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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 3 死の黒波
65/196

20 全てを支配せし者の瞳




 街壁の前が、一瞬だけ虹色に輝いた。

 地上から放たれた灼熱の光線が、魔力障壁にぶつかったのだ。


「なんだ今の!?」

「光魔法ですね。――ああ、流石のスライムもアレは効きますか」


 ギョッとして縁に張り付くロベルトに、同じ方向を見たポムが状況を確認して呟く。

 巨大化したスライムが二つに分かれていた。先の光線で上下に焼き切られたのだ。

 山となっていたスライムが分離したことで、その向こう側が見えやすくなった。周囲一面が黒い蟻で分かり難いが、近辺の蟻と比べるのも馬鹿馬鹿しい程巨大な蟻がそこにいる。

 『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』の女王――群れ全体でAMアノルマル・モンストル認定されている変異種において、さらなる上位へ到達した『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』だ。深紅の髑髏が、よりいっそう禍々しく強調されている。


「……ば……化け物……」


 あまりの威容に、冒険者達が慄いて後退った。さすがの支部長も顔色を無くしている。

 巨大化したスライムと同じ大きさの巨大蟻を目にすれば、流石に平然としてはいられないだろう。

 俺としては、むしろ今まであの巨体を目立たせず、この距離まで近寄って来ていたことのほうに感服するが。


「気配遮断と認識障害か……」

「あの巨体で隠密特化というのが凄いですよねぇ」

「昆虫系変異種は、上位になると強さが跳ね上がるからな。それに、今のは第六魔法か」

「そのようです。さすがにあの位階になると、災害級を越えて天災級の魔法を放ってきますね」


 初級魔法を第一と位置づけた時、最も高位の魔法の位は十になる。

 その規模や威力により初級、中級、上級、特級、災害級、天災級、災厄級、災禍級、神罰級、真滅級と呼ばれる魔法の中、天災級は第六位だ。その威力は一撃で都市一つ完全に滅ぼすことのできるもの、とされている。

 人族であれば単体で使える者は皆無に等しく、儀式魔法や国家魔法と呼ばれる規模で行うのが精々のもの。もっとも、勇者であれば使えるはずだが――


「天災級とか……マジで滅亡レベルの化け物じゃねーか……」


 ……『職業:行商人』な勇者には、使えないレベルらしい。

 うん。ロベルトよ。お前はもう少し、勇者らしくなろうな……?

 次期魔王な俺に心配されるって、勇者としてどうなの?

 いっそ勇者やめて、うちの身内になっちゃわない? 


「まぁ、もっとも、坊ちゃんが呼びだしたスライム相手では、その威力も八割無駄ではありますが」


 俺がロベルトに生暖かい眼差しを向けている中、ポムが虚空に俺の知らない術式を放ちながら言う。

 そう――他の生物ならいざ知らず、スライムは上下に分断されても死にはしない。全てを一気に消し飛ばすか、もしくは焼き尽くさない限り滅びないのが連中だ。

 だが、それは相手も分かっているらしい。周り一面黒い粒で覆われた蟻の群れが二手に分かれた。小粒ほどの蟻の後ろから一回り以上大きな蟻が前へと乗り出す。


<――!>


 耳をつんざくような高い音が響いた。

 蟻の呪文は人型種のそれとは異なる。距離のある壁にまで届く破壊の波に、スライムの表面が砂状に変化して崩れる。危険を察して波の様に襲い来るスライムを、けれどバックステップで大蟻は身をかわし、かわりに突進した小粒の蟻が身を盾にして阻んだ。その直後に再度、見えざる力の波がスライムを削る。

 スライムの巨体が大きく震えた。追撃をかけるように、『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が大蟻と同じ態勢をとる。

 だが、スライムもむざとそれを喰らうような真似はしない。


<――!!>


 『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が先の大蟻を凌ぐ破壊を撒くより早く、スライムの体が爆散した。

 否、自ら小さな塊に変って散らばったのだ。破裂したようにして周囲を散った個体のほとんどが『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』の力から逃れ、落下した先の蟻達を瞬く間に捕食していく。

