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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 4 王都進出
68/196

23 生まれもった資質



 おお、勇者よ。

 そんな所にいるとは、ちょこざいな。



 ポカンと立つロベルトは、何故かうちの連中が愛用している商会特製の寝間着――甚平を着用していた。風呂上りなのかほこほこしている。

 寝間着といい、状態といい、うちの風呂を借りた後なのだろう。状況を鑑みるに、どうやらこの部屋で仮眠をしに来たのだろう。先客として俺がいるとは知らずに。

 ――というか、うちの連中は、何故俺がいるのにロベルトを拠点で寛がそうと思ったのか。

 ロベルトは唖然とした顔で俺を見ていたが、ややあって不審そうに呟いた。


「レディオン……の……弟……だよな?」


 本人だとも。

 わざわざ反応はしないがな。


「喋ってた気がしたんだが……気のせいか」


 気のせいだとも。

 俺は訝しげに見てくるロベルトからスーッと視線を逸らし、体の欲求のままに大口を開けてあくびした。

 ふぁ~ぁ。


「……まぁ、いいか」


 よし、よし。

 どうやら誤魔化せたようだ。

 ロベルトは強張らせていた体の緊張を解いて、背を丸めるようにして肩を落とした。目がしょぼしょぼしているところを見るに、だいぶ眠いようだな。


 それにしても、勇者のくせに俺が『レディオン()』だと気付けないとか、ちょっと能力的にどうなんだろうか?

 勇者の資質の中には、俺が愉快犯(ポム)にプレゼントフォーユーされた【全眼(アヴィ・ディクスペア)】に似た力があったはずだ。俺を殺した勇者はアレを使って的確に俺を追いこんできた。覚醒する前に会った時も、俺が魔王だと一発で分かったみたいだしな。そうなると、ロベルトも同じものを持っていてもおかしくないのだが……


 まぁ、今回は俺の望む結果になったから構わんか。

 ロベルトには、是非ともこれからもチョロルトでいてもらいたいものだ。……こっそり鑑定とかされないことを祈ろう。うむ。


 ロベルトは目を擦りながら、俺がいるのとは別のベッドに這いあがった。

 部屋の入り口側を見ても、ロベルトを引き戻す為に部下達が来る気配は無い。うちの連中の許可を得ているということなのだろう。――後でシメておかないといけないな。


「うー……気持ち悪いぐらい眠いの久しぶりだな……」


 呻きながらロベルトが転がる。

 仮眠室のベッドは三つで、ロベルトが転がったのは右端だ。

 ちなみに俺はど真ん中である。

 別に決められているわけではないが、俺の就寝の供『おうしちゃん』が置かれていたのでここにしたのだ。――微妙にポムあたりに誘導されてる気がしないでもないが、気にすまい。


 ――む?

