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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 港街再開発
58/196

幕間 魔王(暫定)の想像する自分像がおかしい件



 俺の今の名前はロベルト・バルダッサーレ。自分で言うと微妙な気持ちになるが、一応『勇者』の資質持ちだ。ちなみにこれっぽっちも望んでない。痛い人でもないぞ。俺自身が痛い気持ちだ。


 この『勇者』というのは、身体的魔力的な高成長を果たす『人間の突然変異』みたいなもので、たちが悪いことに、両親どころか分かる範囲のご先祖様を振り返ってみても『例』なんて無い。本当に突然こういう資質の人間がポロッと普通の家に生まれるのだ。迷惑だ。


 俺は子供の頃から打たれ強く、体力もあり、戦闘力も高く、魔法も使えた。周りと全く違うことに最初は戸惑った。あれはいつだったろうか……細かく思い出すと微妙な気持ちになるから、物心ついた頃、とだけ言っておこう。

 俺は要領のいい子供だった。自分が異端だと本能的に分かっていたからだろうか。両親が深夜に深刻な顔で、『妖精の取り替え子』だろうかと話しているのを聞いた時から、力を抑えて生きることにした。完璧では無いが、大騒ぎにならなかったのでそこそこ上手くいっていたと思う。


 俺の家は普通の商人一家で、店一つしかないのに子沢山だった。兄貴二人はいいとして、俺以下の子供はどうやって生計をたてていけばいいのやら……

 それでも、商売の為に勉強できたのは幸いだったろう。弟達にもしっかり勉強するよう薦めておいた。外に行くにも、街に残るのにも、計算が出来た方が重用されるし、交渉術はあったほうがいい。少なくとも、両親は独り立ちが出来るように俺達の教育に熱心だった。だから俺も、自分の行くべき道をすぐに決めれた。


 行商人だ。


 漠然と感じていたのは、一カ所に留まって生活するのは不可能だということ。

 こんな体で、異端を抱えて、普通の生活を送れるとはとても思わなかった。

 寂しくなかったわけではない。

 ただ、どうしようもなかった。



 化け物と呼ばれる前に、大切な人達から別れるしか、自分を守る術が無かったのだ。





 行商人生活は、失敗と成功の繰り返しだった。

 嘘をつかれ騙されることもあったし、逆に他を出し抜いて成功することもあった。

 金はそこそこ貯まったが、大金持ちというより小金持ちだった。大きな取引を一度でも失敗すれば、それだけで借金にまみれて奴隷落ちするだろう。そんな程度だ。


 行商人の生活で何が一番よかったかというと、街から街へ渡り歩いても不審に思われないことだ。

 無職であっても、傭兵であっても、不審の目で見られただろう。

 冒険者になるという選択肢もあったが、とらなかった。

 元々勉強好きで本好きなのがたたって、そこそこ余裕が出ると街の図書館に行ったり、古い言い伝えを今も受け継いでいるおばあさん達の話に耳を傾けてきたせいか、色々と世界の裏側を知ってしまったせいだ。

 別に、冒険者に何かあるわけでは無い。

 冒険者組合に何かあるわけでも、無い。


 ただ、自分の異端がどういうものなのか、旅の間に集めた情報で、漠然と理解しはじめていた。


 目立てば、目をつけられる。

 商売でもそうだが、この能力についてもそうだとすぐに分かった。

 例えば魔法。現在、俺と同等の魔法を使えそうだと思えるのは、聖王国の聖女か、帝国の大魔導士ぐらいだった。最低でも、そのレベルなのだ。冒険者として登録すれば、すぐにどこかからスカウトが来るだろう。