 『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が激怒したのが分かった。広範囲に散った敵に魔法を放てば、自分の分身ともいえる子供達ごと塵に変えることになる。有効打を封じられた苛立ちは相当なものだろう。

 ドン! ドンッ! と凄まじい音と共に離れた壁にまで振動が伝わるほどの力で六つの脚を大地に叩きつけ、『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が咆哮を放った。


<ギィイイイイイイイイッ!!>


 耳をつんざくような音が響き渡る。

 パチンと、寸前でポムが指を鳴らしたのは何かの結界を張る為だろう。


「呪詛ですね。味方の身体強化、敵の身体劣化を招く効果のようです。音の届く範囲全てに拡大化されてましたので、壁からこちら側に関しては呪い部分のみ防がせていただきました」

「生命体に作用するタイプか」

「ええ。生命外には作用しないみたいです」


 壁の強度に影響が出ないのであれば、問題無いな。

 ポムの魔法は呪詛に対してだけレジストを行うものか。相変わらず器用な男だ。

 冒険者の一部が音に込められた魔力でダメージを受けているようだが、呪いをくらわなかっただけマシだと思ってもらおう。

 直近で放たれたスライムはまともにくらったらしく、動きが精彩を欠いている。ある程度の大きさに纏まり直したのは、各個撃破を防ぐ為だろう。分散して尚大きな体を周囲に拡散させ、這い寄る沼と化して弱い蟻を次々に取り込む。捕食による補強で対抗しているのだ。

 そのスライムの体に向け、大蟻が銀色の液体を飛ばす。触れたスライムの体が溶けたのを見るに、強力な酸のようだ。

 体積を減らしたスライムがそれを補うように小型の蟻を捕食し、恨みを深めた大蟻と女王蟻が魔法と酸でその体を削っていく。

 壁上からだと、黒一面だった地上に徐々に穴が空いていくのがよく分かった。蟻もスライムも黒い為、互いに削りあって減った分だけ赤茶けた地面が見えてくるのだ。


「残り個体数、どれぐらいだ?」


 奥の黒い波まで押し寄せ始めているのを見て、術式を奥側へ浸透させながらポムに確認する。俺と同じく何やら術式をいじっていたポムは、チラと奥を見てから言った。


「ざっと計算して七万弱ぐらいでしょうか。細分化したスライムの捕食が毎秒百単位。ただ、小蟻が壁になって防いでいるので、大蟻の数は減っていません。女王蟻は魔力もまだまだ余裕があるようですね」

「蟻側の数が『増える』可能性は?」

「奇妙なほど群れの中に幼虫がいませんので、急いで生体になったところでたかが知れているでしょうね。……これほどの群れなら、最低千程度は卵や幼虫もいるはずなんですが……」


 『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』は『死の行軍(モール・マース)』を行う時、必ず巣の中の卵や幼虫も移動させる。巣の全部が移動し、最終地で新たな巣を作るからだ。十万クラスの巣が移動して、卵や幼虫が僅かしかいないというのは解せない。

 だが、それらの疑問は後回しだ。


「ポム。お前の見通しなら、あとどれぐらいで『詰み』になる?」

「おそらく、五分程かと」

「力の差は」

「『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が六割前後、と、大蟻の一部が残存でかろうじて――といったところかと」

「……想像以上にスライムが善戦するな」

「力を貸せば生き残りますが」


 ポムの声に、二秒試算してから頷いた。


「核のある個体を『プティ』レベルで保護する。――ロベルト!」

「ほぇ!?」


 魔物同士の激戦を息を詰めて見守っていたロベルトが、俺の声に慌てて振り返る。


「万が一の異変があればお前が動け。殲滅させてくる」

「は!? ちょ……放っておけばほとんど決着つくだろ!?」

「いや、奴らは逃げる。群れのほとんどが死滅した状態で、『強敵(俺達)』に牙を剥くほど女王は愚かでは無い。逃せば数か月後に同じ状況になるぞ。特に女王は蜥蜴の尻尾きりに似た逃走技を使って存在をくらませるからな」


