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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
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幕間 敵襲

感想、メッセージ、いいね! ありがとうございます!(`・ω・´)ゞ これでバテてる場合じゃないと頑張れます!





『分かっているんだ! そんなことは!』


 声が聞こえて、私は意識を前へと向けた。

 肉眼で見えるほど濃密な魔力で編まれた結界の向こう、十歳ほどのレディオン様が泣いている。

 それを見て、夢を見ているのだと思った。

 海人族による襲撃で孤児になった者を集めたグランシャリオ家のホール――そこで初めて見たレディオン様の姿を思い出す。目の前にいるレディオン様と同じく、十歳という若さで全てを背負った人を。

 悲しみを背負って、それでも毅然と立つ姿に一目で恋に落ちた。

 辛さを表に出さないその人の姿は、美しくもあったが、同時にあまりにも悲しかった。いつか穏やかに笑ってほしいと願うほどに。

 そのレディオン様が泣いている。

 それは看過できないことだった。


『それでも――』


 泣かないで。


『もう、俺のマリーが死ぬところを見たくないんだ……もう二度と見たくないんだよ!』


 泣かないで。

 悲しませるためにこの道を選んだわけじゃない。

 おいて逝きたかったわけじゃない。

 どうしようもなかったから、死ぬと分かっていてこの道を選んだんだ。

 辛くて、怖くて、逃げ出してしまいたいと思ったこともあるけれど、死んで贄になるしかあなたを救えないと分かってしまったから、自分で死ぬことを選んだんだ。


『――に分かるか!? 自分の腕の中で妻が死んでしまう感覚がどんなものか!』


 ごめんなさい。


『家族も仲間も失って、滅亡に向かう魔族の命を背負って立つ俺に、いつも寄り添い支えてくれた人が死んでしまうということがどういうことなのか!』


 ごめんなさい。

 優しいあなたが嘆いてくれることを分かっていて、私は自分のエゴを貫いた。

 おいていかれるあなたの苦しみを分かっていて、自分のエゴを選んだ。

 あなたは私を許さなくていい。憎んでくれてかまわない。

 あなたの未来を選んだのは、あなたのためではなく私のためだ。私がそうしたいからあなたの苦しみを分かっていて選んだのだ。


『分かっているんだ! 馬鹿な事をしているってことも! 全部わかってるのに……』


 泣かないで。


『分かっているのに……どうしようもないんだ。どれだけ否定しても、マリーの姿だってだけで、心が現実(いま)を拒絶するんだ』


 こんな私のために泣かないで。


『どうして俺は……こんなに愚かなんだろう……?』


 あなたを傷つけようとするものは全て私が連れていくから。

 今あなたへと剣を振り上げる、『私』は私が連れていくから。

 そうしないと、あなたはずっと泣いている。

 あなたは情が深い人だから――


「……仕方のない人ですね」


 ごめんなさい。愛してしまって。

 どうか、いつも優しい未来が、あなたに訪れますように……









「……かはっ。――!」


 呼吸が止まりそうな衝撃に、咄嗟に剣をつかんで飛び起きた。

 周囲を見渡すが、こちらを唖然とした顔で見上げるザマス殿以外、誰の姿も無い。


「いきなりどうしたんザマス?」

「……。……いや、夢だったようだ」


 嫌な胸の痛みを堪えて、掴んでいた剣を腰にさす。先程まで寝ていたベッドに腰かけ、組んだ手の上に額を乗せて大きく呼吸をした。

 その私に、ザマス殿はなんでもない風に声をかけてくる。


「さっきまで、アンタの魂、どっか行ってたみたいザマス」

「…………」

「どこに散歩に行っていたかは知らないザマスけど、気を付けたほうがいいザマスよ。どこからかは分からなかったザマスけど、呼び寄せ(アポート)の痕跡があったザマス。『存在の差』で発動しなかったみたいザマスけど、魂がそれに引っかかった感じザマス。結界を纏うか何かしておいたほうがいいんじゃないザマス?」


