12 初陣
――ポワゾンモルテル・フロッグ。
猛毒系変異種として現れる巨大蛙の化け物だ。
人間達から『モンスター』と呼ばれる変異種は、生き物にある一定以上の高濃度魔素が加わった時に誕生する。
顕著に現れるのは凶暴化と巨大化。
一部の変異種は、変異と共に高い知能や魔法の技などを有することもあるが、そういった個体は、変異種の中でも異端であり、他と隔絶された強力な力を指して『異常な化け物』と呼ばれて区別されていた。だがそれらの個体は、余程のことが無いと生まれない。
高濃度の魔素が何故生命を変異させるのか。その謎は未だ解明されていない。
現在分かっているのは、「こういった原因で、こういう現象が起きる」ということだけだ。
だが、それらが分かっただけでも被害を減らすことはできる。
高濃度魔素の集まりやすい場所から離れればいいのだ。例えば、洞窟内や地下、山中や森などから。
平地は、自然の中では魔素が最も少ないエリアだ。
その為、人型種等の知能を持つ生命体は平地に居を構えることが多い。このあたりは力の弱い人族も、強大な力をもつ魔族も変らない。なにしろどれだけ力をもっていようと、赤ん坊の期間というのは無力なものだからな。子を守る為にも、安全圏を確保するのは種として当然のことだ。
だが、今、猛毒大蛙が大発生した。
ヴェステン村はグランシャリオ家の西に位置する村だ。
母様の実家からも近く、あちら側には大きな牧場と農園がある。周囲一帯が平地であり、もちろん、村も平地の中にある。
猛毒大蛙は、巨大蛙の変異種だ。
巨大蛙の主な生息地は、森・沼・川、もしくは水田。俺の記憶の通りなら、ヴェステン村は大豆の生産地だったはずだ。湿害対策を施されている大豆の生産地で、水辺系生物の巨大蛙の変異種が大量発生することなど普通ありえない。
何かがおかしい。
生態系が狂ったか、もしくは――
(誰かがわざと持ち込んだか)
「ポム! お前はこの子を連れて屋敷へ戻れ!」
訝しむ俺の体が父様から離された。
え!? ちょっと待て困る!!
父様からしたら、変異種が出た危険区に生まれて少ししか経ってない息子を連れて行きたくは無いのだろう。
俺は不信バリバリだが、もしかしたらポムを信頼しているのかもしれない。
だが俺は困る。
困るのだ。
「ついていく!」
「駄目だ!」
初めての拒否!
父様!? 反抗期!?
「何があるか分からない。お前に何かあったらパパは生きていけない。お前はポムと安全な場所に行くんだ」
頭を大きな手で包まれて、俺は目を見開いた。
愕然とした。
言葉は違う。
時間が違う。
場所も違う。
――けれどこの父は、あの日の父と同じだ。
「館に連絡を! 砦の一番隊から二番隊は私に続け! 行くぞ!」
思わず動きを止めてしまった俺の前で颯爽と父様が外へ駆けていく。素早く出陣を整えていた二隊がそれに続いた。早い。この時点ですでにうちの領の組織はしっかりしている。褒められるべき手腕だろう。
けれど。
けれど――
「坊ちゃま……?」
俺は馬上で訝しむポムの後ろにくるりと回り込むと、ポムの服を左手でグッと握った。ポムは手綱をしっかり握っている。一瞬だけそれを確かめ――
右手で、馬の尻を打った。
「うぇあああああい!?」
凄まじい嘶きと共に暴れるように走り出した馬に、ポムが変な悲鳴を上げた。しっかりポムの服を握っていた俺の体が思いっきり振り回される。うおお、やばい! やばい!!
――と思ったら爆走する馬を片手で制御しながらポムのもう片方の手が俺の体を引っ掴んで引き寄せてくれた。うおー。
「なにやってんですか坊ちゃん!!」
「父様のあとをおって!」
「怒られますよ!?」
危険ですよ、とは言わないんだな。
「いい!」
俺のきっぱりとした声に、ポムは一瞬だけ唖然とした顔をして、それから苦笑した。
「ああもう……あとでちゃんと助けてくださいよ!」
勿論だとも!
無理だったらごめんね!!
「……なんか今、すごい見捨てられたような気がしましたけど……」
あらやだ。このひと心眼の使い手だわ。
まぁ、さっきも助けてもらったしな。御咎めなしになるよう頑張るよ。
頑張るからしっかり父様の後を追ってね!!
