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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 ヴェステン村
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14 わくわく☆やがいのハンティングクック



 よい子の皆! 準備はOKかな!?

 猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグは馬車ぐらいの大きさの猛毒の蛙だよ! こいつに触れる時には、毒素に気を付けてね! 血にも毒が含まれるから、要注意だよ!

 まず用意するのはこの三つ!


 ・防水防毒手袋(上級魔道具、金貨一枚)

 ・吸液壺(下級魔道具、銀貨三枚)

 ・万能肉切刀(中級魔道具、銀貨十五枚)


 万能肉切刀が無くても、硬度二十以上の包丁で代用可能だよ! もしくは、調理スキル五十以上ならどんな包丁でもOK! 料理って偉大だねっ☆


 手順は簡単!


 防水防毒手袋を装着し、吸液壺を起動、あとは万能肉切刀で顎から腹部にかけての部分を切り裂かないよう、丁寧に側面から切り込みを入れ、べりっと肉を引き剥がす!

 そうすると、あら不思議☆ 引き剥がした肉に紫色の液袋が引っ付いてる!

 これを袋の膜が切れないよう、慎重に包丁で切り取っていけば完了だよ!

 毒袋は一度水で洗っておこうね! 血肉がついてたらそこから腐って破裂しちゃうよ!

 あと、作業中も作業終了後も血は全て吸液壺に自動吸収させておいてね! これもいい素材になるよ!

 肉や骨は食べられないから、残念だけど廃棄処分だよ!

 どうしても利用したいってひとは、呪いのスープの材料にするといいよ! でも調理スキル百いるうえ、作った人も呪われちゃうから解呪方法を用意しておいてね!

 皮は皮細工スキル八十以上ある人なら加工できるけど、呪われた素材にしかならないから興味のある人以外は廃棄するのがオススメかな!

 作業が終わったら、血肉がついた場所もろとも炭化するまで焼いちゃおうね! こいつらの毒は地中にも呪いのように残るから、炎で浄化しないと駄目だよ!

 後片付けまでしっかりと! ハンティングクックの大事な基本だね!

 皆で守って、楽しく狩りに行こうね☆





 ――さて。

 猛毒大蛙ポワゾンモルテル・フロッグの大発生はおさえ、AMアノルマル・モンストルも倒した。

 仕掛けられていたらしいモンスタートラップも確保し、今は父様が箱に封印して自身の『空間袋』に収納している。

 父様の『空間袋』は、見た目こそ腰につけるタイプの小型バックだが、容量は通常の『空間袋』より大きい。普通の『空間袋』は麻袋数個分だが、父様のは一般的な民家の一部屋分ぐらいはあるだろう。そのため、氷結封印されたAMアノルマル・モンストルの死骸も一緒に仕舞われていた。


 ……一緒にして大丈夫かな……まぁ、一時的な隔離なんだけど……


 他の『空間袋』に収納すればいいと思うのだが、流石の父様も『空間袋』は一つしか持ってきていなかったらしい。しかも、これだけの重大物を他人任せにするわけにはいかない。結局、長として自分が『空間袋』へ隔離させておくしか無かったのだ。

 俺は実子でさらに屋敷一つ分程の特大容量を誇る『無限袋』を所有しているが――なにしろ、生まれて数か月の赤ん坊だしな。万が一何かが起きた時に、自分で対応できるよう自分の身近に纏めた、というわけだろう。

 ……理由は分かるんだが、俺としては心配である。父様、あんまりひとりで抱え込んじゃ、やーよ?


 今は毒袋の摘出が出来るメンバーで素材回収を行い、それが終わった個体や、戦闘における外傷が原因で最初から毒袋が裂けている遺骸を残りのメンバーで焼却処分している。

 飛び散っている連中の毒が影響を及ぼさないよう、かかった土ごと完全に炭化させ炎による浄化を行うのだ。その後、土壌再生のために神聖系の浄化魔法をかける。

 謎は残ったままだが、一先ず事態は収束したとみていいだろう。

 密かに発動させた監視魔法による調査でも、大蛙達の死骸を前にして奇妙な動きをする者は見つけられなかった。違和感はあるが、現段階でこの中の誰かを見つけることは難しそうだ……


 そんなことを思いながら、俺はこっそりと【石礫】の魔法を放つ。

 キュッと音がして叢の中にいた生物が倒れた。泥棒兎ヴォルール・ラパンだ。

 平地や林ならどこにでも居るという兎の変異種ヴァリアントで、戦闘能力は低いが農作物に被害を与える田畑の天敵。性格は左程凶暴では無いが、敏捷性はかなりのもので、群れで襲われると子供だと少し危険という相手だった。ちなみに大人の魔族は軽くあしらってしまうので、あくまで子供時代には危険だという程度の相手だが。

