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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 4 王都進出
76/189

31 王城



 勇者――それは人族において最強の存在たる突然変異(・・・・)


 人族として生命の循環過程において、その時代時代の『導き手』ないしは『統治者』と位置づけられて誕生する者――生まれながらに特殊な力を有する個体の通称だ。


 勇者を勇者たらしめている固有才能(タレント)のうち――事情を知る者に限った話ではあるが――特に著名なのは二つ。

 一つは『神々の祝福』。

 もう一つは『精霊の加護』。

 生まれた時から所持するこの二つの固有才能(タレント)により、その個体は圧倒的な能力を身につけるに至る。

 英雄と呼ばれる者達ですら到達できない遥かなる高みへと至れる潜在能力を、生まれたその時から有することになのだ。

 ――それが幸せなことかどうかは、別としてだが。


 だが実際のところ、これらは最終的な存在になる為の前段階に過ぎない。

 有史以前からその誕生を記録されたことが無いのだが、魔族にとっての魔王のように、人族には全人類の王となるべき存在が誕生するはずだった。

 それが、勇者の先にある存在。固有才能(タレント)を持っているだけの勇者から、精霊王への道を経て覚醒し、真なる勇者となった先にある者。

 『人王』――人を超越した力をもち、寿命すら人族の枠から解き放たれる存在だ。


 だが、少なくとも魔族の古い書物にすら、人王の誕生は書かれていなかった。

 勇者は生まれているのに――そして覚醒勇者も確かに誕生しているというのに――何故かその最終形態とも呼ぶべき『人王』は現れないのだ。どういう理由でか必ず覚醒勇者どまりで死んでしまうのである。例え――そう――大陸中の魔物を殺したり、魔王を殺しても、だ。

 ……よく分からんな……なんで覚醒にまで至ったのに、人王になって人族を導いてやらないのだろうか……?


 まぁ、それはともかく。

 本来の『勇者』とは、そういう、()わば生まれた時から業を背負っている存在なのだ。ロベルトが一人懊悩し、密かに苦しんでいたのも分かる業の深さである。

 ……生まれた時から同族に恐怖されそうな強大な力をもって生まれるとか、猜疑心と恐怖心の強い人族の中ではかつての俺のような敵意を向けられかねない。

 おお! ロベルトよ。お前への親近感がますます高まったぞ!!


 しかし、『所変われば』というか、『隣の国は良き領土に見える』というか、わざわざそんなキワモノ――もとい、業の深い面倒な存在になりたいと思う人間がいるとはな……

 






「休憩の為の部屋を設けてあるから、そこで休んでいて。私も後から行くよ」


 馬車を降りてすぐ、リベリオはそう言って弟王子と共に何処かへと向かって行った。王子としてやるべきことが沢山あるのだろう。

 俺はといえば、リベリオの命令を受けた衛兵に城の中へと案内されている。対応が丁寧なのは、『死の黒波からロルカンを救った大魔導士』という身の上だからだろう。我が商品のブランド力だけではこうはいかないだろうな。


 小国とはいえ王城はしっかりとした造りで、毎年ちゃんと補修してあるのか白亜も綺麗なものだった。案内の話で知ったが、城内には不浄の場――つまり、トイレ――もちゃんと設けられているらしい。悪臭が嫌で念入りに遮断結界を張っていたのだが、不要だったのだろうか……?

 い、いや、油断のならない人族の城なのだから、結界は必要だとも。俺は間違っていないとも。

 とはいえ、人間の城をこんな風にゆっくり見るのは初めてだ。前世とは目線が違っているから色々と興味深い。本当を言えばもう少ししっかりと、真剣に見ておくべきなのだろうが――


「? なんだよ?」

「……いや。なんでもない」


 ……正直、道中に聞いた話が気になりすぎて、王城観光の気分じゃなかったりする。

 一緒にいるロベルトが訝し気な顔をしているが、果たして言ったものかなコレ。


『むしろ話しておいたほうがいいんじゃね? おまえの数少ない味方だろ』


 おや、黒歴史さんいらっしゃい。

 ……ディンよ、お前は本当にポムが近くにいると身を潜めるな……?