 それが怖かった。

 もし、自分が自分の考えている存在であれば、どうなるのか。それが分かっているからだ。

 恐怖の理由は、知識の中にある。古い伝承を紐解いた中にある。

 それでも、確証は無かった。十中八九そうだろう、とは思っていても。

 確証の無い想像は妄想のようなものだ。妄想のままで終わってしまえばいい。当たっていなければいい。信じてもいない神にそう願いもした。


 想像は、あたっていた。

 希望は、砕かれた。


 ――俺は確かに、『勇者』だった。



 俗に『精霊王へ至る英雄の道』と伝わる神殿を無視してとって返し、よりいっそう身を隠し、普通を振る舞い、気付いてしまったことから目を背けて行商の旅を続けている中で、辺境の港街で彼等に出会った。

 ――魔族。それも、恐ろしく高位の。

 なぜ、こんな辺境の街にいるのか。

 なぜ、商人のフリをしているのか。

 分からなかったが、放っておくことは出来なかった。

 正直、ものすごく迷った。それはもう最後にコイントスで決めたぐらいに迷った。


 コインは『関わる』を示していた。


 そうして、俺は出会うことになる。

 普通、こんな場所、こんな状況で出会うことのない存在。全ての魔族の頂点――




 『魔王』と。







「だから怒るなって言っただろ?」

「そうは言うが、あれはいくらなんでも自分達を棚に上げしすぎだろう」


 港街、新正門の上。

 恐ろしく頑丈に出来ているデカイ壁、というより、長い城みたいな建造物の最上部で、俺は小さな相手を見下ろしていた。

 本当に小さな相手だった。背丈など俺の胸ぐらいまでしかない。――いや、胸にも達してねーわ。ほんとちっこいわ。

 年の頃は十歳くらいだろうか。フードを目深く被っているが、わずかに見える口元だけでとんでもなく美しいのが分かる。その身に内包する魔力は、かなり抑えているだろう今ですら、目眩がするほど強烈だ。


 魔王。


 伝説の存在であり、およそ出会う確率など万に一つもなく、出会えば死あるのみと言われている者。

 特に教会が伝える『魔王』は恐ろしく凶悪で、俺自身出会えば死ぬしかないなと思っていた。

 まぁ、その伝説にある魔王はドラゴンだったり蛙だったりと、微妙に両生類が多いのだが。

 ……いや、ドラゴンって両生類か……?

 まぁ、似たようなもんか。


「なんでたいして会ったこともないのに、他種族をそこまで貶せるのか……だいたい、俺なんて出会う前から諸悪の原因呼ばわりだぞ。俺が何をした?」


 御年十歳ぐらいの魔王陛下はいたくご立腹のようだ。

 残念ながら表情は全く動いてないし、声のトーンもそれほど変わってないので分かり辛いが、なんとなく怒っているのは察せれる。あと、ものすごいしょんぼりしてるのも。

 ……というか、こいつは時々不思議な言い方をするな……


 俺が出会ったこの『魔王』は、レディオン・グランシャリオというらしい。

 ちなみにロルカンに根を下ろした新規大商会のボスだ。

 ……魔王なのに何をやってるのか……いまいちよくわからん奴だな……


 最初は人間社会を裏側から支配するつもりなのかと思ったが、どうも違うっぽい。

 しばらく付き合っていて分かったのだが――この魔王は、アレだ。


 あほの子だ。


 いや、頭は悪く無い。というか、かなり良い。むしろ良すぎて発想が常人じゃない。

 ボロい屋敷だと下に見られるだろ!? とか言って領主邸改築したのはついこの前のことだ。

 一晩で新築状態になった。

 ついでに空っぽの屋敷内に豪華な家具配置した。

 資産価値爆上げどころの問題じゃねェ。こいつが設置していった家具、どれもこれも一財産だぞ。どんだけだよ。


 護衛も必要だからな! とか言って廊下に配置するのが精霊銀甲冑(ミスリルアーマー)だ。どこの魔王城だよ。しかもどう見ても特異個体(ユニークモンスター)だぞ。時々ひっそりマッスルポーズとってる精霊銀甲冑(ミスリルアーマー)とか初めて見たわ。誰の趣味だよ。魔王のか? 癒されねーな。


 おまけにあのトイレ!

