表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
139/196

11 アビスダンジョン攻略開始

感想、メッセージ、メール、誤字報告、ありがとうございます! 励みになります(`・ω・´)ゞ





 丹念に髪の毛をそり落とし、磨きあげられたと思しき頭部が太陽光を跳ね返して光っている。

 十二人ほどのその一団は、どう見てもベッカー家の連中だった。

 ……さすがにレイノルドは来てないけど。


「お前達はカルロッタ王国にいなかったか?」

「あちらに行ったのとは別にセラド大陸に残っていたのが我々です。今度新たにレディオン様の指示を受けて変異種(ヴァリアント)を討伐する部隊が結成されると聞き、喜び勇んで参加しに来ました!」

「……頭部はなんで剃ってるの?」

「親衛隊以外は剃刀で丁寧に剃っております!」


 そうじゃない。

 あと、親衛隊ってなんだろう……気になるけど聞いちゃいけない気配がする……


「頭部装甲はあったほうがいいから、無理して剃らなくてもいいぞ?」

「これは忠誠の証ですから!」


 その証は俺に効く。


「兜を被る時にはタオルで頭包めよ? 衝撃がダイレクトにくるから」

「はっ!」


 なんかもう、ベッカー家の部隊だけ熱意が半端ない。他の部隊の人はどちらかというと、噂の俺をはじめて見てザワザワしてる感じなのに。

 なお、父様はベッカー家の忠誠ぶりに満足げに頷いていた。総責任者さんは早く号令かけてください。


「南の大森林方面に行く予定の二部隊、前へ。私達の後に続いてダンジョンに入ってくれ。残りはその後ろから適宜入る形になる。自分の所属する部隊で纏まって移動してきてくれ」


 俺につつかれて気づいた父様がそう命令する。「はっ!」という返事と共に二十四人が前に出て来た。テリのハゲしい人達はこっちの部隊にはいないようだ。


「では、これからダンジョンの攻略をはじめる。今はまだ探索と変異種(ヴァリアント)討伐が目的だ。ダンジョンは現在七層まではおおまかに把握されている。だが、地図はまだ無い。測量の技術をもつ者は地図の作成も頼む」

「アロガン様! このダンジョンが、あのアビスだというのは本当ですか?」


 軍隊の前の方にいた歴戦の猛者っぽい人の問いに、父様は頷いた。


「そうだ。我々が行くのはアビスダンジョンだ」


 おお、とも、わぁ、ともつかない声が漏れた。見間違いじゃなければ全員の目がギラギラしはじめる。


「あのアビスに挑戦できる!」

「最強ダンジョンの踏破とは、胸が熱いな」

「どんな敵が出てくるのか楽しみだ!」

「新しい戦い方を試すチャンスがきた!」


 なんか熱気がすごい。危険なダンジョンだからと及び腰になる人はいなかった。

 ……魔族、脳みそ筋肉だものな。恐怖とか無いよな。うん。


「なぁ、レディオン。魔族って……」

「しっ! ロベルト、それ以上は言ってはいけない」


 主に俺の精神状態のためにも!


