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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 6 王と魔王と操りの神
106/196

57 誰が為の戦いか

お仕事ひと段落したのでやっとログイン(´;ω;`)

今回は全編別視点です。レディオン視点は次の「58 何の為の争いか」で再開します。




 魔王サリが急いでその地に駆けつけた時、現地は濃厚な殺意に満ちていた。


「大陸粉砕用魔砲門の積み込みを急げ!」

「殲滅結界陣用の魔杭は積み終わったか!?」

「対魔族用武具に対する相殺装身具を忘れるな!」

「部隊長は隊員の数を確認せよ!」

「『無限袋』は持ったか!?」

「おい! 誰だ『無限袋』を忘れて行っている奴は! 自分の部隊の分は各自確保しておけ!」


 セラド大陸、アークトゥルス地方、グランシャリオ領。

 その主都とも言うべき街の外には、夥しい数の魔族が集まっている。千や二千どころではない数に、サリは思わず顔を曇らせた。


 立派な角や羽根、尻尾を生やした妖艶な魔族。

 巨大な竜。

 全員が長い真っすぐな髪を流したローブ姿の魔族。

 竜魔より華奢な羽根を生やし、時折姿を変えながら動いている魔族。

 ――そしてそれらの特徴をもたない、一番数の多いごく普通の人型の魔族。


 手に手に武器をもつ彼等は、明らかに戦いを目的とした軍人だった。

 上位に立つ大家ならば、率いる一門の中に必ず軍を持つ。治安維持から外敵排除まで行う彼等は、広大な領地を治める者にとってなくてはならない存在だ。

 だからこそ、こういった光景は本来であればさほど珍しいものではない。

 だが、今、この時、多少のことでは動揺しない魔王(サリ)は、この軍を見て顔色を変えていた。


「……たった二日離れている間に、なんて状況だ……」


 付き従うオズワルドも言葉を返せず眉を寄せる。

 魔王(サリ)死神(オズワルド)がこの地を離れたのは、サリの言葉通りほんの二日ほどだ。

 調査の難航していたヴェステン村において、地下不明地への道が肥溜めもどきになってしまった為、肥料の撤去が終わるまでと転移装置で王都に戻ったのが二日前。

 溜まっていた仕事を片付けている最中、『無距離黒真珠(オクン・ジスタンス)』で別大陸にいるポムから緊急通信が入ったのがつい先ほどだ。


『魔王さん! グランシャリオ家がそこはかとなくピンチです! 旦那様達が暴走する気配満載なんで止めてあげてください! 坊ちゃんのために!』


 突然何事かと思ったが、向こうも緊急事態らしく通信は切られた後だった。しかもこちらからは繋がらない。

 通信具の意味について色々と思うことはあるが、尋常では無いものを感じ、二日前同様に転移装置で飛べば、現地は今まさに戦を始めようとする気配に満ちていた。


「原因はなんだ? レディオン達の正体が人間にバレたかもしれない、というやつか?」

「わかりません……そもそも、それなら噂を現地組に教えられた時に暴走しているはず。今、この状態というのは解せません。あるいは、確定したという噂が流れたとか……」

「……噂ごときでこの反応は過剰だろう……」

「確かに。……ですが、あちらの大陸に飛ぶ転移装置が全く動かなくなっているとか。そもそも、色々と規格外ですがレディオン殿はまだ赤ん坊です。親である彼等が暴走するのも、無理なきことかと」

「だが、単身――は難しいだろうが、お忍びで行くとか、方法はあるだろう!? なぜ、軍を起こす!?」

「お鎮まりを。魔力や気配が漏れれば、当主の前に行くまでに取り囲まれてしまいますぞ」


 オズワルドに言われ、サリは力を抑え込んだ。

 グランシャリオ家に挙兵させないためには、まずアロガンを押えなくてはならない。だが、もし魔王がここに来ていると知られれば、家人の誰かに阻まれる可能性がある。それを危惧して力を制御した状態で飛んできたのだ。息抜きの為に公務から逃げ出す隠密行動が、こんな時に役にたった。


「……人間は、魔族を悪の象徴と見なす種族です。極めつけに臆病な人間達が、魔族がいると知ればどういう反応をするのか――サリ様ならばなおのこと、安易に想像がつきましょう?」

「…………」


 サリは押し黙った。苦い表情が過ぎる。


「……嫌と言うほど、知っている(・・・・・)さ」

「……申し訳ありません。嫌な記憶を思い出させてしまいましたな」


 頭を一度振って記憶を払い、サリは嘆息をついた。


「……だが、それでも、彼等を行かせるわけにはいかない」


 見やる先、街の入口近くにいるのは、グランシャリオ家の家人だ。怒りと殺意で形相が完全に変わってしまっている。

 一番奥にいるのは巨大な竜の群れ。赤、青、緑、茶、暗褐色、黒、白と実に色とりどりで、その巨体に十二人単位の魔族が飛び乗っているのが見えた。

 一部の竜が抱えようとしているのは、禍々しい文様の入った巨大な筒だ。大陸粉砕用魔砲門――文字通り、大陸ごと対象を木っ端微塵にする究極破壊魔具の部品である。他の部品と組み合わせた最終形態は、要塞のような形になる。

