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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
142/196

14 隠し部屋





 草原の端は、出発してから二時間移動したあたりにあった。


「自分でフラグ回収してたな、ロベルト」

「言うな! 敵の攻撃よけようとして空間にぶつかるとか、俺の運ってもしかして低いんじゃないか?」


 運の値、四桁の化け物が何か言ってる。


「お前の運が低い数値なら、お前以外の連中なんて無いも同然になるぞ」

「そのわりに運悪いパターン多いんだけどな、俺……」


 そのへんは俺も分かりません。

 というか、あの時、死の黒波に巻き込まれてた時点で運悪い感じするんだよな。そのくせ数値は高かったんだが。

 ……運命の悪戯的な何かが発動してるんだろうか?


「ロベルトに用意されてる人生が運悪い人生だった可能性」

「つらい」


 本当にな。

 いや、俺に用意されてた前世の魔生も大概だったけど。

 そんな風に緊張感のないやりとりをしてる後ろでは、サリ達が真面目にアビスダンジョンを検証していた。


「出て来たのは、馬型、豹型、鹿型、蛇型、蜥蜴型、象型だったな」

「はい」


 サリの声にオズワルドが頷く。

 象はやばかった。デカさが半端なかった。俺は島が移動してるのかと思ったよ。


「意外だったのは、未だに犬型が出ていないことでしょうか」


 シンクレアが不思議そうに言う。

 犬型の変異種(ヴァリアント)は、森林、平野部を問わずよく出てくる。その犬型がこのダンジョンではまだ見ていない。


「通常の生態系と違いますから、そのせいではないでしょうか? 教本にも『ダンジョンでは法則が違う』と書かれていましたし」


 最近、戦闘や変異種(ヴァリアント)のことについて勉強している母様が言う。

 教本では、狼などの犬型は平野や森林で最も会いやすい変異種(ヴァリアント)って載ってるんだよなぁ。ダンジョンには当てはまらないみたいだけど。

 ちなみに教本の名前は『わくわく☆野外のハンティング・クック』である。


「一番出やすいはずの犬型が出て無いのは要注意だな。どこかに群れがあるかもしれない」

「大群でこられたら危険ですものね。――主に仲間の魔法が」

「それな」


 サリの声に力強くシンクレアが頷き、ロベルトがツッコミいれた。

 いや、本当にシャレにならないんだよ。同士討ちというか、仲間の魔法の巻き添えが。

 あと、オズワルド。頼むから俺をじっと見るのはやめてくれ。もう魔女の魔法をぶっ放したりしないよ。サリは安全だよ。


「そういえば兎型も見ていないな」


 何故か俺を見て父様がそう言った。なんで俺を見て思い出したの?


「狐や狸も見てないし、もしかしたら同じエリアの別の場所に固まっているのかもしれないな」


 サリがそう結論づけ、地図におおよその分布図を書くことが決まった。詳細な地図や分布図は軍隊が来てから任せるとしても、おおよそのを作っておいた方が後から来る軍隊のためになるだろう。


「一人では気づかないことも、集団で意見を出しあうことで気づくことができる。これからも気になったことは適宜発言してくれ」

「畏まりました」


 サリの声に父様達が頷いた。俺はというと、獲物を入れた後の無限袋のチェックに余念がなかった。なお、一個は象一匹で満杯になっている。デカさがデカイんだよ……


「せっかく鹿が獲れましたから、おやつは焼肉にします?」

「じゃあ、今の間に解体しておこうか」


 俺を見ていた母様がそう言い、俺は即座に鹿を取り出した。端のエリアであるこの辺りは敵がほとんどいないため、解体もここでやったほうが安全なのだ。

 ちなみに普通にデカイ。変異種(ヴァリアント)になるとデカくなるんだよな。そして草食動物も肉食になります。理由は不明。


「おやつが肉、という」

「エネルギー補給だ」

「お菓子じゃないんだな」

「それは別腹です」

「女子か!」


 いいじゃないか。肉とお菓子の両方食べても。ちなみにちゃんと皆のポーチにおやつは入ってます。作ったの俺だけどな!


