33 オーク討伐
オーク狩りは、王都から馬で二十日の場所で行った。
北の国境付近で、巣窟そのものはカルロッタ側にある。集落というより城砦に近い建造物があり、聞けばオークキングらしき個体も生まれているとか。
まさにうってつけの地だ。
「相当な規模だな」
ロベルトが眼下の城砦を見ながら呟く。
岩山どうしが隣接しあう境目。その切り立った崖のような場所で、俺達はオークの集落を見ていた。
うごめくオークが蟻のようだ。その膨大な数も、ここから見る景観も、蟻の巣を覗き込んでいるのに似ている。視界の端から端まで全てオークの集落だと言えば、その規模を把握してもらえるだろう。
いつになくヤる気満々のポムが、鞭の張りを指で確認しながら冷ややかに眼下を眺めている。
「山の中腹に王宮。個体、オークキング確認。付近にジェネラル、ビショップ、アーチャー、ナイト確認。キングを中心に半径七キロ範囲内の上位種総数三十三。手前、山裾にジェネラルを頂点として千の軍勢が点在。群れ総数、約六千」
……探査してやがった……相変わらず、やたらと有能だな、ポムよ。
「規模が大きいのでもしやと思っていたが、やはりオークキングも生まれておったか。これは倒しがいがあるのぅ」
「『風の』がいたら精査できたんだけどねー……王宮ってあのあたりかー……。損傷部は極小にしなきゃいけないのが面倒だけど、まぁ、脳味噌ぶちまけさせるのはオッケーって話だから、やることは一緒かしらね!」
「……」
精霊王達が相も変らぬやり取りをしている。
そして、フラムよ……ただ、ただ、不憫。
「最早『本拠地』って感じだよな。流石に、ギルドで特別討伐依頼が出てるだけのことはある。ところで、どういう布陣で――」
真面目に戦略を考えているロベルトが俺達を振り返った。
だが、残念ながら俺達の頭の中は別のことでいっぱいだ。
……じゅるり……
「これは堪らんな」
俺の目には養豚場に見える。
「なかなか肉質も良さそうだな」
魔王の目にも養豚場に見えるようだ。
「一頭ぐらいなら丸焼きにして、今日の昼食でもよろしいのでは?」
死神はすでに焼肉の口らしい。
ロベルトが口をあんぐりしているが、気にすまい。
そしてオズワルドよ、丸焼きはイカンよ!
「残念だが、丸焼きの前に手続きが必要だ。我がパーティーメンバーよ! 聞いてくれ!」
俺はバッと手を挙げると雄々しく声を張り上げた。
この場に集っているのは、俺達のパーティー『アステリズム』のメンバー七名だ。何気に人間の大陸に居てはいけない人が居るが、気にするな。
「この殲滅戦で最も大切なのは、素材の品質だ!」
「……おいレディオン……」
「そして確実に確保しなくてはいけない部位がいくつかある! まずギルドの討伐部位に『耳』! スープ用素材に『骨』! 錬金素材に『肝臓』と『心臓』と『眼球』! 秘薬と特殊薬用に『睾丸』! 魔道具用素材に『胃袋』! そして『皮』と『肉』! これらは確保必須だ! 肉を焼く場合は皮を取り外してから焼いてくれ!!」
「ストレス発散にオーク殴りに来たんじゃなかったっけか!?」
コクリ、と全員がキリッ顔で頷く中、ロベルトだけが頭を抱えている。
「この俺がいる限り、金目のものは全て確保するに決まっているだろう!」
「こんなせせこましく物欲にまみれた魔王、嫌だ!!」
なんかロベルトが絶叫している。
失礼な。そして俺はまだ魔王じゃない。
ロベルトの言葉に何を思ったのか、現魔王が厳しい表情で口を開いた。
