28 王国軍の良心と変態
「我々は第七王国軍である! この街が『死の黒波』に襲われていると聞き、参った! 領主は速やかに我が前へ事の詳細を延べに参れ! 尚、我らの訪問は第二王子様の勅命によるものである!」
朗々たる声が響き渡った。
軍の先頭から飛び出し、居並ぶ俺達の前に躍り出た甲冑姿の少女の声だ。
……あれ? 大司祭級さんは後ろでお留守番?
俺が思わずそっちの方に視線を向けている間に、俺達の側からはジルベルトが進み出る。
「私がこの付近を治めておりますアヴァンツァーレ家当主、ジルベルトです」
うむ。俺が用意した礼服がビシッと決まっている。
以前と違って体調も完璧だから、騎士と相対しても引けを取らない。実に堂々たる佇まいだ。
身贔屓てんこもりの評価だがな!
騎士団と相対している場所は、巨大なお堀の外。街壁大門へと続く石橋の前である。
何かあった時に使えるよう、大きめの広場を作っておいたのだ。こういう不測の事態が起きた時、畑に馬を乗り入れられるのは嫌だしな!
とはいえ、その広場に入れるのはせいぜい五百人程度だから、こんな大所帯で来られるとお手上げ状態だったりする。
……いや、さすがに王国軍襲来とか想定してなかったよ……
しかし、トップがしっかりしているのか、無理やり畑に馬を乗り入れる馬鹿はいなかった。道いっぱいになっているが、道なりに長蛇の列を形成しているのだ。人族の軍のわりには行儀がいいと言えるな。
……なんか向こうで、こっちに来ようとしてる大司祭級を他二名が押しとどめてるけど……その人、軍団長じゃないの……?
耳をそっと欹ててみると「優良物件」だの「かなり好み」だの聞こえてくる。俺はココロにそっと蓋をした。
後方の騒動に気づいていないのか、女騎士はといえば、ジルベルトを見て訝しそうにいる。
「……まだ子供ではないか……」
「父に先立たれましたので、今は私が。相続につきましては、グラナート卿のお世話になりました」
「グ……グラナード卿に、か。そうか。それは失礼した」
「いいえ」
おや。新事実。
しかも、どうやら『グラナート卿』とやらは有名人らしい。
ポムさんや。知っておったかね?
「王都での手続きをした方のことじゃないですかね? 確か宰相だったと思いますよ」
ああ、それなら女騎士さんがビビるのも当然だな。
柘榴石という名前に意味があるのだろうか?
ん? そういえば、あの大司祭級は紫水晶だったな……
この国は、宝石の名前をつける趣味でもあるんだろうか?
「宝石で特別な役職名ですか、なかなか雅ですねぇ。宝石産出国では無いはずですけど、なんらかの曰くとかでしょうかね?」
「……あのよ……レディオン、目で問いかけずに口に出して言わねぇ? 傍から見てると、ポムさんが独り言言ってるように見えてビミョーなんだけどよ」
おや失敬。
「ふふふ。我々は以心伝心ですからね!」
お前は固有才能の力だろ!
俺にとってお前は謎ばかりだよ……
「……。お訊ねの『死の黒波』ですが、すでに討伐されております」
「う、うむ。別の街にあった冒険者ギルドの早馬が報せに来たが、信じられん!」
俺達の方をチラッと見つつ、ジルベルトがそう説明する声が聞こえる。同じく俺たちをチラッと見つつ、女騎士が叫ぶ声も。
会話の邪魔しちゃって、ごめんね?
