表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 2 ヴェステン村
13/196

11 Début du destin



 馬は好きだ。

 大柄な体躯に反して繊細で臆病なところも、つぶらな目も、長い首をこすりつけてくるところも好きだ。

 最強の騎獣はドラゴンだが、あれはもう騎獣というより殲滅兵器だから『足』とは言えない。ドラゴンを除けば、空ならワイバーン、陸なら八脚馬スレイプニルが最高とされている。だが、俺は普通の馬が好きだ。なにしろ可愛いからな!


「今日のレディオンちゃんはご機嫌ですね~」


 うきうきしている俺を抱っこして、身支度を整えた父様が厩へと向かう。

 ふふふ。これから乗馬なのだよ。朝乗りなのだよ。この体で生まれて初めての外出。初めての領地視察。ふふふふ。楽しみだな!


 グランシャリオ家の厩は、屋敷の門に近い場所にある。

 武骨な造りだが頑強で、厩というよりも兵舎のような佇まいをしていた。天井は高く、藁も清潔に保たれている。ただ、昔ながらの作りのせいで少し薄暗かった。

 そう、古いのだ。

 なにしろ、俺の曽祖父の代に造られたものだから。今も使用できるぐらい立派なものだが、俺の代には建て替えられていた。というのも、かつての俺の愛馬がこの厩を気に入らず、大暴れして壊したのだ。

 ……あいつ、なんであんなに我儘だったんだろう……今世ではよく調教しないといけないな……

 今の時代には俺の愛馬はいないので、ちょっと薄暗い頑強な厩は健在だ。清潔に保たれているとはいえ、糞尿の臭いがするのは仕方がない。


 父様の馬は白馬だ。男前な父様が乗ると実に様になる。母様もきっとさらに惚れ直すに違いない。鼻水垂れてたらもっと惚れるだろうけど、俺は普通の感性しかもってないのでキリッとした父様の方が好きよ。

 それにしても、うちの厩には白馬が多い。

 そのくせ、何故か俺は一度も白馬をもらえなかったが……あれは皆から遠まわしに『お前は様にならない』と言われていたのだろうか……いやそんな馬鹿な……おや、視界がちょっとぼやけているぞ。おかしいな。


「どうしたんだいレディオンちゃん!? まさか目にゴミが入ったのかい!?」


 いいえ父様なんでもないんですよ。なんでもないから前向きましょうね。お馬さんがおろおろしているよ。


 ちなみに俺はどうやって馬に乗せてもらえるのかな、と思っていたらドヤ顔の父様が布でつくった拘束具のようなものを見せてくれた。

 父様……俺は拘束されて喜ぶ性癖は無いよ? 嫌だよ?

 ――と思ったのにあっという間にテキパキと背負われ布でしっかりと父様の背に張り付けられてしまった。あふん。


「どうだい、レディオンちゃん! 母様が作ってくれた負んぶ袋の具合は!?」

「これ、きらい」


 俺の一言に父様は光速で布をほどいた。すごい早かった。この俺が残像すら見えなかったぐらいだ。……やるな父様……


「でもレディオンちゃんの安全のためにはなるんだよ!?」

「けしきがみえない」


 俺の訴えに、父様はああでもないこうでもないと考えた末に、俺を大きな袋みたいなものに入れて、それを胴に固定した。

 ……なにこの恰好……

 どういうことなの。俺の知ってる乗馬と違う……

 え。俺この恰好でレッツお外なの?


「これなら景色も見えて、安全だ!」


 うそん!?

 本当にこのまま動くの!? 動いちゃうの!?

 首から上を袋の外に出したどこかの有袋類みたいな格好で!?

 意気揚々と馬を走らせる父様の胸の前で、俺は茫然とした状態で家の門をくぐった。とてもとても生暖かい優しい目の門番達に見送られながら。


 こうして、俺は『生まれて初めて』家の外へと出た。


 ――新たなる黒歴史と共に。







 グランシャリオ家の屋敷は小高い丘の上に建つ。

 その周囲に広がるのは大きな街だ。ただし、丘近くに家は配されていない。また、家は全て平屋に限定されていた。これは敵に囲まれた時のためだ。家屋の配置も厳密に決められていて、他の領地のようなごったな印象は無い。


 父様は人もまばらな街へと馬を入れる。

 大通りのためそこそこ速度が出ていても危ない感じはしない。道の両端に市が立つ頃には人でいっぱいになるため危険になるが、今は早朝だしな。起きている者も少ないというものだ。

 そして俺のこの黒歴史を見る奴も少ないということだ。

 袋入りの俺を胸に馬を操る父様はとてもご機嫌だ。傍目にもウキウキしているのが分かる。俺の方は意気消沈もいいところだがな!


