26 背景と後始末
母様におねだりをした。ルカとクロエに会う為である。
俺のおねだりは強力だ。今のところポムと門番以外には全て勝ちを収めている。コツは上目使いでチラッと見ることだ。前世では一度も使ったことが無い技だが、今生ではここぞという時の必殺技にしている。いつか妻にもつかってみよう。どんな反応をしてくれるか、今から楽しみだ。
ポムは俺のおねだりが全く効かない相手だが、奴には脇腹という弱点がある。いざとなれば物理で制せれるから無問題だ。ちなみに門番が俺のおねだりに耐えるのは、俺をひとりで外に出さないためである。奴らにはどれだけ愛想を振りまいても駄目だった。笑顔まで見せたというのに、一ミリたりとも扉を開いてはくれない。……俺はもう少しカリスマをつけるべきかもしれない……
そんな俺のおねだりに笑顔を零し、母様は俺を抱っこしてくれた。向かうはクロエ達のいる部屋だ。ああ! 八日ぶりのルカ! どんな様子だろうか。泣いたりしてないだろうか。いや、なんとなくルカの状態は『分かっている』んだが、やはり直接会わないと心配だ。俺が傍にいればルカを傷つけさせはしないのに。
ルカを傷つけた奴には俺の渾身の呪いをかけておいた。トップもアンダーもヘアーが枯れ果てる呪いだ。つるつるてんになって一生悔やむがいい!!
ルカの状態が分かることについてだが、これは俺も想定してなかった事態だった。意識をこらせば、俺の中にルカがいるような、ルカの中に俺がいるような、奇妙な感覚があるのだ。そのおかげで、ルカが泣いたり怖がったりといった強い感情を覚えるとピンとくるようになっていた。強く集中すれば、俺の魔力でルカを包んでいるような感じにも出来る。
何故、そんなことになっているのか。原因は明白だ。
俺の与えた『魔眼』である。
【秘蹟】――真なる魔女【宵闇】の秘術である真性魔法は、世界の事象を書き換える紛うこと無き『奇跡』だ。前世ですら、この魔法を発動させたことは無い。知識として習得したのが大戦後期であったこともあるが、それ以前に使うべき対象がその時にはすでに軒並み死亡していていなかった、という理由がある。何故今頃、と心の底から悔やんだものだ。
いかに真なる魔女の秘術とはいえ、死した者は決して生き返らせれない。肉体を復元させても魂を宿せず、魂を保管しても肉体と結合させることはできないのだ。
畢竟、生きとし生きる者は全て『死』という現象からは逃れられない。図らずも、世界で最も強大な種族である真なる魔女がそのことを立証したようなものだった。
生命の神秘はともかく。
俺自身の血肉を素にして作られた魔眼がルカの眼窩に嵌っている為に、俺とルカがうっすらとリンクしているのだ。母様の言っていた「ルカの魔力に、あなたの魔力が混じっていた」というのも、これに由来しているのだろう。
俺とルカは一心同体になったのだ!
――と言うのはいささか誇張が過ぎるが、集中すれば愛するルカの状態が分かるというのは素晴らしいことだった。これでいつでもルカを守ることができる。俺は二度とお前を傷つけさせないぞ!
……しかし、リンクしているということは、ルカからも俺のことが分かるということでは無いだろうか……例えばルカの方が俺より立派なものをもっているとか、髪の毛がふさふさしてないことを嘆いているとか、筋肉がつかなくて必死にトレーニングしてるとか、そういうなけなしの頑張りまで見抜かれたりするんじゃなかろうか……
やばい。危険だ。俺はルカの前ではカッコイイ俺でありたい。おにいちゃんカッコイイ!! と言われるような俺でありたい。素敵! 愛してる! と言われる俺を目指しているのだ。しかし中身がバレてしまってはきっと生暖かい眼差しを向けられるに違いない。やだ、切ない。駄目だぞルカ! 俺を見抜いてはいけない!!
ルカのほうが俺より二週間年上なんだが、言わなければ誤魔化せる時差の範囲だよな?
母様に抱かれて廊下を移動する中、俺はウキウキドキドキハラハラしていた。ああ! 何卒ルカには俺の内面がバレませんように。
早くルカに会って確かめなければ、と前のめりになっている俺を丁寧に抱え直し、母様はとある部屋の前で立ち止まった。
医務室だ。
なんだかものものしい警備が敷かれている。家の玄関より酷くないだろうか……
気になりつつ、俺はいまだ薄……いや、貴重な、頭髪を手櫛で整え、キリッと表情を引き締めた。再会一発目の俺はかっこよくあるべきだ。あっ! 母様! 俺の髪を指で摘まむのはやめてくれたまえ!!