「討伐が成されなければ、我々どころかこの街そのものが消えていましょう。討伐戦に参加していただいた冒険者やギルド長も一部始終を見ていますので、もしなんでしたら後程ギルド長達にもご確認ください。王都への早馬はすでに街を発っていますので、入れ違いになってしまいましたが」
「そうか……だが、街を目の前にしても、俄かには信じがたい。街へ向かう途方もない数の群れを我が隊の物見も見ている。上手く村の位置からはズレていたようだが、道中にあった林など行軍ルート上のものは全て消滅していた。なにより、踏み固められた大地の行軍跡……! 途方もない規模の『死の黒波』が発生したのは間違いないのに、それが、何故……! どうやって倒したというのだ!? 戦闘跡どころか、ここは農地ではないか!」
あ。やべ。
「そういや、俺がギルドの連中と街の整理してる間中、なんか外でゴソゴソやってたよな?」
「スライムと蟻の残骸がいい感じの肥料に変えれたので、うちのメンバーとゴーレムが全力で耕しちゃったんですよね~……そして麦を植えました」
「農耕民族の性だな……」
思い出し呟きするロベルトに、ポムと俺がそっと明後日の方向を見つめる。
「……おまえン所、農耕民なの……?」
ロベルトが胡乱な目だが、無論、一切嘘を言ってないとも。
鍬で岩盤すら掘る我らに耕せない土地などなく、氷の大地と溶岩地帯以外は笑顔で農地にしてしまうのが魔族である。
大地の塩分を抽出して塩の花を咲かせる塩草や塩葦など、塩害対策手段も持っているから沿岸部や砂漠地帯ですら緑化可能だ。……近隣の生態系が狂うから、あまりしないがな。
今回でも農民魂は遺憾無く発揮された。うちの連中が『後始末』でまず最初にやったのが農耕である。無論、待ったなしだとも。肥料の素材なんて見つけた日には、大喜びで全域耕すに決まってるではないか。
……俺も元気だったら絶対参加したのに……
「坊ちゃんの一族は、物作り大好き民ですからねぇ。武器だろうと家だろうと作物だろうと素材があったら大喜びで作る種族ですから」
「……違和感ありまくりだろ……」
「人間は誤報を信じる質ですからね~。まぁ最近、新職業が拡大しましたけどね。主に坊ちゃんの家人を中心に」
商人な。
「それに畑ばっかり作ってたわけじゃないんですよ? ちゃんと、ギルドと協力して街に人を呼び戻したりもしてましたとも! 主に通行整理と火事場泥棒阻止が仕事でしたけど!」
うむ。だが、我が家直属の部下五人中三人が畑作に向かった事実は指摘しないでやろう。
ちなみにうちの連中が人手として俺の『案山子』を使役しまくった結果、俺の直属部隊として『案山子』が街人に認知されることとなった。
結果、今も畑でしれっと『案山子』が働いていたりする。
……周囲の俺への評価が『ゴーレム魔導士』になったりしないだろうなコレ……ちょっと不安を覚えるぞ。
「……聞けば聞くほど、おまえの所の実情が噂と違いすぎてるよな……」
「まぁ、平和的かつ牧歌的な人達ですよ。そこは私が保証します」
ポムが笑顔で請け負うのに、ロベルトは苦笑した。俺は自信満々に胸を張って見せる。
任せるがよい。滅亡直後の俺と違い、今の俺もすこぶる平和的だしな!
「まぁ、坊ちゃんはたまに魔力暴発させたり感情暴発させたりダークサイドに落ちたり壁に上って蝉になったり色々やってますけど」
ポムぅうううう!!
なんでお前はそう持ち上げてから叩き落すの!? 俺のこと嫌いなの!?
ちょっとは俺のココロにも配慮しような!?
「そちらの畑につきましては、私の後ろにあります新街と街壁をお作りになった『大魔導士』様達の御業です。――『死の黒波』殲滅も」
呑気に会話してたら、苦笑含みのジルベルトが俺を振り返った。
おっとうちの会話もまた聞こえていましたかね。すまん。自重しないが、愛想は振りまいてやろうではないか。
赤ん坊生活で鍛えた俺の笑顔を見るがいい!
硬直した上に視線逸らされるけどな!!
