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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 港街再開発
59/196

幕間 俺の愛する幼馴染(♂)が一歳を迎えた件





 実家に帰ってきた。

 ほぼ一瞬で転移した体の状況をサッと確認して、俺は気配を殺して部屋の外を(うかが)う。

 右、よーし!

 左、よーし!

 左右確認して俺は連結済みの『無限袋』に合図の玉を放り込んだ。

 ちなみに金玉である。

 これの指定はシンクレアからだ。ロベルトが妙に胡乱な目をしていたんだが、何か勇者的に気になる暗号でも金玉にあるんだろうか?

 純金製だから、売ればいいお値段ではあるが。


「あとは、再稼働してあいつらが来るのを待つだけか」


 転移装置は、一回使うごとに冷却期間がいる。このあたりは、大規模輸送が可能な転移門と同じだ。

 転移魔法陣の組み込まれた床に足を踏み入れ、法則に(のっと)って行き先を指定すれば移動はほぼ一瞬。これほど移動時間を短縮できるものも無いだろう。今は三か所としか連結されてないが、いずれ各地に設置する予定である。


「……しかし、あと四十七秒、暇だな」


 今回の大陸間転移装置だと、冷却期間はだいたい体感一分ぐらいだろうか。数十秒とはいえ、ただ待つだけなのは意外と時間が長く感じられるな。


「……」


 あと三十二秒か。


「……」


 まだ二十七秒あるのか。


「……」


 ――今の間に、念入りに周囲を見ておこうかな。

 俺はそっと転移部屋から顔を出した。何故かポムには「絶対部屋の中から出てうろちょろしないでくださいよ」とか「一分程度も待てないとか言いませんよね?――言いません、よね?」とか腹立つくらい念入りに言われたが、あいつは俺を何だと思っているのだろうか。

 無論、俺は大丈夫だとも。

 そして時間を無駄にしない男だとも。

 こうやって顔を覗かせるのは、例え先にメモで『一時間だけ人払いをしておけ。お前達が留まることも許さん』と伝えてあっても、うっかり第三者が部屋の前を通ったりしたら大変だという理由による確認なのだ。決して暇つぶしでは無いとも。そしてうっかりでも無いとも。

 ――ふ。見るがいい。綺麗に誰もいない廊下を。

 まだ十五秒以上あるからもう少しばかり足をのばして――


「おや、レディオン様。お帰りなさいませ。奥方様がお帰りをお待ちしておりましたぞ。ご同行をお願いいたします」


 アッ――!!






 捕まった。

 扉から出て二秒で捕まった。

 相手がノーランなら仕方がない。なにしろ我が家の家令にしてポムと双璧をなす最強執事だ。何故かファッションで老執事姿をとったりしているが、もちろん若々しい姿に戻ることも可能である。

 しかし、困った。

 なにしろ、ノーランは優秀だ。そして強い。俺がそっと気配を殺したところで、一秒とかからず見つけ出してしまうだろう。――つまり、撒けない、ということだ。

 しかもノーランは父様の命令をきっちりこなす仕事人だ。大事にしてくれているが、俺のことは眼中にないらしく、不要な接触も避ける気配もあって『おねだり攻撃』が一切通用しない。ノーランが俺を母様の所に連れて行く、と決めたからには絶対に連れて行かれてしまうのだ。

 ……こいつに俺の魅力が通用する日は、来るのだろうか……?


「レディオン様も、あと幾日かで儀式ですな。家人一同、非常に楽しみにしております」


 どこか嬉しそうにそんなことを言うノーランは、好々爺の顔で微笑んでいる。相変わらず品の良い微笑だ。

 いつか老執事姿の時に「おじーちゃん」と呼んでみたいと思っているが、きっといつもと同じように「ふ……」と微笑まれてしまうのだろう。いつかこの鉄壁の微笑を驚愕に染めてみたいと思うのだが、とてもじゃないが出来そうな気はしなかった。

 しかし、困った。

 なにが困ったかというと――ポムにドヤ顔で「それみたことですか!」とプギャーされてしま――違う!――密かに連れてくる予定のロベルトをフォロー出来ない事だ!