「レディオン、オークが貯めこんでいる財宝も忘れるな」
「物欲にまみれた魔王共ェ……!!」
ロベルトは俺達『魔王』に何を望んでいるんだろうか……
「まぁまぁ、ロベルト様。いいではありませんか。ストレスも発散できて、素材もおいしく、お肉も美味しい。最高の狩りですわ。……精力、つけてくださいましね? じゅるり……」
「最後! 最後なんでよだれ出たの!?」
シンクレアにもっちりと張り付かれ、ロベルトの顔が赤かったり青かったりで忙しい。
うむ。ロベルトはシンクレアに任せておけば大丈夫だな。ロベルトのストレス発散になるかどうか微妙になってきたけど。
ちなみにオークの睾丸は精力剤に。オークジェネラルのだと子宝率アップの秘薬になる。我らがクレアさんの目的が分かりやすすぎて清々しい。
「つーか、おかしくね? なんかおかしくね? なんで魔王が二人も揃ってこの大陸にいるよ!? んでもってオーク狩りしてるんだよ!!」
ああうん。俺もちょっとツッコミたかったから、そこだけは気持ち分かるよ。
でも仕方ないじゃないか。俺が王都に支部つくって転移門設置したら、何故か即座に魔王がやって来たんだから。
……うちの大陸……大丈夫かな……
そしてサリも来るなら来るで予約入れようよ。俺はいいけど、勇者が困るから。
ついでに何しに来たのか、いまだに不明なんだけど。何か緊急の用事とか無いの……?
「たまには遠出も気晴らしになる」
気晴らしか!!
「人間の国の建造物を見て回るのも楽しそうだ」
観光か!!
なんだろうな。俺が必死に滅亡回避を模索してるのに、現魔王が人間社会観光とか……
「後で渡したいものもあるし、二、三話もある。コレが終わったら時間をとってくれ」
「……分かった」
俺の頷きに、サリは薄く笑って武器を具現化させる。打刀と呼ばれる武器だ。
人間達にはあまり知られてない武器系統のはずだが、ロベルトは「刀!?」と目を丸くしていた。あいつは何気に物知りだな。どこで得た知識だろうか。
「レ・ディ・オ・ン・様」
「? シンクレア」
「うふふ」
首を傾げていると、ロベルトに張り付いていたはずのシンクレアが俺を後ろから抱きしめてきた。おお、母様以上の弾力が俺の真後ろ――というか、頭の上――に。
「サリ様は、レディオン様を手伝いに来てくださっているのですわ」
「……」
「本当は、エマ様やアロガン様もこちらに来たかったのです。けれど、あのお二人がこちらに来るのは、レディオン様にとっては心配なことなのでしょう?」
言われて、俺は静かにシンクレアを見上げた。
……やばい……
頭上に置かれた胸のせいで顔が見えない。
「ベッカー家の方や、お家の方々も、本当ならこちらの大陸に来てレディオン様の手足になって働きたいのです。けれど、それはしてはならないと言われてますから」
ソレは、確かに俺が出した命令だった。
俺の目標は、魔族の滅亡回避だ。
そのためには、俺達の住む大陸だけでなく、他種族が多く住む大陸での工作が必要となってくる。だが、かといって俺達の住む大陸を放置して良いことにはならない。だからこそ、実家やベッカー家にはセラド大陸を任せてある。俺がいない代わりに、俺がいなくても行えることをしてもらう為に。
「皆に頼んでいる事も、大事な事なんだがな」
「そうですわね。けれど、明らかにこちらの大陸の人員が足りていないと、そう思いますわよ?」
それは正しい。
お試し的な意味合いが強かった時と違い、今は貿易も本格始動している。ポムと、ノアを含む部下五名だけで回せるような状況ではなくなっているのだ。
