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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 港街再開発
55/196

13 街再開発計画 其の漆 ~勇者と小魔王と肉食魔女~



 街を作った。

 何を言っているのか分からないだろうが、実は俺もよく分からない。


 とりあえず、上下水道設備は完璧にした。

 ついでに接続済みの建物の基礎も作った。

 その後、街側を放置して下水道施設と最終処理場の建築に本気を出していたのが悪かったらしい。

 ちょっと夢中になっているうちに、ふと気づけば街が出来ていた。

 ――あれ? なんで?

 俺が下水道施設にかかる前、基礎しかなかったところになんでニョキニョキ家が建ってるの?


「やー。いい感じに建てれましたねぇ。さすがグランシャリオ家の建築スペシャリスト達ですねぇ」


 え? 部下達、そっち系のスペシャリストなの?

 内政系スペシャリストじゃないの?

 というか、物理的に不可能な速度だと思うのだが……俺はともかく。


「大事な基礎は坊ちゃんが頑丈なのを魔法で建てておいたでしょう? 一件一秒ぐらいで。あとはトンカンやるだけですから、大量にいる藁ゴーレムで人海戦術ですよ。やっぱり精密な図があると違いますねぇ」


 うそん!?


「……ちなみに、家人一同は魔法で創造クリエイトしてしまえますから、もっと早いですよ?」


 そうだったっけ!?


「今までも散々、倉庫改築したりしてたじゃないですか。もしかして坊ちゃん、そのあたりまるっとスルーしてましたか?」


 ……うん。全部スルーしてましたよ。

 唖然と棒立ちになっている俺の横で、疲労困憊したロベルトが伸びている。こちらは普通に魔法で強度補強したり物理的にトンカンやったりしてたらしい。……そりゃ、疲れるよな。いくら勇者でも。


「生きてるか? ロベルト」

「……死ぬ……」


 おお勇者よ、死んでしまうとは情けない……

 俺は復活の呪文は使えないから、とりあえず回復系魔法でかまわないよね?


「つーか、あんたらどこからあれだけの木材運んで来たんだよ!? あきらかに入らないだろう分量を『空間袋』から取り出してたぞ……!」

「あぁ、あれは俺が容量拡張した『無限袋』だ。屋敷一軒分程度の素材は入るぞ。あと、無限に出てきてるようであれば、空間を連結済みの『無限袋』だ。別地にあるものを投入してくれさえすれば、ずっと物が出て来るぞ」

「……! !! !!!!」


 ああ、ロベルトが無言で悶えている。色々とショックだったのだろう。

 人間社会は遅れてるからな。魔族の技術力と資金力に泣き叫びたいのだろう。


「しかし、ここまで順調に進むとは思わなかったな。ともあれ、今も未建設区があるのは不幸中の幸いか」


 街が出来たとはいえ、正門から前正門までの二区限定だ。港を背にして、正門から右側奥地に向かって建築予定の商業区予定地と、正門から左側奥地に造る予定だった工場区予定地はまだ手つかずだ。


「ポム。全員に伝えてくれ。一般住宅区の一部は建築をあえて途中の形で残すこと。商業区予定地は店舗部分だけ作り、上の部分は手つかずで置いておくこと。また、工業区は半分のみ作り、残りは現在の基礎のままで置いておくこと。以上だ」

「了解いたしました。――ああ、坊ちゃん。ひと眠りした後で【伝言メッセージ】の魔法覚えませんか? 手早く指示したい時には重宝しますよ」

「……そうだな。やっておこう」


 ポムの声に、俺はそっと視線を逸らす。

 【伝言メッセージ】の魔法は、別名を【伝心】ともいい、特定の相手と頭の中で会話する感じの魔法である。

 やり方はさほど難しくなく、魔力親和度の高い者なら脳裏に相手の姿を思い浮かべるだけで発動させることも可能だ。実のところ、習わなくてもたぶん使える。前世でも使っていたしな。

 今生で使ってないのは、単に使う相手がいなかったからである。……別にぼっちだったからじゃないんだからね!?