 女王が生き残れば、群れはまた復活し同じことの繰り返しになる。呪いを完全に消すには、女王を殺しきる必要があった。


「殲滅に出る。――行くぞ、ポム!」

「了解です」


 隠密を発動させると同時に軽く壁上から飛び出し、奥へと編んでおいた時空魔法の足場を伝って一気に空中を駆けた。女王を確実に葬る為には、逃がさないよう近接で仕留める必要がある。

 眼下には赤茶けた土と、無数に転がる蟻の残骸。

 生命力を失って腐葉土のような泥と化したスライムの一部。

 動くものの無い大地の遥か上を駆け、視線を向ければ黒い巨体と沼。唯一まだ生き残っている女王と大蟻部隊に、呼びだした当初よりも小さくなったスライムの残り。

 前足と胴体の一部を失った女王蟻が強烈な酸をそのスライムに浴びせかけたところで、俺はすぐ近くを駆けているポムに声を放った。


「ポム!」


 ポムが口の端に笑みを浮かべて指を鳴らす。

 次の瞬間、一抱え分程度の小さな黒いスライムが酸で死滅する粘体の中から分離した。それを空中で抱えてポムが退く。


<ィイイイイッ!!>


 『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が怒りの警告音を響かせた。

 大蟻が一斉にポムの側に走る。

 脚に力を込め、空間を蹴りつけた。

 目の前に『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』の巨体。

 もう隠密は必要ない。空間から刃を具現させる。

 乱入者であるポムに意識を奪われていた『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』が初めて俺に気付いた。目があう。凄まじい恐怖が女王の目に宿った。

 ――ん?

 頭の片隅に浮かんだ疑問を置き去りに、俺は生み出した刃を振るい――



 え?



 ブツン、と。

 音すら感じる程の強さと唐突さで、意識が黒い闇に落ちた。







 頬に誰かの涙を感じた。


 ――『彼』は、新たな鍵にはならない。


 ■■■が俺の頭を抱えている。

 □□□が項垂れるようにして頷く。


 ――『奴』は扉の主だ。

 ――『彼等』が傍にいる間は、飲み込まれない。

 ――だが、ずっとは無理だ。『奴』がいれば、時間は稼げる。

 ――もう蓋は無いのに……

 ――魂の昇華が終わるまで、時を稼げればそれでいい。


 何を言っているのか、意味がわからない。

 何故か霞む思考の中で、声だけが意識に沁みとおる。


 ――力は得た。


 ――誰が殺される?


 ――『俺』は一度死んだ。


 ――『僕』はまだ時が至らない。


 手を伸ばそうとした。

 動きを止めるために。

 けれど体は動かない。

 ただ、□□□が苦笑(わら)うのが見えた。



 ――ならば、『オレ』が殺される。






「――――ッ!!」


 勢いよく跳ね起きた。

 誰かの名を呼ぼうと開けた口からは、何の音も出なかった。

 名前も分からない。

 何が――何を――何で――頭の中で言葉にならない疑問が渦巻いている。その疑問が何であるかすら上手く言葉に出来ない。ただ、異様に頭が重く、深い飢餓すら抱くほどの疲労を感じた。

 ――これは……魔力枯渇状態……か?


「――……」


 気づけば喉も異様に乾いている。のろのろとベッドを這い、そこで俺は自分がふかふかのベッドに寝かされていたことを知った。おまけに赤ん坊の姿だ。

 ……あれ。何があったんだっけ?


「――ッ! ――!!」

「――!」


 扉の向こうから誰かが言い争いながら近づいてくる音がする。

 部屋の狭さと内装から、ロルカン支部の部屋か。

 ……あれ。なんで俺、ロルカンにいるのに赤ん坊の姿に戻ってるんだ?