『……。一人脳内会議乙、とか言われてプギャーされてェのかよ?』


 おっと。それもそうだ。

 流石はもう一人の俺。俺と同じ結論に至って大人しくすることを選ぶとは。


『先の話だが、一度身内と決めたのなら、ロベルトに対してはそう扱え。知っていればこそとれる対応ってのもあるだろ。ただでさえロモロのせいで普通の人間でないのがバレてるんだ。守ってやるのが主の役目だろ』


 む。諭されてしまった。反論出来ないのが微妙に悔しい。

 しかし、勇者に生まれたことに悩む男がいると思えば、勇者のもつ神の恩寵に嫉妬する大司祭級大魔導士がいて、勇者になろうと憧れる王子がいるのか。人間は色々面白いな。


『それよりも、この城、至る所に魔法の痕跡があるぜ。だいぶ古いモンだが、質がいい。昔は良い魔法使いがいたみたいだな』


 黒歴史さんが周囲を観察してそんなことを言う。

 俺の感覚を共有しているのか、情報の共有が楽なのがいいな。俺も気になっていたが、ディンも思うことは俺と同じなのだろう。

 となると、別視点という意味でロベルトがどう思うのかちょっと気になるな。


 馬車で通ってきた道中を鑑みても、この国の文明レベルは依然として低い。だが、王都、とりわけ王城に関してはその限りでは無いのだ。魔族の街とは比べるべくもないが、劣化防止の魔法や治水に関する魔法など、それなりに良いものが今も維持されているし、その魔法そのものもなかなか良い品質だ。


 例えば城の全体には劣化防止と品質保持の魔法。入口の前にあった噴水は噴出口に浄化魔法の結晶石があったし、その動力だろう魔石も配置されていた。何気に魔道具が使われているのだ。魔道具は普通の道具に比べれば値が張るのに、財政が豊かでもない小国でこんなに頻繁に見かけるとは思わなかった。

 まぁ、王城だからこそ奮発しているのかもしれないが……


『金のかけ方が豪華さでなく実利に向けられてるのかもな。あとはあの軍団長の存在が鍵か』


 ああ、ポムがやたらと警戒してる変態さんな。

 確かに実力的には十分だ。クリエイト能力さえ持っていれば、高品質の魔道具を作れるだろう。賢者の称号を得ているぐらいだからな。

 ……おや、考えたら今この城には勇者と魔王と賢者が揃っている。これで聖女と戦士がいたら強力なパーティになりそうだな。……俺の場違い感が半端ないが。


『なんでおまえは魔王(じぶん)を勇者パーティに組み込むよ?』


 うるさいよ。黒歴史さんはお黙りくださいよ。

 そういえば、主人格(おれ)他人格(おまえ)で多重魔法行使の数が二倍とか出来るの?


『出来るぜ』


 なんと!

 それは是非すぐに試したい。

 ちょっと一狩りしてきちゃ駄目かしら?

 ――おっと。案内人が立ち止まったぞ。


「こちらが『光の間』にございます。すぐにお飲み物を持ってまいりますので、今しばらくこちらにておくつろぎください」


 リベリオとの合流地点、休憩所に到着、と。

 ふむ。名のとおり屋内のわりに明るい場所だ。とり入れた光をさらに反射で広域に広げてるのか……人間の作る硝子は質が悪かったが、これは建築の妙だな。

 それに――


「この部屋、神聖魔法がかかってるんだな……」


 油断なく周囲を見ながらロベルトが呟く。

 俺は部屋の内部を一瞥し、部屋に漂っている魔法の力に苦笑した。


「治癒と浄化か。……ん? 【清潔(プロープル)】も発動しているのか?」

「みたいだな。……って、おまえ、身体に結界纏ってるから不発なのか」

「人間の住処は、悪臭が酷くてな……」

「あ~……おまえの街は衛生管理が徹底してるから、アレに慣れてれば確かにキツイよな」


 そうだろう。そうだろう。


「かくいう俺も、ここしばらくあの環境に慣れてたから王都で降りた時はちょっと辛かった。まぁ、この城はそうでもないけどよ」


 うむ。全く結界張らずに行ってたから心配していたのだが、やはり街は臭かったようだ。

 ……窓ポイ捨ての文化でないことを祈るぞ……


「この城はそれなりに衛生管理されているようだな」

「まぁ、街みたいな生活臭は乏しいな。厠のある辺りからの風はちょっと臭いが……あれはボットン便所に近いやり方なんかね……? だとしたら、近くの地下水に影響出るだろうが……」