「では、出発する」


 先頭は俺達七人。その後ろに南に行く二十四人。さらに後ろから黒い人の波がゾロゾロと続き、洞窟の入口に吸い込まれていく。

 ダンジョンの入口あたりに着くと、ダンジョンが頑張って閉じようとしている音が響いていた。ギゴギゴ煩いな。


「この下がダンジョンだ。南行きの二十四名だけまず降りてくれ」


 俺達が先に降り、二十四名がそれに続く。

 サリの目印と俺の転移装置は昨日のままそこにあった。

 ――それはいいのだが……


「なぁ、レディオン。俺の目には爆発で吹っ飛ばされたみたいな死体がいっぱい見えるんだが?」

「奇遇だな、ロベルト。俺の目にも見えている」


 どうやら転移装置の上に乗っちゃったらしい死体が壁際に積み上がっていた。


「なんでこんなに多いんだ?」

「もしかすると、ダンジョンコアに命じられて来たのかもな」

「ダンジョンコアっていちいちモンスターに命令するようなもんなのか?」

「知らん。けど、異常があるのはダンジョンコアも分かっているだろうしな」


 俺が入口になっているダンジョン天井部の大穴を指さすと、「なるほど」とロベルトは納得した。


「まぁ、自分の領域に穴が開いたままなら塞ぐかなにかしようと動くだろうな」

「餌が来たと思って入口を開けたつもりかもしれないが、相手が悪かったな」

「まさかダンジョンも魔王が来るとは思ってないだろうしなぁ……」


 ふふん。褒めてくれていいのよ?


「よーしよしよし。偉いぞー」


 なんか生暖かい目で頭をわしゃわしゃされた。なにするー。

 そんなことをしている間に南行きの二十四名が出発した。


「次、二分隊、降りてこい」


 父様の声に二十四人がまた降りてくる。

 今度は北側に向かうよう指示されていた。


「以降は二分隊ずつで行動してくれ。昨日我々が踏破した場所だ。変異種(ヴァリアント)がまた発生していたら倒してくれ。死骸は全て無限袋に入れておけ。数が多ければ多いほどボーナスを出すぞ」


 わっと嬉しそうな声がした。

 がんばって倒してね! 敵がいるかどうか不明だけど。


「一時間半ほど進んだ場所に下層への階段があるはずだ。そのまま降りて、二層でいったん待機していてくれ」

「ダンジョン内部で寝泊まりするのは可能ですか?」


 筋骨隆々としたオッサン戦士が手を挙げて問うてくる。

 父様は難しい顔になりつつも首肯した。


「魔族食いの異名をもつダンジョンだ。本来なら寝泊まりは推奨しないのだが、今回はダンジョン内部で泊まり込みをしてもらうことになる」


 えっ。そうなの?


「私としては大歓迎ですが、嫌だというものがいた場合は?」

「軍に組み込まれた以上、軍の決定に従ってもらう。個人理由での別行動は認められない。それが嫌な者は帰れ」

「成程。わかりました」


 オッサンはあっさり手を下げた。寝泊まりを楽しみにしているようだし、頑張ってもらいたいけど、本当に彼等をここに泊まらせていいんだろうか……?


「父様。寝泊まりは必要なの?」

「毎回の移動時間がもったいない。五層以降は自然環境が厳しいから寝泊まり出来ないが、それ以前の階層はダンジョン内で寝泊まりした方が効率がいいだろう。ダンジョンが変異種(ヴァリアント)呼び寄せ(アポート)する間隔も分かるかもしれないしな」


 ダンジョン内部の敵は何もないところから自動的に出現したりしない。ダンジョンからすれば、倒されれば新たに呼び寄せないといけなくなるのだ。

 この間隔が短いか長いか、どの階層に多く出現するのか、どんな種類が呼び寄せられるのか等、知りたい情報は多い。

 寝泊まりする連中はそれをチェックするのも仕事なのだろう。


「転移装置に全員登録しても速度は落ちるだろうからな」


 サリがきらきら光ってる転移装置を見ながら言う。

 確かに、六千四百八十名の移動ともなれば時間がかかる。寝泊まりしてもらったほうが効率的だろう。


「残り全員は、順次北への道を進んで二層に降りて来てくれ。二層は森林地帯になっている。最初の探索ポイントが森林地帯だ。色んな敵とも戦えるから、出来るだけ早く到達してほしい」

