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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
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27 ダンジョンの抵抗





 カンデラリオ達アビスダンジョンの民をヴェステン村に預け、俺達は転移装置を使って八層まで舞い戻った。

 八層の入口付近には、七層から降りて来たのだろう探索部隊の軍が大勢いた。手に無限袋を持って変異種(ヴァリアント)の死骸を入れている。


「また襲撃があったのか?」


 俺の問いに近くで変異種(ヴァリアント)を運んでいた兵士が飛び上がる。


「レディオン様!」

「本当だ、レディオン様だ!」

「お戻りになられたのか」

「はい! 先程二十二回目の襲撃があったところです!」


 襲撃、多ッ!


「えらく多いな」

「ほんとにな。ヴェステン村行きに変異種(ヴァリアント)がほとんど出ないと思ったら、コアのやつ、こっちに襲撃者増やしてたのか……」


 俺のぼやきにロベルトが頷きながら言う。サリが周囲を見渡して苦笑した。


「コアがこちらを見張っているのは確実だな」

「ああ。――階層主は一回倒したが、新たな階層主は現れたか?」


 俺の問いに兵士は首を横に振る。


「いいえ。全部普通の変異種(ヴァリアント)でした」

「……新しい階層主を作るほどの余裕は無い、ということか?」


 こればかりは確実な答えを得られない。先に進めばわかるかもしれないが。


「八層の探索はこれからか?」

「はい。後片付けをして行こうとすると敵が襲来するので」

「なるほど。足止めをくらっているわけだな」


 面目無さそうに言われたが、基地を守るのも彼等の任務だから仕方がない。


「一中隊だけここに残り、それ以外は探索に出ろ。道中に基地に向かう敵を見ても無視していい。一中隊いればここは大丈夫だろう」

「かしこまりました!」

「俺達も探索に出る。九層へ向かうのを最優先にするから、見つけた者はすぐに連絡を。俺達が見つけた場合もこちらから連絡する」

「はっ!」


 一中隊は百八名だ。上級魔族が百八名いればたいていのものは撃破出来るだろう。

 その後、簡単に打ち合わせして、俺達は探索に出た。先頭を行くのはロベルトだ。


「何か発見したり思いついたりしたら言ってくれ」

「たいして思いつかないんだけどなぁ……」

人面獅子獣(マンティコール)が階層主だったんだ、ピンとくるのはどんな場所だ?」

「無茶ぶりしてきやがる……。森に囲まれた草原あたりかな…………即座に方向変えるのかよ!」


 平野部を突き進むルートだったので、森がある方向へのルートに変更です。


「お前が予想した場所をまず調べるに決まっているだろ」

「期待値が高くて辛い」

「あればいいな、ぐらいの気持ちだからそう構えるな。間違っててもお前のせいじゃないよ」

「そう言ってくれるのは有難いが、目がきらっきらすぎて言葉を疑う」

「今までの結果がお前の憶測の正しさを証明してるからなぁ……」


 とりあえず出てくる敵を撃破しながら進む。平野部では鷲頭獅子獣(グリフォン)が多かったが、森の中に入ると人面獅子獣(マンティコール)が増えてきた。これは当たりかな?

 森の中で明るい場所を探し、ぽっかりと開けた場所について全員でロベルトを振り返った。


「お見事」

「……なんとも言えねぇ……」


 開けた場所には、中央に巨大な階段があった。九層への階段だ。


「あと何層ぐらいあるんだろうな、アビスダンジョン」

「ラザネイト大陸みたいな階層数では無いだろうな」

「百層もあったら時間がかかりすぎるから嫌だな。ロベルトの予想は?」

「また無茶ぶりをする……流石に階層数までは想像つかねーよ。今頃必死に増やしてる気がするし」

「なるほど。急いで攻略する必要がありそうだな」


 ロベルトの言葉に俺達は頷く。コアは絶賛階層を増やし中、か。

 とりあえず、軍の各隊長に通信具で階段発見の連絡する。階段の場所がわかったので、あとはこの階層の変異種(ヴァリアント)を駆逐するだけだ。それはこの階層に来ている軍に丸投げする。


「さて、九層だ」


 何が出てくるかとワクワクしながら階段を降りる。降りて行く途中で水っぽいというか湿気ているような空気になってきた。沼地だろうか?

