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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 ヴェステン村
17/196

15 s'approcher



 朝食はヴェステン村でとることになった。

 父様を含め、騎士の誰もが戦闘で腹を空かせていたからだ。体を動かせば腹が減るのと同じように、魔法をつかっても地味に腹が減る。威力の高いものを放てば放つほど空腹になるので、父様なんて相当腹が減っているはずだ。いっぱい兎を狩っておいて正解だったな。


 そんなわけで、まだ作業の残っているヴェステン村で朝食をとることになった。

 

 猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグが発生後、直ちに緊急避難させられた村人も討伐完了の報を受けて戻ってきている。彼等からもお礼にと食べ物を提供されたが、俺の兎も食べてもらわねば。害獣駆除の面もあるが、食べる為に殺したのだ。ならば、骨も団子に入れ、文字通り「骨まで食べ」なければ。狩りにとっては、大事なことである。


 ちなみに、泥棒兎ヴォルール・ラパンの駆除は村人に喜ばれた。連中には毎年畑一枚か二枚は駄目にされているらしい。相当悩まされていたようだ。

 父様には兵の訓練も兼ねて鳥獣害駆除に乗り出してもらおう。

 そして駆除したものも無駄にすることなく食料にすれば一石二鳥だ。魔族はよく食べるからな。飢えるまではいかなくとも、いつも食糧は不足気味なんだ。


 ヴェステン村は、俺が知っている通りの畑の広がる長閑な場所だった。

 広大な農地の隣には、同じく広大な放牧地がある。小型の馬車ぐらいある白いもこもこした生き物は、天魔羊と呼ばれる羊だ。その向こうの囲いの中には、同じぐらいの大きさをした天魔山羊がいる。さらに向こうに見える大型乗合馬車のような生き物は天魔牛だろう。相変わらずのデカさだが、のんびりと草を食む姿は可愛らしい。

 畑に比べると放牧地は少ないが、一般的な村としてはちょうどいいくらいだろう。あまり沢山家畜を飼うと、今度は冬の飼料に難儀するからな。


 つい先ほどまで凶悪な化け物がいたとは想像もつかないぐらい、穏やかでまったりとした光景に、俺はフッと慈愛に満ちた笑みを浮かべる。やはり長閑な光景はいいものだ。心が癒される。

 まぁ、俺の背後には今、新たな戦場が広がっているんだがな。


「ちょ……! 旦那様! さっきから肉を独り占めするのはやめてください!」

「うるさいっ! これはレディオンちゃんがあのちっちゃな手でせっせと焼いてくれた肉だぞ! 私には食べる権利がある!」

「すみませーん。鳥の空揚げってまだありますかー?」

「パン出来上がりましたー! 欲しい人ー!」

「うおおおお! よこせえええ!!」


 ……落ち着いて喰えよ。あんたら、巷では上級魔族として尊敬されてる連中だろうが。特に父。大人なんだから節度ある態度とれよ! というか、独り占め、ヨクナイ!

 体だけは大人な連中を尻目に、俺はせっせと肉を加工して焼いていた。兎肉は熟成させる必要がある為、時空魔法を駆使する。今回は七日分の熟成にしておいた。俺の好みは十日熟成なのだが、その分時間がかかるのだ。一匹一匹はたいした手間じゃないが、約四十羽だからな。


 臓物系はそのまま使う。鮮度優先だ。こっちの料理は村の者達がやってくれた。

 ……というか、捌く等の解体関係は一切させてくれなかった。赤ん坊にはさせたくないようだ。傍から見たら異様な光景だろうし、第三者視点に立てば理由は分かるので今回は諦める。

 だが、肉を焼くのは俺の仕事だ! これは譲らん!!