落ちないようポムの腕の中で相手の服を握り、俺は真っ直ぐに向かう先を見据える。
父様達の騎影は遠い。だが、ポムの腕がいいのか、馬の脚がいいのか、差が少しずつ縮まっていくのが分かった。逆に、慌てて追いかけようとした砦の別部隊は置き去りになりつつある。俺を連れたポムが出ちゃったから、引き戻しにか守りにか出て来たんだろうけど……すまん。俺から引き帰させることは無いよ。
なぜなら、俺が知る限り、平和な時代のヴェステン村で変異種が出現したという記録は無いはずなのだ。
戦乱の中でなら発生したかもしれない。だが、今はまだ魔討大規模戦は発生していない。平時であるが故に、魔素散らしを兼ねた祭事も毎年行われているはずだ。
こんな異変はありえない。なら、俺は何が起きているのか見ておかないといけない。
俺という特異点が発生したことによる弊害か。これもまた神族の罠なのか。
分からないが、黙って安全地帯になんていられるはずがない。なによりも、父様がなんか速攻で盛大な死亡フラグ立ててたじゃないか! やだー!! どんだけ不吉なのふざけんな!!
目を爛々とさせ、密かに魔力を溜めつつある俺をチラチラ見ながら、ポムは懸命に馬を操る。凡庸な顔してるくせに馬術は一級品だ。
小粒ほどだった父様達の姿が大人の親指の一関節分ぐらいの大きさになったところで、向かう先に異様なものが見えた。
広がる麦畑の向こう――他の畑と毛色の違う大豆畑のさらに奥――
巨大な紫色の大蛙と、一際大きな真紅の大蛙。
「『異常な化け物』!?」
ポムが悲鳴じみた声をあげた。
二回り以上大きな巨体に、毒々しい色。周囲を濁すように、その体から高濃度の魔素が噴出している。
視覚化されるほど濃度の高い魔素なんて、この体になってから初めて見た。間違いなく、猛毒大蛙のAMだ。
――前世とあわせても、初めて見たな。
ふいに強烈な魔力を感じて、俺は勢い視線をそちらに向ける。
父様だ。馬上で片手を振り上げ――振り下ろす。
詠唱は無い。
魔法陣も見えなかった。
だが、その瞬間、天地を凄まじい白光が貫いた。
ガガガガンッ
凄まじい熱をもった光の炸裂―― 一瞬おいて鼓膜が裂けそうな轟音が轟く。衝撃波に近い風圧に、一瞬馬ごと押し返されるかと思った。
「血統魔法……」
轟音の中、ぽつりと呟くポムの声が奇妙にハッキリと聞こえた。
俺は喉を鳴らす。
これだ。学べなかった力。
グランシャリオの血統魔法――真なる魔法の一つ、【光天】雷の章。
魔族三強魔法の第一に掲げられる力だ。
(見た)
魔力の動きを。巡る力の道筋を。同じ血を引いているから分かる。理解した。あれは俺が今まで使っていた雷系魔法より遥かに強い。
「ぽむ! 父様のほうによせて!」
「無茶言わないでくださいよ!? 私死ぬじゃないですか!」
俺の命令にポムが悲鳴をあげる。死なんよ。多分!!
駆けつける間にも、父様達は鮮やかに猛毒大蛙を駆逐していく。一度として馬を止めることなく、駆け抜ける速度すら変わらず、ズッパズッパと剣や魔法で切り裂いていく姿は圧巻だ。
特に父様の洗練された動きは惚れ惚れするほどだが、呑気に見惚れているわけにもいかなかった。
異常な化け物だ。
上位雷撃魔法たる血統魔法をくらっても、尚そこにいる。
無傷では無い。ぶすぶすと表皮を崩し、むき出しになった肉からより高濃度の魔素をまき散らしている。
そう――高濃度の魔素をまき散らしているのだ。
その魔素のせいでか、異常な化け物の足元からぽこぽこと無限に生み出されるように猛毒大蛙が出現している。
「これは……モンスター・トラップ、ですか」
ポムが苦い声で呟いた。
モンスター・トラップ。人間達の間で使われている言葉だ。
モンスター、つまり変異種の特性を生かし、敵対者を害する為に造られた罠である。
「無限変異、とでも言うべきですかね。なんて、質の悪い!」
ああ、本当に。ポムの言う通り、質が悪い。
生き物を変異種にする程の高濃度魔素をまき散らす異常な化け物を、その素体となる生物と一緒に配置すれば、確かにこの現象は生み出せるだろう。
A・Mは強い。ただの化け物では無い。だからこそ、異常な化け物と呼ばれるのだ。