 そうして降りきった九層は水没していた。


「…………」

「ダンジョン、なりふり構わなくなってねーか?」


 まさかこうくるとは……


「潜りますか? それとも水上を歩きますか?」


 透明度の高い水を覗き込みながら母様が問う。


「これだけ透明度が高ければ水上を歩いてても階段は発見できそうだけど……変異種(ヴァリアント)は水生生物だろうからなぁ……」

「今のうちに雷撃叩き込んでおくか?」


 サリに言われて気づいた。近い範囲ならそれで倒せるな?


「父様。血統魔法教えてもらってもいい?」

「いいですとも!」


 せっかくなのでお勉強タイムにしようと、父様に血統魔法の実演をお願いする。あ、他のメンバーが階段に座って観戦モードになった。頼むからオヤツ食べ始めるのはおやめください。俺の気が散っちゃうから!


「【轟】と【震】、【瞬】はもう使ってたみたいだから省こう。このフィールドだと広域が必要だろうから【散】にしようか」


 言って手をフィールドに向ける。その瞬間、目の前の景色全体が真っ白に光った。


「……アロガン。使う前に一言あったほうがいいぞ」

「申し訳ありません……」


 目がチカチカする。


「今のが【散】?」

「そうだ。かなり広域に雷撃を散らすから、たいていの雑魚敵は倒せるな」

「魚の変異種(ヴァリアント)もぷかぷか浮いてきてるものな」


 ぷかー、と浮いている変異種(ヴァリアント)の姿にロベルトが呆れ声で言う。


精霊銀甲冑(ミスリルアーマー)だと浮力大変だから案山子(エプヴァンタイユ)で回収するか」


 いつもの回収部隊を無限袋から取り出すと、水上歩行の術をかけてフィールドに放つ。水の上を案山子が走るというシュールな光景が。


「けっこう遠くでも魚が浮いてるな……」

「大人版で全力で唱えたらどうなるだろう?」

「お前、それで雪山一つ蒸発させたのもう忘れたのか?」


 忘れかけてました。


「レディオンちゃんの魔力でやると、下手すると水が蒸発するか沸騰するかしそうだな」

「そっかー……」


 楽しようと思ったらまた素材が消えちゃうハメになりそう。


「踏破だけを目的にするならそれでもいいのだろうが、な」


 サリが苦笑しながらそう言う。

 俺は悩みに悩んで素材も確保することにした。


「威力じゃなくて広さに極振りしたらどうだろう?」

「試したいんだな?」

「めっちゃワクワクした顔してるぞ、レディオン」

「それでも大人版でやると被害の予測がたたないから、今の姿でやるといい」


 案山子(エプヴァンタイユ)が死骸を集めきって戻ってきたのを見計らって、父様がやっていたのを思い出しながら手を伸ばす。


「目を閉じておけよ」


 素早いサリの忠告と同時、父様の時より激しい光が全ての景色を白に塗り替えた。

 目がーっ!!


「放った本人が一番目つぶしくらってんじゃねーか」

「効果見ようと注目してたから……!」

「雷撃を注視してどうすんだよ……」

「オレの注意も意味なかったな」


 皆に呆れられながら案山子(エプヴァンタイユ)に回収を命じる。なんかすっごい向こうに全力ダッシュする個体がいるんだが、どれだけ遠くまで攻撃したんだろ?