 魔族同士の戦史でもほとんど登場することのない、言うなれば『最終決戦にすらおいそれと持ち出されることのない』極め付きに物騒な代物に、思わず数秒、思考が途切れた。


「これであくまで『救助』だと言い張るつもりか……?」

「……大陸間戦争の間違いですな」


 オズワルドが顔を覆ってしまっている。実際、あれが使われれば確実に全面戦争だ。


「あのような恐ろしい魔道具を、グランシャリオ家が有していたとは……正直、肝が冷えますな」

「オレとしては、この短期間であの人数を動員し、編成してしまったアロガンの手腕が恐ろしい」


 竜魔族の精鋭だろう巨竜だけで五百以上。集まっている者は小者らしいものも含めて全て(・・)上級魔族だ。

 その数、実に七千を超える。

 いかにグランシャリオ家が強大とはいえ、この数はありえない。だが、それを可能にする手段が彼等にはある。


「アロガン殿! ベッカー家一門、いつでも特攻の準備は出来ております!」

「感謝する」


 その動員数の三分の一を担うのが、かつて陰謀に踊らされて戦い、現在はレディオンに従っているベッカー家だ。

 元々武断の一族だったこともあり、武技に秀でた上級魔族が多く揃っている。

 さらに朗々と響く声が頭上から響き渡った。


「アロガン様! 竜魔一族高速飛行部隊、いつでも飛べますよ!」


 魔族きっての武闘派で知られる竜魔族だ。竜型以外にも大勢いるらしく、戦いの気配に目を爛々と輝かせている。

 自身の族長がアロガンの妾であることもあって、竜魔族とグランシャリオ家はいろんな意味で仲が良い。

 おそらく、ベッカー家の精鋭をグランシャリオ家に運んだのみならず、これから大陸間を飛行して人間の大陸に飛ぶ『足』ならぬ『翼』になるのだろう。見れば、竜形態の者は全て高速飛行型(ハイスピードタイプ)だった。


「普通に人間領域を死滅させれる兵力ですな……」


 十二人ごとの分隊を最小単位に、三小隊、三中隊、五大隊、三連隊、二旅団、二師団。

 おまけに、その誰もが明らかに尋常ではない力の宿った武器や武具を身につけている。魔族の常識では考えられない『装備』だ。


「まさか、魔族が『装備』に力を入れるとは……」

「レディオンの思想をそのまま忠実に実現させると、ここまでの軍になるのか」


 過日の魔族の軍を知っている二人からすれば、もはや絶句するしかない光景だ。

 魔族は自分達の服に着心地や肌触り、あるいは見栄えといったもの以外を求めない。強さは自身の身に宿すものだというのが常識だからだ。

 だが、その魔族がひとたび人間のように『装備』に拘ればどうなるか。

 その実例が、彼等の前にあった。


「はっ……いかん。思わず悠長に眺めてしまった。止めないと」

「左様にございます。このままではレディオン殿にキャン泣きされますからな」

「……それは困る……」


 わりとよく泣く赤ん坊を思い出し、サリは重いため息をついた。

 アルモニーが実用化にこぎつけた超長距離通信具は、今も少しずつ増えて関係者に渡されている。別地で活動中だったレイノルドがいるあたり、彼ももらっているのだろう。

 それがあったからこそ止めに来れたが、もしあの魔道具がなければ、知らないうちにこの軍勢が海を越えていたのだ。それを思うと本気で肝が冷えた。


(人との戦争はレディオンが嫌がっていた。……アロガンも父親なのだから、それぐらい思い出せば良いものを)


 ふと、姿の見えない女傑を思い出したが、気配すら感じなかった。何故か背筋が寒くなる。

 いずれにせよ、目の前の軍を止めるのが先だ。赤ん坊が泣くのは耐えがたい。


「サリ様も、レディオン殿には甘いですな」

「そう……だな」


 不思議なものだった。自身には子も孫もいないが、あの赤ん坊を見ていると「保護しないといけない」という気持ちが沸き上がる。面と向かって「おじいちゃん」と呼ばれてしまったからかもしれない。

 脳裏に後継者と見なした赤ん坊を思い浮かべる。


 ――おじいちゃん。うちの父母がなにかやらかしそうなら、殴ってでも止めてくれ!