 俺の熱意が伝わったのか、それとも俺の背後でなんとも言えない表情で立つ炎の精霊王に遠慮したのか、捌き終わった後の肉は俺の手に戻ってきた。むふー。

 父様がだいーぶ渋ったが、俺の伝家の宝刀【上目使いおねだり】が閃くとあっさり許可してくれた。これはいい手段だ。俺の精神はゴリゴリ削れるけどな。


 そして今、精霊王を巻き込んでのクッキングである。

 勿論、全て熟成させた。わりと疲れた。肉を焼きながらこっそりつまみ食いする程度には腹も減った。……おや、この肉は今までで一番美味いな。酒が欲しくなる……しかし飲めない。辛い。俺は早く大人に戻りたい。

 炎の精霊王は、すでに表情が無我の境地に達している。素晴らしい。彼は悟りを開いたようだ。小人族の祀っている菩薩ってきっと今の彼のような顔に違いない。たまに口の端が引き攣ってるが、な。

 遠赤外線グリル焼きしている肉の隣では、土鍋でくつくつと兎汁が作られている。野菜類は村から貰った。ちなみに土鍋は、三精霊王の力を借りて作ったやつである。


「そなえあれば、うれいなし、だ」


 ほくほく。焼いたのも美味いが、やっぱり鍋だよな、鍋。旨味ぎっしり。野菜もどっさり。変異種ヴァリアントは魔素による変異のせいか、摂取すると身体能力や魔力に変化をあたえるものが多く、鍋等の煮込み系にすると一緒に鍋にいれた具材にまで影響を及ぼして能力強化を高めるのだ。

 つまり、単品で焼くより鍋のほうがお得!!

 美味いしな!

 満足げな俺に、精霊王は訝しそうな声だ。


「……今日を予見でもしていたのか?」

「ぜんぜん」


 むしろ、寝耳に水だよ、精霊王。俺の知りうる限り、この村にあんな出来事が発生するはずないのだから。

 俺が知らなかっただけの可能性もあるが、俺も家督を継いだ時にひとしきり領地の過去と現状を調べた。『異常な化け物アノルマル・モンストル』なんてものが発生していれば、嫌でも目につく。だが、そんなことは無かったのだ。


(俺の知ってる領地の歴史と違う)


 全くの別物として発生したのか、それとも、同じことはあったが隠蔽されたか。俺が知らないということは、そういうことだ。


(できれば数日残って本格的に調べたいが……難しいだろうな)


 大人であったなら、理由を述べて可能なことも、赤ん坊である俺では難しい。

 誰か信頼できる者に任せるという手もあるのだが、残念ながら未来の側近は俺と同じ赤ん坊だ。今の大人のうち、家族以外の誰が信頼出来るのかも分からない。父様はこの件を直に調べるのか、否か……

 いや、いっそ俺が夜中に抜け出して……

 おっと、こぽこぽしはじめたから鍋の火を調節しないとな。


「……一つ、聞く」


 肉を焼きながら頭の中で計画をたてていると、炎の精霊王が口を開いた。

 俺と向かい合って座っているので、顔をあげるとまともに目があう。精霊王は真面目な顔だ。


「この場所で、何が起きた」


 ……。

 ……あれ? 精霊王、知らなかったんだっけ?

 いや、そうか……戦闘が終わってから呼び出されたんだものな。死体の山と俺達の姿を見ただけで全部把握しろというのは無理な話か。

 ……というか、今まで把握なしで俺の傍にいてくれたのか。義理堅いな、精霊王。


「猛毒大蛙がこのような平地で出るなぞ、滅多にないことだ」


 俺が喋らないのを見て、精霊王は小さく呟くように言う。


「しかも、あれだけの量なぞ尋常では無い。……何があった」


 基本、精霊族は物質界の事情には首を突っ込まない。文字通り生きている世界が違うからだが、それは対象が人間であれ魔族であれ変わらないはずだ。

 それなのにこうして尋ねてくるということは、何かしら精霊王として見過ごせない異変を感じとったのかもしれない。


(言うべきか、否か……いや、隠しても意味は無いな)


 俺は、根っこのところでは精霊族を信じていない。

 かつて裏切られた。――その恨みは、どうしても消えはしない。

 この精霊王は、裏切った張本人では無い。それでもやはり、全てを預けれるほど信頼は出来ない。どうしたところで、今、それは無理だ。

 だが――


「ぽわぞんもるてるふろっぐと、『あのるまる・もんすとる』が出た」

「猛毒大蛙の、か? あれは、普通の敵ではないぞ……いや、そうか、あの皮のない肉塊がソレか……。色は、何色だった?」


 色?