「かしこまりましたっ!」


 残っていた皆が嬉しそうに返事する。元気だな。


「我々は一足先に二層に行っている。この転移装置には触らないように! 登録されてない者が触るとレディオンちゃんの迎撃魔法でこんがり焼かれるぞ」


 やだ。視線が一気に俺にきた。手振っておこう。


「では、それぞれ出発しよう」


 父様の声を合図に上から次々に人が降りてくる。

 それを横目に俺達は転移装置へと乗った。一瞬の浮遊感の後、ぐるり周りが大自然に囲まれた場所に移動した。

 そして――


「ここにも黒焦げの死体がある件」

「数は少ないから、うっかり乗っちゃった感じか?」


 猿型の死骸があった。なんか人間っぽいから嫌なんだよな、猿の死体って……


「あそこまで炭化してると素材がどうとか言えないな」

「そのまま放置しておくか。ダンジョンが分解するだろうし」


 ロベルトも無視を決め込むことにしたようだ。


「さて、これからなのだが……一旦、二層の入口に戻ろう。軍の連中が来るのを待って指示しないといけないからな」

「ちょっと速足でいかないといけないな」


 父様の声にサリが頷きながら言う。

 そう。俺は昨日、二層の入口に転移装置を仕掛けるのを忘れていたのである。結果としてだいぶ進んだ場所に転移装置の出口がある形になった。なので一旦戻らないといけないのだ。


「痛恨の失敗……」

「いいじゃないか、一直線に戻ったらいいだけなんだし」


 ロベルトが頭をよしよししてくれた。ありがとうありがとうロベルト。結婚式は豪勢にするからね。


「では急ごうか」


 サリの号令で、俺達は一直線に昨日の道を引き返した。昨日たどってきた道には魔力で点々と印をつけているので道に迷うこともない。時々猿の襲撃にあったが、今回は採取もせずに移動を重視したのであっという間に二層の入口についた。

 あ。もう第一陣が到着してる。


「到着していたか」

「道中、ほとんど敵がいませんでしたので」

「少しはいたのか?」

「はい。スライムが天井に」


 これは呼び寄せ(アポート)というより、別の所から移動してきた可能性が高いな。


「ここが森林地帯ですか。調べる場所が多そうですね」


 部隊の人は二層の様子に嬉しそうにしていた。


「この場所を部隊ごとに四方八方に散って調査および討伐をしてほしい。広大だからな。迷子にならないように地面に印をつけることを忘れるな」

「かしこまりました。ここに基地(ベース)を作りますか?」

「そうだな。寝泊まりすることもあるから、作っておいたほうがいいだろう」

「では我々はそれを作りながら、アロガン様の指示を伝える役割をさせていただきます。アロガン様達はまた奥へ進むつもりでしょう?」

「そうしてくれると助かる。……レディオンちゃん?」


 あ。見つかった。

 こっそり二層入口から少し離れた場所に転移装置を設置してたのだ。間違って乗らないように柵も作っておこう。ここは土があるから土魔法でちょいちょいっと。


「ここには誰も入らないようにしてくれ」

「かしこまりました」


 俺の言葉に部隊員さんは頷く。俺はちょこちょこ駆けて父様の横に戻った。

 ん? 父様、なんで悶絶してるの? なにがあったの?


「レディオン、あんまり可愛い動作するなよ? アロガンさんが悶えるから」

「えっ」


 そんな動作した覚えはなかったんだが。あと父様、本当に俺の事大好きだな。俺も愛してるよ!


「では昨日行った場所まで戻るか」


 そうして今度はまた来た道を引き返す。今日は行ったり来たりになりそうだな。


「昨日の水辺にまたカバがいる」

「昨日倒したカバの嫁さんとかかもしれないぞ」


 ロベルトがいらん脳内設定を口にする。

 やめろやめろ。俺のココロがチクチクしちゃうだろ。


「カバの肉って美味しいのかな」

「心苦しそうな顔してたわりにサクッと倒すのな」

「お前が心苦しくなるような設定を口にするからだろ!? 変異種(ヴァリアント)は獲物だから倒すとも」

「親と幼い子カバが出て来てもぐらつくなよ?」


 それはぐらつくかもしれません……

 そんなことを思いながら死骸を回収していたら、母様が首を傾げつつこう呟いた。


「そういえば、素材回収の部隊を引き連れて移動するというお話は?」


 あ。








 うっかり引きつれる部隊の存在を忘れていた俺達は、昨日と同じように倒す人と拾う人に別れて動きながら移動した。明日は収集部隊を連れてこよう。というか、連れてこないとヤバイ。