 ロベルトよ、何故俺を見つめているのだ。眠いなら素直に眠ればよいものを。


「……おまえ、いつも一人なのか?」


 ロベルトが眠そうな声でそんなことを言う。

 おっと、早計だぞロベルトよ。俺は別に孤独(ひとり)ではないとも。

 諸事情あっていつも会う時に一人なだけで、ちゃんと目付け役もいるからな。部下もいるとも。

 ……あれ、友達がいない……俺はもしかして孤独なのだろうか……


 ロベルトはだるそうに体を起こして俺に向き合った。次いで両手が伸びて俺をヒョイと抱っこする。

 おお……なんという安定感。ポムなみに赤ん坊の抱き方を心得ているとみえる。


「おまえの兄ちゃんは、傍にいないのか?」


 残念ながら俺は一人っ子だ。

 これから弟妹が生まれる可能性は未知数だが、兄は生まれそうにないな。


「まだこんなにちっちゃいのに、なんで一人きりにされてるんだろうな……」


 ロベルトの体温が温かくてポカポカする。

 これはいかんな。二度寝しそうだ。

 俺はぬくぬく人肌に弱いのだ。

 ロベルトはそんな俺を抱っこしたまま仰向けにゆっくり転がった。おぅふ。


「まぁ、魔族的に子育てのやり方が違うのかもしれねぇが……赤ん坊を一人で放置、ってのは駄目な気がするんだがな。――おまえもそう思うだろ?」


 ふむ。ロベルトは優しいな。

 俺もそう思うとも。

 俺の場合は特殊だが、この状況が俺以外の赤ん坊だったら俺も怒るよ。

 とはいえ返事は出来ないので、かわりに手を伸ばしてロベルトの額を撫でてやる。

 ロベルトはちょっと笑って、俺の頭を丁寧に撫でた。

 おお、なんと配慮の行き届いた手の動きか。俺の貴重な髪の毛を摘まみたがる女性陣に、是非とも見習ってほしい手つきだぞ。


「……魔族っていっても、人間とあんまり変わらなく見えるよな」


 なんだか力の抜けた笑い顔だな。

 そしてお前は未だに俺達魔族をなんだと思っていたのか。

 いや、人間社会で幅を利かせている教義が『魔族は悪』ってやってるから、一般知識として人間とは明らかに違う存在となっているんだろうな。

 ……種族的に全く違うから、間違いとも言えないが。

 ――しかし、この抱っこの安心感。素晴らしいな。抱っこマイスターの称号を授けてやりたいほどだ。


「なぁ、弟よ」


 なんだね、兄よ。


「俺はさ、一応、この世界にとっての『勇者』ってやつらしいんだよ」


 知ってるよ。


「そんでさ、勇者って……普通、魔王と戦ったりするだろ? それがお仕事ですっていうレベルでさ、ルート決められちまってるじゃん。……そしたらさ、俺、魔王と戦わなきゃいけないわけじゃんか。魔王って、お前の兄ちゃんじゃんか」


 本人だよ。


「……俺、あいつと戦うのは、嫌だよ……」


 ぽふ、と俺の頭を大きな手で包んで、ロベルトは力無く目を閉じる。

 その顔はずいぶんと疲弊して見えた。見間違いかもしれないが――微妙に泣きそうな顔にも見える。


「……なんで……勇者なんて、存在……――」


 ふと声が途切れて、しばらくして規則的な寝息が聞こえてきた。

 なんと。ロベルトよ、眠ってしまうとはどういうことだ。喋るなら最後まで喋ろうよ。

 まぁ、かなり疲れていたようだし、色々限界だったみたいだが……そういえば、こいつはなんでこんなに疲れ切ってるんだ?


 ほとんど気絶するように寝入ってしまったロベルトを見下ろし、俺はその腕の中から這い出る。

 放置するのも気が咎めるので、風邪を引かないように布団を被せてやった。俺の優しさに感謝するといいぞ!

 ちなみに被せるのは魔力操作で行った。俺のいたベッドの掛布団だ。ロベルトのベッドの掛布団は、ロベルトの下敷きになってるからな。


 寝入っているロベルトの眉間の皺を指でキュッと引き伸ばしてから、俺は満足の息を吐いた。ついでに俺の『おうしちゃん』も貸してやろうではないか。羊でないのは、跳ね飛ばされる夢を見たくないからである。

 さて、俺自身はそろそろ活動を――……


「おや、勇者さん、もう寝ちゃいましたか」

「きゃむ!?」


 いきなり真横で聞こえた声に、俺は文字通り飛び上がった。


「ポム!?」


 お前はどうしていつも突然なの!?


「……坊ちゃん。寝てる人の傍で大声は駄目ですよ?」


 ポムよ、おまえが驚かせたのに、なんて言い草だ。

 ――いや待て。それ以前にこの反応……

 さては、ここにロベルトを寄越したのは、お前だな!?


「いや~、色々と走り回っていたロベルトさんが疲労困憊してましたから、せめて安心できる場所で休んでもらおうと風呂とベッドを提供したんですよ。この大陸で、恐らく拠点(ここ)が一番防衛力に優れてますから」


 防衛力に優れてる魔族の拠点を人間の勇者に薦めるとか、お前の頭はどうなっているのか。

 そもそも、疲労困憊するぐらいロベルトをこきつかったの?


「勇者さん、人が良いんですよねぇ……頼まれたら断れないタイプみたいですよ。ちょっと坊ちゃんに似てますよね? 坊ちゃんがまだ本調子じゃないのを無理して動いてるって話したら、色々代わりにやってくれましたよ。いやぁ、いいですねぇ、有能でチョロい人って。早く竜魔女史さんとくっついて魔族入りしてくれないですかね。現魔王様の覚えもなかなかいいみたいですし、問題無いと思うんですよね」


 ……ロベルトよ、お前、シンクレアだけでなく、えらいのに目をつけられてるぞ。

 まぁ、俺も異論は無いわけだが。

 