 この泥棒兎が数十匹、脅威が去ったのを感知したのか、父様達が素材回収に向かったあたりからこそこそ畑にやって来た。今の時期はちょうど活動期が始まった頃だ。冬の間にお腹もすいているだろうし、群れで現れてもおかしくない。流石に猛毒大蛙に大地ごと作物を穢されたところに、兎被害も発生しては村人が気の毒だろう。そしてそろそろ朝食の時間にもなるだろう。そんなわけで、俺は待ってる間の時間を利用して一狩りすることにした。

 一応、極限まで魔力を殺し、漏れる魔法の波動を別の魔法で阻害して行っているので、父様達には気づかれていない。


(それにしても、けっこういるな……父様達が居るのに平然と来てるあたり、魔族への警戒は薄いのか……)


 兎になめられている魔族……やだ、なにかせつない……

 何もなくとも襲ってくる変異種のほうが、俺達より怖いということなんだろう。種としての本能的なアレソレで。

 まぁ、そこを俺が襲うんですけどね。ご飯とかご飯とか皮細工とかの為に。

 泥棒兎は肉も美味しいし、皮も素材になる。なにより熟練スキルをもっていなくてもそれなりに捌けるので、料理や皮細工を学びたい者のいい素材になるのだ。

 ちなみに学びたい者というのは、誰あろう、俺なんだがな。


 そんな俺の隣には、護衛が一人、座っている。

 父様にとっては苦渋の決断だったらしい。……なにしろだいぶ渋られた……

 猛毒大蛙の素材取りは、猛毒の毒袋を扱うとあって危険が伴う。万一の事があってはいけないと離したものの、俺を一人で置いておくわけにもいかず、かといって作業に必要な人員を俺に割り当てるのは俺が拒否した結果、俺の横には異様に暑苦しい大男が鎮座することとなった。

 見よ! 一秒として同じ色には留まらない輝く炎の髪に、雄々しい口髭!

 筋骨隆々としたダイナマイトバディ!

 配下の騎士達を軽く凌駕する魔力に、物理攻撃のほとんどを無効化する種族特性!

 もし、もう一度AMが出たとしてもこの個体がいれば消滅させることも可能だろうと思われる、護衛としては正直オーバースペックも甚だしい偉丈夫――


 炎の精霊王である。


「……」

「……」


 ……なんだろうな……この、気まずさ……

 父様がドヤ顔で呼び出し、騎士達が感銘を受けた眼差しで見上げていた紅蓮の大男は、俺がグリル焼きするたびに暖炉の向こう側から見つめてくる男である。

 いや、分かっている。精霊王は偉大だ。そんな相手を呼び出すなんて父様は素晴らしい。うん。正直、俺は父様が精霊王を召還できるなんて知らなかったほどだ。うん。

 ……その精霊王が、俺としばしば肉やら芋やらを挟んで見つめ合ってる相手だなんて、父様だって想像してなかったろう。なんというか……父様、すまん。なんというか、ほんとにすまん。

 そして今の俺の気まずさよ。親に内緒で時々目線だけあわせていた近所のおじさんと、親経由で初顔合わせした直後のような感じだ。別に悪いことをしていたわけじゃないのだが、「初めまして」とも言えず「昨日ぶり」とも言えないこの微妙さ。辛い。


「……」

「……」


 しかも俺も精霊王も無言である。ひたすら並んで鎮座している。時々俺がピッと石礫を飛ばすぐらいで、それ以外の動きが無い。

 それにしても、精霊王……父様と知り合いだったのか。召還契約を結んでるってことは、互いにそれなりに信頼関係があるということだ。力尽くでなければ、だが。

 ……ハッ! 炎の精霊王が父様と知り合いってことは、ずっと前から俺の動向は父様に筒抜けだったりしないか!? もしかして、この前、会話をしないのか云々言ってきたのもその関係!? 俺の秘密特訓、実はバレバレ!?


「……」

「……」


 監視魔法で周囲を見つつ石礫を兎に放ち、俺はチラッと炎の精霊王を見た。

 精霊王はじっと俺を見下ろしている。

 ……何故……俺を見てるんだ精霊王……

 あんた俺の護衛だろ? 周囲警戒するのが普通じゃないの? 俺見ててどうするの? 俺がいきなり爆発でもするの?

