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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
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10 踏破にむけて





 ダンジョンから出ると、ヴェステン村の村長達が出迎えてくれた。


「無事のご帰還、お慶び申し上げます」

「まさかずっと待っていたのか?」

「いえ、先ほど皆様の魔力を感知しましたので。それでここに参上いたしました次第です」


 代表して受け答えしている父様に、村長さんは恐縮そうにしている。うちの領の一番偉い人だからね、父様。家の中だと母様が一番強いけど。

 魔力を感知した、ということは、村長さんは魔力親和度の高い人なのだろう。

 母様も俺がこっそり部屋を出ようとするとすぐに気づいて着せ替え再開するんだよな……見て見ぬふりしてくれてもいいのよ?


「下はどのようになっておりましたか?」

「ダンジョンに繋がっていた。一応出入口を封印してきたが、子供が好奇心で入ってしまわないよう、お前達のほうでも気を付けてくれ」

「か、畏まりました。それにしても、ダンジョンですか……」


 村長さんは顔を曇らせる。

 自分達の住んでいる場所の地下にダンジョンがあったら嫌だよな。


「いずれ踏破し、コアを砕く予定だ。だからそう気にするな」

「ありがとうございます!」


 ついかけてしまった俺の声に、村長はパァッと音がしそうなほど顔を輝かせた。

 む。ロベルトが「そんな確約してもいいのか?」という顔をしてる。

 大丈夫だとも。今世は大丈夫そうだが、前世のオズワルドの死亡原因の一つだ。絶対にコアを砕いてやるとも。任せたまえ。


「とりあえず、うちの屋敷に戻るか? それとも村に建てられてる家に入る?」


 そう問うた俺に、サリが少し考える顔になった。


「明日は早朝から入る予定か?」

「そうだな……相手がアビスダンジョンだと分かった以上、もっと準備をしたい気持ちと、とりあえず行けるところまで行きたい気持ちが、半分ずつある」

「それなら、お前の家に泊まれるほうがよさそうだな。家人達に伝えることや任せる仕事もあるのだろう?」

「ある。じゃあ、家に戻るか」


 サリと俺の会話を聞いていた一同が首肯する。

 村長に帰還の挨拶して、行きと同じ隊列で馬を走らせる。行きより足が速いのはロベルトが乗馬に慣れたからだ。さすが勇者。技能習得速度が尋常じゃない。

 手に入れた素材をどう処理するかを考えながら馬を走らせていると、あっという間に街門が見えてきた。壁の内側、中央の小高い丘に建っている実家は、この位置からでも屋根が見える。なんだかホッとするな。


「お帰りなさいませ、皆様」


 屋敷の前ではノーランが待っていた。たぶん、ノーランも魔力親和度が高いのだろう。


「ただいま!」

「留守中、変わったことはあったか?」

「おかえりなさいませ、レディオン様。――至って平和でございました、旦那様」


 ノーランは俺の挨拶に顔を綻ばせ、父様の問いに答えを返す。


「先にお風呂になさいますか? 夕食は今からでも大丈夫ですが」

「風呂が先かな」

「畏まりました。馬は馬丁に任せて皆様はこちらへどうぞ」


 皆でノーランの後ろについてゾロゾロと。

 迎えてくれるメイドさん達が綺麗なお辞儀をしていた。眼福です!


「お風呂からお出になりましたら、食堂へお越しください」


 男女分けで大浴場に案内される。

 男湯に入る前、ふと気づいてノーランを振り返った。


「ノーラン。変異種(ヴァリアント)を倒して来たんだが、素材の確認が出来る者を呼んでおいてくれ。あと、救貧院の世話役も。今回得た素材を渡さないといけないからな」

「畏まりました」


 ノーランに任せておけば後は大丈夫だろう。

 出来れば今日中に色々調べたいが、成長が止まっていることを考えると夜更かしは出来ない。しっかり夕食をとったらぐっすり休むのだ。

 あ! 湯上りに牛乳頼むの忘れてた!




 ――なんて考えてたら、お風呂行ってる間に人材が用意されてました。

 ノーラン、仕事早すぎだろ!?


「こちらが変異種(ヴァリアント)の鑑定を行っているヴァジムです。こちらは救貧院の世話役をしているゲオルギーになります」


 ヴァジムは体調が心配になるぐらい痩せた男で、ゲオルギーは筋骨隆々とした大男だった。

 ……また男か……

 なんで俺の周囲には男しか集まらないのだろう? 運命か? 運命なのか??


