えぇと……つまり……良いヒト?――あイタ!」
「一足飛びになんでも答えを出そうとするんじゃないザマス」
再度チョップをくらって、ラウラは涙目でロモロを見上げた。
ロモロは呆れを全面に出してそんなラウラを見下ろす。
「いいザマスか? これからの行動で、大事かつ必要なことは、連中の目的を探ることザマス。いきなり警戒して排除しようとするんじゃ無いザマス。警戒しつつ探る。証拠を手に入れてから陛下や猊下に報告して対抗する。――なんでもかんでも、思ったからといって反射的に排除に動くんじゃないザマス。情報を拡散させないのもそのためザマス。視野の狭い考えなしが突撃したら単に混乱が生じるだけザマス」
「ぅぅ……」
「そもそも、今までの自分の言動を考えるザマス。ワタシが『英雄』ちゃんを疑っていたことに対して、あんたは何を言っていたザマスか?」
「ぐ……っ」
「あれが、普通の人間の言動だと考えた時、事実を事実として公表したところで意味が無いことぐらい分かるザマスね?――さァ、分かったなら、やるべきこと、自分の考えを述べるザマス。あんたが副官じゃなかったら、ワタシも喋らなかったんザマスから、そこも考えて考えて考え抜いて答えるザマスよ?」
ラウラは頭を抱えた。
ラウラは自分が頭の良い人間だとは思っていない。直観的で、感情的で、知識だって乏しいと自覚している。
魔族がいるなら、大事になる前に上の人間に報告して対応してもらいたい、というのが本音だ。
もっと本音で言うなら、自分は関わりたくないから関わらない位置のままでいられるよう、上の人達でなんとかしてほしい。巻き込まれたくない。
だが、ロモロの言動を見るに、がっつり関わらないといけないらしい。
それも、上の者達に秘密で。
なら、どうすれば良いか。
下手に動けば、命は無い。
動かなくても、国の大事に何もしなかったのか、ということになってこちらもこちらで大変だ。軍や国から追放されるかもしれない。それ以前に物理的に首が無くなるかもしれない。
何かしなくてはいけない。
……でもあんまり関わりたくない。
「……あの商会を、見張ります」
「……それで?」
必死に妥協点を考えて絞り出した声に、ロモロが淡々と問う。
ラウラは泣きそうになりながら考えた。
「それで……その、他にも、あの街のことや……あの領地に何があるかとか、調べます」
「……まぁ、及第点ザマス」
しぶしぶでもそう言われて、ラウラはホッとした。だが、甘かった。
そのラウラにロモロはニヤァと笑って言う。
「じャあ、ラウラたんは今日からまずおバカさんの行方を探りつつ王都で商会の情報を集め、ひとしきりおバカさんを探していることが周りに広まったら部下に任務を引き継がせて、そのままロルカンに向かうザマス」
「ふぇええ!?」
「向こうでアヴァンツァーレ家のことを家系から土地から詳しィく調べるザマスよ? あの土地が大好きな者達も率先して部隊に入れておくザマスから、頑張るザマスよ? ああ、そうそう、王都帰還の時期を早める為に部隊を分けておいた工作兵と歩兵の大部分、まだ王都について無いザマスから、すれ違ったら道中に仕入れた情報が無いか確認しておくザマス。そうそう、モチロン! あの商会のことについても詳しく調べるザマス!」
「えええええ!?」
ラウラは絶叫した。先までの会話の流れ的に、死地に行ってこいと言われたも同然だ。
「ヤですよ! 魔族の本拠地みたいなモンでしょあっちって!」
「王都にも拠点出来てるっぽいザマスよ?」
「それでもイヤですよ!! 住民感情から何から考えても完全に敵地状態じゃないですかー!」
「ラウラたんはもともとあの街に移住したかったんザマショ? そういうのを考えるぐらいには惚れてた街なんザマスから、色々やりようはあるザマショ? しっかり頑張るザマス!」
「そんなァ……! だいたい、将軍はどうするんですか! 私は副官なんですよー!?」
「ワタシはこっちで連中の動向を探ったり情報を集めたりするザマス。神殿の動きや第三王子の動きも気になるザマスし、『正妃』や陛下の動きも気になるザマスから」
「……わ、私が死地に飛び込むっていうのに、将軍は王都の安全な場所で情報収集だけとか……!」
「むしろ、次に大きな動きがあるとしたら、乗り込んできたばかりのここ、王都ザマス。代わるザマス?」
「いえ!! 行ってきマス!」
即座に敬礼して飛び出すラウラに、結界を解きながらロモロは呆れ顔で見送る。
「……あのイノシシぶりで、無事に役目を果たせるザマスかねェ……?」
これから部隊を編成してロルカンに向かうとして、準備期間を含めるとロルカンに到着するのは早くても一月後だろう。ちょっと小細工すれば、もう少し時間を稼げるかもしれない。
対して、神敵である『連中』の動きは迅速だ。おそらく、なんらかの方法でロルカンや本土ともやり取りが行えるとみていい。長距離の連絡が出来る魔道具があるらしいという情報も入っているし、ラウラが街につく頃にはこちらでは騒動が起こっている可能性が高いだろう。――もし、彼らに騒動を起こす理由があるのなら、だが。
(あの『英雄』ちゃん達は、とにかく動きが早いザマス。ロルカンへの進出から掌握までに一年もかかっていないザマスし、こちらの印象に残りやすい大規模な魔物の討伐とか、手を打つのが早いうえに効果的ザマスね。教会がこれからどう対抗するのか、まだ不明なのがもどかしいザマスが……)
ロモロは冷静に考える。
現時点で、レディオン・グランシャリオに真っ向から敵対するのは悪手。彼らの正体を証拠がないままに言及するのも悪手だろう。
だが、同時に今のこの国だからこそとれる手もある。
(……第三王子の行動が、肝ザマスね)
ラウラの報告を奪っていった、という事実。
自分と同じく神殿に身を置きながら、第三王子を擁して王位継承争いに首をつっこんでいる連中の顔を思い出して冷ややかに嗤う。
(せいぜい、利用させてもらうザマス。この国の膿を出す為なら、なんでも利用するザマスし、逆も然り。魔族を合法的に排除する為なら、犠牲は厭わないザマス)