 水で流れていく排泄施設(トイレ)

 あんなの城にだってねェだろ!? 魔族はアレが常識って、マジか!? 魔族どんだけ生活レベル高けェんだよ!?

 金持ってて魔力高くて体丈夫で生活レベルが数百年先行ってるって……あ、これ、戦ったらアカンやつだわ。人類滅亡フラグだわ。


 ――そういや、この前ぶっ倒れてる間に連れて行かれたこいつの実家、胃が痛くなるぐらいデカくて豪華だったな……さすが魔王ってところか。

 つーかアレ、魔王城じゃねーの? いいの? 俺一応『勇者』だぞ。いや、別に何かする気じゃないが。勇者になる気もないが。

 ……俺、よく命あったな……普通だったら人生終了してるだろ……


 しかしまぁ、屋敷もとんでもなかったが、この壁もとんでもねーな。

 俺達が立ってる壁は、デカイ国のデカイ城壁クラスの巨大なやつだ。魔法で一気に建ててたが、正直俺は腰が抜けかけた。

 とりあえず言っていいか?

 ありえねー。

 なんで『街壁』の厚みが十メートル超えてるんだよ。中に空洞もってるんだよ。壁自体の厚みが前後それぞれ四メートルちかくあって中に穀物とか貯蔵できるようになってるんだぜ。

 壁収納は主婦の夢だろ!? っておまえはどこの主婦だよ!? 知らねェよ! そもそもどんだけ収納力もたせてんだよ。街壁が街の貯蔵庫とか、考えるのおまえだけだろ!?

 ……こいつの発想、わけわかんねェな……


 だいたいにして、こいつが街門作った理由てのがありえねェ。

 今のロルカンの街が不衛生だから新しくしたい。

 住んでる人を放り出すのは無理。

 それで導き出した結論が、街門より外の広大な土地を購入してそこに新しい街作るから引っ越させようぜ! ときたもんだ。どういう発想だよ。つーか一晩でやるなよ頼むから。


 しっかり街門も街も作っちまったこいつに今更どう言えばいいか分からねェけど、なにがこいつをそんなに駆り立ててるのかサッパリすぎて気味悪い。

 おまえ、魔王だろ?

 なんで人間の街充実させてるよ?

 魔物(モンスター)素材の部防具とか流通させてどうすんの?

 人間強くなったらおまえが困るんじゃないの?

 ――いや、確かに「俺の敵は人間じゃない」とか言われたけど。あれ、まさか本気だったのか?

 いや、見てたら分かるけど。

 嫌でも分かっちまうけど。

 ――おまえ絶対、紙一重のタイプのあほだろ。


「――だいたいな、おまえ、そんだけ色々できて寿命も長くて強い『魔王』なのによ、いちいち俺達人間の評価とか気にする必要無いんじゃね? 魔族ってアレだろ。存在そのものが卑怯じみて強いだろ?」


 俺の声に魔王はむっと押し黙る。

 さっきからこいつが気にしてるのは、俺の言った『人間が想像してる魔族像』だ。


 破壊の象徴。

 欲望の権化。

 戦闘を好み、猜疑深く、他を支配することに心血を注ぎ、弱者を貶め、生命を脅かすこの世全ての悪。


 ぶっちゃけ、大神殿のお偉いさんやら教会やらが声高に広めてる内容だ。俺のいた町なんかはそこそこ田舎だったから『魔物の主で、魔物を使って悪い事をする怖い連中』みたいな扱いだったが、まぁ、悪の権化扱いには違いないわな。

 で、だ。

 それを伝えたらこの魔王、即座に怒りやがった。

 表情全く変わらない無表情なのにめっちゃ怒りやがった。

 全部『人間』のことじゃないかッ!!――って、いやほんと、ぐうの音もでねーよ。うん。わりとマジで。

 だけどなぁ、かりにも魔王がだぞ?