 言われて、夢の内容に納得した。


「なるほど……あれは夢じゃなかったわけか……」

「なんの夢を見ていたんザマス?」

「夫を殺そうとする夢だ」

「いきなり物騒ザマス」


 嫌そうな顔をされたが、私のほうが嫌そうな顔をしていると思う。


「まぁ、それを邪魔してきたんだが。しかし、魂がひき寄せられるほど『私』に近い肉体だったということは、あの人は変身能力に長けた敵と戦っていたわけか」

「ドッペルゲンガーとか?」

「分からない。泣いているあの人の姿しか覚えてないな」

「全力で旦那全振りザマスね」

「仕方ない。世界一美しい夫だからな」

「そのフフンて顔、やめてくれるザマス?」


 声と同時にコインが飛んできて、片手でそれを受け止めた。


「これは?」

「保護の魔法をかけたコインザマス。アンタがどうにかなるとこっちも行き先に困るんザマスから、とりあえず持っておくといいザマス」

「ありがたい。わざわざ作ってくれたわけか。恩に着る」

「この程度で恩に着られても困るザマス。あの男ぐらい――になると腹立つから、ちょっとだけ図々しくなるべきザマスね」

「はは。そうさせてもらおう。有り難く使わせてもらう」

「ハイハイ」


 片手をひらひらさせて返答し、ザマスは自分のベッドにごろりと寝転がった。


「それと、涙で顔がぐちゃぐちゃになってるから、拭いておいた方がいいザマスよ」

「…………」


 言われて、自分が泣いていたことに初めて気がついた。


「驚いた」

「なにがザマス?」

「私でも涙は出るんだな」

「……どういう感想ザマスか、それ」


 呆れ返った顔で言われ、顔を拭いながら述懐する。


「泣いている暇のない日々を送ってきたからな。涙なんてとうの昔に枯れ果てたと思ったのだが、そうでもなかったようだ。――そういえば、あの御仁に魔法の空間を作ってもらった時も泣くことが出来たな。あれで涙腺のスイッチが入ったんだろうか?」

「真面目に不思議がるのやめるザマス。不憫すぎてこっちが泣きそうザマス」

「泣いたら化粧がとれてしまうぞ」

「ザーンネーン。ちょっとやそっとでは落ちない化粧ザマース」

「なんでそんな化粧品を持ってるんだ」


 呆れて問うと、起き上がって胸を張られた。


「普段から化粧していたからザマス」

「化粧が好きなんだな?」

「というより、人相を覚えられにくいようにペイントしてたんザマス。今は顔が変わってしまったから素の顔にあう化粧をしているザマスけど、前は道化師(クラウン)の化粧をしていたザマス。おかげで当時の素の顔で動いている時は自由に動けてよかったザマス。こう見えて有名人だったザマスから――変な顔してどしたんザマス?」


 得意げに語っていたザマス殿から視線を逸らし、私は口を開いた。


「その、だな……カルロッタの王都を出る時に、人相書きを見せられていて、だな……」

「ああ、私のやつザマスか」

「やはり、ザマス殿だったか。特徴が特徴だったから、もしかしてとは思っていたんだが」

「ちょうどいいから教えておくザマス。他に知られると困るザマスけど、アンタは知っていてもいいザマス。私ばかりアンタの事情を知っているというのも座りが悪いザマスし」

「かまわないのか?」


 私の問いに、ザマス殿は軽く肩を竦めてみせた。


「別に構わないザマス。アンタはあちこちに吹聴する類の人では無いザマスからね」

「信頼を寄せてくれるのは嬉しいが、必要なら喋ってしまうぞ? 私は」

「よっぽどでない限り喋らないザマショ?」


 言われて苦笑した。

 確かに、余程のことがない限り喋る気はない。


「ワタシはその人相書きに描かれていた『ロモロ』ザマス。聖王国の密命を受けてカルロッタに派遣された神騎士で、ちょっと前の馬鹿が先走ったクーデターの時に行方不明になった男ザマス。ああ、神騎士だったといっても、あの男に体を作り替えられたザマスから、今はもう何の繋がりもないザマス」