「この部屋にかかってる【清潔(プロープル)】や他の魔法みたいなので浄化してる可能性はあるぞ。土壌改善魔法の使い手がいれば地下水の汚染も防げよう。土壌は汚物の分解に適した『見えざる者』が数多く存在するしな」

「ああ、微生物な……嫌気性と好気性の両方でないと処理能力は落ちるんだが、こっちで望むのは無理な話か」


 ロベルトがぼやいている。

 前から思ってたけど、こいつの知識は微妙に魔族寄りだな……


「なぁ、ロベルト。お前との話でちょくちょく気になる単語が出てくるんだが、もしかして前世俺達と同じ種族だったりしないか?」

「いや全然。正真正銘生きて死ぬまでごくフツーの人間」


 なんだ。違うのか。俺の心のガッカリ感が半端ない。

 ……あれ。待てよ? こういう切りかえしが来るってことは、ロベルト、前世の記憶とかあるの?

 俺とある意味同じなの? だとしたら俺はお前を魂の盟友としてみなすぞ?

 出来れば大人の記憶をもったまま過ごさなくてはいけなかった赤ん坊時代について語り合わせてもらいたい。わりと切実に。


「ロベルトよ……俺とおむつ事情について話し合わないか?」

「なんでだよ!? おまえの発想と話題が俺には謎だよ!」


 何故。


「それより、この国のことをちょっと考えたほうがいいんじゃねーか? 今から会うの王様だろ」

「まぁ、そうだが。……別に国王と会うからといって、とりたててこの国について考えねばならんことは無いと思うのだが。――ああ、リオの進退については気がかりだが」

「……おまえはそういう奴だよな……。けどなぁ、おまえ、一応は『英雄』として招かれた格好だろ? 微妙な状況だから大掛かりな歓待とか無いけどよ。向こうからしたら、おまえみたいな強大な戦力、取り込もうとするのが普通だろ? 周りに油断ならない国はあるし、魔物がやたらと出てくる小国なんだから」

「俺という戦力を確保しておこう、と? ……その発想は無かったな」

「なんでだよ!? おまえだって強い奴とか優良な奴がいたら他国に確保される前に自分のところで確保しようと思うだろ!?」

「ああ、俺がお前を確保しようとする感じか。理解した!」

「おれが目安かよ!?」


 ロベルトが仰天してるが、こいつは今までの俺の勧誘を何だと思ってたんだろうか?


「性格が良くて強くてシンクレアが惚れてて彼女の一族救えそうな人材なんて逃がせるわけないだろ。お前は早く心を決めて、あの一族のハーレム王になってくれ」

「なんでそうなるよ!? ていうか、彼女の一族はいったいどうなってるんだ……」

「? 言われてないのか? というか、知らないのか?」


 本気で頭を抱えているロベルトに、俺は首を傾げた。

 ……あれ? そういえば、ロベルトに彼女達の事情を説明した覚えが無いな。婿に入れとは言ったが。


「彼女の一族は、母体となる女体の強さが生殖行為に影響を与えていてな。母体となる女より強い男相手でないと発情しないんだ。無論、発情しないということは子も作れない」

「発情っておまえ……」

「代を重ねるごとに一族全体の女性の強さがあがってきたせいで、じわじわと一族存亡の危機になりつつあってな……特にシンクレアは最強なせいで、婿取りが難しいんだ。彼女より強い男は彼女の祖父か父ぐらいしかいない。三親等内では発情せんから、今の彼女は自分より強い男を探して次代を生む責務に翻弄されている。そのために本来もっていた役職を別の者に譲ったぐらいだ。俺の父を喰いに来てるのもそういう理由でな。大陸全土を見ても、彼女より強い男は少ない」