 道行く人は、父様の姿を遠目に見ると道の両脇に避けて綺麗な礼をする。

 今世の父様は俺の前ではデレデレだが、外では以前の通り冷厳な上級魔族として振る舞っているのだろう。親しみは感じられないが、敬意が伝わってくる反応だ。

 ……それにしても、何故、皆こっちを見るのだ……

 父様は怖いぞ? 厳しいぞ? あんまりじろじろ見てたらシャーッとか言うかもしれないぞ?

 だから礼しながらチラチラ見るのはよすんだ! というかこっち見んな!


「ふ」


 やだ父様の口から空気漏れた!

 なにそのご満悦顔。俺が黒歴史を秒単位で積み上げているのが愉しいですか!? 父様今からまさかのツン路線!?


「まさかこんな早くレディオンちゃんのお披露目が出来るとはな……」


 なんか感無量な声で言われた!

 やだよこんなお披露目! 俺、袋詰めだよ! 有袋類だよ!

 首から上しか外に出てないよ!

 お披露目ってもっとかっこいいものじゃないんですか!?


「このまま隣の領まで行って自慢して来たいものだな……!」


 やめてー!!!

 

「……旦那様。お子様が涙目になっておいでですよ」

「何故!?」


 ショックで震えている俺の様子に、朝駆けについてきていた守護者っぽい男がそっと父様の暴走を止めてくれた。ありがとう、ありがとう守護者さん。名前知らないけどありがとう。


「それよりも、旦那様。領地を見るとしても、どこまで行かれますか? 朝食に間に合うようにでしたら、街中をのんびり行くよりも、軽く街外の田園をお見せしてから帰るぐらいの方が良いかと思われますが」

「外か……しかし、レディオンちゃんは小さい。街の外に出すのは次回でよかろう」


 なんだと!?

 それだと俺が辛いじゃないか! 果てしなく色んな意味で!!


「まちのそとがみたいです」

「うっ……いや、しかしだな……」

「お子様もそう仰ってますし。街の様子なら屋敷の窓からでも遠目に見れましたしねぇ……折角なのでもう少し外を見せてさしあげたほうが喜ばれるのでは?」

「それでこの子に何かあったらどうするつもりだ」


 父様は物凄い目で守護者を見た。すごい釣り上がってる。鬼より酷い目だ。

 しかし向けられた守護者はしれっとした顔をしている。


「お子様の気持ちが大事では?」


 ちら、と見られた。

 あら、アイコンタクト。なに? もうひと押し?

 最終兵器使っちゃう?


「……ぱぱ」


 黒歴史同士を天秤にかけた結果により発生した俺の上目使いとおねだり声に、父様はあっさり陥落した。


「仕方ありませんね~。レディオンちゃんがそう言うならちょっとだけ外に行きましょうか~」


 父様! 顔!! 顔引き締めて!! デレ顔になってる!!!

 ああっ! ほら! 街の人が顎落っことしてるじゃないか! そしてそこの守護者! 顔背けて震えるな! おまえ絶対笑ってるだろ!?

 俺の眼差しに、守護者は震えながら首を横に振る。いいえ笑ってませんよ、ってジェスチャーだけどめちゃくちゃ笑ってるじゃないか! なんだその頬袋みたいなほっぺたの盛り上がりは! 笑顔だろそれ!!


 ……まぁいい……奴には借りがある。この姿で街中を移動されまくったら、俺の黒歴史がココロのクリティカルになるところだった。父様を笑っていたのも不問にしてやろうではないか。

 ……しかし俺の記憶が確かならば、こんな守護者、俺が物心ついた時にはいなかったぞ。父様に平然と意見できるところといい、前世でもいたら絶対覚えてるはずなのにな。


 チラと見ると、にこやかに俺達を見ていた守護者がニコッと笑った。

 笑ったんだと思う。というか、顔は笑顔だ。形は。

 そのわりになんとなく印象が薄いというか、茫洋としているというか、無個性な顔だな。明日になったら忘れてしまいそうだぞ、守護者。もうちょっと尖るか丸くなるかで個性出してみない?

 俺が守護者をジロジロ見ているのに、父様が不思議そうに首を傾げた。


「どうしたのかな? 気になるのかな?」


 ……なんと答えたものかな。

 俺も一通りの家人の名前と立ち位置や職名は覚えたつもりだが、守護者は場所ごとに人が違っていて覚えにくいのだ。

 情報を統括管理している魔歴宝珠イストワール・オーブを読めばすぐに把握できるのだろうが、俺はまだ家のそれにすられられていない。今日帰ったら触らせてくれるよう言ってみるかな。


「やしきに、いた?」

「? いたぞ?……ああ、レディオンちゃんは会うの初めてか」


 父様、ちょっと素が出ましたね。俺としては素のままでいてほしいけど。


「ノーランの部下、執事の一人で、貿易部門統括のポム・ド・テールだ。武技に精通している為、護衛の任も受け持っている」


 守護者じゃないの!?