 そう、これから家にロベルトが来ることになっているのである。

 次期魔王宅に勇者来訪である。

 無論、パッと見てそう把握されないように工夫はしてある。元々、勇者を勇者たらしめている『祝福』と『加護』は、余程強烈なものでない限り目につくようなものでは無い。俺やうちの上級魔族の連中なら察せれるだろうが、中級以下であれば「強そうな人間だな」ぐらいの認識でしか無いだろう。

 それでも、我が家に来るとなれば、用意は必要だ。なにしろ、我が家には上級魔族がわんさかいる。多分、今なら母様も上級ランクだろう。……母様のハイパー化が留まるところを知らないな……


 さて、そんな上級魔族だらけの場所に勇者が入るには、それなりのものが必要となる。――そこで必需品となるのが、神々の祝福すらを上回る超加護添付品!

 その名も『魔王の友情』! 命名、俺。

 戦士がしていても違和感のないシンプルかつ優雅な腕輪で、俺の魔力(ゆうじょう)がたぷりと込められている。ちなみにオリハルコン製である。奮発してやったとも。俺のお菓子用お小遣いが消えたとも。


 勇者として生まれながら備わっている『祝福』と『加護』は、勇者が生まれた時に本人の希望を問わずして押しつけられる固有才能(タレント)だ。詳しく言うなら、『神々の祝福』と『精霊の加護』だな。これは生まれ持った先天的な能力である為、余程の事がない限り消失することは無い。

 だが、それを上回る上位者の加護ないし祝福があれば、隠してしまうことは可能だ。

 その為の『魔王(おれ)魔力(ゆうじょう)』――『魔王の加護』である。


 ジルベルトと違って存在そのものにあたえる庇護でないのは、一応は『勇者』であるロベルトの体裁を考えたからである。俺が庇って護らないといけないジルベルトと違い、ロベルトはそれなりに強いしな。

 ……何故かロベルトには「そんな体裁いらねー」とかぼやかれたが、もしかして俺はロベルトにデレられたのだろうか。ロベルト、俺の庇護に乗り換えておく?


 それはともかく。そんな風にしてまでロベルトを我が家に招待したのは、前回のロベルトがほとんど我が家を見ていないせいである。

 なにしろ行きも帰りもぐったりしてたからな。シンクレアの部屋とシンクレアの裸と廊下の一部ぐらいしか見てないんじゃなかろうか。

 そこで、今回俺の帰宅にあわせてロベルトを連れてくることにした。なんだか凄まじい勢いで遠慮されていたが、そこは空気を読む男、俺&ポム。遠慮するロベルトをシンクレア挟みにしてお客様一名ご案内と相成ったわけだ。

 俺が先に転移するまでの間、ロベルトの全力遠慮がなかなかに初々しかったがな!


「それにしても、本日お帰りになることをお伝えいただいておりましたら、家人一同でお迎えいたしたのですが……レディオン様におかれましては、なにか内密の行動であられたのでしょうか」

「!」


 おお! ノーランよ! よくぞ気づいてくれた!!

 そう、内密の行動だったのだよ。

 勇者を次期魔王邸に招くスペシャル十時間だったのだよ。

 そして我が愛するルカを自慢するスペシャル二十四時間だったのだよ。

 だから母様の所に行くのはちょっと待ってね?

 引き返してね?


「もしそうでありましたら、奥方様ならきっとお話に乗ってくださいますでしょうから、せめてあの方にだけはお言葉をおかけいただきたく。――もう着きましたので」


 酷い!! ぬか喜びもいいところだよ!!