「ごほんっ。夕食の時間帯にすまないな。お前達の分も用意するから、食べていってくれ」

「め、滅相もありません!」

「御心だけいただいておきます!」


 夕食時に呼んじゃったから誘ったらすっごい遠慮された。アレか。もしかして俺の顔面が凶器なせいか。


「お二方には後で折詰をお渡しいたします。それでどうでしょう?」

「あ、それなら有難くいただきます!」

「ありがとうございます!」


 間に入ったノーランが上手く纏めてくれた。

 会食は駄目で折詰はオッケーな理由が不明だ。

 うちはテーブルマナーに厳しくないぞ? わりと気楽に食べれる環境だぞ?

 一緒に食べる面子はちょっと飛びぬけてるけど。


「この無限袋に入ってる死骸を調べて欲しいんだ。アビス種というダンジョン固有の変異種(ヴァリアント)だったから、普通の変異種(ヴァリアント)とは違っている可能性が高い。素材が使えそうなら剥ぎ取って使いたいんだ。いろんな種類がいるから、一匹づつ出してチェックしてくれ。その後はゲオルギーに渡してくれるとありがたい」

「畏まりました」


 とりあえず先にヴァジムに袋を渡す。

 ノーランが連れて来るぐらいだから優秀なんだろう。無限袋の存在にも慣れているのか、丁寧に受け取って頷いていた。


「では、レディオン様は食堂へお急ぎください。他の方は皆席についておられますよ」

「おっと。では行ってくる! 頼んだぞ!」

「「はいっ!」」


 なぜか目をキラキラさせて見送られてしまった。

 なんか俺の周囲、俺への対応がおかしくないか? 誰とは言わないけど頭の照りがハゲしい人達とかさ。

 ちなみに本日のメイン料理は天魔牛の分厚いステーキだった。うまうま。


「昼食の時も思ったけど、魔族の胃袋ってどうなってるんだ?」


 フルコースを全部食べたうえにステーキのおかわりをしていたら、ロベルトが呆れ顔でそう言った。


「基本、魔族は大食漢だぞ?」

「細い体してるのにな」

「勇者はもうちょっと食べたほうがいいぞ。これからエネルギー使うんだから」

「さらりと意味深なこと言うんじゃない! お前はまだ子供だろ!?」


 中身は三十超えてるオッサンです。


「食事では贖いきれないと思いましたので、ロベルト様にはこれを……」


 あ。ノーランが穏やかな表情で精力剤のアンプルを百ぐらい渡してる。

 アレ、めちゃくちゃ効くって昔の部下が見せてくれたやつにそっくりだ。

 そしてロベルト、顔が引きつってるぞ。


「さて。腹もくちくなったことだし、明日以降の話を詰めておこうか」


 サリが食べ終えたデザートの皿をテーブルに戻しながらそう声をあげた。すかさずオズワルドが自分の手つかずのデザート皿と取り換える。

 ……オズワルドよ……

 そしてそれをなんの疑問も抱かずモグモグするサリ。

 ……サリ……


「アビスダンジョンの探索は、今回のメンバーで行うのか?」

「俺はその予定だが、他に意見あるかな?」

「途中の採取や死骸の回収部隊を後方に従えていたほうがスムーズに行動できる気がします」


 サリの問いに俺と母様が返答する。すっと皆が頷いて俺を見た。ごめんなさい。


「では、腕の立つ上級魔族の部隊を作っておこう。今日は出なかったが、後方からバックアタックしてくる変異種(ヴァリアント)がいないとも限らないからな」

「在庫があるなら、無限袋は大量に持っておいた方がいいんじゃないか? 敵との遭遇率が半端なかったしさ」

「勇者の言う通りだな。特に変異種部屋(ヴァリアント・ルーム)に入った時は大量の死骸が出るからな……」


 変異種部屋(ヴァリアント・ルーム)とは、いわゆるモンスタートラップだ。


「素材が大量に手に入ってウハウハだったな」

「全部潰して行くか?」

「そうしよう。コアとの戦闘になった時、コアが自分を守らせるためにダンジョン内の変異種(ヴァリアント)を全員呼び戻そうとするかもしれないからな」