 よしきた。


「まぁ、『孫』のためか」

「そうですな」


 二人は揃って足を踏み出した。







 兵糧や予備の武具、魔具、それら全てを入れた『無限袋』を部隊長に渡し終えたエンゾ・メラクは、家令のノーラン・メグレズと共にアロガンの元へと向かっていた。

 アロガンの周囲には、すでにかなりの数の魔族が集まっている。だが、無言でいる男に誰も声をかけられない。

 この時ばかりはアロガンの体が倍に膨れあがって見えた。実際には目の錯覚だが、そう感じてしまうほどの鬼気を纏っていたのだ。

 ノーラン達は主の前に整列すると、恭しく一礼する。


「アロガン様。全ての部隊に『無限袋』を支給し終わりました」

「大隊長への『連結無限袋』も、支給し終えております」


 彼等の愛すべき次期後継者が作り置きしていた道具は、今、本人の予定とは大きく違う分野で活用されようとしていた。

 レディオンの予定としては、あくまでも平時の(・・・)運送を簡単に、そして迅速に行うためのものだったろう。

 だが、その特性を考えれば、これが最も力を発揮するのは戦時の(・・・)運送および糧食や資材の保持だ。


 迅速な移動を妨げる飼糧隊が不要となるばかりか、『連結無限袋』が繋がってさえいれば、どこか一か所に籠城しようとも、別の地の品を半永久的に送り続けることも出来る。

 機動力差を利用した大部隊に対する分断作戦、籠城戦における兵糧攻め――そういったものが一切通用しない部隊が誕生したのだ。


「……アロガン様」


 未だ無言の主に、ノーランはもう一度声をかけた。

 アロガンは表情の無い顔で一同を見やる。そうして口を開いた。


「集まってくれた皆に感謝する。人間どもの大陸にて謂われなき誹謗中傷を受ける我が子も、貴殿等と共にならば救い出すことができよう」


 静かな声にこめられた怒りに、グランシャリオ家一同は目をギラギラさせながら頷いた。


「助けに行きましょう! 一刻も早く!」

「連中などにレディオン様を害される謂れはありません!」

「我らのレディオン様にあれほどよくしてもらいながら、恥知らずな!」

「そもそも、何もしていない我等に対する連中の言いがかりは我慢がなりません!」

「連中の牙が届く前に、早く!!」


 次々にあがる声に、ベッカー家や竜魔からも共感の叫びがあがる。


「我らが恩人、レディオン様に危害を加えんとする者に制裁を!」

「恩知らず共に誅罰を!」

「赤ん坊にまで敵意を向ける連中なんて滅ぼしてしまいましょう!」

「おいしそうな雄は生け捕りにしてもいいですかー!?」


 一部ブレない一族が叫んでいるが、狩猟本能まじりの戦意は異様なほど高い。高揚が高揚を呼び、戦意が戦意を高める。

 足を踏み鳴らす音が響いた。すぐさまそれは大人数に伝播する。大地を揺るがす地響きと化し、その振動は街を揺るがした。

 多人数による特殊儀式の一つ、同じ意思もつ全員の戦力を倍化させる戦術戦技――


 ――力鳴威嚇グランド・ウォークライ――


 アロガンが剣の柄に手をかける。全員が倣った。抜き放たれた数多の剣が太陽の光に煌めく。大地が一瞬で白銀に染まった。

 怒号があがる。


「誅罰を!」

「誅罰を!」 

「誅罰を!」


 合唱に大気が震えた。剣が天を衝く。振り下ろされれば、それが出撃の合図だ。

 だが、


【――鎮まれ】


 強大な魔力と共に、その一言が場を圧した。

 七千を超す上級魔族の力鳴威嚇グランド・ウォークライを打ち消し、狂化に近い強化すらも強制排除した力に、思わず驚愕の叫びがあがった。


「何だ……!?」

「ひ!? へ、陛下!?」

「魔王様……!」


 ギョッとした空気が流れたのは仕方がない。今の今までその来訪に気づいていなかったのだ。

 しかも、彼等には狼狽えねばならない理由がある。

 あきらかに戦準備とわかる状況だが、グランシャリオ家は魔王に対してその奏上をしていない。いわば無断でこれだけの上級魔族を集め、戦準備をしていたのだ。下手をすれば反逆罪で処罰される内容だった。