子の心は親に通じない。俺は涙をこらえて前を見据えた。母様の手から頭髪を取り返そうとすると、一本か二本不測の事態で抜けてしまうことも想定しなければならない。今の俺には重大な問題だ。
そんな俺達の前で、四人もいる守護者のうちふたりが扉を開けた。中から可哀そうな泣き声が聞こえてきた。
「きゃーん!!」
ルカの声だ! 可愛いぞ!! だが悲鳴だ! どういうことだ!? これだけ警備がいながら何をしている! 俺のルカをいじめているのは誰だ!! 敵か!!
俺は即座に母様の腕から飛び出した。
一発キツイのを叩きつけるつもりで魔力を全開にする。
ギャン泣きしているルカと、おろおろしているクロエと、ルカを両手に持って難しい顔をしている父がいた。
父様―――――――――――ッ!!!!!!
●
俺の前で父が泣いている。
「顔を見せるなり泣かれただけなんだ……!!」
魔力全開で絶対殺る気マンになっていた俺が余程怖かったらしい。母様の背中に縋りつきながら上目使いに見てくる父はとてもとても情けない。
まったく。忙しくて不在だと言っておきながら、なんでこんな所でルカを泣かせているのか。
ちなみにルカは俺に抱きしめられてゴキゲンだ。先程のギャン泣きが嘘のようににこにこしている。流石は俺のルカ。この可愛さは罪だ。今日のパンツは水玉レースらしい。母様、そろそろレースはやめてあげてください。
しかし、父様も可哀そうと言えば可哀そうだ。
父様が忙しいのは、事件の全容を解明し、然るべき裁きを与える為だった。さっきまで現魔王の所に伺候していて、帰ってすぐにルカの記憶を読むために訪れたところだったという。俺に会いたいのを我慢してまで向かったのは、それが現魔王の要望だったからだ。
事件後すぐに行わなかったのは、幼いルカを慮ってのことだろう。ルカの状態が落ち着くのを待ってくれたのだから、前世と違って相当幼子に優しくなっていると言える。前世の父だったら問答無用で初日に起こして記憶読んでただろうからな……
記憶を読むのは、誘拐の状況とかを知る為だろうが……それにしても、現魔王が介入する事態になったのか。あのひと、そんなに暇じゃなかったと思うんだがな……
考えれば、領地で発生した某蛙大騒動にも現魔王は介入している。内容的にその関連だから、というのもあるのだろうか。前世では後継時ぐらいにしか会ったことが無いのだが、今生ではちまちま縁があるな。まだ直接会ってないけど。
そんなことを思っていたら、父の背を後ろ手で撫でてやりながら母様が首を傾げた。
「陛下が間に入る、ということは、戦を起こせなくなった、ということでしょうか」
え。なに、その話。俺、初耳ですよ?
しかもなんで不満そうなんですか? やだ母様、誰と戦争する気? 生まれて一年も経ってないのに戦争始まるの!? 準備が不足しすぎて未来に滅亡しか見えないよ!?
「ベッカー家の連中が及び腰だ。フン。今のままでやれば蹂躙にしかならんだろうが……陛下におかれては、かりにも大領主である我々が正面衝突して戦争するのは好ましくないというご判断のようだ」
「レディオンは殺されかけ、ルカは酷い傷を負い、クロエ達は罠に嵌められたのです。いかに陛下とはいえ、これは戦をするに足る正当な理由です。好ましくないで止められてはたまったものではありません!」
……対魔族大戦争では無かったらしい。考えてみたらまだ勇者も生まれてないものな。しかも人族と戦う理由がないしな。というか、ベッカー家って何だ。
それにしても母様が好戦的だ。おかしい。こんなに怖い母様初めて見た。前世の母様の儚さはどこへ!?
「分かっている! 私とて連中を許す気は無い。だが、我々が全勢力をあげて衝突すれば、相当な被害が出るのは確かだ。あちらも根絶やしにされてはかなわんと、死にもの狂いで抵抗するだろうしな」
待って!? 根絶やしってどういうこと!? 同族でしょ!? せめて半殺しで終わろうよ!?