 ……なんかロベルトがものすごくもの言いたげな顔してる。


「お前は、数少ないその『彼女より強い男』で、なおかつお前自身のもつ力は次代に引き継がれるものでは無いという、特異な体質をしている。つまり、お前が相手の場合は子世代が強化される可能性が低いんだ。このまま個体数が減って滅亡するよりは、いっそ一度弱体化したほうが良いとまで長老達は考えているらしい。お前が子種を提供してくれるのなら、一族は歓喜するだろう。なにしろ彼女等の一族も滅亡が時間の問題だからな」

「……うがー……」

「そう頭を抱えることでもあるまい? お前がハーレムを作れば皆が幸せになるというだけのことだ。ちなみに美女揃いだぞ」


 全員竜魔族だから本性は竜だけどな!


「結婚ってそんなもんじゃないだろ!?」

「お前の結婚観念がどんなものなのか知らないが、彼女達にとっては家族をもてるかどうかの大事な問題だ。無論、お前を好ましくないと思えば知らん顔するだろう。シンクレアのように最強クラスの個体ならともかく、そうでないならまだ同族内に候補はいるからな」

「……クレア嬢はどうなるんだよ……」

「シンクレアはお前の事を好ましく思っているぞ。彼女達は魂の強さも重視する。お前のことを『美味しそう』だと言っていた。彼女にとってはかなり好意をもっている発言だ」

「……いや、好意持っててでてくる発言が『美味しそう』ってどうなんだよ……」

「広義において肉食だからな」


 ロベルトが頭抱えて(うずくま)っている。

 ……お前だって別にシンクレアを嫌ってはいないだろうに……

 まぁ、後は当事者に任せておくのがいいだろうな。


「後でシンクレアとよく話し合ってみるといい。お前に一族の件を話さなかったのは、それを盾にとりたくは無かったからかもしれん。今は仕事が立て込んでいるから時間がとれないが、近いうちに会えるよう調整しておこう。――そういう意味でも、あまりこの国に時間をかけたくはないな」


 とはいえ、ジルベルトやリベリオのことがあるから、放置する気はさらさらないのだが。

 ……もう一人ぐらい俺の分身が出来ないかな。別人格(ディン)が出来たからと言って、体が二つあるわけじゃないからな……


『……』


 やだ。ディンさんが何かもの言いたげな気配滲ませてる。

 なんなの? 何かあるなら言ってもいいのよ?


「……俺のことは後回しでいーよ……こっちは国レベルの話だし、実際にお前がいなけりゃあの地方も俺もこの世から消滅してたからな。先にこっちをきちんと終わらせよーぜ」

「うむ」


 ひとまず同じ方向性で合意して、俺は改めて部屋を見渡した。

 ついでに椅子にも座っておく。……やだ……クッションがあんまり良くない……


「客用の部屋だとは思うが、やはりうちの家具に比べると質が悪いな……」

「おまえン所と一緒にしてやるなよ!? 言っとくが聖王国の領主だっておまえン所ほどの家具なんざもってないからな!?」

「そうか。なら、家具を販売すれば売れそうだな!」

「おまえはどうして頭の中が商人なんだ……」


 商人だからに決まっているだろうが。俺は金で世界征服を企む男だぞ。


「だが、ただの家具では売れんかもしれんな……この城のものも、何気に魔道具が混じっている。この部屋全体にかけられた魔法もそうだが、城内のあちこちに魔法がかけられた場所があったしな。お前から見て、どう思った?」


 ロベルトは何やら言葉を飲み込んだような顔をしてから、頭を掻きつつ言った。


「ぶっちゃけ、まぁ、ビックリしたな。大きな神殿とかにこういうのがあるのは見てたんだが。ちょっとこの国をナメてたかもしれねぇ。王城なんて今までの俺じゃ来れなかったエリアだからなぁ……」