「なんっでこんなに敵が出てくるんだよ!?」

「俺達、久しぶりに来た獲物なのかもしれないぞ」

「有名なダンジョンなら、入る人も多いんじゃないのか?」

「禁域指定なんだぞ? よっぽどの人じゃない限り入らないダンジョンがアビスなんだ」

「アビスだから多いのか、挑戦者がいないから多いのか、判断に迷うな」


 俺とロベルトの会話にサリがそっと混じってくる。


「魔王さんから見てもここ、異常か?」

変異種(ヴァリアント)の巣にいるような感じだな。普通のダンジョンにも行ったことがあるが、これほど敵が出てくるダンジョンは無かったな」

「寝泊まりする気満々の人達、やめさせたほうがいいんじゃねーか?」

「六千四百八十人の大移動だぞ? 毎回やれるか?」

「う~ん……」


 ロベルトが難しい顔してる。

 俺は笑いながら言った。


「それに、あの人数でこの二層を歩き回ったらかなりの数の変異種(ヴァリアント)を討伐できるだろ? 危険は減ると思うぞ。変異種(ヴァリアント)は勝手に湧き出てくるようなものじゃないからな」

「確かに」

「念のため俺が結界を張っておくから、ロベルトはあんまり気にするな」

「わかった」


 ロベルトを説得出来たところで、先頭に立っていた父様の声が聞こえた。


「階段があるぞ」

「本当!?」


 思わずそっちに駆け込む。父様が見ている方向を見ると、確かに下に向かう階段が見えた。


「二層入口から南に一直線に行った先に三層への入口か」


 サリが手元の地図っぽいものに書き込みしてる。俺もしておこう。


「どうする? ここにも基地(ベース)を作っておくか?」

「そうだな……六千人超えてるから、一か所で寝泊まりするのも難しいし。作っておいて活用してもらおうか」


 父様の声に俺は頷き、土魔法でササッと家を作っていく。森林の中なのでペンション風にしてみた。暗灰色一色だけど。


「レディオンの土魔法は万能だな……」


 かつてロルカンで色々作ってたのを知っているロベルトが遠い目をしている。


「お前もこれぐらい出来るようになれよ?」

「無茶ぶりしてくんな! 俺にそういう創作活動は無理だ」


 決めつけることないのに。

 まぁ、今は我が腕前を見てもらおうではないか。沢山の人が寝泊まりするんだから、何棟か建てたほうがいいだろう。転移装置も中に組み込んじゃうぞ!


「もはや村だな、これは」


 サリが苦笑しながらそう評する。ちょっとやりすぎたかもしれない。


「この一番大きい家に転移装置を組み込んである。それぞれの家に魔族とロベルト以外が触ったら迎撃魔法が発動するように魔法かけてるから、安全面でも安心してもらえると思う」

「普通に非常識なことを言うのがお前だよな、レディオン」


 ロベルトの評に全員に首肯された。ひどい。


「そろそろ昼だが、置手紙を置いて先に進むか? それとも先に飯にするか?」

「ご飯食べることにしよう。食べてる間にここに来れた人がいたらその人に伝言伝えて、来なかったら張り紙して三層に進もう」

「そうするか」


 サリが頷き、自分のポーチからご飯を取り出す。

 今日は皆に無限袋を渡し、食糧や水筒もその中に入れておいたのだ。めいめいが昼食を取り出すのを見ながら、俺はふと思いついて家々にそっと魔法を仕込んでおいた。

 さ。今日のお昼ご飯は何かな?






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