話を聞いてみると、こういうことらしい。
事件の主犯はレイノルド・ベッカー。
俺が生まれるまで、次の魔王候補として注目されていた者のひとりだ。
中央東部に領地をもつ上級魔族で、その実力は現魔王にこそ負けているものの、魔力総量においては魔王に迫るものがあり、まだ若いこともあってかなりの有望格だったらしい。
……なんで犯行に及んだのか、分かりやすすぎて推理するまでも無いな……
実行犯は全て領地の配下。せめて別の者を雇うなりなんなりする狡賢さは無かったらしい。クロエの親族を罠に嵌めた者まで配下だったことに関しては、一周まわって不憫さを覚えるほどだった。
……なんで部下をそのまま使うかな……俺には謎すぎてレイノルドとやらの考えが分からんよ……
今回のことを受けて、父様は怒り狂ってベッカー家を攻撃した。戦争も辞さない構えで攻撃した。捕まえた実行犯の記憶を転写した水晶球を現魔王に提出し、我が子を奪われかけた父として正式にベッカー家に対し武力行使――即ち、戦を仕掛けることを許可して欲しいと直談判しに行った程だ。
同族かつ領主同士の戦いになると、戦いの規模が大きすぎる為、どうしても魔王の許可がいるからな。
その結果どうなったかというと、魔王が直々にベッカー家を裁くかわりに戦争は止めろという流れになったらしい。妥当なところだと俺は納得したものだが、父様はものすごく不服だったらしい。
ベッカー家は取り潰され、領地は没収の後グランシャリオ家のものとなることが決まったが、それでも不服だったらしい。
怒りをぶつける先を失って暴れ足りないのだろう。……そんな子供の喧嘩みたいなことで戦争を起こすべきでは無いと思うのだが……
もっとも、俺もこれが俺自身でなく家族のことだったら同じ状態になるだろうから、あまり偉そうなことは言えない。俺達は似た者同士なのだ。さすが親子だな。
とりあえず、今日はうんと甘えさせてやって気分転換させよう。今日は一緒にお風呂入ってあげてもいいかもしれない。頑張って背中流すぞ、父様。
ただ、ベッカー家の取り潰しに関しては、ちょっと俺自身に思うところがある。これは相談だな。
また、一つだけ把握することが出来なかった事があった。
猛毒大蛙と、そのAM――『災厄の種』のことだ。
レイノルドは、そのことについては知らぬ存ぜぬを貫いているらしい。父母は嘘に違いないと思っていたようだが、俺としては判断がつかない。
俺の記憶が確かならば、前世で魔族の変異種化案を持って来たのはベッカーの名に連なる者では無かった。なら、現段階で、禁忌の術を有していたのがレイノルド本人かどうかは分からないのだ。
現魔王そのひとが取り調べた結果、レイノルドは変異種に関してはタッチしていないという結果が出たという。『彼』が調べてそう判断したのなら、それは正しいのだろう。
――もっとも、レイノルドが知らないだけで、その配下がやったことであるのは間違い無いのだが。
「命までとる必要は、無いと思う」
俺の声に、両親は難しい表情になった。
息子は命をとられかけたのに、乳母と乳兄弟も酷い目にあったのに、と顔に書いてある。
だが、俺は無事だ。ルカは無事とは言えなかったが、俺がなんとか出来た。クロエともどもこれからが大変だが、俺達で守ってやればいい。
誰も死んでない。
戦争を起こせば、確実に死者が出る。それも、大量にだ。向こうだけでなくこちらにも出るだろう。それだけは防がなくてはならない。
「ただ、ルカと同じ目にはあってもらう。それだけは譲れない。企んだ者、実行した者、全てにだ。そして二度目をやろうとすれば、一生死に勝る苦痛が与えられる呪いをかける」
俺の声に、父様が唸り、母様が考える顔になった。
「……ルカと同じ苦痛を与えることに関しては、異存ありません。ですが、レディオン。我々魔族には対物理防御および対魔法防御があります。ベッカー家の者達、特にレイノルド・ベッカーはかつて次期魔王候補の筆頭でもあった者です。苦痛をカットする程度の防御は持ち合わせていると思います」
「心配ない」
冷静に分析する母様に、俺はしっかりと頷いた。
「俺が実行する」
両親が揃って絶句した。クロエも愕然とした顔をしている。平然とした顔をしているのは俺とルカだけだ。ルカの肝っ玉を見習ってほしいものである。単に理解出来てないだけだと思うが。
「今の俺で力負けするなら、もう一度時空魔法を使ってもいい。父様、母様、それに、クロエ。俺は、博愛精神なんてものはもっていない。無事だったからいいじゃないか、で終わらせるつもりもない。だが、戦争は駄目だ。無関係の者が大勢犠牲になる。やり返す相手は、当事者だけでなくてはいけない」
やりかえすな、とは言わない。
俺達魔族にとって、やったらやり返される、は常識だ。だからこそ相手に対して一定の礼節を守る。共に生きるためのルールだ。
だが、向こうは『やった』。
魔族の流儀に従い、俺達は『やりかえす』。そうしなければならない。何もしなければ、あそこは息子を殺されかけても何の反撃もしないのだと見なされるし、後々まで禍根を残すことになるのだ。ただし、やりかえす範囲は見極めなくてはならない。その見極めが問題なのだ。
「やられたのは、俺とルカと、クロエだ。ルカはまだ何が起きたのか理解できてない。クロエは、こう言ってはなんだが、弱い。俺達で守らないといけない存在だ。だから、俺が代表してやりかえす。それが正しい魔族の流儀だ」
きっぱり言い切った俺に、父様と母様が物言いたげな顔を見合わせている。困惑と躊躇がありありと伝わって来て、俺はさてどう説得するか、と迷った。
声が聞こえたのはその時だ。
「いいではありませんか。坊ちゃんの仰ることは正当ですよ」
うおう! びっくりした! びっくりしたぞ!!
