24 残された者の街
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俺達は誰ともなく顔を見合わせ合い、もう一度目の前に広がるそれを見る。
ダンジョンの中に街があった。
そう聞いて思い浮かべるのは、人型に近い変異種の街だろう。
だが、目の間にあるのはそうではなかった。
魔族の街だ。
そう――魔族の街なのだ。
「……どういう、ことだ……?」
城郭都市らしく、目の前には巨大な壁が建っている。その上を歩く歩哨だろう人間は魔族だ。
「なんで、ダンジョンの中に、魔族が住んでるんだ?」
呆然と呟く俺に、誰も答えを返せない。
そうこうしてる間に歩哨も俺達に気づいた。ビックリしたように身を乗り出してこっちを覗き込む。
「新しい魔族!? あんたら! アイスドラゴンを倒して来たのか!?」
やっぱり七層の階層主はあの氷の竜だったのだ。
それを知っているということは、彼等もかつて同じ敵に遭遇したか、誰かからそれを聞いたかしているのだろう。
だが、踏破してここに着いた、とは思えなかった。【全眼】を使うまでもなく、相手から感じとれる魔力がずいぶんと少ないように感じられたのだ。とてもあの氷の竜を倒したとは思えない。
俺達はまた顔を見合わせ、代表してサリが応えることになった。
俺、今、子供の姿だしな……
「そうだが、お前達はどうしてダンジョンの中にいるんだ?」
「ちょ、ちょっと待っててくれ! 今、代表を呼んでくる!」
サリの返答に歩哨は大慌てで走り去る。俺達は小さくまとまって顔をつきあわせた。
「どう思う?」
「幻覚では無いな」
「精神攻撃の類は感知できませんでした」
「魔力が十二大家のものとは違いましたね」
「それに、階層主を倒せるようにも見えなかった」
「昔、このダンジョンに入って出てこれなくなった人とか?」
「ロベルトの言葉が正しそうだな……」
もしかしたら、過去にダンジョンを攻略しようとした一団の生き残りかもしれない。そう結論づけて相手の出方を待っていると、閉ざされていた門扉が開いた。
「本当に新しい魔族だ……しかも、上級魔族ばかり…… ?」
あ、ロベルトを見て怪訝そうな顔になった。うん。ロベルトはまだ人族です。
ついでに出しっぱなしの採集用ゴーレムも仕舞っておこう。
「あんたたちは、いったい?」
「それはこちらが聞きたい。アビスダンジョンに魔族の街があるなど、この七百年でも聞いたことが無い」
「そ……そうか……ということは、誰も、ダンジョンの外には出られなかったんだな……」
サリの声に出て来た男は瞬く間に打ちひしがれた顔になった。
俺達は何度目かの顔合わせをする。
「誰かが脱出しようとしていたのか?」
「……ああ。外に出る為に旅立った者が何人かいる……。けど、結局、誰も出れなかったんだな……」
みるみるうちに男の目に涙が溢れた。
「だから、やめろと言ったのに……っ」
「打ちひしがれてるところ悪いんだけどよ? 俺達にもわかるあんた達の境遇を話してくれねぇかな?」
泣きはじめた男にロベルトがばっさりと切り込む。流されないのが勇者だよな……
「……そうだな。悪い、あんた達は、こんな所に街があることに驚いてる最中だよな」
「ああ。なんでこんな所に住んでるんだ?」
「簡単に言うと、戻るに戻れず、進むに進めずの状態で、ここに留まるしか無かったのが俺達と、その子孫なんだ」
「…………」
「とりあえず、中に入ってくれ。この辺にはあまり出ないが、それでも変異種がいつ突撃してくるか分からない場所なんでな」
「……ああ」
さっと視線を交わし合い、男の後に続いて歩く。
門から入ってすぐは広場になっており、その広場を取り囲むようにして家が建っていた。その家から身を乗り出して俺達を見ているのは、今の俺と似たり寄ったりの年齢らしい子供達だ。
街の壁の立派さや、家々の様子から『街』と思ったが、人口的な規模は村ぐらいだろうか? 広い道に反して、人の姿はまばらだ。
男の後ろをついて行く俺達に、誰もが視線を向け、驚いた顔をしていた。七百年魔王をやっていたサリですら知らなかったのだから、彼等にとっても数百年ぶりの新顔なのだろう。
「なぁ、レディオン」
「ん?」
考えながら歩いていると、ロベルトが声をかけてきた。
「魔族って、何もないところから木とか生やせるか?」
「出来んよ。どうしてそんな質問になったんだ?」