 あまりのことに凍り付いている俺の前で、音もなく扉が開く。

 小部屋を挟みもう一つ抜けた先に待っていた母は、俺を見てにっこりと笑った。


「御苦労さまでした、ノーラン。礼を言います。――お帰りなさい、レディオン?」


 母様に丁寧に一礼し、俺を降ろしてノーランが礼儀正しく退出する。それを思わず目で追ってしまったが、無論、ノーランが振り返って俺を連れて行ってくれるわけもない。


「さて、レディオン。無事に捕まえれてなによりです」


 ああ、これは駄目だ。逃げられない。

 笑ってるのに目が笑ってない。この前、どさくさに紛れて採寸途中でトンズラしたのを未だに覚えているらしい。もう二十四時間ぐらいたっているのに。――忘れていいんですよ? お母様。


「あなたが今日帰ってくることは分かっていました」


 今日、帰宅することは父様とクロエにしか告げていない。

 とはいえ、隠せれるとは思っていなかった。というか、見抜かれて当然の日なのだ。

 じりじりと後ろに下がろうとする俺を見据え、神々なんて目じゃないぐらいの美しさで母様は微笑んだ。

 そうして、自身の後ろのものを俺に見せる。


「――あなたのルカは、ここですよ」



 ルカ―――――ッ!!






 

「ルカ!」


 十歳児バージョンから即座に赤ん坊に戻り、ワンツースキップで抱きついたルカは、儀礼服姿で素晴らしく可愛かった。

 おお! 流石は俺のルカ!! なんという可愛さだ! もはや存在そのものが罪だな!


「れでぃおたま! おかえりなあい!」


 ルカがぎゅっと俺を抱き留めてくれる。

 ルカはまだ「さ行」が苦手だ。分かるぞルカ。俺もそこの発音にはしばらく練習が必要だったからな。

 ちなみに俺の名前に「さま」が付くようになったのはクロエの指示だ。「ン」が抜けてしまっていることについては、謎である。

 ……ルカ……もしかして、俺のちゃんとした名前、知らないってことは……ないよね……?


「レディオン様、お帰りなさいませ。わざわざお声がけいただき、ありがとうございます」


 ルカのすぐ傍らでクロエが深々と頭を下げる。母様の後ろにそっと二人して隠れていたらしい。――母様が怖すぎて気付けなかった俺は、ルカへの愛が足りないということなのだろう。なんということだ!


「こうして、エマ様だけでなくレディオン様にも、ルカの晴れ姿を見ていただけるなんて……光栄です」


 涙目のクロエに、俺は満面の笑顔で言う。


「俺がルカを祝うのは当然だ。何があろうと、俺の第一の側近はルカ以外にありえない。そんなルカの誕生日だ。何をおいても駆けつけるとも」

「レディオン様……!」


 きゅっとルカを抱きしめつつクロエに告げれば、クロエは頬を染めていっそう目を潤ませ、母様は目元をぴくぴくさせる。

 ……母様……何故、好物目なのですか……?


「ね、クロエ。言ったとおりでしょう? ルカはレディオンにとって大切な大切な大切な子です。あなたも、誰に何を言われようと胸を張りなさい」

「エマ様……!」


 はらはらと涙を零すクロエを抱きしめて、母様が慈愛のこもった眼差しで微笑んだ。何か母様の言い方に微妙に気になる部分があった気がするが、ルカが大切なのは確かだから気にする必要は無いだろう。……多分。

 俺は友情を確認しあう母様達から視線を外し、可愛いルカの方を見た。

 ルカが着ているのは一歳の誕生を祝う為の儀礼服だ。逃げまくって採寸をしない俺と違って、きっと母様達の玩具になってしまったのだろう。随所に母様の趣味が反映されているが、魔族でも指折りの美形に育つルカにはとても似合っている。流石だ。久しぶりにスカートでは無いルカを見たというのが、俺的にはとても気になるが。


「ルカ。よく似合っているぞ。着心地はどうだ?」

「あしがもぞもぞするの」


 ルカが股をもぞもぞさせた。微妙に窮屈そうだ。

 やだ!! 女装(スカート)の弊害が出ちゃってる!!