「……アロガン」


 一瞬で場を支配した魔王は、隠していた気配も魔力も開放した状態で首謀者を見る。かける声が溜息をつくような声音だったのは、彼の内心を現していた。

 アロガンは黙ったままだ。

 振り下ろすでもなく剣を下げたのは、怒りに満たされた思考の中でも、魔王という存在に無意識に配慮したからだろう。

 だが、剣は抜き身のままだ。

 その感情がこそげ落ちたような顔に、魔王はため息をつく。


「レディオンが泣くぞ?」


 その一言は、どんな制止の言葉よりアロガンに効いた。

 わずかに揺れた感情の機微を感じ取り、サリは困ったように首を傾げる。


「手助けに行くだけであるのならば、オレとて協力しよう。だが、戦いに行くために出るのであれば、許容することは出来ない。戦争は、レディオンの為にはならないからな」

「……ですが」


 アロガンの薄く唇が、硬い声を零した。


「ですが、連中は! あの子を殺めんとし、すでに動いております!」

「……何か掴んだのか」


 アロガンの様子に眉を顰めれば、脇に控えていたノーランが感情を堪える顔で水晶板のようなものを二枚、取り出した。


「こちらを。あちらの大陸に放った密偵が送ってきたものです。うち、一つは国外のものとなります」


 レディオンが情報収集の人員を願った時、アロガンがこれ幸いと多数送り込んでいたのは知っている。人間の国で騒ぎが起きた直後に、あちこちに散ったことも。

 ほとんどは得体の知れない執事の命令で一国の内部に散ったが、一部はその国の外に散らせたのだという。

 サリは異様に精密な構成の水晶板を起動させる。映像を記録させる特殊な魔具だ。恐ろしいことに、第八の位階に達する魔力結晶石だった。試作品として作られていたものだろう。


「一つはあの国の神殿。もう一つは、ポムの指示で向かわせておりました『聖王国』です」


 魔族を敵視する者の中で、最も人数の多い脅威こそ、教会であり、その総本山である『聖王国』だ。

 だが、聖王国はレディオンのいる国から遠い。レディオン達の噂がそちらの国に伝わったのだとすれば、いささか早すぎる。


(いや……魔具の開発は人間の方が好んで行っていた。それに、鳥便があるか)


 ありえない、という考えを捨て、水晶に映る光景を見続ける。高位の魔力結晶の為か音声も綺麗に拾っていた。

 そして見終わった時――魔王の表情は完全に消えた。


「……アロガン」


 ゾッとするような声がその唇から漏れる。

 同じ映像を見ていたオズワルドは沈黙を守った。守らざるを得なかった。

 これは、止められない(・・・・・・)



「オレ達が乗れる竜は、居るか?」









 王都の民にとって、それは突然染み出てきた毒のような噂だった。


「おいおい、ついに城の方でドンパチやってんじゃねーか……?」

「マジか……大丈夫かココ」


 王都、商業区、繁華街。

 遠くから響く怒号と金属音に、男達は飲んでいたビールを下ろし、不安げに腰を浮かせた。

 男達の恰好は街人のそれでは無い。身に纏うのは軽くて丈夫な泥棒兎(ヴォルール・ラパン)の革鎧で、腰に下げているのは使い古した鉄剣だ。

 武装ならば王都の兵士達もしているが、彼等は規則により姿を整えることを義務付けられている。

 対して、男達の伸びた無精髭や整えられてない髪は、貧民街を根城にする破落戸と大差無い。戦乱の国を渡り歩く傭兵や、忌み嫌われる盗賊と区別がつかない姿をしているのは、たいていは冒険者と呼ばれる者達だった。


「つーかよぅ、いったいこの国はどうしちまったんだ? 俺がガキの頃はこんなんじゃなかったろ?」

「国っつーか、おかしいのは教会じゃねぇか? 何年前だっけ? 第一神殿の神官長様がどっか僻地に飛ばされたの。……あれからおかしくなっていった気がしてならねぇんだが」


 不安げに周囲を見ていた男二人が、顔を寄せ合って声を潜める。


「あったなそういや……なんだっけ? 禁書か何かを所持していたとかどうとか」

「ああ、それそれ。……けどよ、俺らがガキの頃にいたその神官長様って、昔っから本好きで教会を通じて本を集めてたお人だって話だったろ? 神殿の一角が書庫になっちまったっていう噂の。もう長年やってるから、誰でも知ってるっつー話だったよな?」

「俺らまで知ってるぐれぇだったしなぁ……」

「うちのおふくろが言ってたよ。お前も神殿に行って本読ませてもらえば、ちったぁマシなアタマになるんじゃないか、っつって」

「お前もかよ。あの頃はよく言われたぜ」


 一瞬、遠くを見る男の顔には、懐かしさを内包する笑みがあった。

 だがその表情がすぐに曇る。


「その神官長様が……禁書ねぇ?」

「なんかもったいつけて神殿騎士共が言ってたが、内容はだいぶ忘れたな。知識を求めるばかりにどうたらこうたらといかいうやつ」

「本好きが高じて禁書に手ぇ出したっつー噂のやつだろ。……そのわりに、何の本なのか言われなかったけどよ」

「怪しいよな……普通、禁書なんてものに手ぇ出したら火刑か断首刑だ。けどよ、神官長様は王都追放で終わったんだろ?」

「今までの功績が、ってやつだっけ……」

「なんかなぁ……まぁ、昔のことだからよ、今更だが……」


 ふと声が途切れた。

 当時まだ子供だった彼等も、すでに自分の家庭をもっておかしくない年齢になっている。それだけの年月が流れていた。身分の高い人達のことだからと、自分達の生活に直接関わりの無い部分だからと、知らずにいたことが今更ながらに気にかかる。……大人になったからか。それとも、あの時を思うと懐かしさと共に当時の暮らしを思い出してしまうからか。