「レディオン、意外と解体上手いな」

「ロベルトも上手いぞ?」

「俺は行商してたからな。たまに野生動物狩ってたし。……こんなにデカくないけど」


 解体した肉は殺菌効果のある葉に包んで俺のポーチに入れておく。内臓や骨はグルアちゃんのご飯にしよう。


「ちょ、おま、持って来てたのかよそいつ!」

「分体だけどな」


 竹筒から出て来たグルアちゃんにロベルトが仰天してる。グルアちゃんは意外とお役立ちなんだぞ? 主に残飯処理の時にだけど。


「おやつの時間には早いから、次は西に行くか」


 ちなみにおやつの時間は三時です。

 サリの声に、ふと気づいたような顔で父様が軽く手を挙げた。


「最初の頃、遠くに飛行生物が見えた。遭遇する可能性があるかと」

「確かに、今のところ遭遇してないが、空の敵が出る可能性もあるな」


 歩きながら見上げる先は、青空にしか見えない空間だ。

 実際の空間における天井がどの高さまでなのか分からないが、かなり高いなら飛行型の変異種(ヴァリアント)が出る可能性は高い。


「飛行型、で思い出した。レディオン、魔族って空飛べるんだよな?」


 空を見た後でロベルトは視線を俺によこした。

 俺は軽く頷いて肯定する。


「ああ。『闇翼』という飛行能力がある。五歳ぐらいで覚えるのが普通だ」

「名前からして黒い翼が背中から生えるっぽい」

「まぁ、普通は魔力が黒い翼のような形をとるな。形はコウモりっぽい翼から、鳥っぽい翼まで様々だけど。あと、なんでか俺のは白い」


 何故かロベルトが半笑いになった。


「天使かな?」

「言わんでくれ。天使なんていうのは神族の部下じゃないか。俺だって黒い羽根のほうがよかったよ……」

「いるのか天使。現実に」

「天族という種族がそれに該当するな」

「対になるように地族っていうのもいる?」

「地族と呼ばれてるのはドワーフだな。鍛冶が巧みだ」

「エルフと対じゃないのか……」

「妖精族の話か? エルフというのはアールヴのことだろう? 対になるのはデックアールヴだな」


 ロベルトの問いに答えていってると、ロベルトがすごく意外そうな顔をした。


「レディオンの知識量が思った以上に多かった」

「お前は俺をどんな風に見ていたんだ……?」


 わりと酷いこと言われた気がする。

 ロベルトは俺を敬ってくれてもいいんだぞ!?


「ゴホンッ。ま、まぁそれはおいておいて。その飛行能力で島から島に飛んで渡るのって難しいのか?」

「ネックになるのは魔力量と、距離だな。――例えば、俺とかサリだとたぶん大陸間を飛んで移動できる」

「さすが魔王」

「でも普通の魔族になると、間でちょくちょく休まないと魔力がもたない。意外と消費魔力が多いからな。魔法にも浮遊(レビテーション)とかあるけど、あれも海を渡ろうとすれば途中で魔力切れをおこすだろう。結論として、普通の魔族では大陸と大陸を空飛んで移動するのは無理、ってことになる。例外は竜魔だな。竜形態で空飛べば大陸間移動は可能だ」