しかも、最近起きた事件は国の存亡に関わりかねないもの。増え続ける取引を抱えつつ、騒動に関わるいざこざを防ぐのは至難の業だ。
「……だから、父様は余分に人員を送り込んでいるのか」
早期解決を目指し、情報収集の為に百名ほど父様に人員を要請したが、おそらくそれ以上の数が送り込まれているはずだ。なにしろ入ってくる情報が桁違いに多い。いくら魔族が優秀だからといっても、ちょっと説明がつかない。
「アロガン様を責めないでやってくださいませ。誰もが、こちらの大陸にいるレディオン様を心配しているのです」
「……だが、これ以上の人員を実家が手放すのは看過できない」
こちらも人員が足りない。だが、かといって実家が人員を手放しすぎて弱体すれば本末転倒だ。神族はいつどこで牙をむいて来るか分からないのだから。
「……レディオン様は、アロガン様達やご実家の実力を低く見積もっておいでなのですか?」
「いや。父様達の強さは知っている。……だが、万全を期したいのだ。今は、何が起きても大丈夫だと胸を張れるような確証が何もない」
足りないものが多すぎるのだ。例え赤ん坊時代からやり直しをしていようとも。時が足らず、手が足りず、情報が足りなさすぎて。
田を耕しても土が出来上がるのに時間がかかり、苗を植えても安定した生産が出来るまで時間がかかるように。
あるいは、人に物を教えたとして、それが人々の中に知識として広く浸透するのに時間がかかるように。
時間は有限だ。
手を伸ばさなくてはと思う範囲は広く、数は多く、けれど俺という存在は一人しかいない。
では、多くのことを成すために、どうすればいいか――
「レディオン様は、あまり私達を頼ってはくださいません……」
シンクレアの声に、俺は押し黙った。
手が足りないのならば、他人を使えばいい。そんなことは俺にも分かっている。俺の目指している目標と理由を伝えれば、先に挙げられたメンバーならばついてきてくれるだろう。そして、俺では気づけない様々な提案をしてくれるだろう。
けれど、それは出来ない。
……怖いのだ。
「……何か理由があるのだと、お察し申し上げます。私達には語ってくだされない『何か』もあるのだろう、と」
ふと温もりが動いて、それでやっとシンクレアの顔が見えた。
姉のような眼差しで、シンクレアは仰向いている俺の前髪を梳く。
「……けれど、どうか、その行かんとする道程が険しいのであれば――少しだけ、思い出してください。あなたの傍には私達がいるのだということを」
オーク狩りは高速で行われた。
なにしろうちのメンバーが七名も参加しているのだ。どんな個体でも瞬殺だ。
ちなみに、オークキングがいるという『王宮』への到達時間は、作戦開始から二十三分である。
うん。……ごめんね?
しかし、俺は忘れていた。
オーク狩りには、ある試練が発生するのだということを。
ジュンッ!
小気味のいい音をたてて、逃げようとしたオークの足がフラムの攻撃で切り飛ばされた。戦う気皆無なフラムは、逃亡防止の時ぐらいしか敵を攻撃しない。だが、その攻撃はオーク達よりもむしろ俺達に効いた。
んぁあああああ!
「ちくしょう! 香ばしい……!!」
「いい匂いですわねぇ」
「これは堪りませんな……」
「地味に訴えかけてくるな……胃袋に」
「坊ちゃん! どうしましょう! お腹空きました!!」
俺もだよ!!
ロベルト&魔族組の悲鳴に、フラムは感情のない一瞥を向けるばかり。
辛い。いい匂い。お腹空いた!