俺はジルベルトの隣に進み出ながら、目深く被っていたフードを後ろに除けて微笑んでみせた。
うむ。
わかっていた。
わかっていたとも。
泣かないぞ。
今まさに、俺の笑顔に直面した騎士団がみごとに硬直し――
「グレェエエエエエエエイトッ!!」
――なんか起きた。
「ンまァアアアアアアア! 神が起こした奇跡ザマス!? 感動! 激動! この激しい胸の高鳴りを直にお聞かせしたいところ! なんッッたる――アラ、後ろの方、怖い気配」
飛び降り、駆け寄り、跪き。
瞬間移動したのかと思う勢いで眼前に現われ、ハァハァしながら俺の手をとって三秒で硬直した大司祭級男の一連の流れが怒涛すぎて俺ですら反応できなかった。やだこの人怖い。
そして俺の後ろのポムよ。
やめろ。その殺気やめろ。
凄絶な殺気が俺にまでかかるんです怖いやめて。
あ。女騎士さんが顔覆ってる。
「そこの変態」
ポムが未だかつて見たこともないおっそろしい笑顔。
「うちの坊ちゃんから離れなさい」
「あら、アタシの異名、轟いてるザマス?」
待って異名『変態』? というか、ザマス?
やだツッコミが追いつかない。
「……なぁ、呆然としてていいのか? 今のおまえ、隙だらけじゃね?」
神妙な表情のまま、俺の手を掴んでスーッと変態の手の中から引っこ抜きつつロベルトが言う。
「……ポムが全力で俺を守ってるのが心底意外で」
「おまえン所の主従関係どうなってんの!?」
「失礼ですね。私だって坊ちゃんが本気で危険な時は本気で守りますよ!」
待って。
本気で危険って。
「もーっ!! 団長! 出てこないでって言ったでしょ!?」
あ、女騎士さんがキレた。
「イヤザマスねェ。ワタシの軍であんたが一番偉そうザマス」
「あんたの軍でもないし別に偉そうにしてるわけでもないわよッ! 面倒なことになるから大人しくしててって、あれだけ! あれだけ頼んでたのに!! なんで出てきたぁああッ!?」
向こうで押しとどめてた二人がめっちゃ「スマンスマン」してるな。
そして女騎士さんの口調が違いすぎる。……この人、わりと一生懸命『騎士』っぽくがんばってたんだろうな。……だんちょーとやらのせいで木っ端微塵だが。
「こンなミラクル、間近で見ずにどうするザマス。ラウラたんは相変わらず目が節穴ザマス? プークスクス!」
「ムカつく!! 団長ムカつく!! ねェいっぺん本気で耳から鉄串突き刺して脳みそかき回してもいい!?」
「イヤに決まってるザマス。そもそもその言葉使いなんザマショ。イヤザマスねェ、身の程を知らない小娘は」
「お・な・い・ど・し・でしょ!? この変態!」
「ションベン臭い顔と同い年とかイヤザマス。このロリババァ」
……仲悪いな……。大丈夫か第七王国軍。
「どうでもいいのでうちの坊ちゃんから離れなさい!!」
「ンまァ! たかだか執事が何たる態度ザマス? そこは跪いて『お手をお放しください高貴なるお方』と上目遣いで言うべき場面ザマス。そしたらほんのちょっと一瞬だけ考えてみないこともないザマス。一瞬チラッとだけザマスけどね! プークスクスクス!」
「む……むかつく……」
極悪愉快犯をムカつかせるとか、この人間、すごいな。
「坊ちゃん! ちょっとこの国一狩りしちゃいませんか!?」
「待てぇえええ! ポムさん結論怖ェよ! そして早いよ!! 早まんなよ! 顔合わせたばっかだろ!?」
「あンらァ……こっちもなかなか美形な男ザマスねェ~しかも分厚い加護つきザマスねェ~ワタシより加護厚くないザマス? 処すザマス?」
「なんで俺いきなり殺意向けられてんの!?」
ロベルトがなんか巻き込まれてる。
おまえはどうしてそう全自動巻き込まれ型なの……?