「他に飛行能力に長けた魔族っていないか? 元から宙に浮いているとか、変身するとか」

「妖魔族がそれに該当するかな。擬態能力にかけては魔族随一だから。鳥とかに化けたら風力も利用して飛べそうだな」

「ここでも出てくるんだな、妖魔」


 む。確かに。


「俺としてはラザネイト大陸に渡ったらしい妖魔の長が気になりすぎる」

「それな」


 頷くロベルトに、俺はレイノルドから聞いた話をした。


「なんかカルロッタのポーツァル領という所に、妖魔王とやらの封印場所があるらしいんだよ」

「ちょ、それ」

「怪しいだろ?」

「怪しいどころの話じゃないだろ、それ」

「おまけに、こっちの大陸からラザネイト大陸に行くために、うちの船に密航しようとした妖魔もいるんだ。今、牢屋に入ってるけど」

「もう確定じゃねぇか? それ」


 それな。

 絶対、その妖魔王って妖魔の長だろ。

 ポーツァル領の領主一行に妖魔が混じってたのって、その封印に関連したことだろうし。まだ探し中で見つかってないけど、下手なことされる前に捕らえないと色々マズイ。


「あっちの大陸にいる連中に声をかけてあるから、見つかったら連絡くると思うんだけど、正直俺は胃が痛いよ」

「お前も大変だな……」

「早く魔族になって支えてね?」

「おう」


 頭わしゃわしゃされた。俺の髪の毛が可哀想な事になるだろ!? あと抜けたら大変だからもうちょっと優しいヨシヨシでお願いします!


「レディオンちゃんは、どっちの大陸にいても忙しそうだな」

「年齢にあった時間を過ごして欲しいですけれど……」

「難しいだろうな」

「魔王になってしまいましたし、ね」


 父様、母様、サリ、オズワルドがしみじみした声で言う。シンクレアはちょうどこっちに向かって来ていた狼型の変異種(ヴァリアント)を蹴とばしてから言った。やっと犬型系の変異種(ヴァリアント)が出てきたよ。


「貿易に関することは部下の方に任せることにしたのでしょう? その分、ゆっくりした時間がとれるのでは?」

「そういえば、エンゾ達が張り切っていたな」

「執事に任せることにしたんだ。俺自身に商才が無いのもわかったし、これからのことを考えたら任せた方がよさそうだったし」

「そうだな。ある程度の貿易はもう下の者に任せて大丈夫だろう。新しい商品を出す時だけレディオンちゃんがチェックするといい」

「救貧院で作った品や中古品の売却も、ある程度の流れが出来ていますから、レディオンがいちいち指示しなくても大丈夫ですものね」

「レディオンは働きすぎだったからな」


 誰からも商才が無いことへのフォローが無い件。


「なんでちょっと涙目なんだよ?」

「……なんでもない」


 ひっそり悲しんでいたらロベルトがヨシヨシしてくれた。ありがとうありがとう。結婚式のケーキは力作作るからね。


「空いた時間に無限袋量産する」

「時間が空いても何かをしようとしてしまうのは、何故なのか」


 サリが呆れた顔をしている。たぶん性分です。


「量産、で思い出した。レディオン、あの案山子って今作れるか? 領主さんの所で使ってたやつ」

「うん? 『案山子(エプヴァンタイユ)』か。藁がないと新しいのは作れないが、何体かは無限袋に入ってるぞ」

「あれに死骸拾いやらせたらいいんじゃないか?」

「あ」


 言われて気づいた。そうだよ、単純作業なんだからゴーレムに拾わせればよかったんだ。


「俺はいちいち抜けてるな……」

「俺も今まで忘れてた。でもあれ、火をかけられたらよく燃えそうだよな」

「よく燃えるぞ。アヴァンツァーレ領の畑に置いてあった『案山子(エプヴァンタイユ)』も、聖王国の襲撃時に燃やされてるし」

「素材を変えて作ったりはしないのか?」

「あ。精霊銀甲冑(ミスリル・アーマー)があったな。あれも出しておくか」

「……お前のポーチ、何が入ってるのか気になるんだが……」


 二種類のゴーレムを取り出してると、ロベルトが遠い目をしながらぼやいた。

 色々入ってます。ちなみに俺のフリフリポーチはポムの持ってるフリフリポーチと繋がっている。ポム、俺にお手紙くれてもいいのよ?