父様の血統魔法にすら耐えたのだから、他の連中では致命傷など到底与えられないだろう。上位魔法の連発をすれば傷を与えれる可能性は高いが、異常な化け物は大抵己の不利が分かると自身を強化しはじめる。確か、人間はあの現象をハイパー化と呼んでいたはずだ。
そうなった異常な化け物はさらなる強敵になる。手負いこそ最も恐ろしい、というやつだ。
「ぽむ。げどくまほうは、つかえるか?」
「使えますけど、猛毒大蛙ならともかく、異常な化け物相手だと厳しいですよ!? 毒の種類分からないですから!」
うん。分かってる。
猛毒大蛙の毒を解毒できるだけでも大したもんだよ。俺だってあの異常な化け物が状態異常系を使ってきた場合、解毒できるかどうか不明だ。【解除】の魔法ですら効くかどうかわからない。
なら―― 一気に殺すのが一番だ。
巨大な大蛙が動く。父様が風の魔法で、飛びかかってくる猛毒大蛙の心臓部を撃ち抜いた。三体同時に屠り、異常な化け物に肉薄し――顔を顰めて飛び退くようにして避けた。その場に地上から噴き出るようにして二体の新たな猛毒大蛙が出現する。
間違いなく、異常な化け物の近くには素体が大量に侍ってる。
とうさま、と。
叫びかけて俺はやめた。多分、俺という存在は父の弱点だ。
声をかければ、大きな隙を生み出すことになる。
視界の端で、父様が引きつれていた騎兵が散開しようとする猛毒大蛙を切り裂き、一定内に留めようと動く。拡散すれば地域の魔族が害されるからだ。魔族は強いが、無敵では無い。攻撃力は弱いが、猛毒大蛙の毒は恐ろしく強い。血清が無ければ危険なほどだ。
かわりに――そう、その体内に持つ毒袋の毒は、強力な血清になる。かなり幅広い毒素や病原菌への。
「ぽむ。かえるのまわり、きにしてて」
「へ!?」
俺の声に素っ頓狂な声で答えるポムを置き去りに、俺は魔力を展開させた。
炎は使えない。蛙系相手では効果は下がる。
雷は使えない。先の魔法で耐性を得ている可能性が高い。
風は使えない。毒袋が裂ければ、周囲に被害が増える。
水は使えない。逆に相手を回復させる。
猛毒大蛙の有効無効を算出し、異常な化け物の強能力を予想しながら選ぶ。
一撃で仕留めなければならない。
一番簡単な魔法は一つだ。
今の俺の力で効くかどうか分からないが――選ぶなら、最も安全なそれだろう。
意識を解き放つ。
力場――視界全域。
標的――敵と認識した全て。
広げた魔力を一気に編み上げる。グン、と奇妙な感覚があった。かつては無かった感覚だ。
(なんだ?)
何かが大きく引き出されるような。いつものように、じわじわと滲むようでもするりと出ていくようでもない、奇妙な感覚。
だが気にしている暇はない。
全ては一瞬だ。
魔力の展開も。
構築も。
――違和感も。
「レディオンちゃん!?」
直前、父様が振り返るのが見えた。
こんな時でもやっぱりちゃん付けなんだなと頭の片隅で思った。
完成した魔法を解き放つ。
【真死】
広域殲滅魔法が、全ての大蛙の命を刈り取った。
●レディオン・グランシャリオ
年齢:生後四ヶ月
身体能力:首すわり済み。脱おしめ済。
一人排泄可能。一人歩き可能。階段の一段飛ばし可能。
ジャンプ可能。駆け足可能。
『気配遮断』『隠密』『魔道具作成能力(上級)』
『錬成能力(中級)』
物理攻撃力:高
物理防御力:高
精神力:身内には弱い・外部には強い
魔法:精霊魔法(特級)・種族魔法(中級)・黒魔法(上級)
白魔法(中級)・時空魔法 (マスタークラス)
血統魔法・【光天】雷の章(??)
魔力制御(上級)・魔力操作(特級)・魔力具現化(中級)
魔法攻撃力:高
魔法防御力:高
魔力:極上・膨大
魔力親和度:高
言語:喋れる(まるまっちぃ声限定)
称号:『呪いの子』『次代の魔王』『魔力の宰』『精霊の愛し子』
『精霊王の同盟者』『変な魔法趣味』『日常が黒歴史』
『変異種博士』『■■■』『フラグクラッシャー』
『死を司る者』
備考:\髪の毛については言及するな/
『幼馴染の絆』『友愛』『俺の幼馴染(♂)が可愛すぎる件』
『大地の精霊王との絆』『水の精霊王との絆』『炎の精霊王との絆』
『炎の縁』『俺の移動手段がオカシイ件』『変な男との絆』
マッチョは男の浪漫
(※上記はあくまでキャラクターデータとなります。実際の赤ん坊の成長速度とは違う旨、ご了承くださいますようよろしくお願いいたします)