「……ロベルトは『勇者』なんだが……まぁ、『勇者』な自分が嫌なようだし、問題ないか」

「ええ。相当年季の入った嫌がりようですよ。かわいそうに、誰にも相談出来ずに悩んでいたみたいです。生まれつきのものですから、死なない限り解放されることもありませんからね。なんというか、ろくでもない第一級の呪いみたいなものですねぇ」

「『魔王』と違って、勇者を決定づけるのは『資質』――生まれ持った固有才能(タレント)だからな」

「坊ちゃんが勇者さんを倒したら奪えますけどね」

「……こいつと殺し合うなど、全力でお断りだぞ」


 俺は顔が顰むのを感じた。

 ポム曰く、俺の中には異能としか呼べないような固有才能(タレント)がある。

 それが“神喰らい”。殺した相手の神位級能力を奪い取ることの出来る力だ。

 ――どうも聞いてると、神族の持っている同属喰いの能力に近い気がするんだがな。


「まぁ、イメージ的には似たようなものですね。坊ちゃんのはより凶悪ですが。神族のアレは、権能吸収です。同系統の者が持つ権能を吸収して、自身を強化する、いわば『食事』のようなものですよ」


 ほぅほぅ。


「アストラル・サイドの生き物である神族にとって、権能を奪われることは死を意味します。完全なる消滅ですね。同属に対する『吸収』あるいは『合体』。彼等にとっては第一級神に至る為の道の一つというわけです。同じように、神族以外にも権能を生まれ持つ存在はいますので、そういった対象からも奪おうとしますよ。坊ちゃんも狙われたでしょ?」

「……『ノルン』か」


 俺の声にポムは頷く。


「死神さんみたいな原初の一級神ならともかく、後世に生まれた神族は皆そんな感じでみたいですね。同じ位階に至らんとする向上心は良いですが、犠牲になる者からすればたまったもんじゃないでしょうねぇ」


 本当に神族はロクなことをしないな。

 というか、なんでこいつはそんなに神族のことに詳しいのか。

 ――やっぱりお前、神族なんじゃないの?


「広義においては似たようなものかもしれませんけど、一緒にしないでくださいよ。言っておきますが、私の言う『似たようなもの』って、魔族だって神族と似たようなもの、って言うレベルでの『似たようなもの』ですからね。坊ちゃん、同一視されて嬉しいですか?」


 ヤだよ!

 全力でヤだよ!!

 なんで宿敵と同じ種族あつかいされなきゃいけないの!?


「宿敵といっても、坊ちゃん、別に神族全部殺そうとか思ってないでしょ? 誤解招きかねないから言動には注意してくださいね?」


 窘められてしまった。

 というか、別に俺は口に出したりしてないぞ。

 お前は自然に俺の考えを読みながら答えるんじゃないよ。

 ――前から不思議に思ってたけど、お前のソレって固有才能(タレント)なの?


「ああ、私の能力ですよ。相手の強い感情と共に、そこに宿る意思が伝わってくる感じですかね。外聞のいいものではないので、内緒でお願いしますね?」


 あっさり告白してくれたが、確かに外聞は良く無いな。誰しも心の中を覗かれたくないものだ。

 ――ん? ということは……


「お前の世界って、相当『煩い』んじゃないか?」

「……ええ、そーとー『煩い』ですよ。そりゃーもぅ、四六時中周囲がザワザワしてる感じです。商売には役立ちますけどね。相手の望みが一発でわかりますから」

「それはそうだろうな……」


 金儲けに熱心になってればなってるだけ、その気持ちと一緒に心の声が駄々漏れなのか。ポムの世界はだいぶ恥ずかしい世界のようだな。

 なにやら意味深に俺を見つめてから、ポムは唇に指をあてて微笑んだ。


「内緒ですよ?」

「まぁ、俺がもらった能力も外聞は良く無いからな。内緒にしたい気持ちも分かるとも」

「そうでしょうそうでしょう」


 押しつけたのはおまえだよ!!