「あか」

「!?」


 俺の声に、精霊王はギョッとした顔になった。

 ……猛毒大蛙のAMアノルマル・モンストルって、カラーバリエーションがあるのか……?


「そうか……赤色なら、周囲に高濃度魔素を撒いて無限に変異種を量産する……それであの死骸の山か……」

「いろでちがうのか」

「違う。普通のAMアノルマル・モンストルは紫だ。そのまま大きさと能力強化がなされたやつだな。赤は『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』と呼ばれる。昔、人族の国を一つ滅ぼしたこともある強大なAMだ。あちらの連中には『蛙の魔王』の名でも呼ばれていた」

「……ふゆかいだな」


 魔王は魔族の王だぞ。なんだ蛙の魔王って。


「人族にとって、強力で群れの上に君臨している魔物モンスターは全て『魔王』だからな」


 不機嫌な俺の様子に、精霊王は苦笑した。……おや、笑い成分が多い顔はある意味初めてですよ。苦み成分の多い表情は色々見てるけどな。

 ……ん? まてよ?


「ひとぞくのくにをほろぼしたソレが、さっきのやつか……?」

「いや、流石に違うだろう。もう七百年も前の話だ」


 そんなに前か。変異種は長生きするが、流石に七百年ともなると違うだろうな。そもそも、それだけ生きた個体ならもっと巨大なはずだ。

 それにしても、今日の精霊王はなかなかお喋りだな。いつもは無言なのに。

 ……ふむ。


「せいれいおう」

「……俺の名はフラムだ」


 おお、やっと名前が知れたぞ。しかし『フラム』か……いや、考えまい。


「フラム、これ、みたことある?」


 フラムの目を見つめたまま、俺は『無限袋』から例の蛙卵を取り出した。こっそりちょろまかしたやつである。

 精霊王を関わらせることに少し抵抗はあるが、情報は喉から手が出るほど欲しい。今回の騒動は、無視できないレベルのものだ。


「……奇態な」


 フラムは眉を顰めるようにしてそう評した。目には嫌悪がある。


「見たことのない形状だな……歪められているようだが……これが、どうした」


 ふむ。

 さて、どこまで語ろうか。

 言ってしまってもいいんだが、問題は、フラムが『魔族にとって』敵か味方なのか判断がつかない、ということだ。

 父様と契約しているとはいえ、どちらかが拒否すれば壊れるようなものだ。精霊族の価値観と魔族の価値観は違う。契約に至ったということは、良し、とする部分があったのだろうと思うが……

 ……それに、俺自身、フラムにはいつも、見張られてるような気がする……

 たぶん、何をしでかすか分からないとか、そういう感じで見られているんだろう。まぁ、信頼は無さそうだよな。俺もしていないが。

 うーん。


「……ふむ。モンスタートラップ、というやつか」


 迷ってたら、勝手に推理された。しかも当たっていた。流石は精霊王か。いや、猛毒大蛙発生地でその素となる生き物が球に入っているものを見せられたら、だいたいのところは察せれるか。


「……成程、何が起きたのかはおおよそ理解できた。だが……」


 フラムは何かを言いかけ、口を閉ざす。


「いや、精霊族われわれが口を挟むべきものではないな」


 え。そう言わずに言おうよ。気になるよ。

 なんでそんなに気になる台詞だけ言って押し黙るの。もしかして、癖なの?

 ジッと見つめていると、嫌そうな顔をされた。


「おまえ達の問題に、精霊わたしは口を出せん」

「ひんと、はほしい」

「……ヒント……はぁ……」


 なにかな、そのため息は。俺とおまえの仲じゃないか。主に食べ物を挟んで向かい合う的な。


「おまえ達が、これが何故どこからどのようにしてここに持ち込まれ、何の目的でこのようなことが行われたのかを把握していないことは、俺の目にも明らかだ。……それが少し気になっただけで、俺自身が気づいた点などは無い」

「……」

「おまえ達の側には、無いのか」


 問われ、俺は沈黙した。

 これが明確に俺を狙ったものなら、話は早い。最終的な敵が誰であるかはすでに知っているからだ。

 だが、今回のは俺を直接狙ったものではない。俺がここにこうしていること自体、犯人にとっては想定外だろう。むしろ俺ではなく、父を狙ったものである可能性が高い。

 ――父を。

 なら、その目的は、なんだ?


