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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
三章 例え数多の苦難があろうとも
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9 アビス



 『自然領域型地下変異種(ダンジョン)』――アビス。

 それは、神族ですら消滅する凶悪なダンジョンだった。おそらく大陸最古のダンジョンであり、魔族十二大家であれば禁域として知らされているだろう場所だ。

 その入口はアークトゥルス地方の南、大森林にある。

 広大な領域をもつそのダンジョンの内部も魔力で拡張されており、実際の大きさを図るのは難しい。

 俺がヴェステン村の地下に何かある、と言われた時、この『深淵(アビス)』だと思わなかったのは、入口がものすごく遠いからだ。


「アビス、だと?」


 父様が俺の呟きに顔色を変える。

 十二大家の出である父様は知っていて当然だ。他のメンバーもロベルト以外は驚いた顔をしている。


「名前からして不吉そうなんだが、それがここの場所の名前なのか?」


 一人知らないロベルトが首を傾げる。

 俺は苦い息を吐きながら頷いた。


「……ああ。確証があるわけではないが、間違いないだろう。ここはアビスダンジョンだ。まさかヴェステン村の遥か地下にまで伸びているとは思わなかったが」


 広大すぎるアビスダンジョンの領域は、ほとんどが魔力で空間拡張されたものだと思ってたんだよな。実際にこんな場所まで伸びてるダンジョンだったのか……前世で踏破できなかったはずだ。


「そのアビスダンジョンってのはどういうやつなんだ? なんか皆して険しい顔してるけどよ?」

「世界最古にして広大な領域をもつ最強のダンジョン、だと言えば、どんなものか分かるか?」

「げっ」

「神族や魔族でさえ食われることのあるダンジョンで、魔族内では禁域として有名だ。時々腕試しに挑む連中がいるが、たいてい帰って来れずに終わる。……別名『魔族喰い』あるいは『神喰い』と呼ばれるダンジョンだな」

「最悪じゃないか。戻ったほうが良くないか?」

「まぁ、戻れるといえば戻れるんだが……」


 俺は自分達が降りて来た大穴を見上げる。思った通りダンジョンはその入口を閉ざそうと頑張っていた。まぁ、俺の魔法のせいで開きっぱなしだけど。

 ちなみに俺達が降り立ったのは広い通路のような場所である。大型の変異種(ヴァリアント)でも動けそうな広さがあるな。


「レディオン、このダンジョンがアビスだとして、地理とかは分かるか?」


 サリがふとそんなことを聞いて来る。

 生まれて少ししか経ってない俺が、このダンジョンの内部を知っているはずがないと分かっているんだろうが、今までさんざん非常識なことをしてきたから「もしかして」を考えたらしい。


「ダンジョンの途中部分から入ったから、位置とかは分からないし、地理も微妙だな。アビスで分かっているのは七階層目までで、一層は岩窟、二層は森林、三層は沼地、四層は平野、五層は火山、六層は氷河、七層は雪山だったはずだ。ここは岩窟みたいだから、たぶん一層だとは思うけど」

「資料として残っているのも七層までだな。お前のことだから謎の知識で知り尽くしているのではと思ったが」

「それは俺じゃなくてポムじゃないかな。あいつがここにいたら、この場所はなんたら、って説明しちゃいそうだ」

「ああ……なんとなく予想出来るな」


 サリがうちのポムの謎知識ぶりを思い出して苦笑している。


「ポムがいないうちにアビスを探索するのは少し不安だな。レディオンちゃんの護衛がいない」

「父様、そんなこと言ってたら俺はどこにも行けないぞ。ポムは聖王国で頑張っているんだ。ここは俺達で探索しよう」

「そうは言うけど……」


 父様は心配そうだ。


「というか、このメンバーで先行きに不安を覚えるのはどうかと思う。このメンバー以上の強者がいる?」


 ぐるりを見渡して総勢七人のメンバーを視線で示す。

 それでも父様はまだ不安そうだが、こういう時に頼りになるのは母様だ。


「これ以上ない人選でしょうね。旦那様、ポムがいなくてもあなたがいるではありませんか。しっかりレディオンを守ってあげてください」

「そうだな! そうしよう!」


 流石母様。父様の操縦は母様が一番うまいよ。


「一応、全員に能力上昇(バフ)をかけながら進もう。食糧は無限袋にあるし、いざという時のために連結済みのも持っている。ダンジョン内は時間経過が分かりにくいから砂時計もしかけておこう」