「その方法であれば魔王様も許可くださるでしょう。かわりに領地全没収というのは出来なくなるかもしれませんが、いきなり飛び地で領地を抱え込むことになるのも、向こうでは慕われているだろう領主一家を追い出し家を潰して乗っ取ったあとの土地を治めるのも、相当しんどいですからね。落とし所としては良い案かと」
いつの間に現れたのか、ひっそりと俺の背後に立っていたポムだ。というか、本当にいつ入ってきたんだ。扉が開く音どころか声掛けもなかったし、鈴の音も心なしかしなかった気がするぞ。
「ポム……」
「坊ちゃんには驚かされっぱなしですからね、もう何を言いだしても不思議じゃありませんよ。実は魔女の血脈ですと言われても驚きませんね」
なんでだよ。そしていったい、いつ来たの?
「……最初からいたんですが」
……ごめんね……
「旦那様も奥様も、気が晴れないというのでしたら、坊ちゃんと一緒に彼等を裁かれるとよろしいかと。私の見たところ、おふたりとも昔より遥かに魔力があがっておいでですから、下手をすれば某レイノルド氏よりお強いかもしれませんよ?」
ポムの発言に、ふたりは顔を見合わせた。俺もちょっと目を見開く。
……ふたりの魔力総量が前世より増えているの、俺の気のせいじゃなかったのか……てっきり俺の記憶違いか何かだと思ったのだが。
「……そうだな。レディオンちゃんに直に手を下させるのは考えものだが、内容は良いな。私達がやっても問題ないはずだ」
え!? 困る! 俺のルカを傷つけた罪は俺が裁かなくては!!
「示威行為というのでしたら、坊ちゃんがやるのが一番効果的なんですがね。まぁ、出来ましたら私も、せめてレイノルド以外は旦那様達の手で裁いてほしいとは思いますが」
「なぜだ」
俺の不満顔に、ポムは困り顔をしてから俺の耳にぽそぽそ囁いた。やだ、くすぐったい。俺は耳が弱いのだ。
「(旦那様達の腹立ちも解消させてあげてくださいよ。あのままだとずっと恨みを残したままになりますよ。下手をすれば、どこかで暴発します。息子や家人を守れなかったという後悔だって深いんです。ここは坊ちゃんが配慮してあげるべきところですよ)」
……俺が大人にならないといけないのか……仕方ない……俺はルカとクロエの分だけ報復すればスッキリだが、父様と母様はそれにプラスして俺の分もあるものな。人数は多めにあげよう。
報復を残虐と言うなかれ。魔族の流儀は物理なのだ。グーで殴られたらグーで殴り返すのだ。手加減は、しない。
「では、ベッカー家への方針はそちらで調整しましょう。下手に陛下の意向を無視して戦を起こそうとすれば、魔族全体から眉を顰められます。そうなると、今後の坊ちゃんの為にはよくないでしょう」
今後の息子の為、という言葉に両親は揃って息を吐いた。致し方ない、と言いたげな感じだ。
「今回のことを鑑みるまでもなく、レディオンちゃんの魔王の資質は充分だ。先の為にも、魔族全体に及ぶような傷はつけないようにしなくてはならんか……」
「せめてレイノルドの命はとりたいですが」
……母様……
「私もだ」
……父様……
「そこは坊ちゃんの手腕に期待しましょう。永続奴隷にするも逆恨みの敵対者にするのも、坊ちゃんの手腕一つにかかってますよ。いっそあの成長した姿を見せてパツイチで崇拝なり畏敬なり抱かせるのも手ですね」
ポムが上機嫌にそんなことを言う。
ほぉん。成長した俺の姿はそんなに立派でしたか。そうですか。なかなか気分がいいものですな。
なにしろ、前世の俺はモテなかった。とてもとてもモテなかった。妻しか俺の相手をしてくれなかったぐらいだ。俺は自分の容姿については最初から絶望している。この父とこの母の子なのに、他者を引き付けるカリスマや美貌は得られなかったようなのだ。
しかし、ポムのこの発言だと、今生の俺はなかなかのものらしい。むふふ。気分がいいな! このまましっかり鍛え続けて、いずれ「きゃー! 素敵! 抱いて!!」と言われるような男を目指そう。……あ、ルカ、なぜいきなり俺を不貞腐れた目で見るのだ。俺の何を感知したのだ。大丈夫だ。俺はおまえをちゃんと愛してるぞ。今のところ一番だ! だからその非難するような目はやめるんだ! 俺のココロがちくちくするだろ!?