「ルカ。男にはそれが普通だ。普通なんだ。解放感はあってはならんのだ」

「かいほーかん?」

「あら、レディオン。ルカは可愛いから――」

「あってはならんのだ。いいな? ルカ。その恰好はとてもおまえに似合っているから今後はズボンでいような? 俺との約束な?」


 わりと切実に言う俺に、母様がしれっと持論を押しつけようとしてくるが俺も負けない。いや、負けてはならんのだ。ルカの為にも!


「れでぃお、やくそく!」

「そうだ! 約束だ!」

「かわりに、れでぃおも、おようふく、つくる?」

「作るとも!」


 言ってしまってから、母様がにやりと笑う姿に硬直した。

 ――あれ。ルカ。どういうことなの?

 あと母様、そんな「しめしめ」みたいな顔するお人でしたか? どういうことなの?

 クロエ? クロエはどう――嗚呼! すんごく申し訳無さそうな顔してる!! 罠か! 罠だったのか!! 俺の純粋なルカ心を利用したな!?


「……ルカ……」

「れでぃおたま、いっしょ!」


 俺の悲しい眼差しに、ルカは邪気のない笑顔で言う。

 そうだな。一緒だな。御揃いの儀礼服作ろうな。――くそぅ……この攻撃、勝ち目が無いな。

 ひっそり敗北を認める俺に、母様がいきいきと採寸を始めたのは言うまでもない。







「――で、この有様ですか」


 二時間後、疲れ果てた俺がルカに「よしよし」されながら床に転がっていると、そんな声が聞こえた。

 あ、ポム。


「まぁ、ポム。お帰りなさい」

「ただいま帰りました、奥様。そしてクロエ様とルカ様。――坊ちゃんは、あとでちょっとOHANASIがありますよ?」


 あ! 忘れてた!!

 思わず飛び起きると、そのタイミングでひょいと抱き上げられた。あふん。


「(赤ん坊のフリしてくださいよ)」

「?」


 何故だ、と言いかけ、俺は目の合ったポムの隣の男に再度ビクッとなった。

 ――ロベルトだ。

 そうだ。ロベルトを我が家にご招待してたんだった。なんだかロベルトのことは妙に頭の中から消えやすいんだが……おかしいな。存在感だけならポムのほうがよっぽど薄いんだがな。ポムは薄いのに濃いからかな。


「……」

「……」


 ……やだ。ロベルトにじっと見つめられている。

 駄目だぞ、ロベルト。俺にはルカがいるから、お前の愛には応えられないぞ! そして俺の頭を見るんじゃないぞ!

 ひっそりと背中に汗をかきはじめた俺に、ポムがいい笑顔で俺の背をポンポンする。貴様……

 と、いうか、


「(なんでこの部屋に連れてきた? 俺の部屋で待っていてくれればよかったものを)」

「(私も奥様のお部屋に案内するのは迷いましたよ? けど、仕方ないでしょう。坊ちゃんが帰って来たらしいと知って、他の執事達が用事を作って来ようとしてたんですから。あと旦那様も)」


 ――あ。それは詰むわ。いくら腕輪与えてても詰むわ。

 で、俺が実際にいるこの部屋に来たと。

 俺のいない俺の部屋に居座るのも無理があるから、仕方ないか……というか、どうあがいても俺のせいなのだが。

 じわ、っとさらに背に汗の浮いた俺と違い、母様の方はやって来た他の一人に笑顔になった。


「まぁ! クレア様!」

「奥方様。お邪魔しております」

「いらっしゃいませ。貴女もレディオンと一緒に向こうの大陸に行っておいでだったのよね?」


 あ。やばい。母様に口止めしないと。

 俺はジェスチャーで俺を指さし、「(しー)」と伝えた。

 母様、クロエ、ルカの三人が、きょとんとした目をした後、不思議そうにしつつ頷く。


「はい。今回はポム様達と一緒にまた帰って来させていただきました。……このような姿で失礼いたします。何分、事情がございまして……ご容赦いただけましたら幸いに存じます」


