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メビウス・クラウン ~あなたに至る為の物語~  作者: 野久保 好乃
――mission 6 王と魔王と操りの神
101/196

52 coup d'État

 



「まずは軽く紹介させてもらうよ。こっちが私の弟、第二王子のマリウス、後ろにいるのが前に話していた王国軍総帥のミケーレ・エンハンス、さらにその隣が近衛騎士団長のマリオ・リーデンベルクだ」


 やって来たリベリオ達四名に、俺も友好的な微笑みを浮かべてそれぞれ軽く紹介した。


「噂はかねがね。俺はレディオン。こっちは執事のポム。後ろにいるのはうちの商品を扱ってくれている行商人のロベルトに、その妻予定のシンクレア。シンクレアの妹分であるルーシーだ。それぞれ名前の後ろに長い名前やらがつくが、あまりに長くて不便なのでな。呼び名だけ覚えてもらえると嬉しい」

「坊ちゃん、そこは端折らずに紹介しませんかね? ――気になるのはわかりますけど」

「本気で長いだろう、名前。使わない部分いらなくないか? アレ。――あと、お前も目が釘付けだぞ」


 実のところ真面目にやってもよかったのだが、俺達の意識は目下、ルーシーにペロられた第二王子に釘付けだ。かくいうポムも視線はしっかり第二王子に向いているのだから、どの口が言うのかといったところだ。 

 しかし、彼がまりちゃんか……そうか……まりちゃんか……


「そこは格式とか色々あるんですって。――もしもし、坊ちゃん聞いてます?」


 聞いてません。


「レディオンよ。俺もちょっと言いたいことがあるんだが」

「おー。まりちゃん、今日の装いは前と同じぐらい美味しそうですねー?」

「あらあら。この方がルーシーの? なるほど、相乗効果でそこそこといったところでしょうか……でもロベルト様のほうがずっと美味しそうで……じゅるり」

「なんでよだれ!?」

「……あの、すみませんがね、フリーダムな皆様。王子さん達が色々仰天してますからお控えいただけませんかね? 特にそこのお嬢さん方」


 見ればリベリオ以外の三人はポカンとした顔で立ち尽くしている。

 俺は軽く咳払いした。


「ゴホン……失礼した。それと、そちら側は大物を揃えて来ているようだが、何か事態が動いたとみて良いのか? ん?……どうした?」


 気を取り直して声をかけたのだが、リベリオは笑いを噛み殺しているし、他三名はポカンとしたままだ。

 ん? 視線が集中しているのは、俺?

 ――あ。やべ。フード被ってなかった。


「ああ、被り物はしなくてもいいと思うよ。彼等には慣れてもらいたいし」

「……そうか」


 慣れが必要な顔ですまないな。……泣かないぞ……


「衝撃が薄れるまでちょっとかかりそうですから、王子さんと話しておきましょうか。ほら、坊ちゃん、食糧の件」


 スンスン。


「ぅみゅ……リオよ、糧食を勝手に使われた件、話は聞いている。必要な量を言ってくれれば、俺達の側で用意しよう。予定していたものを失えば、国の政や行事に影響も出よう」


 俺の申し出に、大柄なミケーレとやらがハッとなって表情を引き締めた。


「それは助かる!――が、量が量だ! 財務大臣とも話をして予算を組まねばならん!……ところで目に何か入ったのかね? ただの布ならばあるのだが……」


 やだ! それは気づいちゃダメなやつ!

 でも布はもらっておこう。人間からのプレゼントなんてほぼ無いからな! 後で記念品用無限袋作らなきゃ……

 ……ん? 妙な顔だが、どうしたのかね?


「自然にハンカチを所得するのはやめような?」


 あっ! ロベルト何をする! それは俺がもらったハンカチだぞ!


「すみませんね、総帥閣下。レディオンはどうも渡されたハンカチをもらってしまう癖があるみたいで」

「人を手癖が悪い子供のように言うな。せっかくもらったのだから大事に取っておくに決まっているではないか」

「いや、別にプレゼントじゃねーよ」

「あー、いや、そんなもので良いのなら、いくらでもかまわんが」

「そうか!」

「……うわ。やべぇぐらい顔輝いてやがる……」


 うるさいよ!