 神騎士だった、というくだりで反射的に身構えかけた自分に苦笑し、剣に伸ばしかけた手を元の位置に戻す。


「神騎士というのは、攫ったり売られたりしてきた孤児の中から、素質のある個体を選んで教育し、肉体を改造して作られた『神の威を示すための人形』ザマス。肉体の改造に耐えられた者だけが生き残り、他の大多数は密かに葬られる――そんな風にして作られた道化師ザマスよ」

「……だから道化師のペイントをしていたわけか」

「まぁ、顔を覚えられなくする目的もあったんザマスけどね。無意識下で思うところはあったかもしれないザマス」


 自嘲めいた笑みを浮かべて、ザマス殿は滔々と語る。


「神騎士に自由は無いザマス。眼球は聖王国の神殿にある宝珠と繋がっていて、見ているもの全部聖王国に筒抜けになるザマスし、『神』の命令があれば勝手に体が動いてしまうザマス。こちらの意志に関係なく、人を殺したりすることもあるザマスよ」

「……それは、地獄ではないか」

「そこで心が壊れていれば楽だったんザマスけど、壊れない程度に強かったせいで今このザマなんザマス。あのまま死んでてもよかったんザマスけど、契約があるザマスからね」

「契約?」

「あの化け物との契約ザマス。あの化け物がそれを守ってくれている限り、私も生きてあの化け物を手伝うザマス。腹立たしいことこの上ないザマスけど!」

「それは……なんというか……ご愁傷様というべきか?」

「ありがとうザマス。――まぁ、神騎士の呪いから解き放ってもらった恩もあるザマスから、仕方なく、そう、仕方なーく手伝ってやっているんザマス」


 胸を張って言われて、なるほど、と納得した。


「その手伝いの中に、私への同行があるんだな」

「そうザマス。ああ、だからといって気にする必要はないザマス。こっちも休暇だと思ってまったりしてるザマスから」


 言われて苦笑した。


「だが、陸についたら私は戦場になるはずの場所へ行くぞ?」

「海人族ザマスね? いいザマスよ。たまには体を動かさないと鈍るザマスし、知らない所を巡るのは楽しみザマス」

「くく……物見遊山みたいなことを言う」

「アンタだって楽しみにしてる節があるんじゃないザマス?」

「それは、な。かつて色々とやられた身だからな。報復できる機会を逃す気はない。今からとても楽しみだ」

「物騒な顔で言わないでほしいザマス」


 言われて顔をつるりと撫でた。


「いかんな。ザマス殿だと気を許しすぎてしまう」

「喜んでいいやら、怯えていいやら」

「失礼だな。怯えることはないだろう」

「アンタ、自覚ないかもしれないザマスけど、素で物騒なんザマス。旦那のことになると簡単に禁忌でも犯しちゃうザマショ?」

「なるほど。ザマス殿はよく私を把握しているな」

「納得しないで欲しかったザマス」


 そう言われても、こうまで為人を把握されてしまっては、素を隠す必要もないだろう。


「海人族には大きな借りがあるからな。父母を奪われた恨みもある。夫が悲しむことにならないよう、今のうちに禍の芽は潰しておくに限る」

「海人族もこんな物騒な女に目をつけられて、可哀想ザマスね」

「フン。先に拳をあげたのはあちら側なのだ。反撃されても仕方ないだろう? まぁ、こちらの世界では無いとしても、だが」

「今の海人族にとってはとんだ災難ザマスね」

「私もそう思うが、――ん? 何か変な揺れ方をしたな?」