 俺をポカンとした顔で凝視するロベルトの傍らで、シンクレアは正妻(かあさま)に丁寧に腰を折る。

 愛妾と正妻。前世だったら絶対こういう場は発生しなかっただろう光景だな。


「お隣の方は、レディオンが抱っこで運んできていた方ですわね? 事情、お察しいたしました。どうぞ顔をお上げください、クレア様。私は貴女に恩があります。かつて謀殺されかかった私を助けてくださったのはクレア様ではありませんか。そのお方にそのようにされては、私の立つ瀬がございませんわ」


 ……なんか今、さらっと怖い『当時』がさらけ出されたぞ……?


「ですが、せめてその後も屋敷にいられれば、もう少し手は打てましたのに……私は私の事情を優先して奥方様を危険地に置き去りにしてしまいました」

「仕方がありませんわ。どうかお気になさらないで。少ない時間ではありましたが、かつてのこの家での生き残り方をお教えくださった、それだけでどれほどの助けとなったか……」

「奥方様……」

「どうかエマとお呼びになってください、クレア様」

「エマ様……!」


 ひしっと抱きしめあう美女二人に、後ろのクロエが安堵の涙を浮かべてうんうん頷いている。

 多分、相当大変なことがあったのだろう――かつての我が家で。父様は全く役に立たなかったのだろう――かつての我が家で。

 ――というか、家が危険地って呼ばれるレベルの状況って、どうなの父様。


「(なぁ)」


 放置されていたロベルトが、ポムの肩をちょいちょいと指でつついて声を潜める。


「(とんでもない美女が二人増えてるんだが、誰なんだ?)」

「(ああ、坊ちゃんのお母様であられるアルモニー様と、坊ちゃんの大事なルカさんのお母様であられるクロエさんですよ)」

「(魔王の母親……!?)」


 なんかロベルトがショック受けた顔してる。

 まさか我が母上に懸想なぞしたのではあるまいな……?

 クレアさん、やっておしまいなさい!


「今。レディオン様から指令をいただいたような気がいたしますわ。――ロベルト様、御覚悟はよろしくて?」

「どういうこと!? というか、そのレディオンは何処に行ったんだ!?」

「坊ちゃんは海よりは浅く空よりも低い理由でちょっと(いつもの)お姿を見せられないんです」

「だいぶ意味不明な理由がありそうだな!?」


 思い切り腰を引き寄せられて顔を引きつらせるロベルトに、ポムがいけしゃあしゃあと言ってのける。視線で問いを発する他三名に、俺は口パクと首横振りで伝えた。

 三者一同、コックリ。

 流石は俺のルカ。一歳なのに色々察してくれた。

 そんな可愛いルカは、俺を見て首を傾げる。


「れでぃおたま、おきゃくさま?」


 察してなかった!!

 一歳児には難しかったか! そうだよな……!!


「ええ。お客様がいらっしゃっているんですよ」


 ポム。ナイスフォロー!


「ところで、そろそろルカさんの儀式の時間だと思うのですが」

「そうね。魔王様もそろそろいらっしゃる頃ね」

「!?」


 ポムと母様の声に、ロベルトがギョッとする。

 そう、多忙で大人気の我らが魔王(サリ)は、今日という日に我が家に来訪するのである。

 実の所、まだ全容が把握されていない某俺殺害計画の糸口の一つ、『ヴェステン村AM騒動』の調査再開にかこつけたお宅訪問だ。情報収集や現場検証は終わっているはずなので、あとは『過去視の魔眼』を持つ魔族達との話し合いだろう。ベッカー家の方を先に調べてくれていたから、魔眼持ちの魔族が来るのは来週の予定だが。


「魔王……って、当代、の?」

「そうです。ちょうどこちらの領地においでになるので、ルカさんの儀式を行ってくれることになりまして」


 ロベルトの声に、ポムは頷く。


「儀式?」

「一歳のお誕生日おめでとう、の儀式です」

「御誕生日会じゃないか!」

「そうとも言いますね~。うちの伝統なんですよ。やっぱり赤ん坊は体が弱いですからね。誕生日を迎えてくれるのはとても嬉しい事なんです」

「そ……そうか……そうだよな」


 ショックを受けたような顔で納得しつつ、ロベルトが俺に視線を向けた。

 お?