「いや、家を見ててな? お前が作った土魔法のみの建物と違って木が使われてるだろ? で、魔族が木を生やせないなら、このフィールドには木があるってことだよな、って思って」
「ああ、確かに」
ロベルトはよくそんなことにすぐ気づくな。
「この階層の特徴か?」
前を歩いている男がちらりとこちらを見て訊ねる。俺は頷いた。
「ああ。正直、この街に目がいってしまって、この階層の特徴を把握し損ねてるんだ」
「ははは。まだ子供なのにしっかりしてるな」
年齢は聞かんでくれよ。頼むから。
「この階層は森林と平野が同時にある。といっても、俺達も深い場所まで探索できたわけじゃないけどな」
「探索は難しいか?」
「俺達の力量ではかなり厳しいな。変異種狩りも、うちの腕利きが五人ぐらい集まってなんとか一匹倒せるか、ってところだ」
俺達は押し黙った。
思ってた以上の弱さに言葉が出ない。
「あんた達で一番年上の人は、何歳なんだ?」
ロベルトの声に男は苦笑する。
「今の一番上はボトヴィッドの旦那だな。千二百いくつか、だったと思う」
「ボトヴィッド? 冒険家の?」
俺の声にロベルトが首を傾げる。
「知ってるのか?」
「七層までどんな階層かを語った魔族の話、しただろう? その人物がボトヴィッドだ」
「マジか」
「ははっ、地上の若い者にまで名前知られてると知ったら、ボトヴィッドの旦那も喜ぶだろうよ」
我が事のように嬉しそうな顔をする男に、サリが何事か考えながら問う。
「ボトヴィッド・エルヴェスタムなら、確か国民証が破損したか何かで死亡扱いになっていたな」
「あー……旦那の、無くしちまったって言ってたからなぁ……。というか、よく知ってるな? そんなこと」
「魔王になると全国民の状態が見える宝珠を受け継ぐからな」
俺が補足を入れると男の足が止まった。
「魔王?」
「もう『元』だがな。今はこっちのレディオンが魔王だ」
サリが俺を指さす。
男が目を丸くして繰り返した。
「魔王??」
「百九代目魔王のレディオンだ。よろしく」
男はつぶらな目をまん丸に見開いていたが、口がぱくぱくするだけで声が出ない様子だった。
あ、父様と母様がドヤ顔してる。
「ま、魔王様!?」
しばらく彫像のようになっていた男の大声に、ザワッと周囲の空気が揺れた。
「魔王って、魔王様の魔王!? え、坊主が!?」
「言っておくが、こう見えて禁呪ぶっ放すぐらいには規格外だぞ」
どう説明しようかと思っていたらサリが補足した。
こう見えて、って、俺ってどんな第一印象与えるの?
「いや、確かに、顔立ちからして魔王だが……」
どういう意味!?
「魔王様がなんでこんな所に!?」
「いや、こっちこそ、お前達が何故こんな所に、だったんだが。俺達はたんにアビスダンジョンを踏破しに来てるだけだ」
「ダンジョン踏破!? このダンジョンを!?」
悲鳴に近い男の声に周りに人だかりができはじめる。なんかすごく見られてて居心地悪いんだが。
「魔王様って!?」
「あの子供がそうらしいぞ」
「周りの人達も皆、強そうだぞ……」
「あんな綺麗な人初めて見た……」
めっちゃザワザワしてる。
「とりあえず、情報の擦り合わせといこうか」
サリが言い、お互いに情報交換し合った。
男の話によると、この街は『その時代に生きていた人がいないぐらいの大昔』に作られた場所らしい。
昔はわりと無茶な訓練をする魔族が多く、腕試しをかねてアビスダンジョンに挑む者も少なくなかった。進むうちに限界を感じて帰還する者もいたが、まだ大丈夫だと進む者も一定数いたらしい。
この街の代表だという男――カンデラリオは、冒険者ボトヴィッド・エルヴェスタムと共にアビスダンジョンに挑んだ仲間だという。
カンデラリオ達も一層一層を堅実にクリアしていき、千年ほど前に七層までたどり着いた。
だが、七層のアイスドラゴンだけは、倒すことが出来なかった。
戦っても勝てず、逃げても追いつかれるのは分かりきっていたから、一か八かで八層への階段に向けて走ったのだという。
そうしたら、この街があった。
当時の街の住人は久方ぶりの同胞に喜び、ダンジョンから抜け出せないものの、なんとか食いつないで生きる方法を伝授した。
そうしてカンデラリオ達も街の住人となった。
彼等がこの地で合流した時点で、先住民は二十人ほどだったという。今では子も出来、百人近くに増えているとか。
……ダンジョンって、中に街作って住み続けられるんだな……