「予想以上に早く目標を達成してしまったが――あと少し、工業区に手を入れたら一旦終了させるか」

「ですねぇ。建築の仕方を見せて、あとは人間の技術者に任せてあげたいですしねぇ」


 流石はポム。よく俺の考えをお察しで。

 正直、満足のいく街を作ろうと思えば、俺とうちの連中で建ててしまうほうが早くて安上がりで簡単だ。おそらく二日あれば全地区完了するだろう。人間に任せた場合は、たぶん三か月とか四ヶ月とか軽くかかる。

 だが、それでは色々とまずいのだ。


 建築速度の誤魔化しは、まぁ捨てておこう。

 それ以外の部分として、まず、街で生活を営んでいる木工技師や大工達への技術提供と、雇用という大きな飴を与える機会を逃がしてしまう。

 街を一つ作るというのは、かなりの儲け話だ。それに加えられなかった時と加えられた時の相手の心証を考えれば、後者の方がいいに決まっている。

 俺は金持ちだ。少なくとも、港街ロルカンでそれを疑う者はいないだろう。

 だが新参だ。

 当然、反発はある。

 巨大な儲け話に一切誘わなかったら、それはもう反発力は倍率ドンさらに倍で跳ね上がるだろう。面倒だが、そのあたりは考えておかないといけないのだ。俺への反感は、俺と一緒にいるかぎりジルベルトにも向かうからな。


 さて。あれこれ思いながら作業していたら、あっさり工場も建ってしまった。

 なんかポムがぐったりしたロベルトを抱えながらこっちに来てる。

 え? もう休め? 他の部下達まだ働いてるのに、駄目じゃない?

 え? 赤ん坊(こども)は寝る時間? いやとっくに超えてるから今更じゃない?

 いいから休めって? おやつにクイニーアマン用意してくれるの?

 まったく。ポムは過保護だな! しょうがないから休んでやろうではないか。

 ん? ついでにロベルトもうちの家で寝させておくの? よいとも! 父様の愛妾達の部屋に放り込んでやろうではないか。美女揃いでウハウハだぞ。

 大丈夫だ。命の危険が一番少ないクレアの所に突っ込んでやるから。命以外のものは一番危険かもしれないがな!

 ほぼ徹夜で気分がワクテカしてる俺は、ロベルトを抱えて颯爽と我が家へ向かった。

 ちなみにポムの希望でお姫様抱っこバージョンである。ポムが何をしたいのか、俺にはよくわからんな……









 昼である。

 朝を通り越して昼である。

 うつらうつらしながら俺を待っていた可愛いルカは、戻った俺にたっぷり可愛がられたせいで今もぐっすり眠っている。

 俺もうっかりぐっすり眠ってしまったせいで、朝チュンならぬ昼ピカの有様だ。仮眠をとったら戻るつもりだったのだが、赤ん坊の体は無理がきかなくていかんな。

 しかも起きたらベッドの傍らにデカイ羊皮紙が張られていた。無駄に流麗な文字はポムだ。


『問題無く完了。街への対応はこちらで行います。坊ちゃんはちゃんと休んで夕方にでもゆっくり来てください。 追伸.儀式服の仮縫いぐらいはしておいてくださいね』


 OK。速攻戻るとも。無論だとも。考えるまでも無いとも。

 俺は素早く立ち上がると、あと数日で一歳になるルカの額にちゅーしてやってベッドから飛び降りた。

 俺は着飾ることを好まぬ男なのだ。男なら中身でドンと勝負なのだ。だから仮縫いとかいらないのだよ!

 それっ!!


「レディオン様。エマ様がお呼びですので、ご同行お願いいたしますね?」


 アッ――!





 捕まった。

 扉を開けて二秒で捕まった。

 相手がクロエなら仕方がない。なにしろルカの母親で俺の第二の母だ。逃げるなんて出来るはずがない。いつか機会をみて「お母さん」と呼ぼうと思っている。相変わらずタイミングがつかめないけどな!