それにしても、何の加護が気になったというのだろうか――……って、む、『精霊の加護』か? いや、『神々の祝福』の方か?
唖然とした俺の後ろの方では、対王国軍の一環として街の外へ一緒に出てきていた壁役の冒険者達がどよめいている。
「すげぇー……第七王国軍の『変態』だ」
「噂にたがわねェぶっ飛び具合だな……」
「アレで大陸に三人もいない『賢者』ってどういうことなの……」
「ラウラたんかわいいハァハァ」
「つーかこっち側のアイツも神の加護もちなのか?」
「あー、そりゃキルゾーンだわ。うわやっべ」
「神官系の神寵争いパネェからな……」
なにかどうでもいいのも交じってたが、色々ヤバイのは分かった。
あと不要な神族の祝福がいらん事態招いてる。
「……まぁ、ここで話し続けるのも何ですから、御代をお支払になれる方々だけでも、街へおいでになりませんか? 現在の我が街であれば、皆様を受け入れれるだけの宿があります。今の皆様には、温かい風呂と食事が必要のようですし」
苦笑したジルベルトの声に、軍団側から歓声があがった。その様子に女騎士さんが盛大にため息をつく。
「……では、可能な限り受け入れをお願いいたします。――あんた達! 街で粗相したら吊し上げるからね!?」
「イエスマム!」
何故か軍団長でなく女騎士さんの号令に、団員は一斉に唱和した。
●
特需キタ!!
俺が知っている騎士団よりはるかに行儀よく街に入っていく王国軍一行。案内するのはいざという時の為に雇っている冒険者達だ。
何が特需かというと、この軍団の飲食代および宿代だ!
無論しっかりと徴収させてもらったとも。戦争って儲かるんだよね周辺の街は! ひゃほぅ!
本来、街に押しかけて来たのが他国軍と違って自国軍の場合、街は無理やり無料奉仕を強要されることも多い。
実際、ジルベルトが金の話をした後、女騎士さんや軍団長はともかく、声が聞こえた王国軍の一部からは不満の声があがったのだ。
曰く、
「わざわざ助けに来てやったのに金をとろうと言うのか!」
「王国の民が我々王国軍に金をせびるなど、恥を知れ!!」
無論、即座に【威圧】させてもらったとも。
キシャー!
「受け入れ可能な街の部分は、俺の個人所有地で俺の個人所有宿だ。実際に『死の黒波』と戦って勝利をおさめた俺の所有地で、この俺に対し何を望むつもりだ? 『死の黒波』を相手に共に戦った冒険者ですら、きちんと料金を払っているのに?」
ほんのちょっぴりの魔力と怒気を込めて言い放ったら、面白いぐらい大勢に気絶された。正直、大人げなかったと思っている。
まぁ、ブーブー言ってた馬鹿共はごく一部の騎士と歩兵で、軍団長と女騎士さんはさっさと値段交渉に入ってたし、近くにいた騎士のほとんどは慣れてるのかケロッとしてたけどな。
……考えたら、言動のおかしさに反して、あの軍団長はなかなか話せる男だな。
「貸切は工業区の八十三棟、商業区の五十八棟、大講堂、教会。大講堂と教会に入る人用に、今日のみ特別に公共浴場の貸切とさせてもらってます。全員、まず最初にお風呂に入ってください! 汚されるのも困りものですから。あ、簡単な洗濯もサービスさせてもらいますので、着替えのある方は洗濯係りに渡してくださいね。ただし、あくまで簡易洗濯ですから、泥は軽く落としてはおきますが、しつこい汚れとかは落ちませんので。完璧に綺麗にして欲しい場合は有料の洗濯を自腹で頼んでくださいね。あ、古着市もやってますから、お買い物したい方はそちらへどうぞ! ただし、完全に自腹ですからね!」
ポムがめっちゃ有料アピールしている。