「とりあえず、水上歩行で案山子の後を追うか」


 サリが魔法を唱えて全員で水の上を歩く。ロベルトがちょっとおっかなびっくり足を踏み出していたのが印象的だ。


「水上歩行、楽しいな」


 すぐに慣れて楽しみだしたけど。


「人族の世ではこういう魔法の使い方しないのか?」

「まぁ、魔法と言えば攻撃魔法か生活魔法か、ってぐらいしか思いつかないからな。水の上を歩く魔法なんて出来るのは、よっぽど魔法の研究してる人ぐらいじゃないかな」

「けっこうお役立ちなんだけどな? 水上歩行」

「例えば?」

「船に乗り込む時とか、釣りをする時とか、ちょっとした川を渡る時とか、沼地を動く時とか」

「なるほどなぁ……」

「船の無い川を渡りたいからって、いちいち水面凍らせたりするより簡単だし安全だ。沼地もな」

「後で教えてくれ」

「いいとも!」


 ロベルト用に作っている魔王の書にも追加で記載しておこう。


「ん? 案山子(エプヴァンタイユ)が拾う前に変異種(ヴァリアント)の死骸が消え……」


 サリの言葉が途中で途切れた。見ていた遠くの案山子(エプヴァンタイユ)が水中から襲ってきた巨大ウナギに水中に引きずり込まれたのだ。

 そして水中が真っ赤になる。


「強いな、案山子(エプヴァンタイユ)

「対ドラゴンを見込んで作ってあるやつらだからな」

「なんで対ドラゴンなんだ?」

「俺の直轄地の上空を時々飛んでるから。畑に降りられたら困るからな」


 赤く染まった案山子(エプヴァンタイユ)が水上に這い上がり、何事も無かったように死骸を無限袋に入れていく。ちなみにウナギは両断されてました。


「範囲から逃れた変異種(ヴァリアント)が向かってきてる感じか」

「どうする? また放つか?」

「この距離だとこっちが感電するだろうから、空中に浮いて、防御魔法唱えておくか」


 対雷の防御魔法を幾重にも重ねてかけ、案山子を呼び戻してから皆で空に浮かぶ。ちゃんと案山子も浮いているのを確認してから、行く手に【散】を放った。今度はちゃんと目を瞑りました。


「水面近くの魚は倒していますが、水の奥にいる変異種(ヴァリアント)が残っているようですね。一番奥まで走った案山子(エプヴァンタイユ)がいるあたりから急激に深くなっています」