「ん? こちら側の端に着いたみたいだな」


 サリがそう言って足をとめた。変異種(ヴァリアント)が出てこなくなったと思ったら端っこだったらしい。


「こういうところだと草食動物系の変異種(ヴァリアント)がいそうなものなんだが、いないな」

「ダンジョンコアに命令されてるんじゃないか? 異種族での衝突とか捕食が無いように。それで端っこに逃げ込まなくても過ごせる、とか」

「つくづくダンジョンは奇怪だな。生態系が狂っている」


 サリと俺の話に、壁らしい空間をペタペタ触りながらロベルトが首傾げた。


「あいつら何食べて生きてるんだろ?」

「謎だよな。肉食動物が草食動物を狩らずにいるんだぞ。魔素でも食ってるんだろうか?」

「それで足を踏み入れた人間がいたら、喜び勇んで食べにくるわけか……納得し――ん?」


 ガゴンッ、と鈍い音がした。

 全員がロベルトの方を見る。

 いや、ロベルトの前に空いた黒い空間を。


「流石勇者?」

「触ってただけなんだけど!?」

「隠し部屋か。アビスダンジョンにもあるんだな、こういうの」

変異種部屋(ヴァリアント・ルーム)ではなさそうだな?」

「お宝とかあるんでしょうか?」

「宝っ!?」

「うわ。レディオンが超反応した」


 すぐさまいそいそと部屋前に移動、明かり用の光球を放り込み、いざ! 拝見!!


「…………」


 なんか椅子に座った死体がある。


「先住民発見」

「死んでんじゃねーか」

「背丈があまり無いな……そのわりに頭蓋骨は成人男性ぐらいの大きさだ。ドワーフか?」

「珍しいですね。セラド大陸にはあまり住んでいないはずですが」


 俺とロベルトに続いてサリとオズワルドが部屋に入ってくる。

 ドワーフと思しき先住民の遺体があったのは、明らかに人の手によって造られた四角い部屋だった。休憩スペースというよりかは生活区で、入口の反対側には寝台だろう長い台があり、藁が敷かれていた。その藁もだいぶ風化している。ドワーフが死んでそれなりの時間が経っているのだろう。


「ダンジョンの中に隠し部屋を作ったのも、あのドワーフ、ということか?」

「だろうなぁ。この戸もドワーフ製のギミックだろ。人の手で触ると開閉するみたいだ」


 ロベルトが壁に触って戸の部分が作動するのを確認している。


「身元がわかるようなものは無いだろうか。他のドワーフが探してるかもしれない」


 俺の声に、父様が遺体に近寄り、敬意を表するための礼をしてから服を漁り始めた。


「……ん? 何かあるな」


 すぐにポケットから綺麗な懐中時計を取り出す。精霊銀(ミスリル)で造られた典雅な品だった。開くと右側に時計、左側に小さな肖像画が収められている。家族写真だろうか? 立派な身なりの四人が描かれていた。


「ドワーフの中でも地位が高い者だったようだな」


 写真を覗き込んでいたサリが言う。俺達も成程と頷いた。小さな肖像画に描かれた四人は、いずれも立派な服を着てハンマーを手にしている。名の知れた鍛冶師の四人組なのかもしれない。