フラムは炎の精霊王なんだから、攻撃手段が炎系になるのは当然だ。分かっていたとも。でもちょっと香ばしすぎるとも。
「ちょ、ちょっとそこの足齧っちゃダメか?」
「駄目ですよ、ロベルトさん! オーク肉はしっかり焼かないと、寄生虫いるかもしれないんですから!」
「魔物相手にとりつくとか、どんだけ根性入った寄生虫だよ!」
ロベルトとポムがあほな会話してる。
いや、実際にいるんだよ、寄生虫。正式に言うと、寄生虫型変異種が。
「蠅だって変異種になるんですから、寄生虫だって変異種になりますよ」
「怖ッ! 想像したくねェ! ……あと、ヴァリアント、って、魔物のことでいいんだよな?」
「ええ。人間社会が勝手に魔族の手下扱いしてる『高濃度魔素で変異しちゃっただけの動植物』が、私達の言うところの『変異種』、あなた方の言うところの『魔物』です」
「……それ聞くと、ホントつくづく『聖典』が聖職者の作った作り物だって分かるよな……」
「なにをどうやったら魔物が魔族の手下だとか思えるのか、人間社会が謎すぎて気持ち悪いですよねぇ」
現魔族社会一番の謎生命体に言われるなんて、人間社会もさぞ不本意なことだろう。
ふむ。この様子なら、ポムの怖い状態も収まったっぽいな。
周囲をざっくり観察し、俺は最奥からドシドシ駆けつけてきている巨体に視線を投じる。
他よりも二回り以上大きな巨体だ。
『オークキング LV83 種族:オーク
性別:男
HP 2583/2583
MP 1120/1120
STR 843
DEX 126
CRI 175
VIT 791
DEF 893
AGI 257
INT 638
MND 474
CHR 375
LUK 111
固有才能:【堅牢】【鉄壁】【捕食】【以心伝心】【強化咆哮】
固有能力:【凶化】【無敵(物理)(長)】【鼓舞(広)】【盾の心】』
む。セラド大陸の連中と比べて能力値は弱いが、固有才能を五つも持ってるな。固有能力ならともかく、固有才能をいくつも持っているのはかなり珍しいんだが……
「あ、坊ちゃん。あのオークキング、面白い能力持ってるので殺して奪ってきてください!」
「……お前ね……」
早速無茶ぶりしてくるポムの声に、何を察したのかサリ達が周囲のジェネラル討伐に散開する。ちょ、待て、俺、能力奪わないといけないの? というか、ポムが言ってるのは“神喰らい”とかいうやつだよな!? また前みたいに意識落ちたりしないの!? そもそも、どうやって『奪う』を発動させるの!?
「はい、坊ちゃん、ファイトッ!」
気軽く言うな!!
「獲れなくても文句言うなよ……!」
内心焦りながら、俺はオークキングの首を切り飛ばした。
●
本日の成果。
オークキング一体。
オークジェネラル十三体。
オークビショップ六体。
オークアーチャー六体。
オークナイト八体。
オーク六千百八十一体と二分の一(上半身は只今皆で捕食中)。
オークの財宝として宝石類と貨幣。襲撃者の物らしい武器防具。鉱石関係。酒、薬草関係。
そして固有才能――【強化咆哮】(ポム鑑定)。
……奪えるんだな……
「うーん……【以心伝心】を取得してほしかったんですけどねー……」
「どうやってだよ!? というか、どうやって奪ってるのかもさっぱり分からないんだが、選べるの!?」
「いえ、たぶん運任せだと思います。『神の位階』にある能力を奪う力ではあっても、所得数や何を所得するかは本当にランダムですから。坊ちゃんの場合、今のところ対象一体につき一つしか奪えてない感じですけど」
「……ということは、二つ獲れた可能性もあるのか?」
「それどころか、さっきのオークキングでしたら五つ全部獲れた可能性もありますね」
もったいない!
ものすごくもったいない!!
なんだこの、資源をごっそり無駄にしちゃった的な後悔は……!
「考えたら、『大蟻の女支配者』の時に最高の能力を奪えたのって、相当運が良かったんですねぇ……【以心伝心】を獲ってた可能性もあるわけですから」
なんだかすごい博打だな……
ん?
「そういえば、『災厄の種』の時とかは奪えてたんだろうか……?」
オークキングですら奪える固有才能を持っていたのに、AMのあいつが持ってないとは思えないんだが。
「ああ、奪ってますね。『二心臓』です。……わぁ、心臓二つあるって、気持ち悪い」
「ポムゥウウウウウ!」
酷くないか!? なぁ、酷くないか!?