「いつ高濃度魔素で変異するか分からない場所なのにな……」
「そういう場所は強い変異種が出る場所でもあるから、地図を作って立ち入り禁止にしているんだ」
思わずこぼれた俺の呟きに、カンデラリオが苦笑しながら答えてくれる。
「ダンジョン内も、慣れればなんとか暮らすことは出来る。肉は変異種の肉があるし、二層や三層で採っていた植物の種から栽培も出来た。食糧不足なのは外もこっちも変わらねぇし」
「今、外の世界で餓死する奴はいないぞ?」
「えっ」
俺の一言にカンデラリオは驚いた顔になった。俺はサリを指さす。
「サリが魔王時代に開墾しまくって、餓死者を無くしたからな」
何故か張り合うようにサリが俺を指さして言った。
「レディオンは魔王になる前から変異種の巣を多数討伐させて、溢れるほど肉類を備蓄しているぞ」
「なんて偉大な魔王達なんだ……」
あ。オズワルドとうちの両親が静かにドヤ顔してる……
「食糧が不足しているなら、今出せる食糧があるけど、いるか?」
「あんた達はダンジョンの踏破を目指しているんだろう? その食べ物を奪うなんて出来ねぇよ」
「いや、大量にあるから、どうってことないぞ?」
俺はフリフリポーチから巨大寸胴鍋に入ったスープを取り出す。
「なんだその魔道具!?」
「無限袋だ。とりあえず、いくつか置いておくぞ」
返事を待たずに長机を取り出し、その上にせっせと料理を取り出しては並べていった。
「千年の間に外の世界は画期的になったんだな……」
「いや、レディオンが規格外なだけで、そこまで進歩はしてないぞ」
「サリの時代に農作が普及したからこその今だろう? サリこそ魔族にとっては規格外な魔王だったんだから」
「お前に言われるとなんとも言えない気持ちになるな」
「お互い様かもしれない。俺にとってはサリこそ偉大な魔王だからな」
俺達が言い合ってる間に、机の周りに子供達が群がり始めた。
「これ、食べてもいいの?」
「いいぞ」
「やったぁ!」
子供達が歓声をあげる。
ふふふ。たんとお食べ。
「そういえば、カンデラリオ、この街の住人で、外に出たい人はどれくらいいる?」
「へ?」
「俺達の後に軍が来る予定になってるんだが、それと一緒に移動すれば外に出られるぞ」
「外に!?」
今日一番の驚き顔でカンデラリオは叫んだ。
「ほ、本当に外に出られるんで!?」
「出られるぞ。お前達の言うアイスドラゴンも倒してるし、雪山は溶かしてきたから、明日にでも迎えの軍を寄越そうか?」
「軍って、魔王軍ってこと!?」
「いや、うちの軍。グランシャリオ家の変異種討伐軍だな」
「十二大家の一つじゃねぇか!」
あ。そういえば、名乗りの時に苗字まで言ってなかったんだった。
「言ってなかったな。レディオン・グランシャリオだ。ちなみにそこの二人がうちの両親。現グランシャリオ家当主のアロガン父様と、その妻のアルモニー母様だ」
「こっちの褐色のがオズワルド。死神だ」
「そしてこの男が勇者ロベルトだ」
「なんで勇者が混じってんだ?」
素でつっこんだらしい男に、俺は胸を張った。
「俺の親友だからな!」
「珍しいなぁ。魔王と勇者が仲良かった時代って、だい~ぶ昔らしいのに。って、流すところだった。なんで死神がいるんだ?」
「サリのだから」
「どゆこと?」
野暮だからその質問にはノーコメントです。あと母様、そのウフフ笑いは怖いからやめて。
「この街の代表は、カンデラリオでいいんだよな?」
「あ、ああ。とはいえ、代表ってのは意見の纏め役ってだけで、特別な権限とかは無いけどな」
「それでもここにいる皆の代表として意見を言えるのはお前なんだろう? この街を出たい者がいるかどうか、意見を取りまとめてくれるか? 早ければ明日、遅くとも明後日のうちには軍がここに来るだろうから、それまでに決めてもらえると有り難い」
「わ、わかった……」
外に出られるかもしれない、という希望が徐々にカンデラリオの表情を明るくしていった。小さな喜びをかみしめる様な男に、俺達もつい微笑んでしまう。
そのカンデラリオが何かに気づいたような顔で問うてきた。
「あんた達は、このまま踏破を続けるのか?」
「そのつもりだ。とはいえ、日帰りだけどな」
「どゆこと?」
思いきり不審がられたので、転移装置のことをざっくり話した。
「外の技術は凄まじいな」
「いや、それもレディオンに限った話だからな?」
サリが即座に訂正を入れている。
そんなに俺限定だと強調する必要は無くない?