「――まぁ、いい。お前のことだから、悪用するといっても自分でクスクス愉しむ程度だろうしな。……ところでその能力、隠し事を暴くのとかにも使えるのか?」

「流石、坊ちゃん。よく私をお分かりで。――まぁ、根性入れれば『探る』ことも可能ですよ。必要時以外、あまりやりたくはありませんがね」

「ふむ……じゃあ、今回『保護』した連中の裏――全部、洗えるか?」


 俺の声に、ポムはそれはそれは良い笑顔で頷いた。


「完了済みです。では、彼と彼等の物語をお話いたしましょう」



◎商人の誇り



 カルロッタは小国だ。

 独自の産業があるわけでもなく、他に比べて突出した何かがあるわけでもない。

 現在でも僅かながら鉱石を産出する鉱山があるため、周囲と比べても貧困がひどいわけでもない。上を見ればきりがないが、最下層というわけでもない――そんな、どこにでもある小さな国だった。


 そんなカルロッタで暮らす商人にとって、王族とは意外と身近な存在でもあった。

 小国ゆえに他国との取引が成り立たないと困窮するため、商売の才能は欠かせないものになる。自分達に才能が無ければ才能のある者を起用すればいいだけで、結果として商人と王族はそれなりに関係をもつようになっていた。


 スヴェン・タウアーとトーマス・ウムラウフは、共に小さな商会をきりもりする商人だった。

 生まれも育ちもカルロッタで、現在も王都カルロスに店を構えている。

 カルロスは王家にとって発祥の地であり、王都の名前は現王族の名前でもあった。

 百数十年前に隣国との戦いが収束した折には、王都を移す計画もあったようだ。だが、結局の所は頓挫した。当時の情勢がそれを許さなかったのだろう。

 結果として、スヴェンもトーマスも王都に居を構える商人として生まれ育つことになったのだった。


 小さな商会には小さな商会同士のつきあいがある。

 スヴェンとトーマスは幼友達であり仲が良かったが、当然仲の悪い相手というのも存在した。

 商売敵でもあるその商会に嫌がらせを受けていたところ、自分達の側についてくれたのが他国から流れてきた商人、マインラート・フォルツとニコラウスだった。

 

 他国との繋がりをもつ二人と知り合ったことで、スヴェン達の商売はさらに広がった。弟子だったパウルとドミニクも独り立ちし、その子供達も行商人として働きだした。

 スヴェンの息子とトーマスの娘が結婚したのは想定内だったが、二人が商売から足を洗って王宮に勤め出したのは想定外だった。店をいずれ生まれてくるだろう孫に継がせるか、弟子をとるか、二人して迷っていた時に出会ったのが、第一王子リベリオだ。

 リベリオは当時六歳。

 王族の務めである辺境視察の折だった。



 王都に居を構える商会には、持ち回りで王族の教育を担当する月というのがある。

 いざという時に足元を見られて損をしないよう、国内の商人達から少しずつ学んでおこうという理由かららしい。

 教育を受けるのは六歳から十四歳までの子女で、実際のところは教育という名の御接待会だった。

 多少の授業は行うが、お忍びで市井の商店街などを見に行くのがほとんどで、食べ歩きや買い歩きなどで王子達の息抜きをさせたり、店で歓待して遊ばせたりというのがその内容だ。

 辺境視察というのも、ちょっと遠出して貴族のサロンに顔を出すのがメインだ。この月に担当があたった商会は、その道中に同行しなくてはならない。自分達の顔繋ぎにもなるので喜ぶものがほとんどだが、たまに本当に辺境まで行く羽目になって商売の時期を逸する。その為、時期と内容を検討して対処しきるのが、王都商人達の腕の見せ所にもなっていた。


 スヴェン達も親の代にそれを見ており、リベリオにもそのように接するべきなのだろうと漠然と考えていた。

 つまり、近場であれ遠場であれ、そこそこ教えてあとは遊ばせて楽しませる、というプランだ。

 だが、リベリオは最初から最後まで商売に関する質問ばかりして、ちっとも遊びらしい遊びをしない。まだ幼くて色々知りたがる時期だからだろうと考えていたが、一年後、また担当になったスヴェン達と会ったリベリオは、どこかの商会から貰ったのだろう手帳を手にこう言った。


「お前達の所が一番勉強になった。四則演算は出来るようになったから、今度は流通のことについて教えてくれないか?」


 リベリオは、本気で商売を学ぶつもりでいたのだ。





 スヴェン達商人にとって、カルロッタという国は閉ざされた箱庭のような場所だった。

 画期的な政策を打ち出すなりしないことには、いずれ大国に併合されるか、さもなくば緩やかに滅ぶ未来しか思い浮かばない。

 商人であるスヴェン達は、貯めておいた財と体一つでどこででも再出発出来るが、農民などは国と命運を共にするしかないだろう。


 そんな中で商才に秀でた王子の出現は、今までにない何かを起こしてくれそうでワクワクした。自分達の利権が喰われるのでは、と心配する者もいなくはなかったが、利に聡い王が生まれれば話が通じやすい――即ち、便宜を図ってくれやすいかもしれない、とする見方も多かった。