 ぼんやりとそう考えたところで、勢いよく扉が開いた。水差しと果物の入った籠を持ったポムが、後ろを振り返った姿のまま飛び込んでくる。


「だから、坊ちゃんは大丈夫ですって!!」

「だったら、なんで連れて帰って来ないんだ!? あんたがここにずっと居残ってる理由もよく分から――」


 いや、どうやら後ろのロベルトに押されるようにして逃げ込んできたようだ。

 ベッドでちょこなんと座っている俺に気付いて、ポムがパッと顔を輝かせ、ロベルトが目を丸くする。


「坊――」

「あれ!? レディオンの弟!?」

「――ちゃむにゃにゃ」


 ……ポム。お前、今、普通に『坊ちゃん』って言いかけたな。ロベルトの前なのに。

 まぁ、別にいいんだが。


「はいはいはいはい! ロベルトさん! 私はこれからおむつ交換とかありますから! ちょっと席外してもらっていいですかね!?」


 おむつ交換は無いよ!!


「え!? お、おお……いやまて、なんでここに赤ん坊の弟? がいるんだよ!」

「儀式前の色々な事情でちょっとの間だけ来てるんです!」

「意味分かんねぇな!? 儀式近いなら実家にいるべきじゃないのか!?」


 ぐいぐいポムに押し出されてロベルトが扉の向こうに消えると、思い切り頑丈な結界を張ってからポムがこちらを向いた。


「おはようございます、坊ちゃん。一応、魔石を周囲に配置して供給は行ってたんですが、丸一日目を覚まさなかったから心配しましたよ」

「丸一日……?」

「ええ。――おっと」


 妙にブレる視界をポムに向けた途端、一瞬で距離をつめたポムの手が俺の両目を覆ってしまった。

 おふ?


「ちょっと諸事情ありますので、弱っている状態で私を『視る』のは御勘弁を。ちょっと失礼しますね?」


 ふと耳の横でカチカチ音がするような、奇妙な感覚がして頭を振ると、苦笑したポムが手を外してくれた。


「確認しました。ちゃんと『定着』していますね。安定もしているようで何よりです」

「……意味が分からないんだが」

「あー……まぁ、新しい能力の獲得ですね」


 ちょっと言葉を濁してポムは視線を逃がす。

 その間にテキパキとコップに入れた水を俺に渡したり、俺の背に大きなクッションをあてて寛がせたりするのは流石だったが、だからといって誤魔化されたりはしない。


「ポム。一日眠っていたというが、蟻はどうなった」


 俺の意識の最後は女王蟻を切り裂いた瞬間で途切れている。残っているはずの大蟻も、確保したはずのプティスライムのその後も不明だ。


「『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』は殲滅完了しました。『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』は坊ちゃんが殺してくれましたので、残りは私が掃討済みです」


 ポムが言う『その後談』は、こうだ。

 女王が討伐されたことにより、統率を失った『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』はポムが殲滅。

 女王討伐直後に意識を失った俺は、「『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』の最期の呪詛を受けた」という(理由)をでっち上げて、支部で現在治療中ということになっているらしい。

 尚、倒れた当時も魔力を密かに供給してくれていたらしく、赤ん坊の姿を晒すことだけは回避できたようだ。

 スライムはプティの状態で確保。

 周囲をテール達に探ってもらい、完全殲滅と安全確保が確定してから、海上に逃がしていた人々を呼び寄せたという。


「スライムも坊ちゃんの支配を受けて、大人しくしてますしね」


 ほらここに、とポムが懐から取り出した小さな筒を開けると、黒いぷるぷるしたものがにゅっと出てきた。小さな突起をつくってフリフリ振っている。なかなか愛嬌のあるスライムのようだ。

 ――食事とかどうしてるんだろうか。


「うちの食卓で出る残飯や、変異種(ヴァリアント)の廃棄部分を食べるのが気に入ったようです」

「そ、そうか……」


 何気に適応しているな。元が三万の贄で召喚できる|高位変異種《スライム《だからか、意思の疎通も容易らしい。


「街側の後片付けは、冒険者組合さんが主体になって行ってくれました。今は街壁の時以上のお祭り騒ぎになってますよ。街の外に関しては、大地の精霊王さんに協力してもらいました。あと、第二ラインの向こう側に用意してらしたゴーレム部隊なんですが、全くの無傷でしたので、整地やら色々な作業に使わせてもらいました。事後承諾の形になってしまいましたが、ご連絡いたしますね」