 そしてクロエはおおっぴらに出歩けないので、家令のノーランに俺の身柄が引き渡された。

 ああー……


「では、レディオン様。奥様の元にお連れいたします」


 俺をドナドナったクロエは綺麗なお辞儀で部屋に戻る。俺はノーランに抱っこされたまま母様のいる部屋まで直行だ。

 ノーラン・メグレズという名のこの男は、我がグランシャリオ家の家令として全ての家人達の頂点に君臨している。

 家でも五指に入る強者で、家人一同の中でも一・二を争う実力者。そのくせ武闘系ではなく内政系で、父様の信任も厚いという、ある意味完璧超人である。

 さらに言うなら、ノーランは凄まじい程の仕事の鬼だった。

 気配を殺した俺が観察した限りでは、ノーランはいつだって仕事をしていた。他の連中だと時々俺と目があったりするのだが、ノーランはそれが無い。とんでもない集中力であり、おそらく俺が普通に入って来ても自然にスルーして仕事をし続けるのだろう。

 ……無視されてるんじゃ、無いよね……?

 俺のおねだり攻撃にも、品の良い微苦笑を浮かべて「仕方ありませんな」といった大人な対応をみせる。おそらく、父様に心酔していて俺に靡いてはくれないのだろう。俺が魅力で父様に勝てる日は来るのだろうか。……先は長そうだな……


 そんなノーランに颯爽と連れられ、入った部屋では母様が満面の笑みを浮かべていた。


「御苦労さまでした、ノーラン。――いらっしゃい、レディオン」


 はい母様。

 大人しく腕の中に収まりますよ。

 怖いなんて思ってませんよ。でもその後ろにズラッと並んでいるお針子さん達が俺は怖いです。


「もうすぐ大事な儀式があるというのに、人の大陸ばかり……どうしてそんなにお外に行きたがるのかしら?」


 鼻をツンと突かれたので、甘えるように抱きついて顔をぐりぐりこすりつけた。決してつつかれた鼻が痒くなったからではない。


「あなたは突拍子もないことをよくしますけれど、自分がまだ赤ん坊だということを忘れてはいけませんよ。どれだけ魔法で大きくみせようと、本当のあなたは一歳にもなっていないのです。大丈夫だと思って動いていても、大丈夫ではないこともあります」


 はい。


「本当はもっとよく眠て欲しいのだけれど……あなたは生まれてすぐからお昼寝もまともにしない子供でしたものね……」


 俺の頬を指で擽りながら、母様は困ったような微苦笑でそう言う。

 いっぱい食べてぐっすり眠る赤ん坊時代をすっ飛ばした俺は、大人顔負けの活動時間を誇る。ここ数日なんて徹夜して仮眠しての生活だ。母様が心配になるのも当然だろう。

 だが、当の俺はすこぶる元気だ。頭もシャキッとしているし、体に疲れが残っているわけでもない。元々の身体能力の高さが補っているのかもしれないし、単に短い時間で色々やろうと気張っているから疲れに気付いていないのかもしれないが。

 ……一歳のお披露目が終わったら、しばらくのんびりするかな……

 

「母様。父様はお仕事ですか?」

「お父様はあなたの為に、連日儀式の準備にかかりきりになっています。……昨日も言ったのだけれど、レディオン、本当に体に無理をしているのではないのですか?」


 あれ。昨日そんな会話したっけ……?

 いや、したような気もするな……俺がロルカンに飛ぶ前に……

 もしかして、他にも大事な用を忘れてたりするんだろうか? そういえば、さっきからなにか忘れてるような気がするんだけど、なんだったっけな……?


「儀式とお披露目が終わったら、しばらくお休みします」

「そうしなさい。本当はもっと早く休んでほしいのだけれど、あなたも旦那様と一緒で意志が強いから」


 綺麗な指で軽く鼻を摘まれて、俺はもう一度顔をぐりぐり母様に押しつけた。俺は鼻も弱点なのだ。擽ってはならんのだよ。


「さて、それでは採寸から始めましょう」


 母様が目線を動かせば、控えていたお針子部隊が俺をあっち向けたりこっち向けたりバンザイさせたりしながら色々計っていく。テキパキしているのはいいのだが、ニコニコしすぎていてちょっと怖い。なんなの? 俺の涼しい後頭部に何か言いたいことがあるの? 泣くぞ?