 ふいに波以外の揺れを感じ、私は立ち上がった。ザマス殿も立ち上がり、扉に手をかける。廊下に出ると、遠くで声が聞こえた。


「敵襲!」


 私達は飛び出した。







「なにしてくれやがるこの野郎共!」


 甲板に出てすぐ、顔を真っ赤にしたアルセニオが蛸っぽい足をした紫色の人物をフライパンで殴り飛ばしていた。


「アルセニオ!」

「おう! カーマインにザマスさんか!」

「海人族が襲ってきたのか!?」

「そーなんだけど、なんで顔が輝いてるんだ?」

「反撃は正当な権利だな!?」


 言って、私は剣を抜き放った。


「そーだけど、って、カーマイン!?」


 私は海人族が続々と渡ってきている船べりに向かって走る。途中にいた魚人を両断し、目があったウツボのような上半身の男を切り捨てる。


「腕に覚えのある者はかかってこい! 貴様らの血で甲板を染めぬいてやる!」


 どこか遠くで「大暴れザマス……」という声が聞こえたが、スルーした。


「俺は海人族の――ぐふっ」

「我こそは怪力の――ごぷっ」

「誰あらん、俺こそ――がふっ」


 悠長に名乗りをあげる馬鹿共を切り捨て、船べりにいた複数の海人族を沈める。


「せめて名乗りは聞いてやれザマス……」


 ザマス殿が何か言っているが、戦場で馬鹿をやるほうが悪い。綺麗に無視して船べりに足をかけた。


「ちょ、ま!?」

「カーマイン!?」


 そのまま、かけられたロープを伝って渡ってこようとしていた海人族を剣で貫き、蹴り落とす。


「こんなものか!? 海人族! 襲ってきてこの程度とは笑わせる!」


 大音声で嘲笑し、煽りに頭に血を上らせて来た相手を切り裂いた。


「この程度では無いだろう!? 魔族を敵に回して、襲い掛かって来ただけの力は示せるはずだろう!? それとも海人族は弱者の集まりか!?」

「煽る煽る……」


 どこかで呆れたザマス殿の声が聞こえた。


「海に引きずりおろせ!」

「あの男に目にもの見せてやれ!」


 自分達のフィールドに落そうとする連中を一纏めに魔法で薙ぎ払い、範囲から漏れた海人族の首を切り落とす。


「誰が男だ」


 呟いた声が聞こえたのか、ザマス殿が「女と思いたくない気持ちはわかるザマス」とぼやいていた。

 私の気持ちとは裏腹に、戦いは落ち着きつつあった。

 甲板にいた海人族は船員の抵抗もあってほぼ討たれ、新手は登ってくるごとに私が切り捨てている。

 いっそこちらから打って出たいが、綱を上ってくる以外の海人族は水中にいる。さすがに海の中では分が悪い。


「アルセニオ! 船に耐雷措置はしてあるな!?」

「してるけど、なんで!?」

雷よ(エクレール)!】


 船底に何かされては拙いので、海面に顔を出していた海人族めがけて雷の魔法を降らせておく。直撃をくらった海人族の女が腹を上にして海上に浮かんだ。

 そのまま連続して雷の魔法を降らせていると、水中にいた海人族も慌てて離れて行った。


「チッ……臆病者が」

「……どっちが悪役か分からなくなるザマス……」

「襲ってきた方が悪いに決まっているだろう」


 剣を軽く振り、ついた血糊を倒れている海人族の上着で丁寧に拭いて、腰にさす。一段落ついた甲板には、なぜかこっちを呆気にとられた顔で見る船員が大勢いた。

 なにかな?