「しかし貰い物にはお返しがつきものだな。俺のお手製ハンカチをさしあげよう。そちらにぴったりの品があってな!」

「ほ、ほほぅ! それはまた……」


 くまさんアップリケつきだ!


「……これはまた……」


 何故か周囲が「ぶふ」とか言って口押さえて俯いてしまったが、熊のような大男は神妙な顔でもらってくれたのでよしとしよう。やはりここは母様にも絶賛された兎さんのほうがよかっただろうか? この大男は熊だと思うのだが。


「さて、話を戻そう」


 俺が咳払いして言うと、ミケーレはハンカチを丁寧に懐にしまってから頷いた。うむ。好感度があがっちゃうぞ!


「必要なのは、軍の糧食も含めた分だろう? 干し肉、干し芋、乾燥野菜、乾燥果物。それと、堅パン(ハードタック)という長期保存可能なパンも新たに作りはじめたので、それもつけよう。体を温める為の葡萄酒(ワイン)も必要だな。塩や水は足りているか?」

「あ、ああ」

「牛乳や山羊乳、羊乳やチーズ類は?」

「ああ、うむ、それらもあると、有り難いが……」

「あとは糖類だな。砂糖黍からの抽出が終わっていないため流通には乗せていないが、収穫した砂糖黍そのものならある。疲労回復にも適しているからいくらか入れておいたほうがいいだろう」

「いや、待て、待ってくだされ。そこまでいくととても予算が足りん!」


 慌てるミケーレに、俺は首を傾げた。


「軍は遠征を行っているのだろう? 魔物退治のものと聞いている。その支援を考えれば、別に今回は無償でもかまわんが。どうしても払いたいというのなら、分割でも良い。我々としても名を広める機会だし、大口消費先は望むところだからな」


 ミケーレはしばし呆然と俺を見つめてから、太い息を吐いた。


「……成程。イザイアが心配するはずじゃわい。――いや、失礼」


 首を傾げた俺に、ミケーレはなんとも言えない笑みを浮かべる。ちょっと困り顔な笑みだ。


「おことがあまりにもお人よしに見えて、うちの宰相が気を揉んでいたのだが……先の発言で、大まかなところは察した。それなりに営業や宣伝効果は考えておるようだが、やはりいささか不用心、いやさ、無欲に過ぎるとご忠告申し上げよう。殿下やイザイアが太鼓判を押す故、二心なきものと思うが……古来より『(タダ)より高いものは無い』という言葉もある。相手に無用な用心を与えぬよう、金があるだろう階級の者には多少ふっかけるぐらいのほうが宜しかろう。そのうえで、幾ばくか値引く形のほうが、商談も上手くいくのでは無いかな?」

「……ふむ。難しいな。困っている相手からふんだくるのは、俺の流儀に反するのだが……」

「ほ」


 おや。国王と似た笑いを零された。なんだか目が優しくなった気がするんだが、何かツボに入ったのかな?


「……ゴホン。あぁ、糧食の事なのだが、出来れば分割払いにしてもらえると有り難い。猶予は……長めにとってもらえんかな。魔物の討伐に赴けば、得た素材でそれなりの金は工面できる。もともと兵の給金以外は国庫を潤していた分だ。軍が負った借金の返済に充てるのであればどこからも文句は出まい」

「……俺達も随分と魔物狩りで荒稼ぎしたのだが、もしかして、そちらの『商売』を邪魔してしまったのだろうか?」


 軍が行う大規模掃討ともなれば、一般の冒険者が卸す量とは桁違いになる。大量に素材が卸されるということは、その分値崩れするのが常だ。まして、その素材の元となる魔物そのものを、一部の地区とはいえ俺達が散々に狩り尽くし、全てでは無いとはいえ素材も冒険者組合に売り払っていた。

 言ってしまえば、狩場を荒らしまくったうえに儲けが下がるような真似をした後だ。俺達が荒稼ぎした分、彼らの取り分も減ったのではと思ったのだが――


「それは無い。むしろ、儂等ではどうにもならん相手を倒してもらっておったと思うが。特に南西部は被害に反して遠征の手が圧倒的に足りぬ。おことがいてくれなければ、壊滅していた村々も多いだろう。儂等だけでは手が足りんのが実情でな……感謝しこそすれ、邪魔に思うはず無かろうて」