 俺が取り出した大きな砂時計が中空に浮かぶ。ロベルトが目を丸くした。


「時計は使えないのか?」

「ダンジョン内だと時計みたいな機械仕掛けのものは狂うんだ。魔力で動く物も狂うことがあるし、単純な砂時計が一番安全なんだよ」

「そうなのか……」


 感心した声をあげるロベルト。たぶん、自分の強さが把握されてしまうのを恐れてダンジョンとかには入った事ないんだろうな。ずっと隠れながら行商人として生きてきたみたいだし。


「隊列はさっきの通りでいいか? 出来れば俺は前衛に行きたいんだけど」

「駄目だろ!?」

「それはいけません」

「レディオンちゃんは後ろにいて!」

「皆が心配するからやめておくといい」


 反発されるとは思ってたけど、めちゃくちゃ反対された。ちなみに発言はロベルト、オズワルド、父様、サリの順である。

 シンクレアと母様は苦笑している。


「お父様の心配をなくすためにも、レディオン、あなたは私の隣にいなさいな」

「はーい……」


 じゃあ、俺は戦闘に不慣れな母様を守る役を自分に課そう。なんか母様は俺を守る気満々みたいだけど。


「では行くか。――とその前に、ここに印をつけておくか」


 言うや否や、サリは自分が持っていたウェストポーチ型の無限袋から槍を一本取り出した。

 ――というか、サリのポーチは黒のかっこいいデザインなんだけど、どういうこと? なんで俺のだけいつもフリフリポーチなの?


「ふんっ」


 ドガンッ! という轟音と地響きとともに槍が硬いはずのダンジョンの地面に突き立った。


「……ダンジョンって槍突き立てれるんだっけ?」

「普通は無理だな」


 ロベルトが俺の答えに頭抱えてる。魔王に常識を求めちゃだめだぞ、ロベルト。ちなみに俺でもたぶん出来ます。


「では、出発しようか」


 涼しい顔してるサリに魔族組は苦笑している。なんだかんだでサリも非常識なんだよな。行動が。

 あ。非常識で思い出した。


「待ってくれ。転移装置を設置してみる」

「……また非常識なことを……」


 ロベルトがぼやいているが無視です、無視。

 サリが突き立てた槍のちょい隣に俺が前に造っておいた転移装置用のタイルを置いてみる。む。デコボコだから置きにくい。仕方なく地面を魔力で溶かしてそこに置く。よしよし、上手くいった。


「待たせたな。行こう」


 何故か全員に苦笑されてしまった。なんでだろう。

 歩き出した俺達の足元にあるのはごつごつした地面だ。壁と同じく黒に近いような紫色で、ところどころに謎の鉱物が見える。

 俺は歩きながら近くにあったそれをパキンと折って採取した。


「魔力結晶だな」

「流れるように採取するのやめような? 危険地帯の探索なんだから」

「ロベルトは行商人のくせに欲がないな。道中の金になりそうなものは採取するべきだろ?」

「そうか。なら私達も採取しないといけないな」


 あっ父様が採取にいそしみ始めた。ごめん、忘れて忘れて。採取はまた今度にします。


「……レディオン……」

「……ごめん……」


 気づけばサリやオズワルドまで岩盤にちょこちょこ生えてる魔力結晶を集める始末。

 まぁいいや。どうせ道中で拾ったものを地上に持ち帰って研究するつもりだったから。素材が沢山あるのはいいことです。うん。


「ん? 敵のようだな」


 サリがふと顔を向かう先に向けた。ちなみに俺達は北側に行くような形で動いている。アビスダンジョンの入口は南にあるはずなので、そっちのほうが奥だろうと憶測したからだ。


「足音とかは聞こえないけど……」

「上だ。来てるぞ」


 ロベルトの声にサリは上を指し示す。そこには黒い粘液体がいた。


「スライムか」

「ちょ、アレ、前にレディオンが呼び出してた化け物と同じじゃないか!?」

「いや、あれは普通のブラックスライムだな。俺のグルアちゃんとは違うぞ」


 あのブラックスライムが超強力になって異常な化け物アノルマル・モンストルになれば、『暴食の使徒グルトヌリー・アポートル』としてグルアちゃんと同じような個体になるだろうけど。