 俺もコアとの戦いはあんまりやったことないから、どういう戦闘になるのか分からないんだよな。

 我が妻は食糧問題の改善のために幾つもダンジョンを潰していたから、きっと知識もいっぱいあるんだろうけど、この世界にはいないからな……

 やだ。妻に会いたい気持ちがアップしちゃった。泣きそうだから別のこと考えよう。


「特殊変化したらしい変異種(ヴァリアント)ばかりだったから、おそらく下層にいるのもアビス種だろう。そう強く感じなかったが、前衛班、手ごたえはどうだった?」

「上層のせいかさほど強いとは感じなかったな」

「レディオンちゃんの指示で倒していた変異種(ヴァリアント)とそう変わらない強さだったな」

「大森林の変異種(ヴァリアント)のほうがまだ手ごわいかと」

「俺はあんまりモンスターと戦った経験がないからなんとも言えないけど、ちょっと硬かった気はしたな」


 発言はサリ、父様、シンクレア、ロベルトだ。


「軽く首を刎ねていた気がするんだが?」

「あれは剣の腕というより、剣自体のせいだと思うぞ」


 あの光る剣な。

 光ってるだけでかっこいいよな。


「勇者固有の物質兵器(マテリアルウェポン)は勇者の能力値およびカルマ値によって効果や強さが違う。今のお前は能力値はそこそこだろうから、飛びぬけているのはカルマ値だろうな」


 勇者の先輩であるサリの言葉に、ロベルトは何の疑いもなく「そうなのか……」と頷いて聞いている。


「善であれ悪であれ、カルマ値が高ければ高いほど威力は増す。だから、剣のおかげ、というより、それら全てをあわせて『お前自身の力』だということを覚えておいた方がいい。過ぎた謙遜は害でしかない。自身を正しく把握できなくなるからな」

「……うん。わかった」


 言葉をじっくりと咀嚼して、ロベルトは力強く頷いた。


「また一歩、勇者として成長したな」

「レディオンはそのまなざしをヤメロ。元魔王さんが勇者のこと詳しくて助かったよ。俺はこれから強くならないといけないから」

「ほぉん? やはり男は細君が出来ると意識が替わるようだな」

「……守る対象については黙秘権を行使します」


 シンクレアだろ? 黙秘されなくても分かるって。


「ところでレディオンちゃん。素朴な疑問があるんだが」


 口元を丁寧に拭いていた父様から質問がきた。なんだろう?


「なに?」

「探索を七人で行うのは私も賛成だけど、変異種(ヴァリアント)討伐部隊を活用しないのかな、と思ってね? 二層の森林なんて人海戦術でやらないと。地理を把握するまでに何日もかかるんじゃないかな?」


 ド正論がきました。

 俺、部隊を活用することを忘れてたよ……

 いやまぁ、今世では俺が率いる部隊がまだないから、つい少人数での踏破に意識がいっちゃうんだけど。


「確かにそうだな。出て来た変異種(ヴァリアント)も、上級魔族であれば難なく倒せるレベルだ」


 サリが頷いている。うん。俺もそう思うよ。


「昨日面接してきた部隊ならすぐに動かせるけど、使う?」


 面接という名の殴り合いですね。わかります。

 強さを確認して責任者を決めた部隊があるんだろう。多分昨日の丘の上でやってたのがソレだ。


「俺が使ってもいいの?」

「レディオンちゃんの討伐してほしい変異種(ヴァリアント)を倒すための部隊だからね。好きに使って大丈夫」


 父様……!


「アロガンは相変わらず息子に甘いな」


 サリが苦笑してる。


「早馬を出して連絡しておこう。明日の朝にはヴェステン村で合流出来るよう整えさせる」

「え。急に言って大丈夫なの? 近くにいるの?」

「南に行く予定だったが、出発は明日の予定だったんだ。だから、今晩中に連絡すれば大丈夫」

「ありがとう! 父様!」

「いいんだよ~レディオンちゃん。父様はレディオンちゃんの喜ぶ姿が一番のご褒美だから」


 あっ! 父様がデレ顔になってる。戻して! 顔戻して!