 実際のところ、他の王子王女達には商才が無い。

 金の大切さはそれなりに通じても、商売の大切さは理解されなかったし、損して得をとるなどの機微も通じなかった。

 別に彼等が劣っているわけでは無い。そもそも、現在の王も子供の時分はそうだったのだ。それでもさしあたって問題無く国は存続している。


 だが、スヴェン達は思う。

 これで、改革が出来るような王が立ったら、この国は化けないだろうか、と。

 ただの希望であり、妄想に近い。だが、今まではそんな想像すらできなかったのだから、リベリオへの期待は大きかった。


 周囲に魔物の脅威がある以上、確かに武力は大事だろう。

 優秀な魔法の才能も尊いだろう。

 けれどそんなものは、それこそ商いなら商人を雇えばいいと言うように、武人や魔法使いを雇えばいい話だ。


 貴族達は母親の身分の高い第二王子達を支持する。

 才能があり身分も高い彼等のほうが王位に相応しいという。

 リベリオにつく貴族というのは、ほとんどいない。

 だが、彼の基盤は貴族では無い。

 商人だ。


 目端の利く商人達は、ある者は表だって、ある者は裏側から第一王子を擁護した。

 その擁護者の心の中には、自分達が手塩にかけた王子への愛情もあれば、他の王族よりもはるかに身近な王子を擁してより商いを広げたいという欲望もあった。

 貴族に睨まれれば拙い立場の商人も多いため、そういった者達は大商会の陰に隠れて支援している。そのため表から見ると数が少ないように見えるが、王が第一王子を意識しなくてはいけない程度には影響力があった。


 危険を冒してでも王子を擁護する理由を問われれば、主だった商人達は理由の一つに利益をあげ、もう一つに心情をあげ、そして最後の一つに商人の誇りをあげるだろう。


 商人にとって、儲けることは大事だ。

 損をしない事も大事だ。

 だがそれは誇りでは無い。

 商いをしている間に感じることの出来る幸福――

 貯まる金銭が物欲的な幸福なら、精神的な幸福は商売によって生まれた笑顔を見ることにある。


 商いによって誰かを救えた時、

 その助けとなった時、

 利益以上の充実感がその身を浸す。

 商会を運営していれば、大なり小なりそういった経験はあるのだ。

 生活は、力だけでは成り立たない。

 生きると言うことはそれだけでどうにかなるほど、簡単なものでは無いのだ。


 商人達は、皆それを知っている。

 故に誇りをもつ。

 経済を動かしているのは自分達なのだということに。

 生命が活動するための循環を促しているのが、自分達だということに。

 リベリオは、王族として初めて、その輪の中に入り、自分達の王として君臨できる唯一の存在なのだ。


 商人達は独自のネットワークで他陣営を牽制する。

 毒をもられれば毒消しを。

 暗殺者が雇われればその排除を。

 市井に身を置くが故に王宮内の出来事には疎いが、身内や商売仲間、知り合いの伝手で渡り合った。

 自分達の王を戴く為に。



 だが、彼等にも不安があった。

 一つは、王の意向。

 リベリオが成人を迎えた時も、正式に次の王にするという触れは無かった。

 それは第二王子の時も同じであったが、スヴェン達は王の意思が何処にあるのか分からずにやきもきする。

 リベリオが次期国王として確定すれば、今も水面下で行われている薄暗い応酬は無くなるのだ。王子達の安全と王国の安寧の為にも、選定は早めにしたほうが良いのに……


 もう一つの不安はリベリオ自身だ。

 贔屓にしているスヴェン達から見ても、リベリオは利発で素直な好青年に育った。

 他の学問にも身を入れ、王の長子として優れた才能を示している。多少、武力や魔力が劣ったところでそれが何だと言えるほどだ。

 だが、そんなリベリオを見ていると、スヴェン達は安泰だと思うと同時に妙な不安を覚える。

 リベリオは、商売に対しては非常に熱心なのに、何故か王位に関わる物事には一歩引いたような態度をとり続けるのだ。


(弟達や正妃達を刺激しないよう、配慮しているのだろう)


 スヴェン達はそう思う。

 ――けれど、それは果たして事実なのか。

 出会ってから十年以上もの付き合いがありながら、その心の裡だけは、スヴェン達にも読めなかった。





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