 広域の索敵を覚えた母様がそう言う。

 俺達は示された場所を見て納得する。色がいきなり濃くなってるのは水深のせいのようだ。


「これ、階段はあの深い所の奥にありそうだな」

「ロベルトから予言が入りました」

「ついに予言呼ばわりされることに……」


 だってお前の予想的中率、今のところ百パーセントなんだもの。


「にしても、雷って海上にいる時が一番危険って聞いたんだが、魔法の場合も似たような感じなのか?」

「自然神の権能を使ってるから、自然の雷と似た性質になってるんだ。魔力が上乗せされている分、発動する位置を自由に出来るし、通常よりも深い位置まで雷撃も通るけどな」

「ちなみに精霊魔法だとどんな感じになる?」

「あまり変わらないな。魔力を渡して高位異種族の力を具現化させるのが魔法だから、感電の仕方は自然の雷と似た感じになる。これも魔力次第で範囲が変わるかな」

「ふぅん?」

「炎の魔法でめちゃくちゃ燃え盛ってる所に水魔法ぶちこんだら水蒸気爆発起きるだろ? あんな感じで作用や反応は自然のものに準じるんだ」

「さては実験したな?」


 俺を見抜くのはやめたまえ。


「レディオンちゃんは魔法に熱心だからな」

「一才になる前から魔法使ってましたものね」

「お前どういう赤ん坊生活してたんだよ……ってなんで皆して視線逸らすんだ?」


 今も赤ん坊生活だからです。


「ゴホンッ。まぁ、ダンジョンコアはどうしても水中に来させたいみたいだし、行ってみるか?」

「うーん。ちょっと待ってもらってもいいか?」


 サリの提案に待ったをかけて、俺はだいぶ前に発現した亜空間収納に水を入れてみる。あ、液体だけどちゃんと入る。


「レディオン?」

「ちょっとこの水抜いてみたらどうなるんだろうって思って」


 とりあえず、俺も容量とか全く把握してない亜空間収納さんにえいやと水を放り込む。

 ものすごい勢いで水嵩が減った。


「ちょ、なにやってんだレディオン!?」

「……思った以上に流入が激しすぎて俺も困ってる」

「困るようなことやらかすんじゃない!」


 ちなみに会話してる今も現在進行形で水嵩が減っている。


「この水、どこに消えてるんだ?」

「俺の亜空間収納さんに入ってる……みたい?」

「何故疑問形?」

「俺もよくわかってないから。『大蟻の女支配者グルヴェラニ・レイジョナル』戦のあとから使えるようになったんだけど、何で使えるようになったのか、どれだけの容量を入れれるのか、全く分からないんだ。で、とりあえずここの水でも放り込んでみようと思ったんだけど……」

「……無限に吸い込みしてるな……」

「思った以上に大容量です」

「深くない場所、干上がったせいで魚の変異種(ヴァリアント)がビタンビタンしてる」

「倒しに行くか……」


 やや呆れ顔でサリが剣を抜く。俺も案山子(エプヴァンタイユ)に討伐と死骸収納を命じて放った。なお、俺自身は水面に手をつけたまま深い場所をじわじわと干上がらせ中です。


「どこまでも入るみたいですね」

「俺もここまで大容量だとは思わなかった……」

「まだ入りそう?」

「まだまだ入りそうな感じ」

「その亜空間収納、中で物が混じっちゃったりしませんか?」

「多分、別々に収まってる感じがするから、混じったりしないと思う」

「この水は飲めるのかしら?」

「ちょっと待ってね」


 俺は【全眼(アヴィ・ディクスペア)】で水を見る。


「高濃度魔素含んでるから飲めないって」

「残念ですね。薔薇園に散水してもらおうかと思ったのですが……」

変異種(ヴァリアント)になってもいいなら、するよ?」

「苗木に逃げられると困りますから、やめておきましょう」


 手足生えるもんな……変異種(ヴァリアント)化すると……

 そしてついに底辺にまで到達してしまった。


「本当に大容量だな?」


 干上がった底でビタンビタンしている変異種(ヴァリアント)にとどめをさし、サリが呆れかえった顔で言った。俺もここまで大容量だとは思わなかったよ。


「ダンジョンコアが何を企んでたのか知らないけど、(ことごと)くレディオンに潰されてるな」

「ろくなものじゃなさそうだし、これからも潰していっていいぞ?」


 ロベルトと父様が死骸を拾いながら言う。底の方は敵がうじゃうじゃいたらしく、干上がった底面に折り重なっている。

 そして見えるのが次の層への階段だ。


「もうロベルトは預言者を名乗るといいよ」

「たまたまだっつの」


 十層への階段を横目にひたすらとどめをさしては死骸を回収し、俺は「さて」と呟く。


「また基地(ベース)を作り辛いフィールドなんだけど、次の十階に作る予定でいいかな?」

「いいんじゃないか? ここに作って飛んだ瞬間に周り中が水というのも辛いからな」

「入口入ってすぐもスペース少なかったし、八層の終わりに作っておくか?」

「そうだな。じゃあ、八層に一旦戻るか。人面獅子獣(マンティコール)相手ならそうそう後れをとらないだろうし」

「新しい階層主を用意するのもなかなか難しそうだしな。預かってた無限袋も満タンになってきたし、ちょうどいいといえばちょうどいいな」

「え。そんなにいっぱいいたの?」

「いや、量というか、魚類デケェの多くてな……」

「なるほど」


 水生生物、デカイやつは本当にデカイからな……


「じゃあ、八層に戻る――前にチラッと十層見てもいい?」

「いいぞ」


 許可もらったので、いそいそと階段を降りる。

 なんだか降りている間に気温が上がっていってるな、と思っていたら十層は燃え盛る森林だった。


「…………」


 放水開始!!







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