「そうか……あの姿か……そうだな……」
……あれ、なんで父様が顔を赤らめて視線を逸らすんだろうか……
父様が赤面しないといけないような俺だったんですか。……やだ、どういうことなの……
「まぁ……そう、あの立派な……ええ、それは……素敵ね……」
母様まで頬を染めてる!? どういうことなの!?
まさか、あの時渡りの魔法、その年齢と同じ時空間の姿をそのまま具現化させていると思ったのだが、実は体だけ大きくなっていて、つまり、オールなヌード状態だったりするのか!?
俺はサッとクロエを見た。
クロエは可哀そうなぐらい真っ赤な顔で俯いてしまっている。うそん!?
「く……クロエ……」
「ッ……はい……」
やだ! ビクッとされた!!
「その……大きくなった俺は……」
どんなんだ、と皆まで言わずニュアンスで伝えた俺に、クロエはますます顔を赤らめて言った。
「その……とても……立派で……」
うわああああああああ!!!
立派と言われた!! 立派と言われた!! ルカより可愛らしいと評した俺のアレが立派になってたのか!? 見たのか!? やっぱり俺の認識違いだったの!?
辛い! 俺の黒歴史が極まった! 服も揃ってると思って俺は大変全開な状態でしたよ! 一切前も後ろも隠す動作をとらない男らしい佇まいでしたよ! だが誤解しないでくれ! 俺はヌーディストでは無い! 俺は魔族ではあるが裸族では無いんだ!!
「……坊ちゃん……」
ポム! やめろ! 生暖かい微笑みをするな! 何故、頷く!? その頷きの意味は何だ!?
……いや、問うまい……俺はこの件に関しては二度と振り返らないことを今決めたぞ。そしてあの魔法は禁止だ。禁呪だ。ああ! 確かにあの呪文は禁呪に違いなかったとも!! せめて仕様書に書いていておいてくれ!! ……そしたらせめて前ぐらいは隠したのに……
きっとマントや指輪があったような気がしたのも俺の脳内補完だったのだろう。酷い。時空魔法が罠すぎる……
……あ、眩暈が……
ひっそり絶望に沈んだ俺を知ってか知らずでか、父様が気を取り直すようにゴホンと咳払いをした。
「あの姿は確かに一見に値するが」
もう言わないでくれ!!
「あの後の事を思うと、おいそれと使っていい魔法でない気がする。……少なくとも、自然にその年齢になるまでは、無理に大きくならないほうが体のためだろう」
「……」
「私は、レディオンちゃんがまた倒れるのは嫌なのだ。倒れた我が子を見るほど、親にとって辛いものは無いのだと……そう、知っておいてもらえたら、パパは嬉しい」
……やだ、今、キュンとしたよ、パパ。
でも倒れたのは真性魔法のせいだ。あと十歳までならたぶん常用しても平気だ。
……裸族の疑いがあるからもう使わないけどな!!
「そのあたりはレディオンに任せて……そうですね、陛下にお伺いして、一騎打ちなり団体戦なり、もしくは裁判による公式刑罰なりで行わせていただきましょう。――あなた」
前世と比べて恐ろしく強くなった母様は、冷徹な表情で言葉を紡ぐ。
「本気でヤりに行きますわよ」
ハイ、と答える父様が微妙に腰が引けているのは見なかったことにした。