「そうか。獲物を横取りしやがって、とは思われずにすんでいるのなら、何よりだ」


 心からホッとして言った俺に、ミケーレはちょっと目を瞠った。その厳つい顔に、今度ははっきりと笑顔が浮かぶ。


「そんな馬鹿者は儂が遠征部隊に放り込んで揉んでやるわい。おことがどう思っておるのかは分からんが、魔物の討伐は我々にとっても有難いことじゃった。……辺境を救ってくれたこと、心よりお礼申し上げる。よくぞアヴァンツァーレを救ってくれた。本当に感謝しておる」


 がっしりとした両手で片手を包まれて、俺は狼狽えた。ジルベルトやモナ、支部長に感謝されるのは分かるし、リベリオが言うのもまぁ分かるのだが、この男がここまで感謝してくれる理由がよく分からない。


「ミケーレはアヴァンツァーレの先代、先々代とは顔見知りでね」


 リベリオの声に、ああそうか、と納得した。同時に、何故もっと早くジルベルトを手助けしてくれなかったのかと不満にも思った。


「人の世には人の世の柵があるんですよ、坊ちゃん。総帥だからといって軍を勝手に動かせるわけでもないですし、支援物資を送っても全てが無事に届くとは限りません」


 ポムがそっと俺の耳に囁く。俺は小さく息をついた。


「……そうか」


 考えれば、ボロボロのジルベルトがどうにか綱渡り出来た背景には、彼らのような人間がいたのだ。なんの柵も無い俺達と違って、人間社会の中でがんじがらめになっている彼らには、出来る事も出来ない事も多いのだろう。その枠組みの外にいる俺達が何かを言うのは――おそらく、違うのだ。


「なら、そちらの手が届かない範囲を我々が手助けしよう。いずれ我々が苦境に陥った時にでも、借りを返してくれれば有り難い」

「おことが苦境に陥るところなど、伝え聞く噂を鑑みるに想像もつかないが」

「なに、そうでもない。今だってある意味苦境だ。我々は、何もせずともとかく皆に嫌われやすい。こちらの大陸に来た民など、ほとんどいないのにな」


 言って、俺はポンと片手でミケーレの両手を軽く叩くと、包まれていた手を取り戻す。


「さて。話を進めよう。主犯は第三王子のようだが、教会が同時に動いていたのだろう? 大神官を連行したと聞いたが、どんな申し開きがあったのか聞いても構わないか?」


 途端、リベリオ達は困ったような顔を見合わせた。ミケーレはしみじみと俺を眺めていたようだが、すぐに考える顔になる。

 流石に国の内部に関わることは話せない――のかと思ったが、どうもそういう雰囲気ではないな?


「それが……王宮についてすぐ、教会の神官達に彼でないと解けない呪いの為という理由で取り戻されてしまってね」

「あのような見え透いた嘘、拒絶してしまえばよかったのだ……!」

「それをすれば、王室は民の呪いを見て見ぬふりすると弾劾されることになるよ。呪いが実際にあるかどうかなど、フリをする信者を一人用意すればそれで済む話だしね」


 ……いや、ちょっと待て……

 状況がよく分からんが、大事なのは『大神官が何も話すことなく去った』という事実だ。

 俺は半開きになりかけた口を閉じてロベルトを見た。ロベルトの顔はひきつっている。


「いや、待て、待ってくださいよ、それって……」


 残りの全員がロベルトの方を見たが、ロベルトは最後まで言うことは出来なかった。

 ロベルトが口にするよりも早く、遠くから怒号と喧噪が響いてきたのである。








「ロベルトさん、お見事です」

「嬉しくねェ……!」


 感心したポムが拍手しているが、他一同はそれどころではない。

 即座に反応したのはシンクレアとルーシーだ。最初の声と同時に武器を具現化させ、ルーシーは戸口へ、シンクレアは窓辺に駆け寄る。その手が持つのは竜魔族が持つ己の牙と爪――その代わりとして人型時に具現させる獲物だ。鮮やかな深紅の大鎌と、手甲鈎(てっこうかぎ)である。