「……あの頃はよぅ、よかったよなぁ……貧しかったけどよ、魔物が出れば陛下や聖女や神官長達が出かけて行ってよぅ……帰ってきたらお祭り騒ぎだ」

「あー、あったなぁ……二十年ぐれぇ前か?」

「いや、もうちょい前だろ? なにせ勇者がいた時代だ」


 男達の顔に笑みが浮かび――すぐに消えた。

 自分達が子供の頃にいた勇者は死んだ。

 北の地で当時この近隣で恐れられていた妖魔王を封印し、さらなる北に座す竜王を倒しに行って、帰らぬ人になったのだ。


「妖魔王に、竜王か……そうだよなぁ……魔王だの魔族だのなんて、勇者じゃなきゃどうにもならない相手だぜ」

「だなぁ……オレ達なんざ、せいぜい弱い魔物を狩って生計たてるのが精いっぱいだ。……それがなぁ……」


 思い出すでもなく、頭の片隅にある言葉。


 ――グランシャリオ家ハ、魔族ダ。


 けれど、それでいったい、何がどうなるというのだろうか。


「……しっかし、教会連中もなんだってこんなことするんだろうな……」

「さぁなぁ。第三王子サマと組んでなんかやってるってのは聞いたことあるけど、まぁ、ろくでもないこったろーよ。かー。嫌だねぇ、最近の王都は。くわばらくわばら」

「おー怖い怖い。……んでもって、城の方の音、だんだん激しくなってねぇか?」

「やべぇな……こいつぁひょっとしてひょっとするんじゃないか?」


 似たような囁きは行われている。

 そこへ声をかけるのは、お仕着せらしい上下にエプロンをつけた給仕女だ。


「怖い、って言うんならさっさと勘定して去りな。まったく……いつの間に王都で活動する冒険者ってのはこんなに軟弱になったんだい」

「ンなこと言ってもよぉ……」


 女の威勢のいい声に、本来なら血相を変えて怒鳴るだろう男達が縮こまる。ややキツめの目をした女は、周囲をぐるりと見渡して言った。


「ほら、あんたらも! 面倒事が嫌って言うんなら、さくさく食って外に出な! 巻き込まれたら堪らんとか言いながら長居してんじゃないよ!」

「こりゃまた威勢のいいねェちゃんだな。なんだ。ここじゃ客を追い出しにかかるのか?」


 丁度食事に来ていたらしい平服の男の声に、ここ最近入り浸っている冒険者達は慌てた。


「馬鹿お前、素人か、いいんだよココはコレで!」

「は? いやあんたら、あんだけ言われて……」

「馬鹿! あン人は、今は引退してるが、元Aランク冒険者だ! 俺らの先輩なんだよ!」

「は?」


 平服の男は目を丸くして給仕の女を見上げた。

 見た目はごく普通の女だった。四十代半ばだろうか。顔立ちはややキツめだが、造作はむしろ整っている。体格も目立って筋骨隆々というわけではない。

 だがよく見ればその首回りは太く、袖から除く手首も頑丈そうだ。たっぷりとした布のワンピースでは腕や胴の筋肉など分からない。なかなかに豊かな胸に一瞬目が留まったが、意思を総動員して引きはがし、男はもう一度女の顔を見た。


「……元、Aランク?」

「一応ね。足をヤられちまって廃業さ」


 鼻で息を吐き、女は無造作に自分のスカートを軽く持ち上げた。左足の位置には、足では無く棒が伸びている。義足だ。


「冒険者稼業なんてこんなもんだ。あたしらは魔物相手の傭兵だ。すぐに死んじまうし、運よく生き残っても、戦い以外何も出来やしない。だいたいさ、この足で何が出来る? それでも貯めた金があるうちはいいが……尽きたらそれで終わりだ。戦うことしかしてないあたしなんて、他に働きようがない。……いや、無いと思ってたんだけどねぇ」