 そんな陰口みたいな悪口にいちいち目くじら立てる必要ねェだろ?

 だって魔族だぜ?

 一体で聖騎士百人殺せる魔族だぜ?

 その最強の王だぜ?

 人間なんざ束になってかかったところで鼻歌混じりに殲滅できるだろうに。

 ――いや、逆にだから腹立たしいのか?

 てめェちょっと生意気言ってんじゃねーよ的な?


「…………だろ」


 ん?

 なんか言ったか?


「……たら…………だろ」


 いや、声ちっちぇーよ。なんだよ。俯いてポツンて零すなよ。地面に話しかけても返事は返ってこねーぞ? 俺はこっちだぞ?

 ……ていうか、頼むから全身でしょんぼり感だすなよ……俺が困るからよ……


「……頭から決めつけられたら……ずっと俺達は敵扱いだろ……」


 ……。

 …………。

 ………………ハッ


 やべぇええええええ!! 今ヤバかった!

 おもわずこいつの頭わしゃわしゃしそうになった! どんな罠だよ!? 危ねーな!?

 というか、こいつ、敵扱いが嫌なのかよ。

 いや、普通に考えて敵扱いになるだろ。何千年単位で洗脳されてると思ってんだよ。

 あー、いや、だからしょんぼりしてんのか? おまえ魔王だろ? あれ、まだ魔王じゃないんだっけ? いつ魔王になるんだ?


「敵扱いっつっても、まともに戦いになりゃしねーだろ? 魔族にだって国とかあるんだろうし、人数もいるだろ? 一体一体が強烈に強いのに、そんな連中にこっちから戦争吹っかけたりするわけねーじゃ……」


 いやちょっと待て。

 おまえそこでそんな虚ろな目ぇ向けんなよ怖ぇよ何事だよ。

 ただでさえ心臓に悪いぐらい美形なんだからもうちょっとこう、な? 表情和らげようぜ? 綺麗すぎて怖いんだよ余計に。

 ……て、どっかの国がアホやらかしでもしたのか? 俺は全力で戦争から逃げるぞ?


「……別に、今はまだ、戦端は開かれてない」


 ないのかよ!!

 つーか『今はまだ』って怖い言い方するなよ! そんな未来はいらねェよ!!


「おまえ達人間は、臆病でキレやすいからな」


 ……サーセン……


「いつどんな風に戦いをふっかけられるか、分からない」


 ……反論の余地がありません……


「でもよ、それなら、人間の生活を向上させてどうするんだ? 魔物退治して人間守ったり、魔物素材融通したり、強い武器やら防具やら売ったり。おまえがしてるのは、敵を育ててるようなもんんだろ?」

「間違えるなよ、ロベルト」


 魔王はうっすらと微笑(わら)って言う。


「『人間』という種族は、俺達にとって敵じゃない。力の差がどうとかでなく、命ある者としてだ。実害を与えられたわけでもない俺達に、人間を滅ぼす意思は無い。おまえ達から手を出してこない限り、俺達はどこまでいってもただのお隣さんだ。大陸規模のな」

「お、おう」


 いや、その笑顔も怖ェよ。俺の腰が抜けそうだぞ。


「隣人とは、仲良くしたいと思うのが普通だろ?」

「……それはまぁ。すくなくとも、嫌な思いはしたくねーよな」

「そうだ。……だが、中には、俺達を殺して俺達のものを奪いたい連中もいる」

「……」

「地位と金のある連中は、特にその傾向が強い。心ある者は追いやられ、消されることも多いだろう」


 俺は、ふとこの地方を治めている若い領主のことを思い出した。

 不幸続きで頼るべき者を失い、心無い親族に借金を負わされ――目の前にいる、この魔王が助力しなければ、いつ力尽きてもおかしくなかった少年を。


 ――心ある者は追いやられ、消されることも多い


 では、この魔王がやろうとしていることは――


「『心ある者を助け、上位につける』――と?」

「能力があれば、地位があれば、金があれば、力があれば。……何かが無いために地位も生活も命も奪われるのなら、その命は俺が助けよう。そのうえで、その者がどう生き、どう育つのかはその者次第だ。――だが、叶うなら強く育って、人々を導いて欲しい。思い込みで何かを攻撃したり、排除したりしようとしないように」