「ふらむ」

「なんだ」

「とうさまは、おまえからみて、どんなまぞくだ?」


 フラムは俺の物言いに微妙な顔をしてから、ため息をついて答えた。


「実力がある。魔力量が他と比べて桁外れだ。魔族の中では話が通じやすい。……今日会った限りでは、今までの評価とは別の面が強く出ているが、な」


 ああ……息子おれがいるからな。

 しかし、そうか……なかなかいい評価だな。関係は良好なようだ。


「とうさまは、だれにとってのきょういになりそう?」


 フラムはあからさまに嫌そうな顔になった。

 ……悪かったな、思いっきり魔族側の事情に関わらそうとして。でもな、今の俺の知識では対応できないんだ。外部の情報も欲しいんだよ。……もうちょっと先の未来なら俺の知識も生かせるんだが、いかんせん乳幼児時代の情報には疎い。


「……おまえ以外の全てにとって脅威だろう」

「え」

「おまえは、おまえという存在がどんなものか、自覚していないかもしれないが――生まれてすぐ『魔王』として認識される者など、我々の歴史の中でも初めてのことだ。それだけの力をもった『魔王』の親だ。他の勢力にとって、脅威以外の何になるというのだ」


 ……そうか。

 やはり、ここでも――赤ん坊の(こんな)時代であっても、全部、俺が原因か。


「おまえ達魔族の中で、誰がどんな力をもっているのかは、おまえ自身が知らなくてはなるまい。俺は関わらん」


 魔族の中にも敵、か。

 ……そうだな。今はまだ全ての魔族が団結しているわけでは無い。それに……同族の中にだって、裏切り者はいる。ああ、そうだ……忘れていたわけではない。考えたくないから、考えないようにしていただけだ。

 敵は、どこにでもいる。

 ――どこにでも、いるんだ……


「……」


 ふと、迷うような気配がして、俺の頭が大きな何かに包まれた。

 手だ。

 ……フラム?


「……おまえの責任ではあるまい」

「……」


 ぼそっと零された一言に、俺は瞬きし――微笑わらった。

 なんだ、フラム。気をつかってくれたのか。

 俺が、自分が原因で起きたと悩んでいると思ったのか。関わらないと突っぱねたことに気兼ねでもしたのか。

 頭に乗った手に触れてみると、やたらと大きかった。そうだな、俺は今こんなに小さいものな。大人な精霊王から見れば、文字通り片手で握りつぶせるほど小さいものな。憐憫を感じたか何かしたのかもしれないな。

 ……俺は、そういう「かわいそう」は嫌いじゃない。それは、誰かを思ってやれる優しさだ。

 両手で頭の上の大きな手をワシャワシャ堪能してやると、フラムは口をひん曲げて手を退けた。くすぐったかったのかもしれない。フラム、実は手が敏感?


「しかし、『災厄の種(カラミテ・グレーヌ)』を斃すとはな……おまえの父も、なかなかやるではないか」


 おや。誤解されている。


「たおしたのは、とうさまじゃない」

「……」


 フラムが物凄く物言いたげな目をした。いつもの目だ。しかし今日は珍しく言いたいことが分かった。

 つまり「まさか、おまえか?」だ。

 俺はコックリ頷いた。


「どうやって倒した……? 奴は、ほとんどの魔法に対して耐性がある。おまけに、打撃系を含む武器攻撃も効きづらい。自身の危機には己の能力を飛躍的に高める。そうそう簡単に倒せるものではないぞ」


 父様の血統魔法すら凌いだから、そうだろうな。

 そもそも、固有名をもつAMは普通のAMよりもずっと強い。人族にあんな呼び名までもらうぐらいだから、相当強力なのは確かだろう。

 んー……でもな、俺個人の感覚でいうと、個人戦でやるのであればアレは楽な部類の敵だぞ。


「そくしまほうで」


 ぱん、と手を叩いて見せると、フラムは嫌そうな顔で俺を見てから、嘆息をついた。


「……死にかけただろう」


 え!? なんで分かるんだ!?