「最近、ウェイトレス姿も板についてきてますぜ、姐さん!」

「茶化すんじゃないよ!」


 どうやら顔馴染みだったらしい男の声に、女は顔を赤らめて怒鳴る。ゲラゲラ笑う店の客は、そのほとんどが冒険者だ。


「むしろ、あんたみたいな普通の客が、今のこの店に食べに来てることのほうが謎だね。ここがどこだか、知ってて来てるのかい?」


 やや呆れた目で見られて、男は戸惑った。


「最近できた店、だろう? 安くて美味しくて量があるって村に帰って来た連中が言ってたが」

「あー……騒ぎの前に村に帰った出稼ぎ連中の話聞いてきたクチか」


 途端、周囲が同情顔になったのに、男は驚いて腰を浮かせた。


「え!? な、なにかあるのか!?」

「いや、別にたいしたこっちゃないんだけどねぇ……ここ、グランシャリオのお店なんだわ」

「はぁ……いや、そう聞いてきたけど」

「ありゃま。王都の最近の噂、知らない? ちょいと前にさ、うちの店長というか、商会の人らが魔族だっていう噂を流されてさ」

「へ!?」

「そのせいで、まぁ、騎士団の連中はちょくちょく顔を見せるわ教会連中がそこらで見張りしてるわで、鬱陶しい状態になってんのよ」

「えええええ!?」

「なんにも知らずに来たんだねぇ……こいつらは美味い酒が安く飲めるからって常連になってる命知らずだけど、あんたは全く知らずに来てんだろ? 早めに食って帰りな。さっきから城や神殿の方角が煩いったらありゃしない。ありゃ、一触即発だったのが爆発したクチだろ。戦いの臭いがプンプンするわ」

「……ッ!!」

「ちょい待ち」


 慌てて席を立ち、荷物をひっつかむ男の腕をいつの間にか傍に移動した女が掴んだ。


「ひ!?」

「お代は払っていきな。最初の分は先払いでもらってるが、追加の分はまだ払ってないだろ?」

「あ、は、あ!」

「美味くて安くて量が多かったろう? 食い詰めた連中が飢えないよう、魔族と噂されながらも低価格で提供してくれてるうちの店の人達に、無銭飲食されましたなんて言えないんだよ」

「わ、わ、分かった……!」


 頷き、慌て、代金分の銅貨を押し付けるように渡し、店を飛び出そうとして――


「まいど。気を付けて帰りなよ」


 苦笑含みの声に、ふと立ち止まった。

 振り返ると、似たような苦笑を浮かべた男達もマグを片手にこちらを見ている。軽くマグを掲げる男もいて、その悠々とした態度に足が鈍った。


「……逃げないんです?」


 言葉が改まったのは無意識だ。


「逃げないさ。あたしはこの店の、まぁ、なんだ。看板娘だからね」


 看板娘のくだりで照れくさそうな顔をする女に、周囲の冒険者がニヤニヤ笑う。


「娘ってぇ年じゃあねーでしょ姐さん」

「看板女? ……なんかいかがわしいな……看板熟女?」

「それだ!」

「よけいいかがわしいわ!」


 ゲラゲラ笑いながらも呑気に居座る冒険者達と、それを叱り飛ばす女に男は困惑する。

 店の上の連中は、魔族の疑いをかけられているという。

 神殿と城の方で戦いの気配がするという意味はよく分からないが、話を続けて教えられたということは、魔族疑惑の関連で戦いが始まったということだろう。なら、この店にも神殿から神殿騎士や神官が来る可能性が高い。店の中にいれば、確実に巻き込まれる。

 店員であろうと、そんな店に構いを付ける必要はない。客であればなおのことだ。


「あんたぁ、村の人だろ。なら、まぁ、分からねーだろうから、早く去りな」

「は、はぁ……」


 困惑する男をよそに、同じようにして何も知らずに店に入っていた者はそそくさと逃げ去る。王都という場所柄、最近の噂を知らずに足を踏み入れる者は少なくない。ほとんどの者は皆、これほど美味く安い店なのになぜ流行っていないのかと訝しみ、後から噂を知って度肝を抜かれるのだ。

 そうして、ほとんどの者は二度と店に足を向けない。繰り返しやって来る者には、なにかしらの理由がある。

 疑問に思ってしまったせいで足が鈍っている男に、客達は自嘲めいた笑みで言った。


「俺達ぁ、ここが必要なんだよ」

「稼ぎの悪い俺らに、美味い飯を腹いっぱい食わせてくれるのはここだけだ」

「ここが無くなったら、困るんだ」


 言いながら、自分達の言葉の何に納得したのか、男達は肚の据わった顔つきになって太い笑みを浮かべた。


「そうだ……無くなったら困るんだ。ここは俺達のためにも、あり続けてくれなきゃ困るんだ」








 王都、商業区。

 城が戦闘区となった頃、その区域の端でも騒動は起きていた。


「なぜ突入出来んのだ!!」


 金切声が街に響く。

 周辺の道を占拠した銀の輝きは、神殿騎士。その背後に控えるのは、奇妙な道具を手にした神官達だ。その神官達は、狼狽えたような顔で道具と目の前の屋敷を交互に見ている。


 大きな屋敷だった。

 商業区に近い為、一等地と言うには外れの位置にあるが、面積だけで言えば周辺のどの屋敷よりも広い。

 そのせいで中途半端な位置にしては高額で、売りに出されて二十年以上買い手のつかなかった物件だ。

 その屋敷は、今、五十人程の神殿騎士と、七十人ほどの高位神官で包囲されている。


「神官共! ちゃんと『魔封じ』をやっているのか!」

「やっております! 魔道具は作動しております!!」


 この場の責任者である指揮官の声に、神官の代表は悲鳴のような声をあげた。


「ですが! いっこうに効果がありません……! こ、このような強い結界は、初めてです! 尋常ではありません!!」

「なんだと……!?」


 指揮官の怒声に、わずかな怯えが混じった。

 この場を任されたのは、第二神殿所属の神殿騎士団のうち、外回りを担当する者達だ。内部の警護を担当する者達と違い、見回りと称して神殿に近い区域を巡回している為、街のことについては内部勤務の者より詳しいと自負している。