「大森林側のアビスの入口はどうする?」

「俺達が入るアビスダンジョンは、ダンジョンの途中――それも後ろの方だと思うから、一応、二分隊ほどを入口側の探索に向かわせよう。一層ならそうそう(おく)れを取らないだろうし」

「レディオン、一分隊って何人なんだ?」


 俺の声にロベルトが首を傾げて問うてきた。


「うちでは十二人だな」

「合計二十四人か。充分そうだな」


 ロベルトが納得顔になった。父様が付け加える。


「ちなみに部隊の連中は全員上級魔族だ」

「過剰戦力じゃねぇか!」

「一般の魔族は討伐軍に入れない決まりにしているんだ。激戦続きになるからな。討伐軍に入りたいがために体を鍛える魔族が増えたのはいい傾向だ」

「これ以上まだ鍛えるのか魔族……」

「ロベルトも魔族になったら上級魔族を名乗れるようになるだろうな。今でも普通の上級魔族並みに強いんだから」

「そのことで疑問があるんだが」


 はい、と片手を軽く挙げてロベルトが質問する。


「魔族になったら勇者では無くなるんだろう? 俺の勇者としての能力も消えたりしないか?」

「それは無い」


 サリがきっぱりと断言した。ものすごい説得力あるな。


「根拠は?」

「……お前と同じように勇者から魔族になった者もいるからだ」

「そういや水神さんが魔王と恋仲になった勇者が八千年前にはいたっていう話してたな」


 その時の記録だと思ったらしいロベルトの声に、サリがそっと視線を逸らしていた。勇者から魔族になった本人だもんなぁ……


「父様、総勢何人ぐらいいる?」

「二師団だな。六千四百八十人だ」


 思ったより多かった!


「もしかして、全土の上級魔族全員うちの関連に従事してたりする?」

「全員ではないだろうが、かなりの数集まっているのは確かだな。腕試しをかねて参加を申し出てくる者が多かったから選別するのが大変だった」


 魔族、なんでそんなに戦闘狂なん……?


「そうか、そうやればよかったのか……」


 サリが人の集め方の上手い父様にちょっと遠い目になっていた。サリは軍隊とか持たなかったもんな。


「じゃあ、二層を探索するのも手伝って欲しいし、交代しながら順次動く部隊として二師団全部連れて行こうか。ヴェステン村には悪いけど、しばらく村の周囲を囲む形で軍団には野営してもらおう」

「食糧は無限袋に大量に入ってるから、村の負担もそう大きなものではないだろう」

「約七千人を平気で養うって、レディオン達のマジックバック、どんだけ容量デカイんだよ」


 どうやら無限袋は人間達にはマジックバックと呼ばれているらしい。


「俺が拡張したやつだとうちの屋敷一つぶんぐらいだぞ」

「思ったよりもデカかった」


 うちの屋敷、デカイからな。


「うちの領地の変異種(ヴァリアント)の巣は父様達が掃討してくれてるから、その時に手に入れた肉とかがどっさり中に入ってるんだ。俺の畑で採れた小麦は救貧院の孤児達がパンにしてくれてるし、食べ物だけなら十分にあるんだよ。さすがに武器防具の類はそんなに――ないよね?」


 父様に視線を向けると、「ん?」という顔をされた。

 そして衝撃の事実。


「今も職人達が武器防具を作成しているから、それなりの装備を渡せれるぞ?」


 今も着々と魔族軍が増強されているらしい。

 ……最終的にどんな武器防具になるんだろうかうちの軍隊……


「まぁ、怪我人増えても困るから、出来るだけ良い装備を支給してあげて。そういえば部隊の費用とかどうなってるの?」

「基本給プラス討伐した変異種(ヴァリアント)の数で支払っている。金より武器防具の支給品を貰いたいって人もいるから、それはそれで要相談で適宜調整しているな」


 よかった。ただ働きじゃないならいいよ。魔族、脳筋だから「敵を倒せればそれでいい」って無報酬でいる可能性高かったんだよな……


「とりあえず決まったのは、踏破は七人のメンバーでする、二層は人海戦術で軍隊を使う、だな。明日は早朝からヴェステン村に向かうか?」

「そうだな。シンクレア、大丈夫か?」


 視線を向けると、シンクレアはにっこりと笑った。


「手加減しておきますわ」


 ……大丈夫と信じておこう。







 なお、当日ヴェステン村に行くとどこかで見た照りのハゲしい一団がいた。


「レディオン様! お役にたつべく参上いたしました!!」


 なんでベッカー家の部隊がこっちに戻ってきちゃってるのかな?









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