 テールやラ・メールと違って構いにこないのはある意味ありがたいのだが、毎回毎回じっと見つめられているのも大概辛い。何か言いたいことがあるのか、炎の精霊王。俺は心眼の使い手じゃないから、おまえの心は謎ばかりだぞ。


「……何をしている?」


 ぅぉ。喋った。

 目があったのをきっかけにしたのか、炎の精霊王がようやく重い口を開いた。俺は精霊王に向き直る。


「うさぎをとっている」

「……無用な殺生は感心せん」

「ごはんと、かわ」


 言い切った俺に、精霊王は俺が倒した獲物がいるあたりをぐるりと見渡し、胡散臭そうな目を俺に戻した。


「……おまえがすることでは無かろう」

「やえいのくんれんになるし、にくはおいしいし、りょうりやかわざいくのれんしゅうにもなる」

「……繰り返すが、『おまえが』することでは無かろう」


 精霊王は呆れ顔だ。

 奴の言いたいこともわかる。俺は赤ん坊で、さらにはいずれ次の魔王になる者だ。実家も裕福で部下も多い。わざわざ石礫をつくって狩猟したり料理や皮細工作りに精を出す必要だって普通は無いだろう。

 ……俺だって、前に殺された記憶が無ければ、日常系技能まで上げようとは思わなかったよ。

 ――だが、俺は悟ったのだ。

 良い武防具は大切だと。俺を殺した勇者が強力な武防具で固めてきたから尚更に。

 そう――

 昔倒したあのベヒモスの皮があればいい皮鎧が出来たとか、牙があればいい槍が出来たとか、ドラゴン・ロードの肉を皆に食べさせていれば基礎能力の上昇を促せたとか、こう、色々と……!


 素材が手に入ったその時にスキルが無いと、せっかくの素材が全て無駄になるのだ。料理だってそうだ。一つ一つは微々たるものかもしれないが、積み重ねていけば一族全体の能力向上が……いや、それ以上に食料問題を全てクリアすれば戦力の増強も……そもそも、民が飢えるなんてことは以ての外であって……!


「……よくわからんが、なにか理由があるのか」


 過去と未来を思って目を爛々とさせた俺に、炎の精霊王がちょっと引き気味の表情で言う。

 そう、大事な理由があるのだよ、精霊王。

 だから俺はお前の遠赤外線グリルを重宝しているのだ。たぶん今の体でもあの魔法で調理スキル一ぐらいにはなれてると思う。ありがとう炎の精霊王。ところで、名前なんだっけ?

 しかし、ここにいるのが炎の精霊王でなくテールだったら、一緒に兎狩りも出来たんじゃなかろうかと思うと少し惜しい。魔力で石礫を作って狙撃しているが、皮を剥ぐのにはナイフがいるのだ。

 炎の精霊王、ナイフ持ってない?


「……赤子に渡したいとは思わんがな」


 作ってくれた。

 刃がギラギラ光る金属製だ。ひゃっほぅ!

 何の金属なのか知らないが、よく切れそうだ。とりあえず処理してくるかね。

 うきうきして立ち上がった俺の首根っこを炎の精霊王の指が摘んだ。ああん。


「動くな。何のために俺が呼び出されたと思っている」

「いざというときのおまもり」


 精霊王は俺を見下ろして深い深い溜息をつく。

 そうして、獲物のいる方向を見てから指をチョイチョイと動かした。

 頭部を撃たれた兎がふよふよとあちこちから浮いてくる。

 三十七ほど。……便利だ!

 目を輝かせた俺の横で、精霊王 が「……多すぎだ」とぼやいていたのは聞かなかったことにした。






●レディオン・グランシャリオ

年齢:生後四ヶ月

身体能力:首すわり済み。脱おしめ済。

     一人排泄可能。一人歩き可能。階段の一段飛ばし可能。

     ジャンプ可能。駆け足可能。

     『気配遮断』『隠密』『魔道具作成能力(上級)』

     『錬成能力(中級)』

物理攻撃力:高

物理防御力:高

精神力:身内には弱い・外部には強い

魔法:精霊魔法(特級)・種族魔法(中級)・黒魔法(上級)

   白魔法(中級)・時空魔法 (マスタークラス)

   血統魔法・【光天】雷の章(??)

   魔力制御(上級)・魔力操作(特級)・魔力具現化(中級)

魔法攻撃力:高

魔法防御力:高

魔力:極上・膨大

魔力親和度:高

言語:喋れる(まるまっちぃ声限定)

称号:『呪いの子』『次代の魔王』『魔力の宰』『精霊の愛し子』

   『精霊王の同盟者』『変な魔法趣味』『日常が黒歴史』

   『変異種(ヴァリアント)博士』『■■■』『□□□』

   『フラグクラッシャー』『死を司る者』

   『ラビットキラー』

備考:\髪の毛については言及するな/

   『幼馴染の絆』『友愛』『俺の幼馴染(♂)が可愛すぎる件』

   『大地の精霊王との絆』『水の精霊王との絆』『炎の精霊王との絆』

   『炎の縁』『俺の移動手段がオカシイ件』『変な男との絆』

   『炎鉄のナイフ』所得

   マッチョは男の浪漫



(※上記はあくまでキャラクターデータとなります。実際の赤ん坊の成長速度とは違う旨、ご了承くださいますようよろしくお願いいたします)

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