 その自分達が見た『グランシャリオ家』は、外から来た他国の者であり、多額の寄付をするなどそれなりに目端の利く、美味そうな(・・・・・)商売人でしかなかった。

 家人とやらは揃って顔形の麗しい優男で、荒事に向いていそうな者は一人としていない。それを補うためか、店の方で雇うのは元が荒くれ者という連中が多く、手足の一部が欠損していたり、孤児であったりと、指揮官からすればまともとは思えない者達ばかりだった。


 ――連中には、何かある。


 巡回と称して街を練り歩き、事情を抱えた連中の痛い腹をついてはうまい汁を吸ってきた神殿騎士達は、いつ馬脚を現すかと舌舐めずりをしながら見張っていた。

 そんな矢先に、大神官から彼等が魔族であると言われたのだ。

 内部勤務の者は驚愕していたが、外回りの者達は違った。 驚喜した。


 そうか。そういうことにするのか。――そう思った。

 思う存分蹂躙し、食べつくしてもいいのか。――そう理解した。


 グランシャリオ家は、今一番脂ののった美味しい商会だ。新興でありながら、売買でたたきだした金額は他の大商会をも凌ぐ。

 しかも、冒険者としても活動し、呆れたことに仲間にかの『英雄テール』を加え、そちらでも多額の金を報酬として貯めこんでいるという。

 その本拠地である屋敷には、おそらく億という単位の金貨があるだろうと噂されていた。


 ――そこを襲えば、少しばかり懐に入れることも出来るのではないか。

 大神官が目をつけた以上、日常で脅しつつ金銭をせびるという手はもうつかえない。だが、かわりにもらう予定だった金貨を数枚、いや数十枚、拝借するぐらいの役得はあっていいだろう。


 そう考え、最も危険な任務と大神官に言われたこの役割を立候補した。部下のほとんどがそれを称賛した。

 大神官が鼓舞した演説、自分達こそが王都に救う魔族を成敗するのだという意気込みも――例え、その真実がどうあれ――ひどく心地よいものでもあった。


 だが、今のこの状況は、どうしたことだろうか。


 大魔法使いとまで言われる『商会の長』を封じる為、多くの神官と多数の魔道具を貸し出してもらったというのに、屋敷の門を開けることすらできない。

 門に近寄ることすら出来ないのだ。

 見えない壁に遮られるようにして、神殿の者は誰一人として屋敷の門に触れられない。手を伸ばしても、矢を放っても、その手前のところで弾かれるのだ。


「……こんなバカな……」


 確かに噂には聞いていた。

 商会の長は、あの未曾有の大災害たる『死の黒波』すら撃破した大魔法使いだと。

 だがそれも、実際のところは英雄テールの力だろうと思っていた。かの大英雄が現れたということは、その出現に相応しい魔物の災害が発生するということであり、それはつまり『死の黒波』だったのだろうと納得していたのだ。


 だが、これは、何だろう。

 なぜ、神殿が誇る『魔封じ』の魔道具を七十も持ち出して、それに対応する神官を揃えて、結界に綻び一つ出来ないのだろうか。


「こ……これも、もしや、英雄テールの力、か……!」


 はたと気づき、指揮官は声をあげた。

 それならば納得出来る。

 いや、そうでなければおかしい。

 同じパーティに入ってやる程度には親交があったのなら、この程度の『加護』を与えてやっているかもしれない。そうだ。きっとこの力はそうに違いない。

 ――だが、そうなれば、自分達はその英雄の加護を得た者を攻撃しているということにならないだろうか?

 ただ一時身を寄せていたにすぎないのだろうと、楽観していたのに、話が違ってくる。


(いや……だが、あの英雄は、活動期間が短い)


 しかも、同じところに現れ続けるということはほとんどない。次々に魔物のはびこる所に現れ、そして姿を消す――それが『英雄テール』という人物なのだ。

 その証拠に、ここ最近その英雄の姿を見た者はいないという。

 彼等と共にあった『テール』が、かの伝説の英雄――『不死の英雄』『時渡りの英雄』と呼ばれる、数十年に一度、魔物がはびこるときにだけ現れる英雄――であるのなら、また休息期に入ったか、別の地の魔物の討伐に赴いているという推測もなりたつ。いや、そうであってくれなくては困る。