「技術秘匿する気ないから、いずれは魔族の中に広がるんじゃないか?」
「そんなわけないだろう。誰もが皆、お前のように魔法に長けているわけじゃない。それに、お前が外の基準になると色々マズイ」
「ええー……」
「考えてみろ、今のまま外の魔族を想像したら、街への行き来が転移装置で行われて、誰も彼もが自分の無限袋を持ち歩いてる魔族社会になるぞ」
あ。それはヤバイわ。
「普通に考えて、何千年後の話だろ?」
「そうだな……」
グランシャリオ家の中では普及させる気でいるが、魔族全体に普及するのは何百年、何千年か後の話になるだろう。
まぁ、その頃には俺も墓の中に入っているかもしれないが。
「最近の魔王は強さだけじゃないんだな……」
カンデラリオの目は俺に向けられていたが、俺はぜひその目をサリに向けて欲しいと思う。サリがいてこその今だからな!
「とりあえず、意見のとりまとめは頼んだ。じゃあ、行ってくるから」
「あ、待ってくれ! その前に、ボトヴィッドの旦那に会ってくれねぇか!?」
「いいぞ」
「旦那は――って、え、いいのか?」
「いいぞ。会ってから探索に出ればいいだけだから」
あっさり頷いたら何故か驚かれた。
サリを見ると「仕方ないな」という顔で笑っている。やだ、ポムを思い出しちゃう。
「じゃあ、さくさく会いに行こう」
「あ、ああ。こっちだ」
そう言って案内するカンデラリオが向かったのは、奥まった場所にあるやや大きめの邸宅だった。ちょう外出しようとしていたのか、隻腕の男性が慣れた体捌きで出てくる。
「ボトヴィッドの旦那!」
「おお、カンデラリオ!」
どうやら件のボトヴィッドらしい。
「報せは聞いた。そっちの旦那達が新顔か? どえれぇ感じがするんだがよ?」
「魔王様とそのご一行だ」
「魔王様!? オリヴィア様の後を継がれたのか!」
オリヴィアに複雑な思いを抱いているらしいオズワルドが顔をしかめ、サリがそんなオズワルドに苦笑している。
「えぇと、百……九? 八?」
「オレが百八代目、レディオンが百九代目だ」
「だってよ!」
「二人もかよ……国を挙げてこのダンジョンの制覇に乗り出したってのか?」
「いや? 偶然辿り着いて、放っておくと危険だからコアを砕きに行くところなんだ」
俺の言葉にボトヴィッドはポカンとした顔になり、ややあって爆笑した。
「そんなノリでか!? 俺達が命がけで来た道を!? さすが魔王様だな……」
最後の一言は感嘆につきると言わんばかりだった。
俺はボトヴィッドの失われた腕を見る。
「アイスドラゴンにやられたのか?」
「ええ、ガブッとね。まぁ、それで誰かが助かるんなら、俺も腕をやったかいがあったってもんだ」
「せっかくだから義手つけないか? ちなみにうちの父様もつけてるぞ」
俺が視線で父様を示すと、父様が自分の片腕見せる。服で隠れてるが、父様の腕も片方が義手だ。
「こりゃ見事なもんだな……けど、そうしてもらってもお礼なんざ出来ねぇんだが?」
「冒険家ボトヴィッドだろう? 面白い話の一つや二つ、あるんじゃないか? それでいいよ」
「ふはは! こんな可愛い魔王様に言われちゃ、あることないこと話して盛り上げにゃ男が廃るなぁ!」
可愛い、いただきました!!
「レディオンがチョロい」
うるさいよ、ロベルト。おまえだってチョロルトだろ!?
「ボトヴィッド、お前は国民証の破損が原因で、今は死亡扱いになっている。後日取り消して再発行してもらえ」
「やっぱ死亡扱いになってたかー……再発行はありがたいです」
サリが大事な話をしているので、俺も覚えておこう。月初めにある一歳児への国民証の発行時に一緒に出せばいいかな?