「――で、こっちの……レディオンに似てる赤ん坊も?」

「こちらの坊ちゃんはもうちょっと後ですね。坊ちゃんの儀式が終わったら当代様もお帰りになる予定ですよ」

「魔王の滞在する家……やべぇ……俺生きて帰れるのかな……」


 ロベルトが顔を覆ってしまっている。色々と怖い想像をしているのだろう。俺がいる限り、怖いことなど起こさせるはずが無いのだが。


「大丈夫ですよ。ロベルトさんは、うちの坊ちゃんが直々に『次期魔王のたっぷり加護』を与えてる人ですよ? ロベルトさんに何かするということは、坊ちゃんに喧嘩売るってことです。安心して泥船に乗った気分でいてください」

「水に溶けて沈みそうな船だなそれ!?」

「やだな~。ちゃんと焼いて硬くしておきますよ」

「それはそれで浮かないだろ!?」


 なんだか楽しそうだ。まぁ、この二人は放っておいても大丈夫だろう。


<母様。ロベルト達を儀式場に連れて行ってもかまいませんか?>


 俺が【伝言(メッセージ)】を飛ばすと、母様はくすくす微笑った。


<最初からその予定なのでしょう? その方の背景については少し気になりますが、あなたが押さえるというのなら許可いたしましょう。けれど、魔王様と死神様には近づけてはいけませんよ?>

<それは勿論>


 なにしろ当代魔王と当代勇者だ。いきなり戦闘勃発とかは無いと思うが、どんな作用が発生するか分からない。


<ポム。母様の許可はとったぞ>

<了解です。まぁ、奥様の許可をとれたのは幸いでしたよ。坊ちゃんったら、こっそり行おうとするんですから……>


 うるさいな。俺のルカをロベルトに見せつけてやりたかったんだから仕方ないだろ!?

 あと俺もルカに会いたかったし。ついでに晴れ姿を出来るだけ沢山の人に見てほしかったし。


<だからといって、なんで勇者さんを招こうとか思いますかねぇ……>


 心読むんじゃありません!!


「さて。では儀式に参りましょう。レ――」


 母様がとっさに俺を呼びかけ、口を噤み、にっこり笑顔で誤魔化して両手を伸ばした。


「レオン、いらっしゃい」


 俺に二つ目の名前が出来たようだ。偽名を名乗る時はレオンにしよう。そうしよう。


「ルカにご挨拶なさいね」


 ルカを抱っこしたクロエに近づき、俺とルカがくっつけるようにしてくれる。

 ルカが俺に手を伸ばし、俺はルカを抱きしめた。


「(おまえが生まれて来てくれた日に感謝を。おまえの全てを見守っている――しっかりと、サリに祝福されてこい)」

「あい!」


 こつんと額を合わせて小声で言った俺に、ルカは笑顔で声を張り上げる。うむ。気合も充分だ。しっかり儀式を受けて来るんだぞ、ルカ!


「――なぁ、ルカって、確かレディオンの言ってた『最愛の未来の側近』?」

「そうそう。目に入れても痛くないぐらいに溺愛してる未来の側近さんです。可愛いでしょ~」

「あー……なるほどなぁ……」


 なんだかロベルトが納得している。

 ふ。俺のルカの可愛さに気が付くとは、なかなか見る目があるな!

 今度、俺の得意料理『兎鍋』を御馳走してやるぞ!


「では、参りましょう」


 母様の声で、俺達は動き出す。




 その後、ロベルトが勇者であることが死神にバレて、一騒動あったのは秘密である。






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