「色はどうしましょうか。髪が銀で瞳が金だから、淡い色でも濃い色でも似合うのよね」

「一般の基本は白ですが、アングハラード卿のご子息は深緑に銀糸金糸の縫い取りをした可愛らしいお姿だったそうですわ」

「バラデュール卿のご子息は黒に銀糸だったそうですわ」

「ブラシェール卿の所は濃紺に金糸だったと聞いております」


 母様達が楽しそうに生地や装飾について話している。これは嫌でも飾りたてられるに違いない。

 一歳の儀式は、普通一般では白地に金糸で加護の刺繍をつけた服を着用する。形は定まっておらず、赤ちゃん服のままというのもごく普通だ。

 これが上流階級になるといきなり舞踏会みたいな服になる。

 女児はぷちドレスだし、男児は礼服もどきだ。新たに仕立てるものがほとんどなのだが、一回しか着ないだろうものに金をかける意味がよくわからない。記念品だとポムは言っていたが……俺も子供が出来たら、母様達みたいに一回しか着ない服に心血注ぐのかな……

 ……ん? アングハラード?

 あれ? 何か忘れてるような気がするな。なんだっけ。わりと大事なことだった気がするんだが……


「アングハラード卿といえば、お嬢様方は昨日ずいぶんと喜んでいましたよ」


 母様が意味深に笑って俺を見る。

 俺ですか?

 アングハラードの一家にはそれほど馴染みが無――

 ああああ!


「ロベルト!」


 俺は慌てて飛び出した。

 忘れてた。

 綺麗サッパリ忘れてたぞ。

 そういえばポムに言われてロベルトをお持ち帰りしてたよ!

 そして父様の愛妾の一人の部屋に放り込んで来てたよ!

 ……あれ、なんで俺、彼女のところに放り込んだのかな……もしかしてナチュラル・ハイだったのかな……


「レディオン!?」

「レディオン様! まだ仮縫いが……!」


 飛び出した後ろの部屋から母様達も飛び出して来たが、ちょっとそれどころじゃないのでまた今度です!

 父様の愛妾はそろいも揃って凄まじい美人で、能力も高いが、気位もわりとけっこうかなり高い。

 性格の悪い連中は粛正されて存在しないが、かといって人間――それも『勇者』――を見た時にどんな反応をするのか予測もつかない。

 例えそれが、最も穏和で最も肉食なクレアといえ……――


「……」


 ……あれ?

 なんか、急ぐ理由が無い気がしてきたな?

 寝る前の俺が何を考えていたのかは忘れたが、選択先は理解できた。

 クレア嬢ならロベルトを見たときの反応が予測できる。ぶっちゃけ、生命的な意味では我が家で一番安全な場所だろう。貞操的な意味では一番安心できない場所だが。

 ……俺、部屋に突入してもいいのか? これ。


「……」


 咄嗟に走ってクレア嬢が与えられている部屋の前まで来たものの、さてどうするべきかと足踏みする。

 中に入るとするだろう?

 もしかしたらギシアンフィーバーかもしれないだろう?

 そしたら俺はどうしたらいいんだろう?

 お邪魔しました、と言って閉めるべきか、ごっつぁんです、といって閉めるべきか。そこが問題だ。

 いや、どうでもいいか。

 考えるのが面倒になってきたのでもういいやとドアノブに飛びつき――おっと、赤ん坊の姿でしたよ。変身変身!――気を取り直してドアノブに手をかける。


「クレア、入るぞ」


 一応の礼儀として、ノックしておじゃましまーす!


「ぎゃあああああ!? ちょ、ま、待とうな!? 待とうな!?」

「あらあら。うふふ。何を待つと言うのかしら?」


 スー……

 パッタン。

 そっと気配を殺して閉めた扉が俺の目の前に。

 いやはや、すごい光景を見た。

 全裸の巨乳美女に押し倒されてる勇者とかなかなか見られない光景だ。ちなみにロベルトは服着てた。まだ未遂か。いつまで持つかな。


「つーか! さっさと助けろよ魔王!!」


 おや、早かった。


「おはようロベルト。クレア嬢に添い寝してもらえるなど、果報者だな? そして俺はまだ魔王じゃないと、何度言わせるつもりなんだ?」

「頼んでねェ!! というか、ここ何処だよ!?」

「俺の実家」


 混乱のせいか目がグルグルしているロベルトが、俺の一言にピタリと動きを止めた。


「おまえの……実家……?」

「そうだ」

「……魔大陸……?」

「おまえ達はそう呼んでいるな」

「……なんで、俺が……?」

「覚えていないのか? 昨日、途中で力尽きていたから回収しておいたんだ。俺も家に帰って休むつもりだったからな。ポムが連れて行ってあげてくれと言うので、折角だからクレア嬢の寝所に放り込ませてもらった」