一番上が承諾してても、下の馬鹿が事件を起こすことは多いからな。このあたりは女騎士さん達と冒険者組合の話し合いで、発見次第即処罰して良いことになっている。窃盗罪から器物破損まで全てだ。
実際、道中の村で麦などの強奪をやらかした連中は縄で繋がれ、ジルベルトの元に引き渡された。泥だらけの連中は、風呂にも入れられることなく地下牢に放り込まれている。軍内部で裁いてもいいが、領主であるジルベルトが裁く方が良いだろうという判断らしい。
……わりと団員に容赦ないな、第七王国軍……
ちなみにやたらと貸切棟が多いが、その全部が宿というわけではない。
ぶっちゃけると、住民募集中の空アパートにぶちこむことにしたのだ。工業区の特殊な安宿はともかく、家具を入れてないアパートの部屋なら、普通サイズの兵が十人ぐらい雑魚寝できる。
それでも全員収容するには足りなかったので、講堂や教会も使うことにした。教会も王国軍相手だから拒否しなかったしな。
ちなみに、軍団長は教会に泊まる予定らしい。
珍しい。こういう時は領主邸とかで歓待しろと迫るのが普通だろうに。
「『アメチェスタ卿』は教会の信徒としては名高いからね。そういう意味では、『分かりやすい俗物』な他の一部の軍団長達とは一線を画するよ」
というのが、領主邸に戻った俺への第一王子の言である。
「まぁ、俗物でないから高尚かというと、そうでもないけどね」
「と、言うと?」
「教会の人間にはありがちだけど、自己顕示欲がかなり強いね。魔法の使い手としては相当な位にいるうえ、神性魔法において王国でも一・二を争う腕だ。第七王国軍自体は王国軍の中では評価が低めだけど、軍団長に彼がいるから否応なく上からは一目置かれている。すでに教会と魔導士組合から『賢者』の称号を得ている『偉人』だからね」
「第七王国軍自体は評価が低いのか」
「軍団そのものは練度の高いいい部隊だけど、攻撃や防御といった戦闘の花形でなく、工作に特化した部隊だからかな。ある意味において最も強力な部隊なんだけど、残念ながらそれを理解できている者は少ない。アメチェスタ卿がわざわざ王国軍トップに立っているのは、道具係と揶揄される彼らを守るためだよ」
「ふむ……」
それを聞くと、なかなかの人物のようだが。
「金払いもいいから、商人達からの評判もいいね。彼の自己顕示欲は国の地位でなく、教会内の地位と神々の寵愛にあるから、お金に固執しすぎない。そういう意味で、欲深い神官達よりもつきあいやすいと言われている。なにしろ、一般の人達には神々の寵愛とかまったく関係ないから、彼に敵対視されることがまずないからね」
俺は思わずロベルトを見てしまった。
ロベルトはげんなり顔だ。
「……最悪だ……」
「……私も、まさか、彼が神々から特別な寵を受けている人物だとは思わなかったよ……」
そう。軍団長の言動で、ロベルトが神々から目をかけられているのが周知の事実になってしまったのだ。
さすがに『神々の祝福』を得た『勇者』だとはバレなかったようだが、軍団長が敵視するレベルということで『聖人』級の寵愛を得ているのだと思われている。
……ぷ。
「てめぇえ! そこで笑うか!?」
「いやだって、お前が『聖人』とか、笑うしかないだろ!?」
「おまえだって似たようなもんだろーが!」
「レディオンも神々の寵愛を得ているのかい?」
「違う。そして心からいらん」
俺の全力拒否に、リベリオは目を丸くし、次いで苦笑した。
「まぁ、君ぐらい魔法の才があれば、恩寵なんていらないだろうね。面倒事に巻き込まれるし」
「まったくだ……なんでこんなところでバレるんだ……」
「不憫だなロベルト……お前もう、うちの大陸に引っ越さない?」
「……ちょっと考えとくわ……」
なんと。
言質とったぞ勇者よ!