 ちなみにスライムは分裂も可能なので超火力で焼き尽くすのが鉄則です。


「レディオンの魔法一発で終了な件」

「俺は魔法特化だからな」

「どうせ魔法以外も強いんだろ?」

「そっちはほどほどだぞ?」

「絶対俺の言う『ほどほど』とは違うと思う」

「魔王を名乗るぐらいには強いからな」


 ふふん、と胸を張ったら頭をわしゃわしゃ撫でられた。なにをするー。


「想像していたよりは出てくる敵が弱いな。もう少し厄介な敵が出てくるかと思ったんだが」

「まだ一層だと思えばこれぐらいでは? 五層以降だと環境でも苦労しそうですし」

「確かにな」


 サリとオズワルドが周囲を見渡しながら感想を言い合っている。父様と母様は俺の雄姿にニッコニコだ。ちなみにシンクレアさんはロベルトを見てニコニコしている。リア充めー。


「とりあえず、砂時計が六回回転するまでは探索しよう。道中の採取はやめておくから、移動重視でいこうか」

「そう言いながら手早く死骸を袋に入れるのがお前だよな」


 だってブラックスライムの粘液と核ってわりと珍しいんだぞ?


「研究材料として死骸は無限袋に入れていこう」

「移動重視と反対の台詞な件」


 いいじゃないか、別に。


「まぁ、それでこそレディオンだな」

「そうですね」


 サリ達はなんで納得してるの?

 まぁいい。ロベルトに指摘されないぐらい素早くやればいいのだ。頑張るぞ!

 そんな意気込みと共に歩き出したら、まぁ、出てくる出てくる。いろんな変異種(ヴァリアント)と数匹単位でエンカウントした。


「素材がウハウハだ」

「レディオンが高速で動いてる件」

「いちいちつっこまなくてもいいぞ、ロベルト。あ、ほら、蜥蜴が出たぞ。狩って狩って」

「リザードマンも蜥蜴呼ばわりされたくないだろうな……っと」


 あの光る風のような剣を振るってスパンと首を刈るロベルト。流石勇者、普通に強い。


「勇者の剣は光と風の属性か。発現したのはいつだ?」

「俺が七つの頃かな。属性はたぶん俺自身の属性なんだと思う」

「そのようだな。片手剣のようだが、盾は発現しなかったのか?」

「気にしたことも無かった……盾も出てくるんだろうか……」


 サリとロベルトが元勇者と現勇者らしい会話してる。ロベルトはサリの正体知らないだろうけど。


「左手に盾があるように意識してみるといい。たぶん、お前は片手剣と盾タイプのはずだ」

「盾を具現……こうか? うわっ!?」


 お。一発で成功したもよう。剣と盾ってことは、ロベルトは戦士タイプか。

 ちなみに具現されたのは仄かに光るタワーシールドだった。わりと重装備タイプらしい。


「盾出したの初めてだ……」

「よかったな、ロベルト。勇者として一つ成長したぞ」

「元魔王さんはよく勇者の成長方法とか知ってたな」


 俺が褒めるとロベルトが感嘆しながら言った。その台詞にサリがそっと視線を逸らしたのは内緒である。

 盾も出せて防御も出来るようになったロベルトは率先して敵に立ち向かっていった。盾を使い慣れようとしているみたいだ。なんだかんだでロベルトも戦闘脳だよな。真面目なせいかもしれないが。

 あと、後衛の位置に置かれたシンクレアが戦いたそうにうずうずしてます。行ってもいいのよ?


「ちょっと一薙ぎ行って来ます」


 我慢できなくなったのか、十数匹の蜥蜴兵士(リザードマン)が出て来た時点で飛び出していった。

 うん。ずっと我慢してたもんね。前衛四人でもいいんじゃないかな。俺と母様とオズワルドは皆が倒した敵をポイポイ無限袋に入れるお仕事してます。頑張ってね!

 そんな風にして移動していると、砂時計が落ちきった。一時間経過だ。くるっと空中で一回転させながら声をあげる。


「一時間経ったから、一旦休憩しよう。時間的に昼食だし、体力を回復させてくれ」


 俺がフリフリポーチから食糧を取り出している間に前衛四人はそれぞれ水を魔法で出して手を洗っていた。母様も手を洗っている。


「もう一時間経ったのか」

「戦ってると時間経過早いだろ」

「レディオンは戦ってないのに一仕事やり終えた感のある顔してるな?」


 素材いっぱいでホクホクです!


「にしても、弁当デカイな……」

「これぐらいは普通に食べるからな。あ。ちなみにお赤飯です」

「ぎゃあああああ! 忘れてた!」


 かぱっと開けたお弁当の中、存在を主張する赤飯がデデンと。ちなみに上からゴマもふってます。


「祝い事があったのか?」

「ロベルトがシンクレアと結婚して魔族になってくれることになった」

「やっとか」

「やっと、って言わないで!?」


 七百年拗らせてた元魔王様に「やっと」と言われるロベルト。

 おじいちゃんは鏡で自分を見てもいいのよ?