「それで、カンデラリオ。ボトヴィッドに会わせたいってことだったんだが、何かあるのか?」
「ああ。――ボトヴィッドの旦那、魔王様達が外の世界に連れて行ってくれるみてぇだぜ」
「マジか!?」
「グランシャリオ家の軍が明日か明後日にはここに着くらしい。子供等を逃がすいい機会なんじゃねぇか?」
「十二大家が乗り出したわけか……っと、こうしちゃいられねぇ! 集会を開いて皆に報せなきゃな!」
「ああ! 一応、あんたに先に報告してからと思ってな。それに、あんたも魔王様達に会いたいだろうと思ってさ」
「それで案内してきたってわけか。俺ぁ嬉しいが、魔王様達にだって用事はあんだろうによぉ……」
「顔合わせぐらい別にいいぞ? たいした手間でもないし」
「ははっ。ちびっこ魔王様は人間ができてらぁ。よかったな、カンデラリオ」
「そういう人でなきゃわざわざ顔合わせに来ねぇって」
元ダンジョン踏破メンバーなだけあって、二人とも気心が知れているようだ。
「じゃあ、俺達はちょっと探索に行ってくる。意見の取りまとめは頼んだぞ?」
「ああ。魔王様達が行ってる間に皆を集めて話し合っておく。そっちは、どうか気をつけて」
すぐに人を集めてくるというカンデラリオ達と別れて、俺達は街の外に出るべく門へと歩く。どうやら、この街の壁は一か所にだけ入口を作っているらしく、入ったのと同じ門から外へと出た。
ちなみに最初に会った歩哨さんがいたので手を振り合っておいた。この街の魔族は基本人懐っこい感じだ。
「しかし、ダンジョンの中で日常生活をおくっているとはなぁ……」
街からだいぶ離れた頃にロベルトがしみじみと感想を零す。俺も同じ気持ちだよ。
「このメンバーだから軽く踏破してしまっているが、普通は階層主ごとに苦労を重ねて踏破していくものだからな」
「最初に街を作ったメンバーはもういないようだったな」
「だいぶ昔なのだろうな……」
サリが遠い昔に思いをはせる様な眼差しをしている。
「最初の誰かのおかげで、ああやって命を繋いでいる人達がいる。大事なことだな……」
もしかすると、前世でもあの街はあったのかもしれない。聖王国の軍もダンジョンの中までは探ってこなかっただろうし。そう考えると、意外とダンジョンの中というのは盲点で安全地帯なのかもしれないな。
「もしあそこの住人が皆外に出ることを希望しても、あの街は継続して残しておきたいな」
「そうだな。壁だけお前の魔法で強化すれば、十分野営地としても使えるだろう」
「軍の連中が全員入るためには増築しないといけない気もするけど」
「各層にそれぞれ部隊を派遣している状態だろう? 深層になるにつれ人数は減っていくのではないか?」
「そうだった。階層主の問題もあるし、ダンジョンがどれだけ深いかで対応を変えないといけないな」
「一歳児への祝福もそうだが、人族の催事にも呼ばれているのだろう? このダンジョンのことはオレ達に任せておいて、そっちに集中してもいいんだぞ?」
「いや、ここの踏破も大事なことだから、参加できるうちは参加する。なにしろ神族も魔族も食べてしまう悪食ダンジョンだからな」
前世の件があるから、誰とは言わないけどサリと相思相愛な人が心配だからな。
「お前は変なところで心配性だな」
サリが頭ヨシヨシしてくれた。
大丈夫。サリもサリの大事な人も守るよ。
「ところで、さっきから攻撃してくるこのデカイ猪、もしかして街の人の主食だったりするのか?」
「街に近い所に出るし、そうじゃないか?」
大型の馬車ぐらいの大きさだな。食いでがありそう。
ちなみに足が速く突撃が脅威だが、急旋回とか出来ないので倒すのは容易かった。
……コレが腕利き五人がかりって時点で、今までどうやって食いつないできたのか……
「レディオン。何を考えているのか手に取るように分かるが、メンバーがメンバーだからだぞ?」
サリに心読まれた。
「俺の周りが強すぎて色々と把握し辛い」
「何故お前は自分を省いて他人事のように言うんだ……」
何故かロベルトにあきれ返った顔をされたが、俺がいなくても余裕だと思うんだよな、皆。
とりあえず、あの街に戻ったらもっと食糧を放出しよう。
そろそろ夕食の時間だし、一緒に食べるのでもいいかもな。