 というか、テール!?

 ――い、いや、名前の部分が一緒なだけで、別人だ。ムッキンなマッチョ・グノームでは無い。違うはずだ。……違うよね?


 ちら、と見た相手は、凡庸な顔といい細いが細すぎない体つきといい、百人中八十人ぐらいはこんな感じじゃないだろうかと思うような没個性な男だった。あの存在感マックスの、燻されたハムみたいなムキムキじーさんとは違う。

 いやしかし、あのムキムキムッキンは、肉食出来ないくせに一狩り行く為に色々偽装して現界するような変わり種だからな……こいつがあの大地の精霊王で無いとは言い切れない。

 いつの間にうちの家に入り込んだ!?

 しかも貿易部門統括だと!? あんた精霊王 (多分)なのになにやってんの!


「……なにか、微妙に疑惑をもたれてる気がするんですが……旦那様、お子様に何かよからぬことを教えたりしてます?」

「何故私がそのようなことをせねばならん!? 前から思っていたが、貴様は一言多いぞ」


 俺の疑惑いっぱいな眼差しに、大人二人がぼそぼそと言い合う。

 ……前から思っていた、ということは、そんなごく最近の仲ってわけでもないのか。

 だよなー……でないと貿易部門を渡したりしないよなー。しないよね父様?


「……おい。なんだか私まで疑惑の目で見られているじゃないか。どうしてくれる……。レディオンちゃん、何が気になるんだい。パパで分かることならなんでも答えてあげるから、その目はやめてほしいな!?」


 父様。そこで件の執事兼護衛が吹き出すの必死に堪えてるよ。

 その人本当にうちの執事なの? 忠誠心あるの?

 というか、どこでどう採用したんだ。前世の俺は知らないぞ、こんな執事。

 前の貿易部門は誰が受け持っていたかな……いや、駄目だな。子供の頃は身近にいる数人しか知らなかったし、俺が家を継いだときには半分ぐらい殺されて一新されたしな……


 地味に疑惑を覚えつつも、馬は呑気に外へと向かっている。

 俺が(まぁ、いいか)と一旦疑惑をひっこめ、外の景色に思いを馳せた頃、近づく門の向こうに土埃が見えた。

 死にもの狂いで駆けてくる馬だ。

 必死な顔の男がその上に乗っている。鎧にかかっているのは――血だ。


「旦那様」


 ポムが低い声をあげる。父様が顔を引き締めた。

 無意識にだろう、馬脚が早まる。門に駆けつける騎馬に何事かと集まり始めた門兵達が街から馬を走らせて来た父様に気付いて驚くのが見えた。次いでに俺を見てギョッとするのも。

 ……こっち見んな……


「何事か!」


 未だ気づいてない兵のいる中、馬を乗りいれた父様が鋭い声をあげる。

 同時、飛び込むようにして駆けこんできた騎馬の上で男が叫んだ。


「ポワゾンモルテル・フロッグが大発生! ヴェステン村を急襲! 至急、援軍を!!」




 『俺』の知らない『異変』が発生した。





●レディオン・グランシャリオ

年齢:生後四ヶ月

身体能力:首すわり済み。脱おしめ済。

     一人排泄可能。一人歩き可能。階段の一段飛ばし可能。

     ジャンプ可能。駆け足可能。

     『気配遮断』『隠密』『魔道具作成能力(上級)』

     『錬成能力(中級)』

物理攻撃力:高

物理防御力:高

精神力:身内には弱い・外部には強い

魔法:精霊魔法(特級)・種族魔法(中級)・黒魔法(上級)

   白魔法(中級)・時空魔法 (マスタークラス)

   魔力制御(上級)・魔力操作(特級)・魔力具現化(中級)

魔法攻撃力:高

魔法防御力:高

魔力:極上・膨大

魔力親和度:高

言語:喋れる(まるまっちぃ声限定)

称号:『呪いの子』『次代の魔王』『魔力の宰』『精霊の愛し子』

   『精霊王の同盟者』『変な魔法趣味』『日常が黒歴史』

   『変異種(ヴァリアント)博士』『■■■』

備考:\髪の毛については言及するな/

   『幼馴染の絆』『友愛』『俺の幼馴染(♂)が可愛すぎる件』

   『大地の精霊王との絆』『水の精霊王との絆』『炎の精霊王との絆』

   『炎の縁』『俺の移動手段がオカシイ件』

   マッチョは男の浪漫



(※上記はあくまでキャラクターデータとなります。実際の赤ん坊の成長速度とは違う旨、ご了承くださいますようよろしくお願いいたします)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