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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
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36 融合生物

感想、メッセージ、いいね!ありがとうございます(*‘ω‘ *) いつも励みにさせてもらっています(`・ω・´)ゞ






 十四層は山林だった。しかも果樹が多いという嬉しいおまけつき。

 そんなフィールドで何をしているかというと、ロベルトの力試しである。


「ちょ!? ま!? 死ぬ死ぬ死ぬ!」

「まだ本気じゃないだろう!? 早く全力を出せ!」


 相手してるサリの楽しそうなこと楽しそうなこと。


「後ろで死神さんが見てるんですけどーッ!?」

「見てるだけだ! さっさと力を出せ!」

「無茶言うなって!」


 そう言いながらサリの攻撃を全部防いでるんだから、ロベルトの力はだいぶ上がっているのだろう。


「魔族化して反応速度もあがってるな」

「真なる勇者になって間もないのに、魔族化までしてしまって、ロベルト様も波瀾万丈な人生ですわね」


 父様と母様がロベルトを観察しながらそう言う。その後ろで俺のゴーレム部隊がせっせと果樹を無限袋に入れていた。


「耐久力チェックもしたいけど、下手すると大怪我しちゃうからなぁ」

「それ普通に大怪我じゃすまない状況になるからな!?」


 俺の独り言にロベルトが悲鳴をあげる。サリの攻撃を受けながらよく俺の呟きに反応できるな? でもそんなことをしていると――


「随分、余裕じゃないか。もう一段階早くしてもよさそうだな?」

「わーっ! ストップストップ! これ以上はぅぇあああえええい!?」


 ほら、サリの攻撃がスピードアップしちゃった。


「ロベルトはうっかり属性あるよな」

「レディオンちゃんの類友だな」


 父様、それはどういう意味かな?


「レディオン。お父様に詰め寄っても喜ぶだけですよ?」

「アルモニー! いらんことは言わなくていいっ」


 じゃあ、離れておこう。――あ、父様がしょぼん顔になった。


「せっかくレディオンちゃんが詰め寄ってくれてたのに……」

「旦那様は変な趣味を爆誕させないでくださいな」


 口ではそう言いながら、母様の目元が波打ってる。そんな父様が大好きなんですね、母様。


「お前のところは本当に仲が良いな」

「あれ。もう終わったの?」


 うっすら汗をかいたサリがやってきた。オズワルドが甲斐甲斐しく汗を拭いてあげている。


「ロベルトがバテてきたからな。攻撃に対する反応速度はかなり上がったようだが、体力はそこまでではないようだ。もっとも、自分の力に慣れればもう少しねばれるだろうけどな」


 そのロベルトはというと、地面に手足を投げだして寝転がっていた。


「お疲れ」


 ちょこちょこ歩いて近くに行き、乾いた布を渡してやる。肩で息をしていたロベルトが恨めしそうに俺を見た。


「いくらなんでも、サリさんと対戦させるのは無いだろう? こっちはまだ本調子じゃないんだから」

「じゃあ、俺と対戦するか? 負けないぞ!」


 拳を握ってシュッシュッ。


「ヤメロ! もっと対戦し辛ぇだろ!」

「何故」


 対戦相手がちょっと赤ん坊なだけじゃないか。本気出してくれてもいいのよ?


「攻撃力とかは、適当に変異種ヴァリアントと戦ってみて把握するよ」


 体を起こしながら、ロベルトがそんなことを言う。俺と対戦する気は全く無いらしい。ちぇー。


「それなら、しばらく前衛はロベルト一人でやってみるか?」

「サリさんはなんでそうえげつないことをサラッと言ったりするのかな?」

「悪くない案だと思うが? 今まで出て来ていた変異種ヴァリアントの力量から推測するに、お前が苦戦しそうな相手というのはなかなか出てこないだろう。力を把握したいのなら、数をこなすのが一番だぞ」