というか、俺だってすごい気持ち悪いよ!
うわ、全然気づかなかった……心臓が二つあるような感じ全くしないんだけど!?
「どうも片方はかなり小さいうえに休んでるっぽいですよ。片方が死滅した時に入れ替わるスペアみたいなものでしょう。坊ちゃんすごいですね。変態っぽいです」
「お前に言われたくないよ!?」
そういやあの時、胸の痛みに驚いて起きたよ。
心肺停止で蘇生されたからだと思ってたけど、明らかに別物だったんだな……
「つまりあの時、心肺停止状態から蘇生されたときに『二心臓』も体内で発現したわけだな?」
「そうなります」
お前はどうしてそう、大事なことを後から言うの!?
そしてもう二度と臓物系が増える奴は倒さないぞ。下手に倒して能力奪ったからって、ポコポコ臓器が増えたら大変だ!
「……つまり、『双翼』とか『千本腕』なんていう固有才能を所得したら、坊ちゃんの体に羽根とか腕がニョキニョキ……」
「真剣にいらんこと考えるな!! 絶対そういう奴を持ってくるなよ!?」
うちの教育係が危険すぎる!
「どういう話題してんだよ……」
「それよりも……話を聞くに、二人とも、敵の能力を『視る』ことが出来るのだな?」
頭を抱えた俺の後ろで、ロベルトが呆れ、フラムがぼそりと呟いた。
あ。そういえば、言ってなかったか?
「ああ。俺のはもともと『大蟻の女支配者』討伐時に得た能力だが」
「成程。“神喰らい”が発動した、と」
オズワルドは一級神だけあって話が早いな。
もう一人の魔王は首を傾げてるけど。
「オズワルド。それは、そういう能力なのか?」
「神の位階にある能力なら己のものとして吸収できる、と聞いております。ゆえに、いずれその生命を一級神に至らしめる能力だと。ただ、常に相手の能力を所得できたり種類が多い場合取り零しが出る、というのは寡聞にして初めて聞きますが」
ん?
「あれ、百パーセントじゃないの……?」
「確率については伝わっておりませんな。また、複数の能力を持っている個体と相対した場合、その能力をどれだけ奪えるか、というのも。なにしろ、神族としては最古の一柱とされている私ですら、この世界に生まれた“神喰らい”について、一人しか情報を聞いたことがありません。文献にも伝承にもほとんど載っておりませんので、さすがに当時の噂程度でしか判断材料がありませぬな。“神喰らい”の誕生は、言ってしまえば『今の世に一級神が自然現象として生まれる』レベルの希少性があるのです」
……やだ……そこで皆して見てくるの、やめて?
だいたい、そんなレアな能力を持っているなら、なんで前世の俺はあんなに辛酸を舐めたの? もっと戦う度に強くなるとか、そういうのがあってもいいんじゃないの?
「私が知覚していないだけで、能力が発現する前に死んだ者なら、いたかもしれませんが」
「ああ、潜在能力として持っていても、発現するとは限らないってやつか」
俺の疑問に答えるような呟きをしたオズワルドに、ロベルトが首を傾げて言う。
「ええ。精神体である精霊や神族ならともかく、人間や魔族などの肉の殻を持つ者の場合、その肉の殻――つまり『器』がネックになってきますからな。大地に種が植わっていても、発芽しないまま終わることもある――というようなものです」
つまり、前世の俺も同じ能力を持っていたけど、発現せずに終わってた、ってことなのか……
でも、生まれ持った才能である固有才能が、発現しないままに終わるのってどういう状況なんだろうか? 何か条件があるとか?
俺は今生と前世での違いを探す。
……やだ……違いがありすぎて逆に分からない……
「ポ……」
いない! どこ行った!?
