18 赤ん坊生活 ―七ヶ月目―
生後七ヶ月が過ぎた。
俺にとって非常に大事な『成長』が始まった。
歯が生えてきたのだ。
いょぉおし! よし! よし! この調子だぞ俺の大事な乳歯よ!! これで魔力で疑似歯を作成する必要もなくなる! 肉を食べるのも楽になるというものだ!!
しかし、生えてきたのは下の前歯だけだった。
……え……どういうことなの……
鏡の中の俺がかわいそうな顔になっている頃、俺の愛するルカが夜になるとぐずるようになった。所謂『夜泣き』らしい。
すでに歩いたり走ったりしている子でも発生するのか、と母様とクロエが感心したように話し合っていたのだが、次に俺を見つめてくるのはやめていただきたい。期待に応えられなくてすまないが、俺は一度寝たら朝までぐっすり派なのだよ。
しかし、ルカの夜泣きはなかなか盛大なようだ。
わざわざ起きだし、寝てるクロエの所に行って母親を揺すり起こして訴えるらしい。もうそれは夜泣きのレベルじゃない気もするが、年齢的には夜泣きなのだ。
おかげでクロエはルカを抱っこして部屋中を徘徊する羽目になっているとか。以前、一度だけトイレに出ている最中に夜泣きが発生し、母親を求めて廊下に出たルカが迷子になって大騒動になった。あれは怖かった。階段の所で俺が捕獲したのだが、本気で肝が冷えた。夜になると守護者の数が減るうえ、夜の階段は暗くて危険なのだ。
……夜泣きが始まる前に歩き回れるようになると、こんな怖いことになるんだな……いや、ルカだけかもしれないが。
こうなるとクロエは夜も休めない。流石に毎日のように夜泣きが発生しだした頃は、クロエが若干ノイローゼ気味になっていた。親族のこともあるしで、精神的にきついものがあるのだろう。
なので、しばらく俺がルカを引き受けることにした。ルカの夜泣きの原因も、なんとなく予想がついていたからな。
俺が引き受けることに関しては、クロエも最初は狼狽えて反対していたが、母様が俺の側についてくれたので最後には押し通す形で承諾させれた。クロエは申し訳なさそうだが、俺が望んでやっていることだから気にしないでほしい。愛するルカのためなら、夜一緒に寝てやるぐらいお安い御用だ。
現在、俺の部屋には夜起きたルカの為にと読み聞かせ用の本がズラリ並んでいる。いつでも大丈夫だ。ドンと任せるがいい。気分転換用の紙風船も五十個ほど揃えてるぞ!
そしてルカのことになるととたんに俺の味方になってくれる母様、俺たちを見ながら目元をぴくぴくさせる理由を、そろそろ俺に教えてくれてもいいと思うのよ……?
そうそう、俺より二週間ほど早く生まれたルカも、俺と同じように乳歯が生えている。前歯だけ生えてもルカはやはり可愛らしい。……ルカは可愛いのに、何故、俺は……いや、考えまい……ルカが可愛いから、それでいいんだ。
だが、ルカを見るたびに、可愛らしすぎるのも罪だと思う。未だに俺の母様の趣味で女の子のような服を着せられているのだ。不憫だ。今日のパンツは黒の総レースだった。せくすぃ。
●
俺と母様の密かな戦いの末、俺の本日の御召し物がとてもシンプルな上下に決まった頃、ポムが報告書を持ってやって来た。
「奥様、それに、坊ちゃん。先月の売り上げが予想額を超えましたよ」
おお、朗報だな。幸先いいじゃないか。
俺案かつ母様前面プッシュで行われているグランシャリオ家薔薇製品は、精油が他領の魔族を中心に、薔薇露は隣の大陸に住む人族を中心に販売されている。評判はかなりいいらしい。
ただ、俺達が想定してなかった事態が発生していた。どういう理由でか、うちの製品を使用すると微妙に魔力が回復するのだそうだ。
……そんな効果、付随させたっけ……?
疑問ではあるが、別にこちらがそれを謳い文句にしているわけでは無いので気にする必要も無いだろう。あくまで使った人がそう言っているだけなのだ。きっと気のせいだろうとは思うがね。
「なかでも人族に卸している薔薇露が恐ろしく人気で、現在在庫ゼロです」
「え」
「まぁ……」
驚きの結果に、俺と母様が揃って絶句した。
人族に卸している薔薇露は、冒険者組合を通じて化粧水として販売している品だった。多くとれるので精油ほどには高くないが、海路を経ているのでそこそこの値段になる。輸送船を魔改造してコストダウンはさせたが、いきなり売り切れてしまうほどお手頃価格ではないはずだ。
「どうやら、魔力回復ポーション兼用として購入されているらしいです。組合で出ている回復ポーションより若干ですか回復量が多いようですよ」
ああ、なるほど。お高い化粧品としてじゃなく、薬品として売れているのか。
……というか、魔力回復ポーションの代わりって……
「人族は魔力総量がもともと少ないですからね。我々で言うところの『微々たる回復』でも、彼らにとってはけっこうな回復量のようです。それで、女性で魔法を使う者を中心に一気に売れてしまったようですね」
「それなら、全部輸出してしまったほうがよかったわね……」
「次の便で輸出量を増やしましょう。ちなみに、精油も売り切れしそうな勢いのようです。薔薇露が売り切れてしまったので、お金に余裕のある者はそちらに手を伸ばしているようです」
精油は十倍ぐらいの値に設定してあったんだが……人族は本当に貧富の差が激しいな……
しかし、これだけ売れるとなると……
「レディオン」
俺が思考の海に沈みそうになった頃、母様が俺に声をかけた。
うん?