「さっきまで戦ってた意味は?」

「…………」


 サリがそっと視線を外す。

 あれだな。サリの娯楽につきあわされたな。


「さ。お遊びはここまでにして、先を急ごうか」

「やっぱり遊びだったんだな!? サリさん、ちょっと俺の目を見て話そうか!?」

「ロベルト、前衛なんだからお前が先頭に行かないと駄目だろ」

「レディオン! お前からもサリさんにビシッと言ってやってくれ!」

「いいじゃないか。反応速度がどれぐらい上がったかは把握出来ただろ?」

「そうだけど!」

「弄ばれて悔しいのは分かるけど、ロベルトにもいいことはあったんだから、それでチャラにしておくといい」

「言葉は選ぼうな!?」


 なんだかんだ言いながら先頭に立つロベルトの後ろで、サリが微笑ましそうな顔をしている。絶対、孫か曾孫を見る気持ちで見てるだろう、サリ。おじいちゃんの眼差しになってるぞ。


「ロベルトはすでに私より強そうだな」

「そうなのですか?」

「私はあそこまで早い攻撃を防げないからな」


 父様と母様が仲良く話し合っている。母様に抱っこされながら、俺はロベルトの背中を見つめた。


「俺の苦手な速度特化型になってるなら、やっぱり手合わせはしたいな」

「レディオンちゃん相手だとロベルトも攻撃出来ないんじゃないかな? 赤ん坊だとバレてしまったことだし」

「早まったな、ってちょっと後悔してる」


 子供だと思われていた時期なら手合わせを承諾してくれても、赤ん坊だとバレた今だと拒否されるだろう。ロベルトは優しすぎるからな。


「それにしても、ロベルト、だいぶ強くなったな」


 出て来た狼型の変異種ヴァリアントをさくさく倒していくのを見守る。速度もそうだが、腕力もかなり上がっているのだろう。一撃一撃を急所に叩き込んでいるところを見るに、精密さも上がっている。真なる勇者になっていたからなのか、それとも魔族になったからなのか。いずれにしろ、地力があがっているのはいいことだ。これで強さ的な意味でも死ににくくなっただろうから。


「ロベルト、右手から新手が出てきたぞ」

「手伝ってくれてもかまわないんだけどよ!?」

「力の把握は出来たか?」

「…………」

「出来るまで頑張って!」

「鬼か!」


 魔族です。


「だいぶ進みましたし、階層主が出て来ても不思議ではありませんね」


 オズワルドが簡易マップを作製しながら言う。階段からどう動いたかを矢印で示すだけのマップだが、どのルートを通って階段を見つけたか、等が分かるためきちんとした地図製作をする時の目安になるのだそうだ。


変異種ヴァリアントは狼が多かったな。鹿型や鳥型もそれなりにいたが」

「また狼男(ルー・ガルー)でしょうか?」

「サリが喜びそうだな」


 さすがに変異融合する敵がそう何度も出てくるとは思えないが、このダンジョンは人族や魔族を変異融合させた異常な化け物アノルマル・モンストルが複数出てきた。それを考えると、同じような個体が出て来ても不思議ではない。


「まぁ、何が来ようと撃破するだけだがな。――ロベルトが」

「俺に丸投げするのやめような!?」


 今も先頭で戦い続けているロベルトからお怒りの声が飛んでくる。あの鹿の群れを一人で捌ききってるのだから、異常な化け物アノルマル・モンストルがきても大丈夫だろう。

 そんなロベルトを先頭に、索敵で強い反応が無いか確認しながら進んでいく。ロベルトには好きな方向に動いて、と指示してあるので、ロベルト的に階段がありそうだと思う場所を目指しているはずだ。うちの預言者さんの予測だから外れはしないだろう。


「大きな反応が出ました」


 索敵範囲の広い母様が声をあげる。


「どの方向?」

「進む先ですね」


 流石ロベルト。迷いなく階層主のいる階段付近を目指してる。


「ロベルト! 進む先に階層主らしい反応があった! 一旦、訓練を終えてくれ!」

「俺はいつでもやめていいんだけどな!?」


 変異種ヴァリアント達が離してくれないんですね、わかります。

 群れに囲われながら撃破していたロベルトの位置を確かめ、俺は範囲魔法を放つ。


「ちょ!? ま!?」


 一瞬で群がっていた鹿全部の首を落したら、中央にいたロベルトが血塗れになってしまった。おぉふ。


「すまん……」

「お前は味方がいるところに範囲魔法撃つのヤメロ」


 はぁい。

 とりあえず清潔(プロ―プル)の魔法でロベルトを綺麗にして、喉が渇いたであろうから水筒を渡しておく。うちのゴーレム部隊がそそくさと走り、倒した鹿達を無限袋に入れていった。


「母様の索敵に、行く手に大きな反応があったらしい。階層主だと思うから、いつもの前衛後衛に別れよう」

「攻撃の主体はロベルトでいいか?」

「俺、まだ訓練モードなの?」

「雑魚への対応と強敵への対応はだいぶ違うだろう? せっかくいい訓練相手がいるんだから、やっておいたほうがいい。後ろにはレディオン達がいるから、何かあったとしてもすぐにフォローしてもらえるしな」

「任せて!」

「……そのフォローが一番怖かったりするんだが?」


 どういう意味かな?