「そこでどうしてそういう発想になるんだよッ!!」


 経緯を聞いて即絶叫したロベルトの後ろで、音もなく開く扉。そして伸びてくるしなやか~な白い腕。


「あらあら。うふふ。レディオン様は御機嫌麗しゅう。今日はお顔の色も良ろしいようで安心いたしましたわ。そして可愛いお土産をありがとうございます♪」

「そちらもな」


 肌をツヤツヤさせているクレア嬢ことシンクレアに、俺は軽く苦笑して応えた。

 艶やかな蒼い髪に、母様とは別方向で絶世の美貌。蠱惑的な唇も髪と同じく青いが、その色が驚くほど似合っている。折れてしまいそうな細い腰に、思わず目が釘付けになりそうなほど魅力的な臀部と太腿。すらりと長い足はふくらはぎから足首、踵、甲に指先まで瑞々しく美しい。

 そして特筆すべき部分は、胸だ。

 凄まじく美しく豊かな胸だ。

 正直に言おう。埋もれたい。

 二つある白い山のどちらも俺の頭より大きい。むっちむちだ。素晴らしい。

 俺はつつましいバストも素敵だと思うが、この包容力ありすぎるダイナミックババーンには抗う術を持たない。素晴らしい。もう一度言う。素晴らしい。

 大きいくせにほとんど垂れずに重力に逆らっている張りというか突っ張りというか、女という性の美を極限まで体現すればこのような美女が生まれるのだろうと納得してしまうほどだ。たぶん、サキュバスとか目じゃないぐらいのワガママバディだ。俺が大人だったら危うかったな!

 ちなみに、青繋がりで同じく絶世の美女のラ・メールとはベクトルが真逆の美女である。詳細については口にしないがな!


 そのシンクレアは、父様の愛妾だ。というか、ちょっと事情あって時々父様を喰いに来ている女性だ。

 屋敷内に部屋を与えられているが、仕事であちこち行っているので滅多にうちの屋敷にいない。前世でもほとんど顔を合わせることは無く、物心ついた頃に噂で父様と愛人関係にあると聞いたぐらいだ。

 ちなみに前世では父様より先に亡くなっている。突如発生した変異種ヴァリアントの群れから街を守る為、万を超える変異種を単騎で殲滅しつつも自らも力尽きたという魔族きっての女傑である。

 前世の赤ん坊時代は普通に赤ん坊してたからこうして会うこともなかったが、会って話してみると竹を割ったような性格をしていて面白い。ちなみに広義において肉食である。掛け算は常に左側である。


「ロベルトを守ってもらったようで、礼を言う。すまなかったな」

「ふふふ。お安いご用ですわ。ですが、ノーラン達にバレたら一大事ですわよ。御身はかけがえのないお方。もう少し、お気を付けくださいませ」

「クレア嬢がそう言うのなら、気をつけておこう。この姿でも平気で話をしてくれる者は貴重だからな」

「うふふ。見目を楽しませてくれるうえに将来が楽しみなお姿ですもの、(わたくし)としては眼福ですわ。――ところで、この可愛い人、いただいても?」

「うーむ……一応、人間社会に戻しておかないと可哀そうだから、合意を勝ち取って食べるぐらいにしてもらえると助かるが」

「あらあら。うふふ。では……そうですわね、転移装置の使用許可をいただけると嬉しいのですが、いかがでしょうか?」

「……食べに行く為に?」

「食べに行く為に」


 俺が目を見ながら問うと、結界内でなければ直視することの出来ない強力な魔眼を細めてシンクレアも真面目に復唱した。

 それは、つまり――


「ロベルトは『可』なのか」

「ええ。流石は……といったところでしょうか。この可愛い人は『可』ですわ」

「そうか」


 俺は後ろからヒルのように張り付かれ巨乳に顔を埋められてしまっている勇者を見て――どう見ても呼吸困難な姿に哀愁を覚えつつ――頷いた。


「では、許可しよう」





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