「お父様にお願いして、薔薇園を増設したいのですけど、レディオンはどう思うかしら?」
とてもいい考えだと思います。
では、俺は開墾用と生産用ゴーレムを作成しましょうかね。あとは水蒸気蒸留装置の量産か。いっそ工場を作ってもいい気がしてきたな。
ついでに雇用問題にも少し手を伸ばしてみようか。……うーん……あの問題も組み込みたいが……
まぁ、父様に相談だな。
母様と俺が事業をやっている主な理由は、クロエの生活を守る為、だった。
クロエの親族は今もクロエの実家に金の無心に来るらしい。事業の失敗でどれほどの借金を背負っているのか、残念ながら俺は教えてもらえなかったが、把握しているらしい母様は盛大に顔を顰めていた。相当高額だったんだろう。いったい何の事業を失敗したらそうなるのやら……
クロエの親族の借金を肩代わりすることに関しては、父様はいい顔をしなかった。
だが、俺の世話をやいてくれ、なおかつ母様と仲のいいクロエにも関わってくる問題だから、父様も無下に出来ないのだろう。消極的にではあるが、俺たちが事業をすることには協力してくれている。
クロエはといえば、母様達に迷惑をかけるようなことは嫌らしく、勿論物凄い勢いで断られた。なので救貧院の制度を利用することでどうだろうか、とお金を稼ぐ傍ら、現在も話をもちかけている。ぶっちゃけ、未だに説得中だ。どうなるのかは、まだ分からないな。
ルカはそんな中ですくすく育っている。ただ、最近は実家に行く時はクロエひとりで行って、ルカは我が屋敷でお留守番するようになっていた。どうやら母様とクロエの間でそのように話がついているらしい。母子免疫の関連だろうかとも思ったが、どうも違うようだ。連れて行くことでルカの身に危険が迫る可能性が出てきているらしい、とはポムを襲って仕入れた情報である。
ちなみにポムは脇腹が弱い。きっと奴は世界脇腹くすぐり選手権で堂々の最下位だろう。
「坊ちゃんの意向もありますから、私からはあまり言いませんけど……他者の借金を肩代わりするのは、良い手段ではありませんよ」
父様同様、ポムもそんなことを言う。正論だと思う。だが、他に方法が無いのだ。
無論、施しの如く肩代わりしてやって終り、というのではない。正確に言えば、借金の先を業者でなく我が家にするみたいな感じだ。一般的にはそれも良くないのだろうが、少し考えてほしい。
グランシャリオ家は上流家庭であり、父様は強大な力をもつ上級魔族だ。
そして息子の俺は次期魔王だ。
我が家が借金の肩代わりをすれば、そんな家が取立人になるのである。しかもクロエはそこに雇われている。クロエに何かすれば我が家が怒る。取立も激しくなるかもしれない。――そんな感じで向こうがビビッてくれることを期待している。
あとは少しずつでも真面目に働いて返金していってくれればいいな、という感じである。
まぁ、そこまで甘くは無いと思うが、強さが怖さとイコールになりやすい我が家の背景があれば、現状よりは良くなるんじゃないかな。……なるといいなぁ……
ちなみに働き先としては俺の農場や母様の薔薇園を計画している。ゴーレムでもいい仕事してくれるのだが、匂いや味などの品質に関しては、どうしてもゴーレムでは難しいからな。
「ポム。『ばら』いがいについては、どんなうりあげだ?」
母様が父様におねだりに行っている間、せっせとゴーレムを作りながら俺はポムに問いかけた。ポムはすっかり俺の秘書のようになっている。俺が引っ張りまわしているせいなのだが、もし父様に怒られるようなら俺も一緒に謝りに行かないといけないな。
「ポーションの売り上げが予想以上でしたね。どうやら向こうの大陸では変異種が増えているようですよ。そのせいで回復薬系が好調ですね」
うわぁ。嫌な好調の仕方だなぁ……
しかし変異種が増えているのか……向こうではモンスターと言うらしいが、人族はあまり強くないから心配になるな。
「携帯食や薬草の売り上げは競合相手が多いので想定内ですが、この調子だと食糧難が深刻化しそうですし、早めに麦も流通ルートに乗せたいところですね」
俺がこっそり進めている大規模農園については、現在ゴーレムによる大掛かりな開墾がひと段落したところだ。早い土地ではすでに種まきが行われている。