「レディオンは余波が酷い炎系や氷系は禁止だぞ?」

「はぁい」


 風で吹っ飛ばすのは良いとみた。


「階層主戦では、お前が動きやすいように俺達も動く。上手く利用してくれ」

「あいよ」


 ロベルトが今まで使っていた剣を仕舞い、見えざる光の剣を抜く。サリと父様もそれぞれ得物を抜いた。

 俺も真似して昔フラムからもらった炎熱のナイフを抜く。


「危ないから、刃物は仕舞いましょうね?」


 あっ。取り上げないでっ。フラムからの贈り物だからそれっ。

 あっさり奪われ、俺のポーチに戻された。ああー……


「レディオンが動くと緊迫感が消えるな」

「全くだ」


 どういう意味??


「さて。何が出るかな」


 サリが楽しそうに言う。

 中央のロベルトを先頭に階層主らしき気配へまっすぐに進むと、大きな広間に出た。その中央には捻じれた木のようなものが山のように座っている。


「木?」

「レディオン、『目』」


 おっとそうでした。


樹呪森狼(アーブルルヴトー)異常な化け物アノルマル・モンストル固有才能(タレント)は樹木操作、呪い、花葬。弱点は火だ」

「弱点まで分かるようになったのか?」

「見えるようになってるな。わかりやすい敵だからなのか、熟練度があがったか何かなのか、は分からないが」


 言いながら、俺は案山子(エプヴァンタイユ)を仕舞う。樹木操作がどの範囲まで操作可能なのか分からないから、自然素材で出来たゴーレムは戻したほうがいいだろう。


「地面から根が襲って来るかもしれない。足元にも気をつけて」

「おう」


 俺の声にロベルトが片手を軽くあげ、気合を入れて突撃する。


「いくぞ!」

「ああ」


 サリ達がそれに続き、向かう先で『樹呪森狼(アーブルルヴトー)』がその巨体を起こした。

 と同時に広範囲に巨大な根が槍のように起き上がる。


鋭刃陣(ヴァン・ポワンテュ)

重雷(ルールド・エクレール)


 サリと父様の魔法がロベルトの近くに出現した根の槍を切り刻み、炭化させる。炎を使わないのはロベルトに配慮してのことだろう。雷撃で一部が燃えているが、『樹呪森狼(アーブルルヴトー)』がそれを地面に押しつけて鎮火させた。

 その隙に三人が巨体へ肉薄する。

 また根が槍のように地面から突き出して来た。それをかわし、ロベルトが根の上に乗る――慌てて飛び退いた!?


「根から根が出るって反則じゃねぇかな!?」


 どうやら太い根から細い根が針のように飛び出したようだ。剣で切り裂き、根のない場所に降り立ってロベルトが魔法を放つ。


巨大風斬(ジェアンテ・ヴァン)!】


 木で出来た巨体の、肩らしい所から胸らしいところまでが大きく切り裂かれた。痛みは無いのか、『樹呪森狼(アーブルルヴトー)』はかまわず根の攻撃を続ける。次いで、前脚らしい木の塊が横殴りに三人に襲い掛かった。