「そうだ……そうに違いない……でなくて、どうして大神官が命令を下すのだ」

「ぼ、ボルス殿?」

「そうだ。大神官の言に間違いは無い。この家の者は魔族……魔族……」


 ぶつぶつと自分に言い聞かせるようにつぶやき、指揮官ボルスはひきつった笑みを浮かべて声を張り上げた。


「総員、魔法の準備! 封印班は門の一ヵ所にだけ力を集中させよ! 魔族の汚らわしい結界を破り、神の威光を示すのだ! 『雷雨(サンダーストーム)』の準備を!」

「! はっ!」


 一瞬、驚いたものの神殿騎士達は即座に詠唱に入った。だが、神官達はそうもいかない。


「お待ちください、ボルス殿! 『雷雨(サンダーストーム)』では付近の住民にも被害が……!」

「だーまーれ! そんなことを言っている場合か! 見よ!! この邪悪な結界を!! 打ち砕かねば神の威光は示せぬわ!」

「しかし!」

「貴様らが結界を破壊できんからそもこうなっているのであろうが!! 魔力はそそいでいるのか!? よもや貴様らも魔族の走狗か!?」

「な!?」


 あまりにも突飛も無い台詞に愕然とし、くってかかろうとした神官の肩を別の神官が押さえる。視線で「よせ」と告げられ、今一度指揮官の顔を見て顔をしかめた。


(これは、まともな話は、出来まい)


 ひきつった顔。血走った目。目を剥いた表情で固定してしまった顔には、知性や理性の色は見えない。もともと、神殿騎士団内でも鼻つまみ者ばかりが集まったのが外回り組だ。その品性など期待していなかったが、思い通りにいかない事態に早速本性を現したと見るべきか。


「お前達は言われた通りにすればいいのだ! 大神官から任務を与えられたのは私だぞ! ここで失敗などしようものなら……ええい! 早くやれ!!」


 神官達は素早く目配せをしあい、何も口にせずひとところに集まって力を集中させる。

 屋敷の敷地全体を覆う結界に対し、『魔封じ』の一点集中ともなると、術者もひとところに集まるのが最も効率が良かった。

 指揮官(ボルス)はその様子に満足げな息を吐く。

 それを尻目に、神官達は無声音で会話を交わし合った。


「(大神官様の仰った通りだ。やはり、神殿騎士の位には相応しくない)」

「(だからこそ、この役目だ。……自ら募穴を掘るとはな……)」

「(市民に被害が出るかもしれない魔法の強制……実質、商会の連中を手にかけるのはボルスだ。後に何があろうと、全ての責はボルスにいく。……いいな? 連中の『悪行』の全てを記録せよ)」


 指揮官(ボルス)は知らない。

 自分が生贄として選ばれていることなど。

 グランシャリオ家は、異国から来た商会だ。

 この大陸の国内外に対しては、魔族だったと強調し、聖王国に繋ぎをとって話をあわせてもらい、自分達の息のかかった第三王子に王位を継いでもらうことで有耶無耶にすることが出来るだろう。だが、グランシャリオ家が本来住んでいる大陸の者相手には通じない。そのための生贄だ。

 無論、一人の責にして事なきを得るというのは難しいだろう。相手の位や規模にもよるが、下手をすれば海を挟んでの大規模戦争になる可能性がある。そうなったとき、カルロッタという小国の勝算は非常に低いものになるだろう。


(……いや我々には聖王国がついている)


 ほぼ世界中に信徒を持ち、強大な軍事力をもつ聖王国。その後ろ盾があれば、大陸間戦争が勃発しても生き延びれるだろう。そのために聖王国と通じたのだから。

 第三王子を御旗に掲げる神官たちの詠唱に、同じく詠唱をしながら一人の男が薄い笑みを浮かべた。


(これでいい)


 それは先ほど指揮官にくってかかろうとした神官を止めた男だった。目立たない風体の、これといって特徴のない男だ。


(結界があんなに強いのは想定外だったが、この国の連中が互いに傷を広げあうのは好都合だ)


 たとえ『首謀者』を明確にし、処罰したとしても民衆の不満や怒りを消しきるのは不可能だ。だがその対象がこの国の神殿騎士や神官に限定されるのであれば、まだやりようがある。


(どのみち、この国の上層部は入れ替えなきゃならねぇ)


 それは国だけではなく、教会も同様に。

 すでに本国(・・)ではこちらに来る者の選定に入っている。街で情報収集していた連中と連携して、今頃は正規軍の出立を早めている頃だろう。


(せいぜい、華々しくクーデターを成功させてくれよ。俺達の為にも。あんた達の為にも)


 もっとも、


(その栄光も、一時的なもんだろうけどなぁ?)


 その視線が一度見やるのが、西。

 男は顔を俯かせ、その影で笑みを深めて嗤った。



(ロルカンがそうであったように)






主都=その地域において第二位の都市を大きく引き離す第一位の都市。魔大陸においては地方ごとに存在する。ちなみに王都の場合は首都。


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