あ、向こうでせっせと宝物回収してる。そういや、死骸はともかく宝物庫はざっと見るだけで放置してたわ。
「死の神様なのに、死因とか死んだ奴の情報とか、把握できねぇの?」
「世界の理の中にある現象が、思考などの意識を得て個体化したのが我々『神族』ですからな。己と同じであるからこそ、その現象を司り、操ることもできますが、個体化したことで世界の同属全てを掌握することは出来なくなっております。近くに在って意識を向ければ可能ですが、世界の反対側で死んだ人間の情報などは知りようがありませぬな」
「ははぁ……神族ってそういうものなのか。なんか天仙の逆みたいな感じだな」
「テンセン、とは?」
「ええと、徳をためて人間から解脱して仙人になって世界に溶け込んで同化しちゃった系?」
「それはなんと申しますか……確かに同化と分離で考えると逆ですな……」
なんだか変わった話をしているオズワルドとロベルトを背に、俺ととにかく早く精霊界に戻りたいフラムはポムを手伝いに走った。
●
行きと同じ移動手段で、王都の上空にたっだいまーん!
流石に日が落ちているが、王都だけあって街はまだ明るい。民家の密集地は明かりも疎らだから、あの明るいエリアは商業施設の並ぶエリアだな。
お。商業区近くの旧貴族邸でチカチカ光の合図が。
よし。下降しよう。
「流石に竜の飛行だと早いな」
合図を出している場所へ向かう竜の上で、サリがのんびりと言う。
「魔王様達だと自分で飛んだほうが早くないです?」
「それはそうだが、魔族の姿を晒すわけにもいかないだろう。面倒事は避けて通る主義だ」
「うちの坊ちゃんにその思慮分別を分けて欲しいですよホント……」
「俺だって思慮分別に長けるだろ!?」
「えー……」
失礼だなポム! 本当に失礼だな!!
そして他一同、なんで全員揃って神妙な顔して視線逸らすの!?
「ところで、ロベルトさんは大丈夫なんです?」
「大丈夫ですわ。気絶してますから」
「明らかに大丈夫じゃないですね!?」
ポムが慌てて回復魔法をかけるが、たぶんあれ、そのままそっとしておいてあげたほうがいいんじゃないかな。今まさに降り立つために下降してるところだし。
「う? ……うげぇえっぷ……」
あーあ。
馬で二十日かかる距離も、竜種、それも高位竜の翼なら二時間程度だ。これはロルカンから王都までをわざわざ竜を使って飛んできたシンクレアのお手柄である。
「ドラゴンだ!」
「本物か……!?」
「朝に見たやつと同じ個体だぞ!」
「やっぱりあの建物に入っていく……竜騎士か?」
「馬鹿な……竜騎士が操るのは飛竜だぞ。亜竜ではない竜種が調教されるわけがない!」
「じゃあ、あれなんだよ!?」
……目立ってるな……
「高速移動には最適ですし、いい宣伝になると思ったのですけれど……」
「いや、いい宣伝になってる。まぁ、騒ぎにはなるだろうが、王やリベリオに融通してもらえるよう話を通せばなんとかなるだろ。家屋購入時に商人経由で一応報告はしてあるし」
「拠点購入前に連絡もらって助かりましたよ。『竜を泊まらせれるだけの獣舎がある屋敷』を早々に用意することが出来ましたから」
「まぁ、あの売り文句を出していた商人も、まさか本物の竜を泊めることになるとは思わなかったようだがな」
俺とポムの言葉に、シンクレアはホッとしたように微笑む。
そう、シンクレアはあくまでも人型としてここにいる。つまり、俺達を運んでくれた『竜』は、シンクレアとは別の竜魔なのだ。
『では、私は竜舎で適当に休んでおきますねー』
「ありがとう、ルーシー。お腹は大丈夫? 空いてない?」
『平気でーす! 皆様が討伐してる間に、オーク以外の周辺の生き物を根こそぎ味見してましたからー』
わりと可愛らしい声で恐ろしいことを言う。そういや、帰りに鳥の声すら聞こえなかったんだがもしかして……