主な労働力は俺の作った特製細身ゴーレム『案山子』だが、開墾に関しては途中から岩ゴーレムも投入した。巨体の為、耕す速度が段違いだからだ。
俺所有の土地を全て耕し終えた今は、用排水の整備と大型用水路を利用した水車の建設に入っている。さて、上手くいくといいのだが……
「そういえば、坊ちゃんと水の精霊女王様が開発してくれた魔石のおかげで、かなり楽に魔海峡を通り抜けれたみたいです。輸出入にはもってこいなんですが、あれって量産は出来ないんですかね?」
「にたようなのはつくれるかもしれないな」
ポムの声に、俺は苦笑した。
俺達のいる大陸と、人族のいる大陸の間には広大な海が広がっている。そのほとんどは超大型の海系変異種の巣になっており、唯一変異種が近寄らない海峡は無数の大渦が発生していて普通の船では通れなくなっていた。その大渦エリアは通称『魔海峡』と言われてる。
ポムが取引している人族の街に行くには、この魔海峡を通るのが一番早い。
だが、いくら魔族が強くても渦を全て消し去ることは不可能だ。ポムが言うには、ベテランの船乗りに渦を読ませ、危険時は大型船を浮かしたりで対応しながら渡るのが普通なのだそうだが、流石に毎回それでは辛い。
で、俺が魔改造した。
具体的には魔力付与を行った補強具を要所要所に組み込み、船の中枢にラ・メールと共に作った海用の特殊な魔石を設置して渦の影響をうけなくした。ちなみに魔石と言われているが、宝珠である。前世の俺の知識で言わせてもらえば、水系に特化した『至善力珠』だが、不要な知識だろうということで詳しい事は言わずにおいている。とある一族の秘術だしな。
「いっそ、てんいそうちをつくるほうがはやいかもしれないな……」
「そんな簡単に出来るものでもありませんよ」
ポムが苦笑するのを見て、俺はそっと視線を逸らす。
そうだよな。そんな簡単に出来る術じゃないよな。
……でも素材さえあれば出来るんだよな、転移装置……
誰か俺に境界リングをくれないかな……素材でもいいんだぞ?
「ポム」
「……あ、なんか嫌な予感します」
静かに名前を呼んだ俺に、ポムはビクリと身構える。
なんで俺が頼みごとをしようとしたら身構えるのだろうか。というか、何故、何も言わないうちから頼みごとをされると分かるのだろうか。謎だ。
「きょうかいりんぐ、てにはいらないか?」
「ああ、はい」
ポムは目を丸くしてから、気の抜けたような声をあげる。
やはり、駄目か。あれ、流通ルートが特殊だからなかなか手に入れられないんだよな……
と、思ったらあっさり言われた。
「それぐらいなら、いいですよ」
●レディオン・グランシャリオ
年齢:生後七ヶ月
身体能力:一人歩き可能。階段の一段飛ばし可能。ジャンプ可能。
駆け足可能。壁登り可能(降りれない)。
『気配遮断』『隠密』『魔道具作成能力(上級)』
『錬成能力(上級)』
前歯だけ生えた。
物理攻撃力:高
物理防御力:高
精神力:身内には弱い・外部には強い
魔法:精霊魔法 (マスタークラス)・種族魔法(中級)・黒魔法(上級)
白魔法(上級)・時空魔法 (マスタークラス)
血統魔法・【光天】雷の章(??)
魔力制御(上級)・魔力操作 (マスタークラス)
魔力具現化(中級)
魔法攻撃力:高
魔法防御力:高
魔力:極上・膨大
魔力親和度:高
言語:喋れる(まるまっちぃ声限定)
称号:『呪いの子』『次代の魔王』『魔力の宰』『精霊の愛し子』
『精霊王の同盟者』『変な魔法趣味』『日常が黒歴史』
『変異種博士』『■■■』『□□□』
『フラグクラッシャー』『死を司る者』『料理人』
『ラビットキラー』『貿易主』
備考:\髪の毛については言及するな/
『幼馴染の絆』『愛』『俺の幼馴染(♂)が可愛すぎる件』
『大地の精霊王との絆』『水の精霊王との絆』『炎の精霊王との絆』
『炎の縁』『俺の移動手段がオカシイ件』『変な男との絆』
『炎鉄のナイフ』『炎の精霊王召喚石』『領地 (農園)』
マッチョは男の浪漫
(※上記はあくまでキャラクターデータとなります。実際の赤ん坊の成長速度とは違う旨、ご了承くださいますようよろしくお願いいたします)