重撃力(ルールドゥ・フォルス)!】


 とっさに放った俺の魔法がその前脚を地面に縫い付ける。ロベルトが走り、狼の頭部と胴体の間らしき場所を切り裂く。


「どうだ!?」

「まだ動いている! おそらくどこかにある(コア)を潰さないと動き続ける変異種ヴァリアントだろう」

「頭とるぐらいじゃ倒れないか……」


 切り裂かれた部位が蠢き、新しい頭部らしいモノが再生されるのを見て、ロベルトは嘆息をついた。


「ロベルト! 炎系魔法は使えないのか?」

「苦手なんだけどな、炎系」

「魔法も慣れておかないと拙いだろ? 撃ってみたら?」

「火がついて攻撃しにくくなったりしそうなんだけどなぁ……」

「お前がそれ言ったら予言になるだろ」

「またか!」


 げんなり顔のロベルトが剣を樹木の塊に向ける。


重炎(パンドラス・フレイム)!】


 俺の知らない魔法が唱えられ、巨大な炎の塊が樹木の塊を吹き飛ばした。


「なんだ今の!?」

「本人が驚くの!?」

「威力が段違いにあがってりゃ驚くだろ!?」

「ちなみにまだ動いてるぞ」

「まだかよ!? 頭でも胴体でも無かったら、どこに(コア)あるんだ!?」


 ロベルトが突き上げてくる根の攻撃を避けながら叫ぶ。

 俺はなんとなく切り離されたままの頭を見た。本体と思しき胴体部分から切り離されてなお、狼の頭を模した形をしている樹木の塊を。


「頭はまだ破壊されてないよな?」

「! それだ!」


 ロベルトが言い、俺が呪文を唱える。


重炎(ルールドゥ・フラム)


 ロベルトの魔法を解析して作った魔法を放つ。巨大な白い炎が頭部に炸裂し、樹木部分が一瞬で消滅した。


「――ん?」


 なんか体に違和感が。


(コア)だ!」


 焼け跡に残った赤い結晶のようなものを駆け寄ったロベルトが拾う。


「砕けてるな……レディオンの魔法がトドメさしたってことか」

「ついでに何か拾ったかも」

「そうなのか?」


 サリ達が俺を見る。

 俺は自分の体を見たりぱたぱた叩いたりしながら首を傾げた。


「何か違和感があったんだけど、何でなのか分からない。倒した直後っぽいから、たぶん何らかの固有才能(タレント)を奪ったんだろうけど……」


 今までこんなにハッキリ違和感覚える事ってなかったんだがな?


「樹木操作、呪い、花葬、だったよな?」

「うん。とりあえず、樹木操作できないか試してみる」


 近くに果樹があったので、自分から実を落すイメージで……


「うわ。林檎がボトボト落ちてくる」

「樹木操作もらったみたいだな」

「呪いと花葬は?」

「呪いは誰を呪えばいいの?」


 そもそも俺、ツルツルの呪いを複数にかけた疑いがあるんだけど……


「じゃあ、花葬」

「花の葬式ってどんな感じだろうか」


 適当な生き物がいなかったので、かわりに樹木に花葬らしきものを念じてみる。


「ん~~~」

「無理っぽいな?」


 どんなにきばっても何の変化も無かった。どうやら樹木操作だけ手に入れたようだ。


「樹木操作か……戦ってた時の根っこみたいに、操った木で攻撃してくる感じかな」

「たぶん?」

「攻撃の幅が増えたな」

「これで収穫が楽になる!」

「そっちかよ……」


 ロベルトに呆れ顔をされてしまった。


「だって、樹木操作だぞ? まず収穫のことを考えるだろ?」

「お前はそういう奴だよ……」


 ロベルトの呆れ具合が深くなった。


「とりあえず、ここに基地を作るな」

「あいよ。――そうだ、さっきの奴は特殊な異常な化け物アノルマル・モンストルなのか?」

「と、いうと?」

狼男(ルー・ガルー)みたいに、人族とか魔族とかが融合したりして作られたやつかな、と思ってな?」


 言われて、どうだったかを思い出して言った。


「狼の変異種ヴァリアントと木の変異種ヴァリアントの融合体だな。変異種ヴァリアント同士をかけあわせたのは、もしかしたら初めてだったかもしれない」

「ついに変異種ヴァリアント同士のかけあわせまで出て来たのか……このダンジョン、おかしいな」

「おかしいよな」


 ロベルトの言葉に俺も頷く。

 このダンジョンはおかしい。

 まるで何かの意志が働いているように、変異融合を行っている。


「ダンジョンコアと対面できる時が楽しみだな」

「今頃必死で逃げてるだろうけどな」


 ダンジョンは、以前に見たときは十六層までだった。

 今は十四層。

 ダンジョンコアとの対面まで、増えてなければあと一層のところまで来ていた。






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