「この中の誰かがこの人なのかな」

「可能性は高いだろう。それか、四人の師か、あるいは弟子か、血縁者か」

「いずれにせよ赤の他人ということは無いだろう。名前がわかるようなものはないか?」

「ドワーフなら金槌持ってそうなイメージあるけど、部屋には無いな」


 遺体を父様に任せ、部屋中を探していたロベルトがそんなことを言う。

 俺もドワーフは金槌をもってるイメージあったよ。


「机らしきものがあるのに、机の上に書物も冊子も無い。日記とか無いかな」

「冊子ならあるぞ」


 父様が別のポケットから手のひらサイズの冊子を取り出した。ドワーフの服のポケット、なんでも入ってるな。


「中、見えそう?」

「かなり時間が経ってるみたいだな……復元魔法を使ってから開いた方がよさそうだ」

「わかった」


 父様が丁寧な仕草で冊子を石造りの机の上に置く。俺が即席で作った魔法を唱えると、ぼろぼろだったそれが新品同様になった。


「既存の復元魔法より高度だな。即席で作った魔法か?」

「ああ。時間を最後にドワーフが触れた時まで戻した。これなら開けても大丈夫だと思う」

「人様のプライベートを覗き見るのは心苦しいが、身元の特定のためだ、許してくれ」


 サリが人骨に敬意を表する。俺達も同じように倣った。


「……?」


 なんだろう。少しだけ部屋の空気が軽くなった気がする。

 周囲を見渡す俺の視界の端では、サリが冊子をめくっていた。そして一目見て唸る。


「冒頭の文に、追放された、とある。続くのは恨み言だな」

「追放されてここに流れ着いたドワーフなのか」

「ひどい癖字だ。これは読むのに時間がかかりそうだな」

「持ち帰って読んだ方がいいんじゃないか? 遺体はどうする? このまま放置は可哀想だ」

「布で包んで無限袋に入れて帰ろう。どこか景色のいい所に埋めてやらねばな」


 母様が白い大きな布をポーチから取り出し、シンクレアと二人で丁重に遺体をくるんでいく。母様のポーチの中身も謎だな。


「遺体は私が預かりましょう」


 サリが言うより早くオズワルドが申し出てくれた。死神に遺体という組み合わせに皆がなんともいえない微苦笑を浮かべる。


「ポムがいたら情報を読み取ってくれるんだけどな」


 オズワルドのポーチに仕舞われる遺体を見つつ、ついポムのことを思い出して言葉を零した。

 父様が苦笑して言う。


「確かにな。あいつは人からも物からも情報を読み取って来るから」

「そういえば、父様に一度聞きたいことがあったんだけど」

「なんだい!? レディオンちゃん!」

「ポムのこと、どうやってスカウトしたの?」


 俺の質問に全員の視線が父様に向かった。

 あの謎生物をスカウトしたのは父様なのだ。よほどいい条件をつきつけたのかと思ったら、返事は思いもよらないものだった。


「二、三、話して、行くところが無いなら家に来るか? って尋ねたら頷いたんだ。報酬は後でノーランと決めたな」

「え゛っ」

「レディオンが変な顔になってる」


 うるさいよロベルト! 変な顔なのは生まれつきだ!!


「二、三、話をしたと言ったよね? どんな話をしたんだ? あと、どこで会った?」


 俺の問いに父様は困り顔だ。


「会った、というか……順番に話していこうか。場所はうちの領の港街だ。船が魔海峡で難破したという話を聞いて行ったんだ。街を任せてある総督に会って、その帰りに街を移動してたら、横の路地の奥になにかがある(・・)感じがしたんだ。それで、「誰かいるのか(・・・・・・)?」と誰何したら、魔族が出て来たんだ。それがポムだ」

「…………」


 何がひっかかったのか、サリが難しい顔をしている。


「何者だ、と言っても答えなくて、なんでそこにいたんだ、と聞いたら『迷い込んだようです』と返ってきた。なんだか疲れて見えたから、帰る場所はあるのかと聞いたら、帰るべき場所はあるけれど帰れない、と言われた。それで、行くところがないなら家に来い、と誘ったんだ。かわりにレディオンちゃん――当時はまだ生まれて無かったけど、アルモニーの胎の中の子を一人前になるまで守り育てて欲しい、と告げたら受けてくれてな。どうもそれが『契約』になったらしい。ちなみに名前は自分からこう呼んでくれと言われた」

「…………」


 サリがますます難しい顔をしている。オズワルドが心配そうになるほどだ。


「サリ、何か気になることでもあったのか?」

「レディオン、お前は気にならなかったのか?」


 なにを?


「アロガンは、最初、何かがそこに在る、と知覚していたんだ。そして『誰だ』と呼びかけたらアロガンと同じ魔族が出て来たんだ」


 そこで区切って、サリは俺を見る。

 真実を(つまび)らかにしようとする深紅の目で。


「――わかるか? 呼びかける前までは、あの男は、『何か』でしかなかったんだ」






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