「殺意のある群れは南西、および南南東から城へ侵入。索敵範囲で感知できる数は南西が八十七、南南東が三十六、いずれも随時増加中ですわ」

「南西のうち半数以上が平均より魔力高めですねー。おそらく神官でしょうかー。南南東は全て魔力が平均より高めですから、南西の方には魔法使い系以外のも交じってるって感じですー。おっと、誰か来ましたよー?」


 ルーシーがこんなときでも間延びした声で報告すると、ぴょいとコミカルな動きで戸口から離れた。即座にそこに騎士が駆け込んでくる。


「申し上げます! 第二神殿より神殿騎士百、武装神官二百が出陣! 目的は第一王子および第二王子の身柄とのことです!」

「申し上げます! 第三神殿にて内乱発生! 神官同士にて激しい攻防を繰り広げております! 一部は神殿を出て王宮へ出ており、目的は陛下の身柄、内部での争いはそれを阻む勢力との衝突と思われます!」

国家への一撃(クーデター)か」


 いっそ冷ややかに、報告を聞いたリベリオは呟いた。その声も表情も、俺が知るリベリオとは別人のように冷徹で厳しい。

 そして決断も早かった。


「マリオ、それにミケーレ。陛下達の身柄を確保、その身を守れ。戦場の機微はそちらのほうが本職だ。籠城か脱出かは状況をみて判断せよ。陛下達が無事であれば方法、被害その他すべてに対して委細は問わない」

「はっ!」

「畏まりました!」

「教会を張っていた騎士達はどうした?」

「はっ! 異変と同時に変事を報せる為王宮と軍それぞれに散っております。総帥に渡されておりました通行証により、今頃は近衛、お呼び第一軍団には通達できているかと」

「よし。――マリウス。お前はどうする」

「私、ですか」


 一瞬、ポカンと兄を見ていた第二王子は、次に厳しい表情になって告げた。


「騎士団を纏め、陛下を守りに出ます」

「分かった。必ず生き延びろ。正妃が無事ならすぐに動くだろうが、一応言っておく。空の便を使って各地に文を飛ばせ。教会の一部が暴走したとして、国賊を討てと檄を飛ばせば勢いは変わる」

「分かりました。――が、兄上はどうされるおつもりか?」


 即座に出ようとし、すぐに気づいて振り返った弟王子に、リベリオはちょっと苦笑してから視線を俺達に向けた。


「多分、連中が一番捕まえて悪の元凶にしてしまいたいのは、私と彼らだろうからね。お願いして一緒に逃亡してもらおうと思っている」

「は!?」


 第二王子だけでなく戸口で王子を待っていたミケーレ達が揃って声をあげた。マリスだかマリオだかいう男など悲鳴に近い声だ。


「なにを仰いますか!」

「正直に言えば、ここにいる誰よりも彼らは強いと思うよ」

「そ、それは、確かに噂のお力があればそうではございますが……!」

「ならば! ならばここはお力添えを頼み、連中を押し返すのを手伝っていただければ……!」

「駄目だ」


 こちらが答えるより早く、リベリオはそう断じた。次いで厳しい声で告げる。


「彼らを『戦力』として扱うことだけはしてはいけない。――私の手の者が騎士達が連絡に来た今も帰ってきていない。おそらく、あらかじめ命じていた通り、報せを彼らに任せて別の場所で別の者の足止めをしているのだろう。内側からも(・・・・・)敵が出ている」

「なんですと!?」

「細かく説明している時間はない。お前達は早く陛下を頼む。陛下を押さえられた時点で終わると思え!」

「く……っ! グランシャリオの方々、このようなことになり、誠に申し訳ない! 後生だ……後で儂が出来るあらゆる礼をさせていただく! 殿下を頼み申す! ――いくぞ!」