 もしかして、死臭みたいなの出ちゃってる!?


「……おまえは顔には出ないが、目で物を言うのだな……」


 なんだか疲れたようなため息をついて、フラムはしみじみとした声で言った。

 しかし、そうか。俺は表情に出ないタイプなのか。……それで生前もよく、何を考えているのか分からないと言われたのだろうか。……なんか違う気もするが。


「次代の魔王よ」


 声を改めて告げるフラムに、俺も姿勢を正した。

 せいざ。


「おまえの魔力は異常だ。正直、俺はおまえが恐ろしい。それほどのものだということを前提に、話をする」


 はい。


「即死魔法は、魔族特有のものだ。種族魔法と言っていい。最も熟練度の低いものであれば、おまえ達魔族と契約することで黒魔法として我々でも使える。だが、上級以上になれば、種族魔法だ。魔族以外は使えない」


 うむ。


「おまえが即死魔法を使う時、その力は、おまえそのものの力を使うことになる。――これに、相違ないか」


 ないよ。


「――なら、今のその器では死ぬしかないだろう。繰り返すが、おまえの力は異常だ。弱い赤子の体で扱えるような、そんな生半可なものではない。そうやって、普通に生きて生活していること自体が信じられんほどなのだからな」


 あ。

 あー……そうか。そういうことか。

 フラムの言葉で、俺はようやく何が起こったのか分かった。


「せめて、魔族で言うところの十歳……それぐらいになれば、鍛えようによっては持ちこたえられるだろうが……今の年齢で使うのは、やめておいたほうがいいだろう」


 小さな入口からいきなり大量の水を一気に出そうとしても、水圧に負けて壊れてしまう。つまりは、そういうことだ。

 もしあの時、俺自身の力を使わずに、同族(父様)の力を借りる形で行っていれば結果は違っただろう。精霊魔法を使うことと同じく、負荷のかかりすぎない相手の力を借りていれば。

 だが、俺自身の力のみを使う魔法は――俺自身の力が強すぎて、赤ん坊としての俺の体がもたないのだ。

 毎日努力しているとしても、たかだか数か月しか鍛錬も積んでいない。元々が頑丈だとはいっても、俺は不死でも無敵でも無いのだから当然だ。


 そういえば、前世で俺が種族魔法を覚え出したのは、十歳以降のことだった。体が魔力に耐えられる頃に教えられたということか。

 ……わかっていた以上に、赤ん坊の体の弱さにびっくりだ……


「坊ちゃん、盛大に魔法使ってましたもんね……」


 ポムも「やれやれ」といった顔で首を横に振っている。

 ……。

 いつ来た!?


「肉が切れて旦那様がそわそわしているんですよ。……やー、この鍋も美味そうだ。坊ちゃん、いつどこでこんな料理覚えたんです? いつでもお嫁さんに行けますよ」


 父様はまだ肉を所望しているのか。ちなみに覚えたのは生前だよ。あと、俺は男だから嫁に行く予定は無いぞ。もらう予定の嫁はいるがな!


「ところで、アロガンよ。いつまで俺を召喚したままでいるつもりだ。これでは、魔力回復も間に合うまい」


 フラムが父様のいる方に向かって声をかけた。

 そういや、父様の魔力で呼び出されてるんだから、父様いつまでたってもお腹ペコペコだよな。


「レディオンちゃんを安全圏へ送るまでだ」

「……」


 父様、キリッとした顔だけど、その手にある骨は皿に置こうか。……なんかえらく綺麗な骨だったんだけど、もしかしてしゃぶりつくしましたか?

 それにしても、精霊王の召喚なんて魔力をくいまくる魔法、いつまでも維持しておくのは辛いだろうに。


「ふらむ、おれがよびだそうか?」

「……」


 あらやだ。フラムってばものすごい微妙な顔しましたよ。なに、そんなに俺のこと嫌い? 傷つくぞ?