「おめでとう」

「おめでとうございます」

「ありがとう!」

「ありがとうございます!」


 サリとオズワルドの祝辞にロベルトとシンクレアがそれぞれの表情で返答する。

 仲良きことは善きかな。


「せっかくの赤飯だから、今日は魔族伝統食っぽく纏めてもらったんだ。最近港にも力を入れてるからいい魚が入ったし」

「蕪の漬物に煮しめ、子持ちシシャモに昆布巻き……!」

「ロベルトは本当に俺達魔族の食事が好きだよな」


 昨日の晩餐会でも米や刺身ばかり食べてたし、よっぽど好きなんだろう。でも、泣くほどでは無いと思うんだぞ?


「たんとお食べ……」


 思わず優しい目になっても仕方ないと思う。

 皆でロベルトを優しく見守りながら、それぞれの弁当を空にしていった。魔族は食べるのも早いんです。

 ちょっと雑談しながら休憩して、またサリ達を先頭に歩き出す。

 変異種(ヴァリアント)の出現は散発的で、出てくる数も種族もバラバラだった。

 時々壁の所に岩で閉ざされた入口のようなものが見えて、これは変異種部屋(ヴァリアント・ルーム)――所謂モンスタートラップになっていた。

 まぁ入って即魔法をぶっぱなしたら殲滅できちゃうんだけど。


「最強のダンジョン攻略のはずが、イージーモードすぎるな……」


 ロベルトがぼやいていたが、魔王二人に勇者までいるパーティーだとこんなものだと思うぞ?


「うん? 下行きの階段が見えるな」


 せっせと死体を袋に入れていたら、サリがそんな風に声をあげた。

 次の層への入口っぽいな。


「あの入口から一時間半ぐらいの距離か」

「下に降りるか?」


 ロベルトの確認に、俺は首肯する。


「降りよう。まだ時間もたっぷりあるしな」

「あいよ」


 盾を持ち直す仕草をしながらロベルトが先頭きってそちらに向かう。その盾、重さあるの?

 そんなこんなで階段を踏破、おそらく二層目だろう場所に。


「森林地帯だ」

「二層の特徴だな。やっぱりさっきまでの場所は一層で間違いないみたいだ」


 その森林に踏み入って出てきた最初の敵は猿型だった。


狂暴猿(ブリユタリテ・サージ)か。爪に毒があるから気を付けろ」


 わくわくハンティング・クックでも書かれていたからな。

 ちなみに気をつける気をつけない以前の問題で、木の上から襲い掛かってきた全員がオズワルドの術で即死した。

 ……たぶん、サリの頭上に現れたのがアウトだったんだと思う。オズワルドの判定基準が疑問だけど。


「迎え撃つつもりだったんだが……」


 サリはご不満のようだ。これからも出てくるだろうからいいじゃないか。

 実際に進めば進むほど多くの猿が現れた。森林地帯はこいつらしかいないんだろうか?

 ――と思ってたら水辺でカバが出て来た。そこはワニじゃないの?

 意外と強かったカバ戦のあとはまた猿、猿、猿……あ、ゴリラいた……ロベルトの剣で首が吹っ飛ばされてたけど。

 ちなみに切り飛ばされた頭も無限袋に入れます。この脳みそが好きという物好きもいるんだよな。俺は食べないけど。


「ここで三時間経過だ。休憩とるぞ」


 砂時計をくるーりさせて食糧を配る。今度のは軽食です。サンドパンを味わってね!


「以前行ったラビリンスより敵の出現率が高いな」

「確かに、オレが昔入ったことのあるダンジョンよりも敵との遭遇が多い」


 すでに一回以上領域型変異種に入った経験のあるサリと父様(ふたり)がそれぞれの体験を話し合っている。

 俺としてもこのアビスは二回目なんだが、さすがに会話に混じるわけにもいかない。なにしろ本来はまだ一歳児のはずだからな、俺。


「敵の強さもこちらのほうが上だな。さすがに深淵(アビス)と呼ばれることはある」

「手に入った素材も地上で鑑定してもらったほうがいいだろうな。もしかしたら地上にいる変異種(ヴァリアント)のより一つ上のランクかもしれない」

「レディオンちゃんは便利な目を持ってなかったかな?」


 あ! 忘れてた!