いや、考えまい。人間だけは喰うな言っておいたから、きっと恐ろしい結果にはなってないはずだ。変異種激減とか野生動物全滅とかはありそうだが。
「可愛らしい娘さんですねぇ」
「でしょう? うちの姪っ子なのですが、私の次に強いので旦那になれる人がいなくて……」
つまり、ロベルトの嫁候補の一人か。
着々とロベルト包囲網が出来ているようで俺も満足だよ。
「ひとまず、冒険者組合へ、だったか。持っていくのはオークの耳だけで良いか?」
「ああ。一応、こっちの『無限袋』に耳を入れた袋を移しておこう。流石にサリ達にそれを持たせては、俺が他の魔族に怒られる」
「持ち歩いたら早いんですが、流石に六千体を超えるオークの耳とか、大袋だけでも七つになりましたしねぇ……」
「精霊王達も帰還したしな」
うむ。
無言のフラムに引っ張られて、ラ・メールとテールも精霊界に帰還している。今いるのは魔族と勇者だけだ。……字面が何かおかしいな……
「私共で納品してきましょうか?」
ふと、横合いから声をかけられた。
先程俺達の誘導に光で合図をしてくれた男だ。シンクレアの王都行きに同乗し、王都入りした部下一ことノアである。俺が活動拠点を王都に移したので、拠点管理を整える為にやって来たらしい。
転移門設置時に来れば楽だろうが、それをやると不法侵入になる。パッと来て一日程度で帰ってしまうサリ達と違い、王都で活動するのだから出来るだけ不正として訴えられる方法は控えたのだそうだ。
うちの家人が色々と行き届きすぎて、自分の傍若無人さが申し訳なくなるな……
「いや、討伐証明提出と同時に、顔も売っておきたい。我々で行ってこよう」
「畏まりました」
「――そうだ、ノア。ノア達も冒険者組合に入ってみるか? 俺のパーティで良ければ、皆を迎え入れたいが」
「! それは、なんと……光栄なことでございますが、私共では皆様方の足手まといになりますので……」
辞退されてしまった。パーティー増強を目論んだのだが、やはり俺のお遊び的な部分が強いから拒否されてしまったのだろうか……?
冒険者、楽しいよ?
「……たぶん、メンバーがメンバーだからだと思いますよ? 坊ちゃん」
「魔王や精霊王がメインメンバーなパーティって、普通、入りにくいことこのうえないからな……」
「ロベルト。なぜ自分自身を外すのだ」
「そもそも、なんで俺を入れようと思ったよ……?」
いいじゃないか。勇者が入っても。俺のドリームパーティーはまだ始まったばかりだぞ!?
「ノア。別に気にする必要は無いと思いますよ。ノーランさんにも伝えておきます。坊ちゃんは寂しがりですから、人がいっぱいいてほしいんですよ」
ポム! お前はどうして俺の前でそんなことを言うの!?
俺の内面を暴露するのはやめてやるんだ!
「それに、パーティーメンバーになるということは、坊ちゃんが忙しくて依頼を受けていなくても、ノア達が時間のある時に冒険者組合に足を運び、適当な採取依頼を手に入れて納品するのを繰り返すことで、パーティーの功績をちまちま稼いでランクを上げるという技も使えるんです」
ポムさん!? もしもし!?
「しかも、依頼には必ず報酬がありますから、小遣い稼ぎ程度ですがパーティー資金をためることも出来ます」
「成程。それならば、我が支部員全員を参加させるべきですね」
「そうでしょうそうでしょう」
「何度か足を運んで依頼傾向は掴んでおりますので、隠密部隊にも命令して討伐対象達を乱獲させておきましょう。お任せくださいレディオン様。我らがグランシャリオ家の力を見せさせていただきます」
何故か異様にヤる気になったノアに、周辺冒険者の生活を圧迫しかねない簡易依頼を総取りすることだけはしないよう厳重注意してから、組合へと向かったのだった。