「な……待て! 私はリベリオ殿下と……!」

「兄上!」


 無理やり引っ張られていくマリオとかワリオとかいうオッサンの声を後ろに、第二王子は一瞬だけリベリオを見つめ、何か言いかけ、歯噛みしてから叫んだ。


「無事でいなければ、許さんからな!」


 すごい捨て台詞だ。それはどちらかというと恋人とかそういうのに言うべきことじゃなかろうか。

 ……おや、ルーシーさん。なんでそこでクレア先生と一緒にキラキラした目でリベリオを見てグフフ笑いしてるんですか。いや、説明は無くて結構だよ。

 そして俺達、高速で置いてきぼりである。


「口を挟む間もありませんでしたねぇ……」


 珍しくポムも困ったように頬を掻いている。


「リオよ」


 俺も困り顔でリベリオに声をかけた。


「なぜ、俺達に戦ってくれと言わない?」


 ぶっちゃけ、俺達に全部丸投げしてくれたら軽く制圧してしまえると思うのだが。


「それをしてはいけないんだよ、レディオン」

「どういう理由でだ?」


 俺の疑問に、リベリオはなんともいえない微苦笑を浮かべる。


「君達は、悪じゃない」

「…………」

「だが、君達が前に出て神官達と戦えば、例えそれが我々を守るためであっても――連中は君達を悪に仕立て上げるだろう。見よ、王族は魔族と組んでこの国を好き勝手するつもりだ、とかね。平時であっても連中の言い分は神がかっておかしいが、戦時であればそのおかしさを『おかしい』と判断できるまともな思考力が鈍る。君達が神官を傷つければ、それだけで周りの見る目は変わるだろう。身を守る為であろうと、相手から刃を向けてきた結果であろうと、関係なくね。……それが、今の我々の世界であり、連中が喜ぶ展開だよ」

<坊ちゃん。王子さんの言うことは正しいですよ>


 ポムがこっそりと【伝言(メッセージ)】を飛ばしてくる。


<実際、これは下手に動くと危険な案件です>


 その通りなのだろう。

 そして、俺は気づいた。――リベリオが、俺達が魔族だと確信していることに。


「……濡れ衣を着せて、連中と一緒に俺達を悪にしてしまったほうが楽だろうに」

「……レディオン、それはね、実の親に向かって『お前が死んでいればよかったのに』と言うのと同じぐらい、最低でおぞましい行為だよ」


 一瞬、言葉を失った俺の前で、リベリオは苦笑する。


「君は、私の恩人だ。例え他の誰かを助ける為の行為が同じ場所にいた私を助けてくれる結果になっただけであっても、私が君に命を救われたという事実は変わらない。人の願いに応え、人を救おうと動いた君の行動は尊い。私達はそれに救われた。私はそれを、決して忘れない」

「…………」

「――命の恩人を貶めることは、父母を貶めることと同じだと思わないかい?」


 なぜ、と。

 頭の中にそんな言葉が浮かんだ。

 なぜ、今生の俺は、これほどに決して裏切らない人達とめぐり合えているのだろう、と。

 なぜ――前世の俺は、この人達と出会えなかったのだろう、と。

 ……分かっている。俺が成長し、この大陸に来た時には、すでに彼らは存在しなかったからだ。


「それにね、連中は私も排除してしまいたいんだよ。ある意味一蓮托生だと思っている」

「それなら――」

「だからこそ、君達の名誉も出来るだけ守らないとね。連中につけいらせる隙は与えたくないんだ」

「……。そんなことを気にして、俺達を出し惜しみするわけか」


 俺の言葉に、リベリオはちょっとだけ肩を竦めた。


「そもそもの話、君は本来、この国のこんな騒動に関わる必要が無い人だろう? それに、こう考えてくれないかな? 国の内部で国の人間だけが争ったのであれば、勝ちさえすればなんとでもしようがある。けれど、君達が出れば、逆に収まるものも収まらなくなる。なら、君達は戦わずに逃げたほうがいい。――さぁ、それよりも出よう。実のところ、なんだかんだ言いながら逃げ切るのに君の力をあてにしてるから、協力してほしい、っていうのは変わらないんだけどね」


 ちょっと困り顔で言われて、俺は苦笑した。


「護衛、か?」

「そう。戦っちゃいけないと言いながら、損な役回りをさせるけど、対価は払うよ。生き残れたらね」

「言っておくが、俺は高いぞ」


 不敵に笑って言ってやると、リベリオはむしろ嬉し気な顔で頷いた。


「心得てるよ」




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