 ゆっくりと言葉を紡ぐ魔王の声が、いやに重く聞こえた。

 どう見ても十歳ぐらいにしか見えないのに、何十年もの時と数多の思いを込めたような声だ。


「直に会ったことも無いのに、ただ魔族だというだけで嫌われて拒否される魔族(おれたち)だから、腹を割って話すとか、正体を明かすとかは出来ないがな……。けど、力を貸すことぐらいは出来るだろう。俺自身、魔族のことを先に考えるから、実際に人間のことは二の次になる。それでも――こんな力でも、無いよりはマシだろう?」


 ……無いよりも、つーか……その力が莫大すぎてやべェと思うんだがな……

 なにかこいつ、自分の力がどんなものか、把握してないんじゃなかろうか?


「無いよりマシ、どころか、普通に救国の英雄とかそのレベルだろ。領主が可哀そうだから館を立派にするとか、伝染病流行るとこまるから街作るとか、どんだけだよ」

「……」


 待て。なぜそこで困ったような目を向けてくる?

 そんなこと言われても、みたいな目ぇされても俺が困るんだっつーの。あと表情動かせよ。表情筋仕事しろ。


「それに、おまえの場合はその顔が強みになるだろ? 一回フードとって演説とかやってみろよ。そりゃーすごいことになるぞ?」


 うわ。すごい顔された。

 おい、ここで表情筋仕事するのかよ!? しかもなんで涙目だよ!? やめろ! 俺はまだ死にたくない!!


「ま、魔族は顔じゃないぞ!」

「……いや、考えたら魔族は美形多いよな……」

「ああ、うちの両親もすごいぞ。家人もすごいぞ。今の魔王も相当だぞ。……それなのに……何故、俺は……」


 ……ん?

 なんか変な事言わなかったか?


「――なぁ、すっげー気になったから、いっこだけ聞いていいか?」

「……なにをだ?」


 あ。なんか警戒されたぞ。

 なんで魔王(おまえ)が俺を警戒するよ。俺はお前みたいな化け物に正面切って喧嘩売る気は無ェよ。怖いから。


「なんつーか……もしかしておまえ……自分に自信……無い、とか?」

「……」


 待て!

 動揺するのかよ!!

 なんでだよ!?

 おまえの顔の何が不満だよ!?

 あれか!? もしかして男くさくないからか!? あのゴーレムどものマッチョポーズはおまえの願望か!?


「ちょっと俺と詳しくお話しようか、おまえは――」

「いや、皆まで言うな。分かっている」


 うそだろ。絶対分かってないだろ。

 そしてその思い詰めた目やめろ。


「いや絶対分かってないだろ」

「いいや、分かっている。昔からずっとそうだから分かっている。俺とまともに話をしてくれる奴はほとんどいないからな」


 ……それたぶん、その美貌(かお)のせいだと思うぞ……


「女性なんて特にそうだ。目が合うだけで気絶されるんだぞ。ダンスなんて申し込む前から逃げられるんだぞ。申し込んだら倒れられるし……こんな俺は妻しかまともに相手してくれないんだ……」

「おまえ妻いたのかよ!?」


 魔族、早熟だな!?


「――いや、まだ生まれていないが」


 脳内妻かよ!!

 やめろ! 俺にこれ以上おまえに対する『可哀そう』な感情を植え付けさせるな!!