「まぁ、俺も似たようなものだな。小国とはいえ、さすがは国王の住まいというところか」

「おまえからしたら鼻で笑うようなモンだろうけどな……」

「そこは文明レベルが違うし地力の差だと思ってもらおう。聖王国の大神殿と辺境の街の神殿を比較したりはしないだろう? だが、時間と手をかければ辺境の神殿だっていずれは大神殿クラスになる。その程度のことではあるな」

「……そこに至るまで数百年単位かかる、ってのはあるけどな」

「それでも、先にその域に至ったものとの差が永遠であるとは限らないだろう? 高みに至る努力を続けているかどうかが試される瞬間だな。せいぜい追い抜かれないよう頑張るとしよう」

「技術力を分け与えてる奴がなに言ってやがる……」


 ロベルトが乾いた笑いをしている。

 多分、ロルカンでやっていたことを言っているのだろうが、仕方ないじゃないか。俺だって拠点は快適に整えたいんだから。


「だが、この部屋の魔法はいいな。この神聖魔法もそうだが、【清潔(プロープル)】も地味に有り難いだろう。長旅で疲れた体には良いだろうな」

「それな。……にしても、一介の商人への対応じゃねーな」

「我が拠点にも疲労回復用の魔法を常時発動させてる部屋があるが、来客用というのは作って無かったな。家人達に話しておこう。今拠点にあるものは家人達の憩いの場になっているから、奪いたくないしな」

「……おまえン所はまたレベルが違うだろ……」


 げんなり顔のロベルトは、気を取り直したように動き始めた。

 何が気になるのか徹底的に周囲を点検している。何だろう……旅の宿でお札を探してる的な感じだ。

 俺などは長椅子に優雅に腰かけてくつろいでいるのだが、絵画の裏まで覗いているロベルトを見てると居心地が悪いな。


「手伝おうか……?」

「いや、いい。道中も休み休みだったし、具合が良くないんだろ? そこでゆっくり休んでてくれ」

「そ、そうか」


 俺はソッと視線を逸らした。

 ロルカンからの道中が休み休みだったりのは、ずっと子供の姿でいる為にちょくちょく魔力補充をしていたせいである。

 夜も「ゆっくりと休むために」という理由で他の連中とは別テントで寝ていた。そのおかげで俺の本体はバレずにすんだが、ロベルトあたりには色々と誤解を与えているようだ。……地味に良心にクるものがあるな……


「……ポムさんが懸念してた通りかね、これは……」

「? ポムがなんて?」

<【伝言】の魔法、使えるよな?>


 部屋の術式の中央に立ったロベルトが、音の声を魔法に切り替えてくる。俺は苦笑した。


<周りに聞こえるのは良くない話か>

<まーな。……たぶんだが、あの変態、お前達が人間じゃないことに気づいてる>

<……ほぅ?>


 笑みが深くなるのを自覚した。


<こちらが魔族だと知れば確実に敵対する相手だろうとは思っていたが、すでに感知されている、か>

<そこまでは分からん。もしかすると魔族とは感知しきれず、試してる最中かもしれねーな。聖書曰く、魔族には神聖魔法が効果的だそうだから>


 なんだそれは。


<俺達も神聖魔法は得意なんだがな……?>

<それな……いかに悪意のある憶測で決めつけてるか分かるよなぁ……けどまぁ、そういう理由でこの部屋を選んだんなら、ちょっとこの国の思惑というか、誰がどう考えて何を企んでるのか、複雑になるんじゃねーか? ここ最近とりつけたばっかりだろう、神聖魔法を強化する術式があるってことは、少なくともロモロはお前達を疑ってる可能性が高い。なにしろ、お前達の登城連絡を引き受けたのは、ロモロの手勢だろ>


 俺とほぼ一緒にいたリベリオ達には出来ない裏側の動き。なら、実行犯はロモロの側だ。


<どうやら、どこまでいっても退屈しない道中らしい>

<俺はのんびりしたいけどな……>

<同感だ>


 ロベルトのげんなりした顔を見ながら、俺は笑う。

 確認しないといけないことも、彼らの裏側にあるものも、いずれにしろこの城に滞在している間に明らかに出来るだろう。

 俺は窓の外へと視線を馳せる。

 西の空に、わずかに鈍色の雲がかかっていた。




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