「クレア嬢に連絡しとくぞ!」
「花嫁衣装送っておきますね!」
「極論早ェよ!! 一足飛びすんなよ!! なんであんたら二人してそういう時の連携完璧なんだよ!?」
まぁ、それはともかく。
「ロベルトの事情は置いておいて、来たのが連中だったのは街にとっては不幸中の幸いか」
「そうだね……第一王国軍や第六王国軍あたりでも紳士だけど、それ以外の軍が来るよりは第七王国軍はまだマシかな。……ああ、街が無法地帯にならないという意味でね?」
「ふむ。……なかなか言うな? リオ」
「軍だからと居丈高になる理由が私にはわからないからね。結果を出してこその敬意であり報酬だ。結果を出す前から報酬だけ常に寄越せと言われても困る。そもそも、民を守ってこその軍なんだから」
「そこらへんの考えが出来てない連中が多いんですけどね。あ、レディオン様、収容完了しましたよ!」
「ご苦労、支部長。少し休憩していくといい。休んでないだろ?」
ひょっこり報告に来た支部長に、俺はポムに合図しながら言った。
俺達がいるのはジルベルトの執務室だ。無論、領主も近くにいる。今もせっせと書類にサインをしている真っ最中だ。
支部長はポムのお手製チーズタルトを嬉しそうに受け取って椅子に座る。
「ここに来ると美味しいものが食べられるので最高ですな。そうそう、先にお風呂を勧めたら喜んで全員向かっていきましたよ。今頃、お風呂場は泥と垢で汚れ放題でしょうなぁ……」
「まぁ、湯量をいつもより増やして汚れを排出しやすいようにしているし、こっそりスライムを配置してるからなんとかなるだろう」
「……す……スライムを……」
一同の顔色がスーッと青くなっていったが、目立たないようにさせるから大丈夫だろう。
「救貧院に声かけして、風呂掃除の回数を増やすのも手だな」
「あ、すでに手配してます。そうそう、地下牢に収容された連中ですが、『見張り』達の映像を見てたノア達が言うには、生かしておくと後々の禍根になりそうだ、とのことです」
「ほぅ……」
ポムが言う『見張り』というのはうちの案山子さん達だ。連中の見た映像はゴーレム監視室で見ることが出来るようになっている。
連中自身にも単純な命令の組み合わせによる『緊急時の対処法』は組み込んでいるが、人の表情や悪口雑言で細かい判断をするのは難しい。そういう時は、負の感情を察知する宝珠を利用してノア達に映像を送るように設定しているのだ。
万が一の為に監視の目を増やしていたが、早々と役にたってくれたようだ。
「この街や坊ちゃんに対して八つ当たりしてたみたいですねぇ……」
「ふむ……。俺自身にはさして害はないだろうが、街に対する害意は看過できんな。殺すか?」
「まぁ、それが手っ取り早いですけど、ことは領地内の窃盗ですからね。領主さんが裁く形にしたほうがいいと思いますよ」
「だ、そうだが、どうする? ジルベルト」
「領主さんに即判断させるってのは酷じゃねーか? 命が助かってすぐに、他者の命を奪うというのも大概だと思うぜ?」
む。そういう配慮が必要か。
窘めるロベルトにムッとしつつ、俺はジルベルトに視線を投じた。
ジルベルトはリオの方を見る。
「王国としては、彼らという『命』を奪うことに何か意見がございますでしょうか?」
「罪は償わなくてはなるまい。窃盗は重罪だ。まして軍が行ったのであれば、それは大きな恥となる」
「では、第二王子の罪となりますね」
ジルベルトの声に、リベリオは苦笑した。
「……成程」
「殿下は商いに長けておいでと聞きます。この『罪』、いかほどでお買い上げいただけますか?」
お、と俺達が目を瞠る中で、リベリオは深く椅子に背を預けながら言った。
「一人に対し、銀貨百」
「勢力を削るというより、人心を離れさせる手になれるかと存じますが」
「一人頭銀貨百は変えれないな。かわりに迷惑料として金貨三枚。護送用の馬車も買い上げよう」
「では、王都に行く際にはお連れください」
ニッコリ微笑んだジルベルトに、リベリオが苦笑する。
「なかなか強かだな、アヴァンツァーレの領主は」
「短期間とはいえ、強い方のお傍で過ごさせていただきましたから」
ん? なんで俺やポムを見るの?