「おれのまりょくなら、よびだしつづけても、もんだいないだろう?」

「……」


 なんでますます微妙な顔になるんですかやだー。俺が泣くぞ。ビービーだぞ。


「契約を……するのか……」


 フラムは何故かものすごい悩んだ後、一回だけだと言って、小さな石をくれた。赤いキラキラしたやつだ。宝石かな。


「一回だけ俺を呼び出せる石だ。呼び出すのなら、それで行うといい」


 ……どれだけ俺と契約したくないんだこの精霊王は……

 流石にちょっと傷つくんだが。というか、今の状況改善には何の役にも立ってないな?

 と、思ったらこんなことを言い出した。


「アロガン。権利の引き継ぎを行え。それで使用魔力がおまえの息子に移る」

「!? ダメだぞ! うちの可愛いレディオンちゃんになんてことをさせるつもりだ!」

「一つだけ事実を指摘するなら、おまえの魔力よりおまえの息子の魔力の方がはるかに多い」

「駄目だ! 筋肉質なオッサンに可愛いレディオンちゃんを食べさせるなど言語道断だ!」


 魔力の話だろうに、なんでそんな背筋が寒くなるような言い方をするんだこの父は。


「……仕方あるまい。次代の魔王よ、魔力を分け与えてやるといい。やり方は、わかるか?」

「ん」


 深い深いため息をついたフラムに、俺はなんとも言えない気分で父様に手を向ける。……全く、この父は……

 魔力を直接他者に渡すのは高等技術だが、昔はよくやっていたので俺の十八番だ。なにしろ、少数精鋭で死地を駆け抜けることが多かった生前は、俺の魔力を分け与えることで数の少なさをカバーしていたのだから。

 ――だが、


「ぎゃ!?」


 ……あれ。

 なんか、父様がいきなり雷の直撃を受けたみたいに硬直して倒れた。あれ?


「……いきなりあのような高威力の魔力を流すとは……」

「……坊ちゃん……旦那様を殺す気ですか」


 ぱくぱく口を開閉している俺に、フラムとポムが酷いものを見る眼差しで俺と父を見つめる。

 というか、高威力の魔力って何。俺はかつてと同じような感じで分けただけなのに。父様は上級魔族で魔力総容量も大きいはずなのに。

 ……俺、本気で生前より魔力上がってるんじゃなかろうか……


「……次代の魔王よ。せめて、他者がショック起こさないレベルを把握しろ。今のは譲渡ではなく、魔力攻撃だ」


 フラムに言われ、俺は肩を落とす。

 能力向上と同時に、俺は現時点での俺の能力値について把握する必要があるようだった。






●レディオン・グランシャリオ

年齢:生後四ヶ月

身体能力:首すわり済み。脱おしめ済。

     一人排泄可能。一人歩き可能。階段の一段飛ばし可能。

     ジャンプ可能。駆け足可能。

     『気配遮断』『隠密』『魔道具作成能力(上級)』

     『錬成能力(中級)』

物理攻撃力:高

物理防御力:高

精神力:身内には弱い・外部には強い

魔法:精霊魔法(特級)・種族魔法(中級)・黒魔法(上級)

   白魔法(中級)・時空魔法 (マスタークラス)

   血統魔法・【光天】雷の章(??)

   魔力制御(上級)・魔力操作(特級)・魔力具現化(中級)

魔法攻撃力:高

魔法防御力:高

魔力:極上・膨大

魔力親和度:高

言語:喋れる(まるまっちぃ声限定)

称号:『呪いの子』『次代の魔王』『魔力の宰』『精霊の愛し子』

   『精霊王の同盟者』『変な魔法趣味』『日常が黒歴史』

   『変異種(ヴァリアント)博士』『■■■』『□□□』

   『フラグクラッシャー』『死を司る者』『料理人』

   『ラビットキラー』

備考:\髪の毛については言及するな/

   『幼馴染の絆』『友愛』『俺の幼馴染(♂)が可愛すぎる件』

   『大地の精霊王との絆』『水の精霊王との絆』『炎の精霊王との絆』

   『炎の縁』『俺の移動手段がオカシイ件』『変な男との絆』

   『炎鉄のナイフ』『炎の精霊王召喚石』

   マッチョは男の浪漫



(※上記はあくまでキャラクターデータとなります。実際の赤ん坊の成長速度とは違う旨、ご了承くださいますようよろしくお願いいたします)

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