「その様子だと頭から抜けてたな?」


 ロベルトは俺を把握するのをやめるんだ。

 今さっき倒した敵を覗いてみると、名前の所にアビスの文字があった。このダンジョンの固有種のようだ。ということは、今までのもそうかな?


「地上に行って加工する時が楽しみだな」

「そんな暇あるのか? お前、魔王になったのに」

「う゛っ……いや、でも、商売の方は部下に丸投げになったから、時間の都合はつくんだぞ? 勿論、今までより休憩時間を多めにとるようにするけど」


 成長のためにな!!


「商売は部下に任せることにしたのか」

「俺自身は商売下手だからな」

「それもそうだな」


 そこはフォローするところだろ!?


「涙目になるなよ。お前、困っている人を見つけたら損得勘定抜きに助けるだろ? 危なっかしかったんだよな。商売って時に相手を奈落に突き落とすような決断をしないといけなかったりするから」


 ロベルトはいったいどんな修羅場を行商時にくぐり抜けてきたのだろうか……


「そうだ、ロベルト。魔族になったらうちの商会に就職しないか?」

「それでもいいけど。護衛とかに回らなくてもいいんだな?」

「あ、それも捨てがたい。どうしようか。ロベルトの就職先がありすぎる」

「そんなことで迷うのは、世界中探してもお前ぐらいだろうなぁ」


 なんかロベルトが優しい眼差ししてる。どういうことなの?

 休憩時間が過ぎるのはあっという間で、ロベルトを問い詰められないまま再度出発になった。

 そこから三時間ほど小休憩をとりつつ動いたのだが、森林地帯は抜けられなかった。さすがアビスダンジョン。広さが凄い。


「これはダンジョン内で寝泊まりしながら探索しないと駄目か?」


 無駄に広い森林にうんざり顔をしながらサリが言う。うんざり顔でも美しいのだから美形は得だよな。


「サリ、俺が転移装置仕掛けるから、日帰りを繰り返すのでも大丈夫だと思うぞ。――ダンジョン内で作動すればの話だけど」

「確かにそうだな。床に設置だから、変異種(ヴァリアント)が踏んで飛んでくるとかはないか?」

「一応、今いるメンバーのみが使えるように設置してる。変異種(ヴァリアント)が乗ったら俺の迎撃魔法が自動的に作動するな」

「……入り口から飛んで来たら死体塗れということもありそうだな」

「ダンジョンが消化するからそれは無いんじゃないかな。新しい死体は残ってるかもしれないけど」


 俺とサリの話し合いに、律儀に片手をあげてロベルトが参加する。


「そういえば疑問だったんだけどよ、ダンジョン内で倒されたモンスターの死骸が消えるのってどういう理屈なんだ?」

「おそらくだが、ダンジョンが死体を魔素やエーテル体に分解して吸収しているんだと思う」

「エーテル体?」

「神は泥を捏ねて人を成し、という古い言葉があるんだが、その『泥』にあたるのがエーテル体だな。生命体がもつ自身を構成する要素だ」

「へぇぇ……初めて聞いた。レディオンは色々知ってるな」

「ふふん。これでも生後数ヵ月の時から書斎に入り浸って本を読み漁っていたからな」

「そんな赤ん坊の時から本見てたのかよ。すげぇな」


 ちなみに今も生後一年と数ヵ月です!


「さて、入口のと繋ぐ転移装置を設置するぞ」


 ロベルト以外の全員の生暖かい視線を受けつつ転移装置を設置する。今度のは草さえどければ平坦な地面なので設置しやすかった。魔力を流すといっそうキラキラしてくれる模様が美しい。


「この七人で設定したから、乗って大丈夫だ。ひとまず俺が行くな」

「ちょ」


 待てと言われる前に飛び乗る。

 一瞬の浮遊感の後、岩窟についた。隣を見たらサリが突き立てた槍があり、頭上にはダンジョンががんばって塞ごうとしている大穴がある。

 うん。成功だな。


「レディオン!」

「一番手に乗るやつがあるか!!」

「レディオンちゃん心配したんだからね!?」

「さすがにどうかと思いますわ」

「製作者とはいえ無謀かと」

「あらあら、まぁまぁ」


 皆が転移してきた。一斉に怒られるが、反省はしない。まず製作者が安全をチェックすべきだろ!?


「皆の気持ちにも配慮しないといけませんよ?」


 母様だけはわりと冷静だった。

 この肝の据わりよう、ぜひとも皆にも見習ってほしいものである。






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