「つーか、迷惑料の方がやたら高くね?」
「罪人の値段はともかく、王国軍が迷惑をかけたのだからね……『詫び』を入れるのが筋だ。金銭にすると、どうしてもそうなる」
ロベルトの言葉にリベリオは肩を竦めて答えた。
「逆に、王族の謝罪にしては金額が安いな?」
「実費だよ。被害を受けた村に対する補償はいるだろう? ロモロのことだから、すぐに取り押さえて麦とかは返してるだろうけど、被害にあった数の倍は与えないと不満が出る。王族だけじゃなく、上に立つ領主にまで向けられるからね。もし怪我をしたなら、傷薬や回復薬も必要だろう。その分の費用が、金貨三枚」
「成程」
納得した俺とジルベルトに、ロベルトが苦笑した。
「まぁ、軍が来たと知った時はどうなるかと思ったけど、なんとか大事にならずにすみそうだな」
「もうすでに色々と大事だと思いますけどね。……とはいえ、生きるか死ぬかの騒動の後ですから、どうしても脅威としては低く見てしまいますね」
「表立ってすぐに差し迫る脅威では無いから、ですね。ただ、同じ人間同士。そちらのほうがより根深い騒動を引き起こす可能性があることは、気にされておいた方がよろしいかと」
「ポム。そう脅すな。二人とて分かっている」
「坊ちゃん。私は坊ちゃんにも含んでいるんですよ?」
……やだ。ポムがいつになく厳しい目をしてやがる。
なんだろうか。ロモロと相対した時から、妙にピリピリしているな?
「まぁ、軍も来たばかりだ。出来るだけ早く王都に帰るとしても、補給の必要があるから数日はこの街に滞在するだろう。なんだかんだで第七王国軍は金持ちだから、毟りとってやるといい」
「リオはわりと酷いことを言うな? 一応『王国軍』相手だろ」
「同じ国の民に金を落とすのなら、別にいいと思わない? 発展著しい街の糧になるなら、それはそれで国としては成功だろう」
「本音は?」
「ロモロは金に興味ないけど金持ちだから、教会に寄付される前に全部とっちゃえばいい。お布施だ寄付だとたかる教会に、金持ちの余剰金をやるなんてもったいないからね」
この王子。わりと酷いこと言ってるぞ。
「リオは見た目の印象と中身がだいぶ違うな?」
「うん? 褒め言葉として受け取っておく。レディオンもだいぶ違うよね。もっと人間離れした感じかと思ってた」
……どんな感じなの……
いや、人間じゃないわけだけど。
「そ、それよりも、リオ達はこれからどうするんだ? ロモロ達と一緒に王都に行くわけにはいかんだろう?」
「うーん……私達が『居た』ことを隠す意味でも、別口でこっそり行ったほうがいいかな。隣の領に一度寄って、そこから馬車で行くとか」
「そうだな。あの商人達も一緒に動く感じで、とりあえず隣領に行くか」
ロルカンと王子、『死の黒波』とアゴスティ家。それらの関わりを表に出さないための工作を話し合い、明日にでも先にリベリオ達を街から出すことで話を纏める。
それらが明日の朝、夜明けと共に現れたロモロによって台無しになることを、この時の俺達は知る由もなかった。