「いよぅ、男前!」

「ぶふっ」


 その中の一人、船長のイルデブランドの声に、堪えれなかったザマス殿が噴き出した。


「また一騎当千の働きじゃねぇか! あの海人族が尻尾まいて逃げやがったぞ」

「敵が弱すぎるだけだ」

「言うねぇ……ところでそっちの人はなんで笑い転げてるんだ?」

「さぁな」


 腹を抱えて無言でゴロゴロしているザマス殿に、私は冷たい視線を向ける。

 男に間違われるのは慣れているが、だからといって不愉快でないわけではない。ザマス殿とはあとできっちり話をつける必要がありそうだ。


「事実確認がまだだったのだが、今のは海人族が襲ってきた、でいいわけだな?」

「ああ。積み荷と船を寄越せと言ってきやがった。いよいよ海賊化してきやがったな」

「対話を記録したものはあるか?」

「あー……いや、そういうのは無ぇな」

「あるよ!」


 イルデブランドの声に重ねるようにして、アルセニオが手を振って声をあげた。


「女房に船旅の様子を見せようと、記録してた途中だったから、バッチリ映ってるよ!」

「よくやった!」


 私は全力でアルセニオを褒めた。


「船長はその記録を見せてグランシャリオの上の人に指示を仰いでくれ。海人族が魔族の船を襲った証拠だ。甲板に転がってる死体も証拠の一つだ。船の作法としては、どう対処するんだ?」

「海賊は吊るし首にするんだが、首を刎ねてる死体もあるからな……証拠として首をとっておき、体は海側に吊るして晒すしかあるめぇな」

「それだけで済まさないだろう?」


 私の声に、イルデブランドも物騒な笑みを浮かべる。


「当然、このままで終わるつもりは無ぇ。あいつらから喧嘩を売ってきたんだ。こっちもやり返す必要がある」

「この付近の海人族の巣は分かるか?」

「連中の巣か……確か向こうの二つ山が連なってる小島にあったはずだが――どうしてそんなことを聞く?」

「連中の動きを調べる密偵が必要だろう?」


 私の言葉に、イルデブランドはきょとんとした顔になり、次いで破顔した。


「はっはぁ! あんたが請け負ってくれるって!?」

「請け負おう。連中に化ける変身草もある。問題は、連中の動きを知っても、それを連絡する手段が無いことだが」

「あるぜ? 連結済みの無限袋が」

「連結済みの無限袋?」


 私の問いに、イルデブランドは雑嚢袋を取り出す。

 ……どこかで見た雑嚢袋だな……


「これ、複数の無限袋と中身を共有してる無限袋なんだ。これに手紙なりなんなり放り込んでくれれば、それで連絡がつく」

「便利なものがあるのだな」

「レディオン様の作品だ。今も量産していると聞いてる」

「あの方は本当に多才だな……」

「本当にな!」


 驚きが一周周って呆れになった気がする。あの人は、全く……


「こいつを連絡用に持って行ってくれ。手を入れて最初に発見できるよう念じて入れればすぐに気が付く」

「有り難く使わせてもらう。船長の方はこれが無くなって大丈夫なのか?」

「ああ。海の獲物を入れる用にと、二つもらってたからな。グランシャリオ家に連絡するときに一緒に報告をあげておく」

「そうか。では、行ってくる」

「ちょい待ち」


 そのまま海人族の群れがいる場所に行こうと変身草を取り出したところで、後ろから肩を掴まれた。


「猪突猛進も大概にするザマス。まずは腹ごしらえをしながら今後を相談し、準備を整えるべきザマス」

「腹ごしらえをする意味はなんだ?」

「向こうに行ったら海人族と同じものを食べることになるザマショ? 魔族用の食事とは違うだろうと予想するザマス。食べて英気を養っておく必要があるザマス」

「ザマス殿は残ってくれてもかまわないぞ?」

「アンタを放流したら何やらかすか分からないザマショ!? ついて行くに決まっているザマス!」


 ザマス殿の声に、周囲一同が納得含みの苦笑を浮かべている。


「じゃあ、俺が肉系の料理を振る舞ってやる」


 アルセニオが笑ってそう言い、ザマス殿が安心したような嘆息をついた。


「海人族の食事は、たぶん魚介類だろうな」

「……それ、共食いじゃないんザマス?」

「大きい魚はそもそも小さい魚を喰うだろう?」

「納得ザマス」


 そんなザマス殿に、アルセニオが屈託のない笑顔で言う。


「虫かもしれねーよ?」


 ザマス殿の顔がすごいことになっていた。









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