「俺のルカも今はニコニコしてるが、もしかしたらこの先俺に冷たくなるかもしれない……それはそれで懐かしくていいが……しかし、せっかく手に入れた最愛のルカを失わないためにも、俺はもっと魅力をあげないといけないんだが……誰もその方法を知らないんだ」


 辛ェ……なにが辛いって、そのルカってのが脳内妻だったらどうしようかと思うとへたに声も出せねぇのが辛ェ……そしておまえはもうそれ以上魅力いらんだろ。鏡見ろ。


「……ルカって、生まれてない妻、か?」

「いや、俺の未来の側近だ」


 側近か。

 そうか。

 ……なんで未来なのかは突っ込むまい。もう突っ込まないぞ。

 しかし、ニコニコしてる美人の側近がいるならいいんじゃないか? ケッ。リア充め。


「その最愛の側近を妻なり愛妾なりにすれば色々解決じゃねーか」

「ルカは男だ」


 助けて!!


「うちの家人達もまともに俺を認識してくれなくてな……ポムは気配皆無だから仕方ないんだろうが、俺はがんばって気配出してみても知らん顔されてしまうんだ……俺は皆に嫌われているんだろうか……」


 頼むから魔王の悲しい相談を俺にするな!!

 そして男を最愛のとか言うな! 俺が怖い!!

 つーか家人一同なにやってるんだよ! おまえ達の魔王様が今大変な事態だぞ!

 俺が見てる時は、むちゃくちゃ魔王の後ろ姿にあっつぃ視線送ってるくせに、本人無視されてるってしょげてるじゃねーか。魔族は皆サディストなのか? 魔王、いじめられてるのか?


「魅力を一時的にあげる魅惑のソルベを食べて頑張ってもみたんだが、やはり効果は無かったんだ……」


 その効果最初から必要ねェよ!!

 いじましい努力が聞いてて辛ぇよ!!

 おまえもうちょっと他の連中と腹割って話し合ったほうがいいんじゃねェか!?

 ……いやまて、その前に、なんでこの状況をあのやたらと気の付くポムさんが放置してるよ?


「あぁと……ほら……ポムさんは?」

「ポムは……ある意味、共犯者だからな」


 あ。ポムさんいたわ。

 しれっと魔王のずーっと後ろのほうで見てるわ。

 うわ。すっげぇイイ笑顔してる。あれ絶対色々確信犯だろ。

 ……薄々そんな気してたが、あの人近づいたらアカン系のヤバイ人だろ……


「父様達の信任も厚いしな。色々出来るし、優秀だ。お菓子もくれるし」


 おい。魔王が餌付けされるなよ。お菓子に釣られるなよ。


「そう……言うなれば、叔父さん、のような感じか」


 ……その叔父さんが今、向こうで顔面から床に激突したぞ……

 さすがに叔父さん呼ばわりは堪えたのか……? いや、確かに叔父さん呼ばわりされるほど年くってなさそうだけどよ。


「いやもう、これ最初に聞いとくべきだと思うんだが……本当に思うんだが……おまえ、自分のこと、こう、外見とか、色々、どう思ってるんだ……?」


 俺の質問に、魔王は暗い目で言った。


「……逞しさの欠片もなくて、髪の毛が物悲しい状態で、普通の者が目を合わせてくれなくて、誰もが平伏して、近くで見たら失神する――それこそ恐怖の大魔王みたいな酷い顔なのだろう……?」


 逞しさやっぱり欲しがってるのかよ!!

 髪の毛あきらかに潤沢だろうがよ!!

 ――あとの部分は誤解はなはだしいがリアルにやられてる内容だろうから情状酌量の余地ありだがとりあえず鏡見ろ!!

 誰だ! こいつに間違った認識植えつけた奴は!

 こいつ絶対あほの子だろ!! あほの子に間違った認識植えつけたら死ぬまでそのままだぞ責任とれよ!!

 つーかもう、あほの子通り越して残念だよ!!