 どうやら俺が眠っている間に色々済ませてくれたらしい。

 ――街壁の時以上のお祭り騒ぎとか、ちょっと怖いものがあるが……まぁ滅亡するはずの街が無傷で残ったのだから、大騒ぎになるのは当然だろう。好きな様に喜ばせておくとしよう。


「ジルベルトさんも色々判明したことで大忙しになってますが、坊ちゃんの事をずっと気にされてましたので、儀式が終わったら改めてお顔を見せに行きましょうね。ちなみに坊ちゃんの儀式はすぐそこまで迫ってますので、これから実家に戻る形になります。終わるまでロルカンには戻せませんので、そのつもりでお願いします」

「う゛っ!」


 ジルベルト達やあの貴人の少年が気になるのだが、それは後回しなのか。

 いや、判っているとも。大事な儀式がもう間近なんだから動けないのは分かっているとも。


「ちなみに、今回の騒動は旦那様達にもご報告しましたので、後で坊ちゃんにお言葉があるそうです」


 なんだってぇえええ!?


「ポ……ポム……お前……」

「いくら坊ちゃんが強いとはいえ、『恨執蟻(ランキュヌ・フォルミ)』の大群とやりあうのに実家を一切頼らなかったのは問題です。そもそも、大型船の要請をしたあたりで不信に思われてたみたいですよ。途中で竜魔女史が加勢に来たのも、あちら側で独自に状況を把握されたからのようです。魔族の大群がいきなり現れるのは、坊ちゃんがやろうとしていることに悪影響になるかもしれないからと、渋々諦めたご両親のジレンマは相当なものだったと思います。しっかり怒られてきてください」


 う゛う゛……


「魔王様のほうは苦笑してましたので、そこそこの所で切り上げさせてくれると思います。――ああ、それと、これも事後承諾の形になりますが、坊ちゃんに新しい能力を取得していただきました」

「ん?」

「『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』を坊ちゃんに倒してもらったでしょう?」


 そういえば、俺が直接倒さないといけない、と言われて倒したな。

 その直後に意識が途切れてしまったが。


「坊ちゃんは気付いてないかもしれませんが、坊ちゃん自身にはちょっと他とは違う力があります。このあたりは死神さんが詳しいと思うのですが……覚えてますか? 前に神族を殺した時のこと」

「……ノルンのことか」

「ええ。その直後に、体調がとても良くなったのも、能力が強化されたのも覚えてます?」


 言われて、途中に感じていた虚脱感がノルンを殺した直後に消えていたのを思い出した。そういえば、あの時にもポムが呑気に何かを言っていたような。


「死神さんに確認をとりましたので、能力は確定しています。坊ちゃんが持っているのは“神喰らい”の能力です」

「――は?」

「神族が持つ権能の一つとほぼ同じ、命を奪った相手が持つ『神の位階』にある能力を自分のものにすることが出来る、という力です」


 ぽかんとした俺に、ポムはにこやかに告げた。


「その能力をもって、『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』の能力を坊ちゃんに取得してもらいました。坊ちゃんが意識を失ったのは、その力の暴走によるものです。情報取得過多のせいですね」

「……おい。そんな危険な状態になるような能力を……」

「今は定着してるので大丈夫ですよ。ですが、今の状態で私を『視る』とまた同じようなことになると思いますので、力の使い方――オンとオフ、読み取りの強弱を学んでください。多分、魔王さんや死神さんを『視る』のも、今の坊ちゃんだと危ないと思います。なので、儀式が終わるまで、しばらくは使わないほうがいいかもしれませんね」

「待て。その前に、お前は俺に何の力を取得させたんだ!?」


 俺の声に、ポムはそれはそれはイイ笑顔で言った。

 まったく悪びれない声で。



「【全眼(アヴィ・ディクスペア)】です」





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