 

「なぁ、魔王……俺はな、俺はな、一応、人間として以前に、勇者資質持ちとして以前に、一人の男として、いや、一人の命ある者として、これだけは絶対言わないといけないと思うから、言わせてもらうぞ?」

「……ああ、なんでも言ってくれ」


 よせ。つぶらな目で俺を見るな。

 俺は道を間違えるつもりはない! ないったら無いんだ!!

 くそ……この攻撃、強烈だな……!!


「とりあえず、おまえは一回、鏡を見ろ」

「毎日がんばって、直視はしている」


 (洗脳的な意味で)手遅れか……!!







「だいぶお疲れですわね?」


 可愛そうな残念魔王をポムさんが笑顔で回収した後、ぐったりと壁上部の歩廊でしゃがみこんでいたら、音もなく美女が現れた。

 人では決してありえない深い青の髪に、長い耳。一瞬、エルフかとも思ったが、エルフにしては少しだけ耳が短い。――混血だ。


「なんだかレディオン様を泣かしていらっしゃったようでしたけれど……?」

「泣く要素がどこにあったのかを俺はまず問いたい……あれはむしろ泣くのがおかしいだろ……」


 シンクレアという名前のその魔族はくすくす微笑う。

 こうやってただ見るだけなら眼福極まりない美女なのだが、妙にこちらを構ってくるのでつい身構えてしまう。こちらは生まれてこのかた女性にモテたことのない女日照りの独身男なのだ。過度な御触りは厳禁だ。俺は美人局に引っかかりたくないからな!


「――なぁ、あんたら、魔族だろ?」

「ええ。魔族ですわね」

「なら、あの魔王様をなんとかしてやったほうがいいんじゃないか? 空回りもいいところだろ。色々と」


 主に顔とか魅力的なところとか。――うああああ!! 他にも色々あるのに、もう最後のアレで全部上書きされたよ!! 残念すぎるだろ魔王……!!


「レディオン様はまだ魔王にはなっておられませんけれど……そうですわね……未来の魔王様として、今の状況を考えるに……」


 ああ、普通に真面目に考えてくれる人はちゃんといるよ。よかったな、未来の魔王様。


「『可』、ですわね」


 前言撤回。ダメすぎるわ、魔王の側近ども。


「人の上に立つ者に必要なものを養うのに、大事な時期だと思いますもの。痛みを知らない者が上に立てば、下の者は悲惨ですわ。それに、ちょっと可哀そうなぐらい可愛い方のほうが下にいる者は喜んで奉仕いたしますのよ?」

「……魔王本人が可哀そうじゃねーのか……?」

「レディオン様ならちゃんと乗り越えてくださいますわ。あの方、相当心が強くていらっしゃいますから」


 いや、多分、心は硝子だぞ?


「気になるのでしたら、傍にいてあげてくださいな。あの方はまだ色々と手探りで、自分の事にもまともに目を向けれない状態ですから……誰かがちゃんとついていてあげないといけないのだと思いますわ。ロベルト様は、あの方のお友達になられたのでしょう?」

「友達……って……」


 いつのまにそんなことになったのか。

 ……たぶん、ジルベルトと間違われてるんだろうな。

 そんなことを思っていたら、座っている俺の前でシンクレアが腰を降ろした。桃源郷とはここにあったのかと思うような素晴らしい白い双丘がその谷間を誇示し、俺のか弱い心臓に大ダメージをあたえてきやがる。

 ……すげぇ……一個だけでも絶対俺の手に余るぞ。いろんな意味で。


「ロベルト様」


 手をとられた。やばい。すごいすべすべする。柔らかい――が、独特の硬さもある。明らかに、武器を持つ者の手だ。


「私達、家人や部下には決して弱音を吐けないあの方を……どうか頼みます」


 そう言って優しく微笑むシンクレアは、俺が見てきたあらゆる女性の中で一番美しかった。







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